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rm60 朽ちる昭和と次代への展望について

 季節上の夏はもう暮れようとしているが、そんな数字だけのまやかしに騙される人間は誰一人としていないだろう。残暑と呼ぶには強すぎる熱気はどうやら十月まで続くようだ。非常に残念だが、覚悟するしかあるまい。渡海雄と悠宇はそんな気持ちで残り少ない夏休みを満喫しようと努力していた。


「それで甲子園では沖縄尚学が優勝した。意外にも夏は初優勝だったみたいだけど、有力な二年生投手を二人擁して安定した戦いを最後まで続けられたのは優勝チームとしての風格を感じられたわ。初戦から決勝戦に至るまで打棒爆発して圧勝みたいな展開は一切なかったけど、逆に接戦を掴み取り続けるタフな強さが際立っていた。個人的に今大会は山梨学院が本命かなって睨んでたんだけど、準決勝で沖縄尚学に逆転負けを喫した。これもギリギリの試合だったし、全体的には上位陣の戦力が拮抗していて面白い試合が多かったと思うわ」


「しかしまあ、あんまり良くない話題も」


「そういうお話はあんまりしたくないんだけどね。ただああいう一度表沙汰になった途端に非難の声が方々から上がるような古臭い所業は即刻撲滅すべき悪しき文化であり、そういう意味では一度こういう形であれ光を当てられたのはかえって良かったとさえ言えるわ。根本的に彼らはそれが過ちであるとすら気付いていなかったんでしょうけど、それが許されないものだと今はさすがに悟ったはずであり、ならば悔い改めないといよいよ人間未満になる。ただこういう話も今後の流れによっては『過去にネット上での行き過ぎたバッシングが原因で』みたいな事を言い出す人間が出ないとも限らないのがこの世界の恐ろしいところよね。結局怒りとて感情の一つでありいつまでも持続するものじゃない。覚えておきたい人は覚えておけばいいし、他に容量を使いたいなら忘れていく。私は、きっと後者になってしまうんだろうな」


「あえてどこの高校の事か言わずとも今はあの話かとすぐに分かる。五年ぐらいでもまだ察しが付くはず。でも十年経てば、二十年経てば……。上記の言葉は単に何らかのもやもやした感情を吐露した意味不明な文字列としか見られなくなる時は必ず訪れる。その時までこの場が残っているかは別にせよ」


「ともあれ沖縄尚学おめでとうってところでここは締めるとして、カープだけど今月は一進一退って感じで、しかしやはり先月に作った莫大な負債が露骨に足を引っ張っている。ただその中でファビアンとモンテロの両外国人は勢いを見せてきたし、若手でアピールする選手も出てきた。二軍でもあんまり良くなかった高太一とか常廣がこんないいピッチングするとは思ってもみなかったし」


「野村コーチの助言でちょっとフォームを修正したら急に良くなったって話だよね」


「育成枠から急に伸びて支配下登録を勝ち取った辻も彼の指導だそうだし、指導者としての素質があるみたいね。ただこの辻、高校時代にも短期間で球速が十キロアップしたタイミングがあったみたいで、そういう意味だと伸びしろを見抜いた慧眼の仕業といえるのかもね。でもまだまだ伸び悩んでいる投手はいくらでもいるから仕事は尽きないわ。ただやるのは選手本人なので、どうにかきっかけを掴んでほしいものよね。戦力はどれだけあっても足りないものだから」


「結局七月末の補強は辻と前川の昇格だけで終わったけど、前川は一時期派手に打って少なくとも起爆剤にはなってくれたし辻も頑張ってる。そういう意味ではこのチョイスも間違っていなかったか」


「ただこれで今の支配下登録枠が七十人と限界を迎えた。今はそれでいいけど、そろそろ来年以降の事が視野に入る季節に突入した中でこれをどうするのかって懸念は正直ある。つまり戦力外通告だけど、例えば日本人だけを十人退団させてもドラフトで六人指名して外国人は五人体制に戻すだけでもう六十七人と結構きつくなるからね。というか去年まであまりにも切らなさすぎたつけをそろそろ払わなきゃいけなくなったってのが実際のところで、ましてやこのままではそうなる事が濃厚な二年連続Bクラスとなれば一気に動かすにはまたとない機会ともなりうる。そういう前提に基づいて、近い未来に必ず訪れてしまう良からぬ未来についてざっくりした予想をしようかと思うわ。基本的に個人名を出す事はしないから分かりにくくなるかと思うけど」


「これまたネガティブな話題だ。でもそれをやるとして、まず投手だと誰になるの?」


「実は投手陣の事情が一番難しいかも知れないわね。もちろん今年一軍で登板数を稼げず数字を残せていない選手は危ないし、一軍にすら上がれていないなら更に危ないのは一般論的な前提としてあるけど、上じゃ駄目な投手であっても二軍ではそれなりに抑えてたり、下でも良くないけどまだ二年目三年目程度だったりで、カープがそういう選手をバッサリ切りまくる展開はあまりイメージ出来ない」


「ふむふむ」


「現状確実なのは一人ぐらいで、ただトータルでは三人か四人ぐらいは枠を作りたいので、そこは思案のしどころになるかと思うわ。個人的にはこの三人ってのは明確な形で浮かんでるけど、人によっては『彼を戦力外なんてありえない』って選手が含まれているだろうなとも自覚してるわ。育成枠に落とす手法もあんまり使わないしね。個人的にはもっと活用していいと考えてるけど」


「ただ今までカープで一度育成に落ちた選手はあんまりいい未来を迎えてない印象がある。藤井黎來とか結局浮上の兆しなく退団したし、今年の小林もあまり聞こえてこない」


「巨人ぐらい組織立って上げ下げするならともかく、カープ程度の規模でいわば一時凌ぎしたところで結局困難な道なのは間違いないのよね。次にキャッチャーだけど、ここは逆に出来るものなら派手に入れ替えたいけどそうはいかないって難しさを抱えている。三年後のオフをユニフォームを着た状態で超えられると断言出来るのは坂倉と石原だけでしょ。しかもユニフォームの色が赤とは限らない」


「確かにベテランはいつまで保つか分からないし、若手も突き上げてくるものがない感じで」


「ここまで来ると個々人の才能ってだけじゃなく指導に何らかの欠陥があるのではと疑ってしまいそうになるわ。非常に憂慮すべき問題よ。だからその中でも特に厳しい一人は最低でも大社の即戦力候補と入れ替え、何なら複数名指名してもいいとさえ思ってる。ただくすぶっている若手が跳ねれば色々な問題は一瞬で解決するわけだし、どうにか奮起してほしいと心から願うわ」


「まずは今いる選手の成長に期待するのが第一なのは言うまでもないよね」


「ここ二年キャッチャーは支配下で一人も指名してない。同様の事情が二遊間にもあり、内野手でいうとベテランを中心にそのタイプで危ない選手が四人いる。ここから最低二人、出来るなら三人はいなくなるんじゃないかなと見るわ。逆に一三塁を守る大砲候補は出てくるまでまだ時間かかりそうな若手が溜まりつつあるけど、こういうタイプはある程度我慢が必要だし育成落ちも多分なさそう。ただ佐々木が上で優先起用されてる現状においてはどこまで我慢すべきかの見極めも必要になってきそうだし、今年はセーフでも割と岐路に立ってはいるわね」


「ただ昨今の極端な打低傾向に加えてセリーグDH解禁も迫って大砲タイプの需要は高まる一方だよね」


「二割台の首位打者が誕生しかねない現状がどれだけ狂気的か、責任ある人間は本当に理解しているのかしら。戦時中並って事だからね。もはや野手の実力に責任転嫁してる場合じゃないわ。ともあれ若手大砲候補に話を戻すけど、佐々木は下じゃ五割以上打っている。一方で内田仲田なんかは二割打って万々歳じゃさすがに足りなさすぎる。そして最後に外野手だけど、中村奨成や大盛といった中堅どころの年齢の選手がここまで想像以上の頑張りを見せている。逆にここでアピールしきれていない選手はある程度整理されるかもね。トータルでは三人ぐらいかな。まとめると投手三人、捕手一人、内野手三人、外野手三人をベースに各ポジション一人ほど増減あり。これでどうにか十人捻出したけど、根本的には人ありきであり入れ替えが主目的になってはならない」


「ただこの二年ほど選手にとって楽なオフにはならないか」


「ついでに外国人だけど、こっちはもう実名出すけどファビアンとモンテロは絶対残して。投手だとドミンゲスは極めて危なく最終手段としてリリーフ転向でワンチャンあるか。ハーンも微妙なところ。残してもいいけど年俸や新外国人候補との兼ね合いになりそう。ただ円安という現実を踏まえた上でちゃんと予算は確保してよね。今年もずっと追加補強狙ってたはずなのに何もなかったのは狙ってた3Aの選手が昇格したからって言い訳記事があったけど、それならメジャー枠を外れた選手を拾うなり方針転換しても良かった。でも出来なかったのは金銭的余裕がなかったからって部分もあるはずだし、とにかく今までのやり方に固執しすぎる事なくあらゆるチャレンジをこなすべき」


「そうだね。ただ未来の話以上に目の前の戦いを全力でこなしてほしいよね」


「というわけでカープはこれぐらいにして、サンフレッチェは今も一応優勝争いに加わってはいるけど根本的な部分でもう一歩前進する迫力に欠けているというのか、ジャーメインの得点力では強豪相手には勝ちきれないなって感じ。もはやエースは中村草太だけど、どう見ても早いうちに海外へ雄飛する存在だからねえ。まあそれはもう仕方ないとして、とにかく今シーズンここまで微妙に噛み合いきらないもやもやした感覚がずっと残るのが、全体的に強いのは明らかだけにより歯がゆく思えるわ」


「とは言え上位陣は割と団子状態だし、ここからガッチリ整えれば全然可能性はある」


「最後まで希望を捨てずに勝利を得ていくしかないわ。ところで今月十日に釜本邦茂が亡くなった。日本サッカーの第一人者。しかしその偉業は一体どれだけ現代のサッカーファンに正しく理解されているのかと思うと寒々しいものがある。人間の結晶である歴史を正しくリスペクトして受け継ぎ発展させるのが今を生きる者の務めであるならば、サッカーファンを自認する人からさえも『釜本って今のセレッソにいたんだ』なんて間の抜けた発言をされてるようじゃ寂しいものよね。現役時代どころかガンバの監督だった時代にすら生まれてない人も多いでしょうけど、これが野球だと『王貞治って巨人にいたんだ』と言ってるようなもので、さすがにそれぐらいは知っておこうって気持ちにはなるわね」


「やはり文化としての成熟度が段違いか」


「とは言えJリーグとてすでに日本リーグ以上の歴史を紡ぎ、数多くのドラマを積み重ねてきた。これからもその営みが長く強く続くように、愛を抱いて見つめ続けていきたいものよ」


 このような事を語っていたら、敵襲を告げるサイレンが鳴り響いた。それは夏の空を切り裂く夕立のようでもあった。二人は素早く変身して、敵が出現したポイントへと急いだ。


挿絵(By みてみん)


「フハハハハハハ、私はグラゲ軍攻撃部隊のウシヌカカ女だ。この汚れた惑星を正してやろう」


 ミリ単位の小さな吸血動物で、本来はより南方に住んでいるが時々日本にも訪れて人間が刺されたらそれなりのダメージがある上に牛の病気を媒介するなど結構な害虫の姿を模した侵略者が河川敷に降り立った。しかしその暴走を止めるべく、地球からの使者もまたそこへ到着した。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「相変わらず出てくるものね。乱暴は許さないわ」


「ほほう、これが噂に名高い反逆者か。死んでもらうぞ。行け、雑兵ども!」


 ウシヌカカ女の冷徹な指示にただ従うだけの、血の通わない殺戮兵器の群れを二人は情熱込めて撃破していった。そして残る敵は一人だけとなった。


「よしこれで雑兵は尽きた。後はお前だけだウシヌカカ女」


「いずれ夏が終わるように愚かな戦いも消えていけばいいんだけどな」


「ならば愚かな反逆を今すぐに止めれば良いだけの話。そうしないなら死ね!」


 そう言い放つとウシヌカカ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしか道はないようだ。今は。二人は覚悟を決めると合体して大いにる力を手にした。


「ヴィクター!!」

「エメラルディア!!」


 青空を覆い隠す積乱雲の一番高いところよりももっと上空にて、二体の巨鋼によってこの星の運命を決める戦いが繰り広げられた。悠宇は持ち前の反射神経を全開にして敵の攻撃を回避しつつ接近し、カウンターの掌底を決めた。


「よし今よとみお君!」


「分かったよゆうちゃん。ここはエメラルドフレイムで勝負だ!」


 一瞬だけ生まれた隙を逃さず、渡海雄は緑色のボタンを叩いた。瞳から溢れ出す情熱の色を具現化したエメラルド色の炎が敵を包みこんで、炸裂した。


「うわああ! なんというパワーだ!?」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってウシヌカカ女は本来いるべき宇宙の彼方へと帰っていった。雨もすっかり止み、濡れたアスファルトの上を歩いて二人は家路を辿った。

今回のまとめ

・ちょっとポジティブさが足りない内容だけど現状ではこれが精一杯

・カープはやっと若手が出てきつつあるのでこの流れは維持したい

・サンフレッチェは優勝争い真っ只中だけど優勝の雰囲気はあまりない

・長嶋茂雄も釜本邦茂も亡くなるしこれからも世界は続いていく

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