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hg13 SPEEDY AGEについて

 雨に次ぐ雨で結局夏らしい夏をほとんど実感する間もなく秋になった。そんな気がする今日もまた雨が降っている。黄色い傘を右肩に添えて登校するのが日常となっている渡海雄だが、まあ涼しいからいいやとどこか許していた。しばらく進むといかにも女の子らしいピンク色のファンシーな傘が目に入った。くすんだ道の中でもとても目立つが、それゆえに所有者の悠宇は憂鬱であるようだった。


「おっはよー、ゆうちゃん!」


「ふっ、こんな天気だって言うのに随分元気なのね、とみお君」


「雨はね、そんなに嫌いじゃないよ。こうして夏から秋へと季節は変わっていくものなんだから。ところでね、変わったと言えば光GENJIの楽曲も一九九二年から一九九三年を迎えるにあたって大きくその路線を変えてきたんだ。それが『SPEEDY AGE』。一九九三年の三月に出たアルバムだよ」


「海を背に、太陽が眩しいジャケットね。それにしても大沢の服がブラジャーみたいになってるのはちょっと笑える」


「これが通常盤だね。初回盤はちょっと高そうな白い服。ルックスと言えば佐藤寛之の宮川彬良みたいな真ん中分けの髪型はどうかと思う。この髪型、九十年代前半は結構やってる人が多かったけど似合ってる日本人を見た事がない」


「それと諸星がリーゼントっぽい髪の上げ方してるのも気になるわね。まあ見た目はそれぐらいにして、前のアルバムもやたらとそれまでの総括だの決別だの強調してたわね。つまりどうなの?」


「単純に言うと時代に近づいたって言うのかな。八十年代からの流れを引きずったいかにもアイドルって曲じゃなくて一九九三年という時代において新たな波を形作っていたヒップホップ系のブラックなダンスミュージック的要素を大いに採り入れた楽曲を大量投入してきたんだ」



「ローラースケートだけじゃなくてそういうのもちゃんとやるのね」


「某クソゲーでもローラースケート盗まれたからコンサート出来ないとかやってたくらい光GENJI=ローラースケートのイメージは強固だけど、別にスケートなしのパフォーマンスだっていくらでもあるからね。それと大沢はフジテレビ系の深夜に放送された『DANCE DANCE DANCE』という番組の司会を務めていた。この番組ではMEGA-MIXというダンスグループが結成されてて、特にリーダーのSAMは八十年代からそういうダンスを磨いてきた実力者なんだけど、そういう繋がりもあってかいくつかのシングルにおいてこのMEGA-MIXが振り付けを担当した実績もあった」


「SAMって言えばtrfの?」


「と言うよりtrfの母体がMEGA-MIXとも言えるからね。小室哲哉が新しいダンスグループの構想を練っていた。まずダンサー上がりのボーカルとDJを確保。後はダンサーが必要ってところで、ちょうど番組を見てMEGA-MIXに声をかけたとされている。ただ小室が目指す音楽とMEGA-MIXの志向はまったく異なっていてグループ内部では不満続出。仕事として割り切ろうって事でどうにかまとめたリーダーのSAMも、参加後やっぱり違和感が拭えず単身渡米する始末で、結局早い段階でダンサー八人中五人が消えた。残ったSAM、CHIHARU、ETSUもしばらくはいつでも辞められる契約だったそう」


「それが今でも続いてるんだから凄いものよね」


「それから無茶苦茶売れて、その反動もあってしばらくはtrfあたりが一番ダサいって時代もあったけど、彼らはついに乗り越えた! イージー・ドゥ・ダンササイズ、売れたもんね。でもそうなったのはずっと踊り続けたからこそ。やっぱり継続って力だよねえ」


「本当にねえ。でもそんなの言ってても埒が明かないからそろそろ本番と行きましょう。まず一曲目は『Groovin' Night』。作詞津田りえこ、作曲編曲小西貴雄」


「まずイントロのギターの音色からして不健康に歪んでて今までと違うでしょ。それにスクラッチがキュペキュペと鳴り響いたり、間奏ではプロの人による、ここ大事だから強調しておくね、プロの人によるラップが挿入されててブラックミュージックの雰囲気満載。歌詞も完全に大人の色恋沙汰。そして肝心の歌唱は、まあ様になってるんじゃないかな。アルバムの一発目で『今回はこういう路線なんで』と宣言するにふさわしいクオリティ。小西貴雄。この人が作った『悲しきブロークン・ボーイ』って曲は安室奈美恵で一番いい曲だし実力のある人だよ」


「一曲目からしていきなり今までとは違うと強烈にアピールする曲で来たわけね。次は『愛だけ…』。作詞西岡千恵子、作曲編曲水島康貴」


「これはこのアルバムが発売された春らしい明るくポップな曲。でもやっぱり打ち込み基調の軽やかなアレンジが今までとは全然違ってて、何となくお洒落だよね。光GENJIと言うよりSMAPみたいな。歌詞もかなりポジティブで、でもポジティブさの表現方法が今までより現実的な若者っぽさがあるのがこのアルバムらしさ。サビなんかはかなりキャッチーだしこれはなかなかの出来だと思うよ」


「次は『急がなきゃ食べられちゃう』。妙なタイトルね。しかも作詞が原真弓とMOTOMY、作曲水島康貴と田中厚、編曲水島康貴とやけにごちゃついてるし」


「ああ、これはねえ……。怪曲だよ、これは。いや、方向性は分かるんだ。まずこういう路線を導入するにあたって当然入ってくる要素としてラップって奴があるよね」


「『Groovin' Night』でも間奏でラップやってたわね」


「そう。で、これはそのラップをメインに置いた初の曲なんだけど、はっきり言って歌えてない。特に舌が回ってない早口言葉みたいになってる内海とお得意の巻き舌で強行突破しようとした結果全然突破出来てない大沢。やっぱりリズム感が……。『Groovin' Night』でプロにラップさせたのは正解だったよ。ただこれに関しては楽曲自体も大概だからね。基本的にはいかにもな打ち込みトラックに乗ってラップしてるけど、いきなりジャズっぽいサックスのソロが出現したりクラシック的なサウンドになったり。クラブとかでDJが次々と曲を繋げてるイメージなんだろうか知らないけど、とにかく唐突。やたらと手が加わっている作詞作曲からして混迷の極みだし、それが楽曲にも出てる感じかな。このカオスを楽しめるようになるにはかなり時間を要したけど、どういう経緯で完成に至ったのか知りたい曲のひとつだね」


「ふうむ。次は『Moon Talk』。作詞三浦徳子、作曲清岡千穂、編曲水島康貴」


「これはタイトル通りの、静かな夜に似合いそうな甘いバラード。さすが三浦という気障な歌詞とか、二番の途中で歌わずにムーディーなキーボードの音色が間隙を埋めたりとか、それなりに仕掛けはあるけど結局一番残るのは最後、同じフレーズをリフレインしながらフェードアウトするけど繰り返しすぎてちょっとくどい印象になるところ。悪くはないけど殊更褒めるような曲でもないかな」


「次は『Losing You』。作詞柚木美祐、作曲編曲水島康貴」


「これもねえ。タイトル通り君を失って、つまりふられた男が泣きの一幕ってシチュエーションの歌詞だけど、サビではやけに率直な後悔の言葉を連発してるのが結構印象的。柚木はママレード・ボーイの主題歌とか作詞してるけど、光GENJIにはこの曲だけだね。一方でサウンドのほうは、間奏とかちょっとうざいけどtrfの『EZ DO DANCE』でも間奏で笑い声入ってたしこの頃の流行りだったのかな。まあそういううざい部分も含めてこのアルバムを象徴する曲と言えるのかな。リズム重視で音色が汚くて、歌詞も大人びてて」


「『EZ DO DANCE』はこの年の夏に出たのね。次は『エルドラドに彼はいない』。作詞高柳恋、作曲大門一也、編曲水島康貴」


「まずタイトルがいいよね。楽曲としてはプニョプニョしたエキゾチックなシンセの響きが印象的。歌詞はサビとか結構いい事言ってるような気がするしメロディーもそこそこキャッチーではあるけど、何となく印象は深くない曲だね。悪くはないよ。でもそれ以上にはならない感じ」


「タイトルは結構印象的なのにね。次は『Renewal Dream』。作詞森田由美、作曲編曲水島康貴」


「レネワルって何だろうと思ってたらサビであっさりリニューアルと歌われててそこでやっと気付いたのはちょっと恥ずかしい思い出。それはともかく、風が通り抜けるように爽やかなシンセの音が引っ張っていく疾走感のある曲だよ。a-haの『Take On Me』みたいな、と思ったら元ネタはまた別にあるらしい。ともあれこの曲に限らずこのアルバムはキーボードとギター、それにコーラスという今まで以上にシンプルな編成が多いのが特徴。『愛だけ…』はベースがクレジットされてるけど他の曲のベースやドラムは打ち込みで代用してるみたいだし。『Renewal Dream』に関してはキーボード一本で作ったような音の軽さがちょうどいいテンポと心地良さを生んでいて、成功例じゃないかな。歌詞は進学とか就職で一人暮らしを始めた人は共感するはず」


「次は『星にまぎれてDance』。作詞松井五郎、作曲山口美央子、編曲水島康貴」


「パッと見だと歌詞の分量が他より多いので身構えてしまうけどいざ聴いてみると案外サクサクと処理されていく曲だよ。山口独特のうねりある曲調は面白いけど、出だしがちょっとまどろっこしい」


「次は『一度だけ言うけど』。作詞夏野芹子、作曲大門一也、編曲水島康貴」


「これは何気に名バラードだよ。イメージとしては結婚。夏野は九十年代の中森明菜なんかに多くの歌詞を提供してるけど光GENJIにはこの曲だけ。でもなかなかいい歌詞だよね。曲含めて凄く大団円って感じ。基本的に物凄く普遍性のある素敵な歌詞と曲だと思うし、でも単なるアルバムのマイナーな一曲でしかない現状がねえ。それとタイトルがね。歌詞の中には『一度だけ言うけど』なんて全然出てこないんだ。じゃあ何を一度だけ言うのかと言うと、それはまさにプロポーズの言葉、すなわちサビで歌われた部分かと推察するけど、凝りすぎじゃないかなあ」


「そして最後、十曲目は『Maybe Tomorrow』。作詞平井森太郎、作曲大門一也、編曲小西貴雄」


「これはもう、最後に一番いい曲を残していたって感じだね。ちょうど歌詞の横には草原にいる七人の写真があるけど、まさにこういう春の日差しを浴びた草原をでくるくると舞い踊っているような清々しさ、多幸感溢れる爽やかさに満ちた曲。曲に合わせて前向きで軽やかな歌詞も良好。路線としては『愛だけ…』に近いかなとは思うけど、それをさらに格上にしたようなかなり決定的な曲。はっきり言ってこの時期に出したシングルよりよっぽどいいよ」


「ふうむ。これで全曲となったけど、確かに結構ニュアンス変わってるわね」


「小西貴雄、大門一也、そして水島康貴あたりだね。小西と大門は新しく関わるようになった人たちで、水島は以前にも一部の楽曲を編曲してたけどこのアルバムだと八曲に関わってる。いずれも今までの佐藤準とか新川博よりも若い世代の人たちだよ。佐藤や新川は光GENJI以前から大活躍してる。でも小西は例えばモーニング娘。などのハロプロ関連、水島はSPEEDといった具合に光GENJI以後により大きな活躍をしている。その辺も象徴的じゃないかな」


「そういう当時最新鋭の音楽に精通した若いセンスを導入する事によって新たなる光GENJI像の構築を目指したのがこのアルバム、って事ね?」


「うん。まあ玉砕して海行かばな曲もあるけど。全体的には水島より小西のほうが洗練されたセンスがあるかなってのもあり。水島はセンスは間違いなく今までより新しいけど、新しい上でその音ださくないか、みたいなのも無きにしもあらず」


「ふっ、なかなか言うじゃない」


「ただ水島にしても今までの楽曲と路線が違うのは事実なので、それまでの光GENJI的な楽曲に慣れてると最初聴いた時に違和感を覚える可能性もあるかも。だから逆に『光GENJIとか時代に対応できず消えていった大昔のアイドルでしょ?』ぐらいに思ってる人が聴くと認識を改めるかも知れないね。ただこういうサウンドも今となっては懐かしい部分はあるけど。ダボッとした服を来てシャコシャコ踊ってるみたいな」


「そりゃあ発売から二十年も経てば当時の新しいサウンドも陳腐化するわね」


「要はそういう事だよね。確かに音はいかにも打ち込みって感じで軽くなった。でも、『愛だけ…』や『Maybe Tomorrow』あたりの爽やかな軽やかさは今までにはなかった魅力だし、『Groovin' Night』みたいなのをそつなくこなせるようになったのも成長を感じさせる。ただもうこの時期はファンぐらいしか聴いてなかっただろうからねえ。変わったところでどれだけの訴求力があったかと問われると何とも。結局ここまで振り切ったのはこのアルバムぐらいで次からは揺り戻してくるし、結局『こういうのもやってみました』って程度で終わってるのかなあ。いっそこの路線をもっとずっとやっていれば時代は一回りしてたかも知れないけど、咲いて散るまでがアイドルって常識だとそれもままならぬか」


 そんな事を話していると敵襲のサインが現れたので渡海雄と悠宇は前後を見回して人がいないのを確認すると曲がり角に潜み、そこで変身した。


「ふはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のスズムシ男だ。宇宙の辺境であるこのような惑星にさえもグラゲの福音を響かせるのだ」


 夏から秋へと移り変わる月夜を彩るスズムシの鳴き声は情緒に溢れているが、このスズムシ男は存在からして地球にとってはうるさすぎるので即座に退治せねばならない。渡海雄と悠宇は素早く彼が出現した山野へと駆けつけた。


「現れたなグラゲ軍! お前たちの思い通りにはさせないぞ!」


「地球は地球でグラゲはグラゲでしょうに、いい加減引き返してほしいものね」


「ふん。グラゲを知らぬ蛮族め。やはり滅ぼすしかないな。行け、雑兵ども!」


 渡海雄と悠宇を取り囲むように出現した雑兵たちを蹴散らすと、それとは基本的に関係ないが一時的に雨足が弱くなった。今なら傘を差さずとも登校可能だろうが、どうせ戦闘用のスーツを着込んでいる現状においては関係のない話である。


「よし、これで雑兵たちは片付いた。後はお前だけだぞ、スズムシ男!」


「今度こそ退場する事ね。今ならまだ間に合うわ」


「何を言うか。グラゲの理念こそ俺の理念。それを叶えるまでは退けんわ!」


 そう言うとスズムシ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしかないと観念した渡海雄と悠宇もまた合体する事にした。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 雨は一時的に降りやんで厚い雲の狭間から光までが漏れてきたが、そんな事にも気付かないほど二人は目の前の巨体に神経を集中させていた。そして一瞬のタイミングを見計らって素早く攻撃を仕掛けた。


「よし、エメラルドビームでどうだ!」


 渡海雄はこう叫びながら緑色のスイッチを押した。目の部分から発射されるエネルギーはスズムシロボットの胴体を貫いた。


「ええい、忌々しい奴らめ。まあいい、俺は負けたとしても戦いはまだ終わらないのだからな」


 爆散する寸前に作動した脱出装置によって宇宙へと去っていく中でスズムシ男はこのように遠吠えした。しかし実際にまだ戦いは続いていく。二人が一旦研究所に寄って普段の姿に戻る頃には、雨雲がまたぶり返してザンザンと雨が降っていた。それでも明日の天気は分からない。

今回のまとめ

・楽曲の雰囲気を変えて時代に寄り添おうと努力した異色作と言えるか

・でもやっぱりひねった曲より素直な曲のほうが持ち味が出てる

・安っぽい存在だと思っていたtrfの評価が最近自分の中で高まってきた

・このアルバムにおける佐藤寛之の髪型は光GENJI全体で一番無理

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