rm11 2014年シーズン終了について
日本列島を蹂躙した台風はやがて爽やかな秋空を呼び込んだ。しかしより冷ややかで、より不穏に満ちあふれた嵐の感覚が渡海雄を肌をかすめていた。
「いやあ、まあ、何と言えばいいのか。まあ、勝負だからこんな事も、あるよ、うん」
渡海雄の言葉に悠宇はちらりと視線を合わせただけで、また閉じた目をそらしてため息をついた。やっぱり今回はやめようかと渡海雄が思った時、悠宇は「ちょっと待ってね」とつぶやいた。自分の中で渦巻くどす黒い感情が迸りすぎるのをどうにか抑えるためには少し時間がかかるらしい。昨日、二〇一四年度における広島東洋カープのリーグ戦が終わった。巨人と対戦して一対三で敗北、その結果、最後の最後で阪神に抜かれて三位に落ちる事となった。
「昨日の試合に関してと言うよりはね、もっと普通にやれば勝てる試合はいくらでもあったからその一つを制していれば最後の一試合で決まるって事にはなっていなかったものよ。大体、その前の直接対決で阪神に負けてるんだから、これで二位のままってのも大概厚かましいし、ファンとしては非常に残念だったけどもっと大きな流れのようなものを見ればなるようになったという答えが一番妥当なんでしょうね」
「う、うん。そうなのかもね」
「ただ前田は最後まで不甲斐ない投球で、これもまた今シーズンを象徴していたわね。あんなピッチングを置き土産にアメリカに行ってしまうとすればあまりにも寂しいものだけど。とにかく、クライマックスシリーズのファーストステージは阪神と、甲子園で行うのだからそれに合わせてうまく調整してほしいわね。前田がつまらないボークや松山の拙守による悪影響を助長する阿部へのストレートの四球からアンダーソンに打たれたりせず宮國に投げ勝ってればこれを広島でやれたんだけど、もうどうにもならないわ」
「まあ打線も打線だけどね。ところで今シーズンセリーグ優勝は巨人だったけど、何が良かったってのがあんまり見えにくい勝利だったという印象があるよね」
「野手は規定到達で打率三割台の選手なし。阿部、坂本、長野あたりの成績はやけに平凡で、FA加入の片岡もまあ近年はこのぐらいだったから驚きはないという数字に落ち着き、外野も怪我人が多くて様々な試行錯誤が続く中で戦っていたわ。投手陣も内海がやたらと負け先行だったし、菅野は防御率抜群だったけど怪我による離脱期間も長く、杉内やFA加入の大竹もエースとしてチームを引っ張っていくという数字には程遠かったわ。まあ今シーズンのセリーグは最多勝が十三勝とかなり低レベルだからどこも絶対的エースがいなかったと言えるけど」
「その程度で最多勝ってのも珍しいよね」
「本当にね。リリーフもスコット鉄太朗と言われるマシソン、山口、西村の防御率はいずれも三点台前後で安定感抜群とは言い難かったわ。チームとしてはリーグトップの防御率ではあるけど、『今年の巨人は投手で優勝を勝ち取った』と言われるとさすがにそうじゃないって感じよ」
「タイトルホルダーは菅野の防御率ぐらいか。それにしても今年は前田が駄目だったね。昨日もそうだったけど肝心なところで勝てなくて」
「でもそんな前田がやっぱりカープの投手陣ではトップの数字だったんだから、今年限りでいなくなるとするととても大変になるわ。巨人に話を戻すと、投打ともに絶対的な柱がない中においてもあれほど差をつけて優勝出来た理由は、勝たないといけない試合でしっかりと勝てたからよ。勝負どころの九月、直接対決でカープや阪神に対して強さを見せつけたのが決定的だったわ。終盤に勝てたという事はもちろん層の厚さも大事だけど、何よりもチームが一丸となって絶対に落とせない試合を見事に勝ち切った、その集中力の勝利よ」
「九月入ってすぐの三連戦ねえ。あれで三連敗した時点で『ああ、今シーズンの広島の優勝はないな』と悟らされたもの」
「思えばあの頃が華だったわね。そしてカープはその後投手陣が崩壊。特にリリーフ陣は悲惨の一言で、そもそも中田、中崎、戸田という面子で優勝争いはさすがに無理。他にいないのはそうだけど、実力だってまだまだ発展途上な上に当然経験も少ない若手投手だからそりゃあ使ううちにぼろが出るのも致し方ないわ。イニング途中で降板させられる先発投手の尻拭いで連日駆り出される戸田や、回跨ぎも多く明らかに疲れきっている中田をそれでも酷使して打たれる姿はあまりに痛々しかったわ」
「防御率も結局あのぐらいに落ち着いてしまってねえ」
「確かに先発投手がさっさと降ろされる試合って大抵四球連発などでいつ崩壊してもおかしくないような展開なのよね。でもよ、でも、もうちょっと引っ張っても良かったのではという微妙な、その時点では正解も間違いもないような采配であってもその繰り返しがリリーフ陣に過剰な負担を招いたとすれば、それは大局的に見て投手起用のミスだったと結論付けるのもまったくの的外れとは言い難い面を有しているでしょうね。当然私が知っている以上のデータを参照した上で采配を決めているんだから、安易にミスだ間違いだとは言いたくないんだけど」
「だからって周りくどい言い方するものだね。それとミコライオも怪我で離脱しちゃった」
「あれはよくさぼる投手だったけど、まあいなくなったものは仕方ないわ。CSは既存の戦力でどうにかするしかないけど、正直駄目でしょうね。若い投手は疲れているし、江草や永川だって厳しさでは同じようなものよ。ふふっ、長々と語ったところで結局は人材不足に尽きるって事よね」
「投手陣はどう見ても厳しいよね。肝心の先発も前田だって危ういのに、ヒースもやや打たれるようになってきたし、大瀬良も二桁勝利とはいえ防御率は四点台。バリントンや野村も期待外れに終わったし、後は福井?」
「福井はもはやネタじゃなくて本気で計算しないとまずいってレベルだから笑えない話よね。篠田は春先に頑張ってくれたからいいとしても、今井がまったく不甲斐なかったわね。今年こそシーズン通して活躍してほしいと期待していたのに、非常に残念」
「野手はどうかな。まずキャッチャーでは怪我で離脱していた會澤が復帰したけど」
「打撃のほうは復帰後も上々だけど、元々守備は怪しい選手。會澤離脱時にマスクをかぶっていた石原は打撃がなかなか上向かないまま離脱したし、倉や白濱もねえ。特に倉は引退が迫っている年齢。そう言えばドラフト候補で加藤という守備型の大学生キャッチャーに注目してるって記事が出たけどこれを見るとむべなるかなよね。いっそ即戦力候補と若いの二人ぐらい獲ってもいいとさえ思うようにさえなったわ」
「ううん、それはどうかな? キャッチャーって試合に出るのは一人だし」
「まあそうなんだけどね。私は悲観的すぎるし、実際は去年の段階で全然触手を伸ばさなかった上に今年になって會澤が出てきたからフロントはもっと楽観的に見てるのかもね。ドラフトに関しては可能なら即戦力となる投手が複数必要だわ。去年の大瀬良と九里はそういう意味ではかなり良かったけど、あれぐらいのドラフトなら大成功よね」
「即戦力が額面通りに働くってあんまりないものだしね。これで先発はある程度埋まったけど、リリーフを埋める選手はなかった」
「終盤完全に枯渇して補強必須なリリーフに関しては、他球団を戦力外となった選手をある程度使い捨て上等の覚悟で獲得ってのも手かもね。中位下位で指名した大学生や社会人を即戦力として使うって、他の十一球団が普通にやってる事だけどカープはそれがとても苦手なようだから。去年の久本レベルはそういないとして、せめて小野レベルの選手は自前で揃えてほしいんだけど、それが無理なようだから他球団から拾うしかないって話よ」
「結構実績のある投手も戦力外になってるように見えるもんねえ。そして広島からは齊藤悠葵、上野、大島が戦力外に」
「上野なんかはもうちょっとやれると思ったんだけど、結局中途半端な中継ぎ以上にはなれなかったわね。齊藤も怪我なんかで球速が全然出なくなったから仕方ないけど残念。やはり怪我は選手のキャリアを大きく損ねるものよね」
「それと横山も引退したね」
「この横山も怪我が多くて、それがなければってのはあるけどそれでも五百試合以上登板したんだから、本当に素晴らしい投手だったわ。去年序盤はまずかったけど夏場からチームを支えて、自分が台頭した一九九七年以来となるAクラス進出にその投手生命を完全燃焼させたって、結果的にはそんな感じかしらね。二十年間お疲れ様でした」
「でもここまでの五人は全員投手で、野手は今のところ誰も通告されてないよね」
「でもこのままゼロなはずがないわ。まず内野から見ていくと、ドラフト三位の田中がショートのポジションを獲得したと言っても過言じゃない活躍を見せてくれたわね。セカンドは菊池、サードは堂林や梵。控えには木村や代打として素晴らしい数字の小窪。二軍で数字を伸ばしてきた美間もどれだけの実力か気になるし。こう見るとかなり整備されてきたものね」
「それにファーストは外国人か。でもサードはまだ定まってない感じかな?」
「そうね。ただあえて補強するようなポジションかと言うと微妙だし。ファーストは外国人のポジションとは言ってもやっぱり和製大砲も欲しいと思うなら指名すればいいけど、そうなるとポジションで苦労する事もあるわ。それとは逆に二遊間はいるに越した事はないものだから、指名するならむしろそっち側かもね」
「外野も結構まとまってきた気がするよね」
「丸は言うまでもないとして、ロサリオは想像以上の数字だったわ。これが四年契約なんだから大した金塊よ。それに鈴木誠也もバッティングセンス抜群なところを見せてくれたわね。まあ今の時期打ちまくっても年が明けたらさっぱりってパターンも多いから信頼は出来ないけど。その他、天谷や松山も三割打ってるし、場合によってはエルドレッドとか堂林が回される事もあるから喫緊の課題ではないわ。そもそも人数だけ見ると飽和してるし。ただ不安定な選手が多いポジションでもあるから、一人ぐらい指名があっても不思議じゃないわ」
「こう見るとやっぱり投手中心のドラフトになってくるのかなあ」
「まあドラフトなんて大抵どこも投手中心になってくるものだけどね。その上で今年は上位候補と期待されてきた大学生投手が四年になって軒並み数字を落とすなど不穏な流れもあるわ。カープは、現状早稲田大学の有原投手が抜けているという発言もあったけど、確定したなら率直にそう宣言する球団だけにまだどうなるか分からないわ。確実なのは有原指名すれば他球団と重複してくじ引きとなるって事よ。外した場合誰が残っているか、一本釣りを仕掛けた場合に重複する可能性はどうか。色々考える事は多いわ。そこは見ている私たちのほうもあらゆる可能性に対して寛容にならないとね」
「そんなドラフトも今月の二十三日か。もう少し先に見えるけどいざ迫ってくるとあっという間なんだよね。そしてその間にはクライマックスシリーズもある」
「今のうちに阪神おめでとうと言ったほうがいいかも知れないわね。逆に今年のカープにすら遅れを取るようだと忌まわしいジンクスは二度と打破出来ないんじゃないかしら。これまでCSでは一勝しかしておらず、ファーストステージ突破経験すらなしという体たらくだけど、さすがに今年の相手はねえ」
自分の応援する球団だと言うのに無表情な笑いを浮かべながら自虐的なコメントを連ねる悠宇の姿はあまりにも切なく、そんな顔を見ているだけの渡海雄の胸は今にも張り裂けそうだったがそんな感傷を切り裂くようにグラゲ出現を知らせる光が二人の目を貫いた。
「ふふふ、私はグラゲ軍攻撃部隊のアキアカネ女よ!」
アキアカネ、いわゆる赤とんぼという奴だ。黄金色の草原に降り立ったそれが辺り一帯を焼き尽くす前に渡海雄と悠宇は現れた。
「出たなグラゲ軍! 毎度の事だけど今日も許さないぞ!」
「いえ、特に今日は思うところもあるから一切容赦はしないわ!」
「ふん、それはこっちも同じよ。行け、雑兵ども!」
ゾロゾロと出現した雑兵を蹴散らして周辺にはもう三人だけとなった。
「後はお前だけだなアキアカネ女!」
「確かに今日から本格的に秋らしい空気になったけどもうちょっと空気読んでほしかったわ」
「何が空気だ。私たちはその空気を入れ替えるためにここまで派遣されたのだ。戦わずして帰れるか!」
そう言うとアキアカネ女は懐に持っていたスイッチを取り出して巨大化した。対抗して渡海雄と悠宇も合体した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
合体した途端、メガロボットは炎よりも強烈な勢いでアキアカネロボットへ向かっていった。悠宇のどうにもならない心の内側にある闘争本能を赤の巨体に向けているのだ。渡海雄はしばらく何も言えなかった。思えば悠宇の声は震えていた。どうにか抑えていた感情が戦いという炎を触媒にまた燃え盛ったのだろう。目線を向けても仮面に遮られて素顔は見えない。しかし渡海雄には確かに見えた。エメラルド色に遮られた向こうで流された悠宇の涙もまたエメラルド色に輝いていた。
「ええい! このおっ!!」
「な、何だこの力は!! この私が気圧されていると言うのか!?」
激情が支配する悠宇の拳はアキアカネ女をも圧倒していた。アキアカネロボットはもはやぼろぼろだ。拳だけで敵ロボットを破壊する力はある。しかしそうなると多分パイロットは脱出出来ずに死ぬだろう。殉職となるとグラゲも本気になるだろうし、何より殺した方も気分も悪くなるというものだ。普段はそれぐらい理解してはいるものの今の悠宇はどうか。渡海雄は意を決して叫んだ。
「そこまでだよ、ゆうちゃん! ねえ、ゆうちゃんの悲しみを全て受け止める事は出来ないかも知れないけど僕だってその心の痛みだけは感じられるつもりだよ。今、ゆうちゃんは自分が傷つくだけならいいとやけになってるみたいだけど自分を傷つけてもいいなんて考えは結局誰もを傷つけるんだ。ましてやその気になれば地球さえも破壊し尽くす力さえある今だからこそ、激情に飲まれちゃいけないよ。だから、とどめは僕に任せて」
「……ええ」
悠宇も本当は分かっていたので、わずかに残っていた理性を働かせて小さな声ではあるが首を縦に振りながらつぶやいた。
「よし、フィンガーレーザーカッターだ」
渡海雄は群青色のスイッチを押した。指先から発生した高熱線レーザーでアキアカネロボットをバラバラに切り刻んだ。
「ううむ、軍人やっていく自信なくなったな。帰ったら除隊しようかな」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置に乗せられながら、アキアカネ女は弱々しくこうつぶやいた。ともかく、戦いは終わった。涙は秋風に紛れて失せた。そして次の戦いに向けて、二人はまた愛を交わす日々を続けていくだろう。
今回のまとめ
・今年の前田はもっといけるはずという思いを拭えなかった
・肝心な試合を落としまくるようでは順位を落として当然
・リリーフ陣の人材枯渇っぷりは本当に洒落にならない
・ドラフトはすぐ使える投手を指名出来ればそれが一番




