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am10 地獄先生ぬ~べ~実写化について

 今日から十月が始まったというそんな日の昼下がり、渡海雄は戸惑っていた。悠宇がいつになく真剣な顔をして、ため息などもついていたのだ。一体どうした事かと訪ねてみたところ、このような言葉が返って来た。


「ねえ、とみお君。福沢諭吉の言葉だと言うけど『人間は負けるとわかっていても戦わねばならない時がある』って本当の事よね」


「ええっ、何を言い出すのゆうちゃん」


「うん。十月十一日の土曜日、夜九時から『地獄先生ぬ~べ~』が放送されるの。元々は週刊少年ジャンプ掲載の漫画を実写化したドラマとしてね」


「ああ、そう言えばそんな話どこかで聞いたね。僕は元の漫画読んだことないけどゆうちゃんはファンだったの?」


「ファン。そうね。リアルタイムで読んでたわけじゃないけど。作者は原作と作画に別れてて、原作は真倉翔、作画は岡野剛。二人とも元々はそれぞれ独立した漫画家で、真倉はマイナーな雑誌でここでは書けないような内容の漫画を描いていくつか単行本も出てたけどペンネームを変えて集英社へ。ジャンプで連載もしてたけど打ち切られたの。一方で岡野は大学生の時に赤塚賞という、ジャンプとかを出してる集英社が開催してるギャグ系の漫画賞を受賞してデビューしたものの、こっちも打ち切り。当時のペンネームはのむら剛で、絵はバランスなどいかにも八十年代だけどなかなかかわいいのに赤塚賞入賞の割に正直ギャグはいまいち。これが大体八十年代の終わりから九十年代の始めにかけての状況で、二人にはほぼ面識がなかったけど編集者が組ませたの」


「ふうん。それにしても赤塚賞、調べてみたら七十年代から今まで入賞者五人かあ。しかもここ二十年以上入賞なしってさすがに厳しすぎるんじゃ」


「そんな貴重な入賞者の一人が岡野剛なんて信じられないわ。ともかく、二人が組んで読み切りを発表したりした後に『地獄先生ぬ~べ~』がジャンプで連載されたのが一九九三年よ。それから一九九九年まで連載され、当時はアニメ化するなど一定の存在感を発揮する作品となったわ。内容は大雑把に言うと鵺野鳴介、通称ぬ~べ~という左手が鬼の手になってる小学校の教師が妖怪が引き起こす問題を解決するというものよ」


「ああ、アニメ化は知ってるよ。あれでしょ。『バリバリ最強No.1』。やたらとハードな演奏に子供騙しのような歌詞と歌声。サビは第九だし、意味不明な勢いが物凄い、とんでもない歌だったよね」


「FEEL SO BADね。作詞作曲は川島だりあと倉田冬樹、編曲はFEEL SO BAD。そして前期ED『ミエナイチカラ~INVISIBLE ONE~』はB'z。当然作詞稲葉浩志、作曲松本孝弘。編曲はその二人と池田大介」


「これは名曲だよね。イントロのギターはびっくりするけど直後にミディアムテンポになって、稲葉特有の癖のある歌唱も程よく炸裂しつつ力強いメロディーも良好。初期みたいなスカスカじゃなくて、ロックに傾倒しすぎて何かおらんでる怖いおっさんにもならず、ちょうどいい塩梅だよ」


「そして後期EDは『SPIRIT』。PAMELAHという男女二人組の曲で、作詞はボーカル水原由貴、作曲編曲はギターなどを担当する小澤正澄」


「打ち込み基調でシャープな印象の曲で、個人的には前期EDほどグッとこないけど悪くはないんじゃない」


「OVAとか映画もあるけど、まあそれはいいわ。内容は当時の時事ネタなんかもあるけど、基本一話完結だから色々やってるわ。バトルもあるしホラーもあればいい話とか教訓めいた話もある。サービスも豊富で、とにかく多くの切り口がある漫画よ。コミックスは全三十一巻。文庫版も出ていてこれは全二十巻。リアルタイムで出版されていたコミックスだと妖怪の解説とか、巻末に登場人物が『次の巻もよろしく!』的な事を言ってるイラストが描かれている一方、全てが終わった後に出た文庫版では作者二人と作中の登場人物が当時を振り返って対談している『メイキング・オブ・ぬ~べ~』というコラムが設けられているわ。すでに過去の話だから『この話はアンケートが悪かった。理由は……』とか『このキャラクターはいまいちだった』みたいなまずい事実も率直に話してるのが印象的」


「確かにそれはリアルタイムじゃ言えない事だもんね」


「一番生々しいのは人気が落ちて終了一直線だった十九巻は『あんまり思い出したくない』とか言ってメイキング拒否してるあたりだけど。実際終盤は正直グダグダだったし。あんまり長編は面白くないと言うか、どうもだれるのよね。最終回付近は結構うまくまとめてるけど。他にも連載初期にどうやって人気を得たかとか、ピークを過ぎた頃どうやって生き残ったかみたいな話も興味深いし、どっちを集めてもそれぞれの良さがあるから今から集める場合はどっちでもいいと思うわ」


「ふうむ。でも三十一巻は結構長いなあ。やはり文庫かな」


「ぬ~べ~終了の翌年、このコンビは『ツリッキーズピン太郎』という漫画をジャンプに連載するわ。ぬ~べ~末期にも釣りをテーマにした読み切りを二つ描いてるし、次は釣りで行くと決まってたみたいね。その一つが読み切りの『ツリッキーズピン太郎』で、設定や主人公のルックスが派手でコロコロコミックっぽい。そしてもう一つの『バスマスターモトキ』はぬ~べ~の若い頃みたいな顔をした、釣りが好きなオタク高校生が主人公。最後はフィギュアをルアーにして大物を釣り上げるという奇妙な作品」


「それでピン太郎の方が連載となったわけか」


「モトキは趣味全開って感じで連載はきつそうだったから妥当な結果よね。それで連載となったピン太郎だけど、非常に残念ながら短期間で打ち切りの憂き目にあったわ。単行本にして全三巻。原因は、主人公が子供っぽすぎたのは間違いなくまずかったわね。語尾とかうざいし。また、読み切りにはなかった要素としてリグーという、喋る上に釣りたいと思う魚に最適な姿に変形するルアーも出て一種のバディものっぽさも出ているけど、人気にはつながらなかったみたい。しかも三巻の作者コメントでいきなり不仲説とか言い出すし。一応『仲が悪いのは嘘だから心配するな』と不仲説を打ち消すような内容だけど、実際この作品を最後にコンビ解消してるから、ああ、色々あったんだなって」


「元々仲良かったってタイプじゃないから、作品が失敗するとギクシャクするものなんだね」


「ちなみにこのタイトルで多くの読者が連想するとされる大根を用いた鎮魂の儀式が登場するのは一巻の後半部分よ。そして二巻ではヒロイン登場。三巻ではガンダムの某キャラクターをネタにした真壁という登場人物や美形ライバルが出てきたけど『実は後十一人ライバルがいる』とかいう回収不能な設定をブチ上げて終わってしまったわ。そう言えばこの真壁もかなりまずいキャラクターだったわね、見た目も中身も」


「確かにきもいね。絵は相変わらずなのに、キャラクターの造形がまずかったのかな。つまりどちらかと言うと真倉が」


「多分編集者もそう思ったので一年後、岡野だけがジャンプに戻ってきて連載したのが『魔術師2』。2は本当は上の方に小さく書く二乗というもので、『マジシャン・スクウェア』と読むの。内容はあてつけのようにバディもの。読み切り版では真倉寺という寺が崩壊してたけどこれも何か深い意図があっての事なのかしらね。ともかく、ピン太郎終盤に出てきたライバルそっくりな金髪美形クロードと大柄なムサシがコンビを組んで様々なマジックを披露するという内容だったけど、これも打ち切りに終わったわ。全二巻」


「あらまあ、またそんなあっさり終わってしまったの」


「クロードの女装シーンとか、二人の友情描写が多かったのが印象的。ほら、基本的にサービス精神旺盛な作者だから。『魔術師2』においても北見マキという本物のマジシャンの男を監修につけていて、簡単なマジックのやり方を解説してるあたりは学習漫画が好きだったという作者コメントを裏付けるような良心的な部分よね」


「確かに。どっちも丁寧なサービスって意味では共通か」


「基本男が目立つ作品だけど一応女も出てくるのよ。ただ先に登場する法子のヒロイン力はクロード以下で異性の友達って感じ。そして最終回に突如登場するシズカはヒロインオーラ強いけど、彼女が仲間になったところで終了だから活躍機会ほぼなし。と言うか終盤はずっと展開巻きっぱなしで、真面目にやれば確実に一巻以上使うであろうイベントを二三個猛烈な勢いで消化してムサシ・ムロード・法子・シズカの四人組、スクウェアにしたところで終了したわ。このタイトルもムサシとクロードの二人組ってだけじゃない色々な意味を込めてたんだなあって説明がなされてるのも悲しいわね」


「なかなか難しいものだね」


「しかし岡野は諦めない。二〇〇四年に『未確認少年ゲドー』という新連載を勝ち取るの。結城讃良という前作のシズカによく似たヒロインと様々な未確認生物が織り成すほのぼのSFギャグ漫画。いきなりシリアスな設定ぶち込んできた『魔術師2』と違ってぬるめの世界観が心地良い佳作。いえ、一応深刻な話もあるけど基本どうにかなるだろうと思わせる雰囲気だから。そんな世界観で繰り広げられる緩いギャグには案外やられる。これを見ると岡野が赤塚賞取った理由も分かる、かも」


「ヒロインの名前がダンクーガみたいだね。それで、これはどうだったの? やっぱり短期で……」


「結果的には一年ほど連載され続けたわ。でも人気があったとは言い難く、アンケートでは苦戦してたけどそれ以上に不人気な漫画があったり長期連載作品が終了したりで続いた感じでずっと綱渡りだったみたい。全五巻なのに章立てが四つあるのも独自だし、五巻のあとがきで『意外と続いたわね』と讃良に語らせてるのも実感がこもってるわ。大傑作ではないけど愛しき作品だったけど、結局岡野はこれを最後に週刊少年ジャンプを去り、デジモンの漫画とか描いた後また真倉と組んでスピンオフ的な作品を発表。そして今年から『地獄先生ぬ~べ~NEO』という直接的な続編も発表されているわ」


「そう言えば岡野がいくつか連載してる間に真倉は何してたの?」


「そりゃあ原作者よ。『吉原のMIRAIさん』とかいう内容を語ろうとしたらノクターン行き不可避な漫画とかね。でもやっぱり岡野とのコンビが一番合ってたと時を越えてお互いに理解したって事でしょうね。再びコンビを組んでて良かった良かったと。それでぬ~べ~実写化の話に戻るけどね」


「ああ。そう言えば最初はその話だったよね」


「まず舞台が小学校じゃなくて高校になってるとか、速水もこみち演じるキャラが家庭科教師とかいうオリーブオイル臭い設定が付け加えられてるとか、坂上忍演じる鬼の扱い全般とか、何か韓国人が出てくるとか、そいつらが集合した映像が明らかにしょぼいとか、脚本がマギーとか様々な不安要素の塊で、原作に近い面白さがある場合を成功と定義した場合、成功する可能性は皆無よ。いえ、何も原作通りじゃないと駄目って思ってないし、面白ければそれでいいんだけど、ねえ」


「それじゃあ、見ないほうがいいんじゃない?」


「だから『人間は負けるとわかっていても戦わねばならない時がある』って。そりゃあ『実は傑作でした』ってなる確率は今からカープが逆転優勝するのと同じぐらいの可能性だと思うわ。でも、気になるじゃない。とりあえず一話は見るつもりよ」


 言うまでもないが今年のセリーグはすでに巨人が優勝を決めている。地雷原と分かって足を踏み入れる悠宇の悲壮なる決意に渡海雄は言葉を失った。そんな時に敵襲を告げる警報が鳴り響いたので二人は戦う準備をして素早く出現地点へと走った。


「ふはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のリーフィーシードラゴン男だ!」


 森に現れたリーフィーシードラゴン男は、まるで梢のざわめきが声になったようにしか見えなかった。しかしそこはさすが天才科学者ネイ、こんな事もあろうかと仮面には特殊センサーが取り付けられていて、渡海雄と悠宇にははっきりと見えるのであった。


「出てきたなグラゲ軍! お前たちの思い通りにはさせないぞ!」


「姿を隠して侵攻なんてやっかいな事をやってくれるじゃない。でも私たちが来たからには終わりよ」


「ふん、やっと現れたか。俺の任務はお前たちを殺す事だからな。発見された方が好都合。さあ行け、雑兵ども!」


 これまた木々の後ろから出現した雑兵たちを一掃すると、そこに立っているのは三人だけとなっていた。


「雑兵は片付いた。後はお前だけだなリーフィーシードラゴン男!」


「そこまでして地球侵略したいと思う意味が分からないわ。一体何を考えてるの?」


「グラゲの崇高なる思想がお前ら蛮族どもには理解できるはずもなかろう。だから排除してやるのだ。ありがたく思え!」


 そう言うとリーフィーシードラゴン男は懐に隠していたスイッチを押して巨大化した。それはまるで緑に覆われた小さな山のようであった。渡海雄と悠宇も負けじと合体した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 リーフィーシードラゴンロボットの見た目以上に素早い攻撃の連続にやや戸惑いながらも形成を少しずつ整えて、そこで一瞬の隙を見出した。


「よし、今だ! レインボービームで焼き尽くしてやる!」


 その隙を逃さず、渡海雄は白色のボタンを押した。胸のブローチから七色の燐光が輝いたかと思うと次の瞬間、光はリーフィーシードラゴンロボットを貫いた。


「くっ、何と言うパワーだ。撤退するしかあるまい」


 かくしてリーフィーシードラゴン男は、ロボット爆破寸前に作動した脱出装置に乗せられて宇宙へと去っていった。もう一度言うが実写版ぬ~べ~第一話は十月十一日に放送開始となる。せめて第一話ぐらいはそれなりの視聴率だといいけど。でもこれで万が一傑作だったら謝る準備は出来ているし、そうであってほしいと心から願っている。まあミエナイチカラでがんじがらめの中でそこまでやれたら本当に凄い事だけど。


 ところでニコニコ静画においてぬ~べ~などに登場した女キャラクターの人気投票が開催されている。真剣に考えた結果03、22、24、31あたりを検討しつつも23に投票している。何とか三十番以内には入ってほしいところ。そんな様々な思惑を乗せて今日も地球は回り続けるのだ。


 追記。などと言ってたら十月十七日の中間発表において十位という想像以上の健闘を見せた23こと夢々ちゃん。ええっ、そんなに人気あったのか。毎日投票してたけど全然気付かなかった。票数不明とはいえまさか私一人の投票だけでどうにかなるものでもないだろうし。ちなみに順位は十位まで公開で、上からゆきめ・眠鬼・郷子・のろちゃん・いずな・座敷わらし・美樹・律子先生・木下あゆみさん、で夢々。まさにむむむと唸ってしまう中間発表となった。それとドラマ自体は案の定悲惨な出来でした。


 そして十一月十二日に投票の最終結果が発表されたが、私の夢々ちゃんは無事に十位をキープしたままフィニッシュと相成った。そして上位では美樹と律子先生の順位が入れ替わっている。ああ、美樹。そしてトップのゆきめは二位と五倍というダントツなんてもんじゃない差をつけていた。そしてドラマは脚本がマギーじゃないほうだとちょっとましかも、とか思うあたり耐性がついてきたような気がする。

今回のまとめ

・ぬ~べ~実写化は成功するか否かを論ずる段階はすでに過ぎた

・岡野先生の絵の磐石感は憧れる

・ピン太郎も魔術師も個人的には楽しめたけど打ち切りになった理由も分かる

・とりあえずゲドーはそこそこ面白いからおすすめ

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