hg37 7 S.T.A.R.S. ~7つの答え~について
暑い夏はなおも続き、戦いもまた続く。渡海雄と悠宇は夏休みだからと言ってのんべんだらりとだけ過ごすわけにはいかない。空調の効いた室内でトレーニングを続けていた。
「しかしまあ、カープが去年の九月を思わせる失速を遂げている真っ最中なので語ろうにもモチベーションが鬼のようにだだ下がりしてるんだけど、それでも頑張って言葉にしようと努めるわ」
「ううむ、あたかも苦行に挑む修行僧のような決意」
「実際苦行みたいな試合を延々と見せつけられているからね。交流戦が明けてからしばらくは得点力不足を発症して大型連敗を喫したし、前半戦ラストとなったヤクルト戦では神宮球場や相手投手陣の恩恵もあり得点力が復活したかに見えたけどそれ以上に取られるというあまりにも不甲斐ない、噛み合わない展開で三連敗。オールスター終了後もその流れは変わっておらず、これはしんどいわ」
「それで今や中日にすら抜かれての五位。もはや首位阪神との差は語る必要さえなくなった」
「ここからもう一度浮上するってビジョンを思い描くのはなかなか難しいのが偽らざる現状よね。首位は言うまでもないとしてAクラス争いすらも厳しくなりつつある。さすがにヤクルトには抜かれないだろうと思ってたけど、残念ながらそれすら楽観視出来ないまでに落ち込んでいる」
「得点力に関しては、主軸となったファビアンが湿っていたのが痛かったかな」
「打率の割に出塁率が低いタイプだったので悪くなったらガタッと落ちるかも知れないとは思わないでもなかったけど、それでも今の打線においてはトータルで見て一番力のある存在なのは間違いないんだから、どうにか再浮上させない事には話にならないわ。根本的には長打力がある選手が少なすぎるってのがまず問題よね。その中で比較的いい打球を飛ばしてきた中村奨成が守備の際に怪我して登録抹消されたのも最悪に近い展開。ただその際に再昇格を果たした林は頑張ってる」
「二軍でアピールしてきたもんね。苦しい中で何かきっかけを掴んでくれればいいんだけど」
「打線の形をコロコロ変えるのも得点力不足をどうにかして打破したいという意気込みの現れだとは理解したいものだけど、一番末包はさすがに迷走としか言いようがなかったし、ファビアンを二番に据えた打線はもうちょっと見たかったけど結局四番に回ったのも何だかねえ」
「やはりもう少しいい波が来ないと言葉も自然とネガティブになってくるものか。ところで投手陣はどうだろう」
「ルーキーの佐藤柳之介が初勝利を上げたのはまず朗報。ただリリーフ陣が疲れもあってか打たれてきたし、森下が防御率二点台前半ながら早くも二桁敗北しているのは残念。先制点を奪われがちなのは落ち度だと言えない事もないけど、それにしてもやっぱり援護が弱すぎる。ただ援護があっても平気で吐き出す投手陣への信頼もかなり低下している。こうも負けるのは投手と野手、どっちも悪くないと為し得ないだけにね」
「とにかく今の一軍メンバー以外も含めた全員で奮起するしかないか。でも二軍にどれだけ人材が残っているか」
「そこがまさに絶望的な部分よね。そして今日、前川と辻がダブル支配下登録というニュースが飛び込んできた。彼らにとっては朗報だけど、お茶を濁すという言葉を浮かべずにはいられなかった。だっておかしいでしょ。開幕直後に消えた外国人野手の代役補強に一切動かなかった去年も大概だったけど、今年なんてオフからずっと猶予があったのに誰一人獲得せずって。また外国人の場合不振ならリリースすればいいけど日本人だとそうはいくまい。ベテランならともかく二人とも若いしね。じゃあ戦力外はどうするのかって問題も出てくる。可能なら十人ぐらい切るべきなんだけど、近年の日和った選択を見るにそこまでやれるか大いに疑問よ」
「しかしもうそういうのを意識すべき時期に突入したのか」
「常に二軍成績は注視しているので『この選手は危険かも』みたいなのはある程度推測してるけど、それを披瀝はしない。でも今年こそ動かなきゃ話にならないわ。ところで狙っていた投手がメジャー昇格したから獲得出来なくなったという報道もあった。そうやって『頑張ったけど仕方なかった』ってポーズを取るための言い訳だけは達者だけど、聞きたかったのはそんな戯言ではなく希望と不安を掻き立てる契約締結の一報だったはず。例えば去年のうちに二人ほど、案の定今年も働いてないベテランを切っていれば前川や辻をもっと早く昇格させ起爆剤にした上でなお外国人やトレードでの補強を狙う余裕も生まれたのに、優勝争いから脱落したタイミングで若手を上げてもう枠がありませんって相当無様な編成よ。フロントの怠慢よ。観客動員が減少するのも当然。ファンの目は節穴じゃないんだから」
「先月の時点でも半ば諦め気味だったけど、いよいよ悲壮感が強まってきたなあ」
「ここから駆け込みトレードの一件でも成立させてくれれば涙を流して喜ぶでしょうけど……、とりあえずここまでにしましょう。それで次はサンフレッチェについてだけど、こちらとて別に良い流れに乗っているとは言えないわけでね。本来得るべきだった勝ち点をかなり多く落としている。そして相変わらずシュートを外しまくっているジャーメインだけど、そんな体たらくなのになぜか選出された東アジアの国々で争われるE-1選手権において三試合で実に五ゴール、特に事実上の決勝戦だった韓国戦において決勝の先制ゴールを決めるなど見事な活躍を見せた。それをクラブでもやればいいのに」
「あの大会、サンフレッチェから六人も選出されてさぞかし大変だったろうね」
「それだけ選手の粒は揃っている証明でもあるけど、その上で現状はやや物足りないと言わざるを得ない。その最たるものがジャーメインなんだけど。この僅かな代表経験ですでに今年のリーグ戦これまでの得点数を抜いたというふざけた話よ。八百長まがいかとイライラしていたら、オーストラリアにおいて本当に八百長をかました日本人選手が出てきたのは呆れ果てたけど」
「檀崎竜孔って名前は割と格好良いのにやってる事は最悪すぎる」
「いわくサッカー賭博において友人と共謀して、試合中にスパイクの裏側が見えるようなえげつないスライディングを相手に食らわせてわざとカードをもらい、試合結果を操作しようとした容疑だそう。それが本当だとしたらおおよそプロスポーツにおける行為としては最悪レベルで、その腐り果てた精神性はまさしく世界の恥晒し。有罪が認められればサッカー界からの永久追放は免れないでしょうね。サッカー選手としてどうこうじゃなくて人間として更生しなければ。そういう意味では信じたくはないものだけど、まあこれもまた世界的スポーツの側面ではあるのよね」
「どこでもやっているからこそ悪徳も近くに訪れやすいと。それをはねのけるには、やはり人間としてのあり様になってくるよね」
「国内でやってる人はいないと、これもまた信じるしかない部分になるけど、ただ今年の初めに話題になったオンラインカジノに関しても、例えばプロ野球選手の一部は判明したけどこれが全てではないとは誰もが知っている。そういう誘惑にも気をつけて生きる必要があるし、うっかり傲慢になる暇なんてないものよね。とにかくサンフレッチェはもっと点を取って、どんどん躍進していきましょう。それと韓国人のディフェンダーを獲得するって噂だけど、確かに佐々木とか年齢的にそろそろってところはあるからね。これも重要な補強になりうるので頑張ってほしいわ」
「Jリーグは移籍期間だから本当に各チーム色々動いてるよね」
「ほとんど実績のない若手が海外へ移籍したりJ1で主力格の選手がJ2へ移籍したり、もはや何でもありの百鬼夜行って感じだけど、まあ活気があっていい事よ。選手を全員守り抜くなんてのは現実的に不可能な現状、流動的な中でいかに立ち回るかが問われる部分であり、サンフレッチェは基本的に被害者ぶる必要もない上に節操なしにもならない程度には毎年頑張っていると思うわ。それにしてもスキッベ監督の下で優勝を果たしたいって気持ちはあれど、ずっともう一歩勝ちきれないみたいな時期があってトータルでは大魚を逃している感じがじれったいものよ。とにかく今年こそはガツンと決めてほしいんだけど」
「どうにかしてそうなるといいけどね」
「そして大相撲もかなり大変な展開だったわ。新横綱の大の里が多少崩れるのは織り込み済みなので今更あれこれ言うつもりはない。豊昇龍は割とがっかりだったけど。ともあれそうやってトップに立つべき力士が振るわなかったとしても誰かが優勝するわけで、それでなかなか混沌とした優勝争いが繰り広げられたわ。十一日目の時点で通常より翌日の取組相手が決まるタイミングが遅くなってて、やたらと多かった優勝争い力士同士を可能な限り戦わせるように仕組んだ」
「潰し合いか。ハードだね」
「その結果、ウクライナ出身でここまで猛然と勝ち越しを続ける安青錦二十一歳、元学生横綱で幕下付け出しから彼もまたずっと勝ち越しを続けて新入幕の草野二十四歳といった若手が十四日目を終えて優勝争いに残る展開となったけど、最終的に制したのは琴勝峰。彼もまた平幕から初優勝を目指す二十五歳の若手だった」
「とは言え他の二人よりは幕内経験豊富で、よくやったものだね」
「こういう新しい波は常に訪れているけど、どこまで順調に進むかなんて分からない。日進月歩で対策は練られるし、怪我にも気をつけないといけない。でも十五日連続で戦い抜いて様々なプレッシャーにも打ち勝って、それで初めて優勝を掴んだんだから立派な姿よ」
「まさしくその通りだね。ところでこの間の参院選の投票日に最終回が放送された『7 S.T.A.R.S. ~7つの答え~佐藤アツヒロが繋ぐ光GENJIの現在』。結論を言うとまだ道半ばって事になるかと思う」
「あらまあ。なかなか簡単にはいかないものね」
「各人それぞれに人生があり、その中でこだわりや誇りも育んできた。途中で飛鳥が出てきて力強く美しい言葉をかけていたけど、彼とて長年の親友との仲をこじらせて今に至る人。男二人ですらこの有様なのに、それが七人ともなれば一体どれほどの困難が待ち構えているものかという、そういう感じ。ただ今年の八月十九日には『光GENJI ライブCollection』と称してかつてのパフォーマンスを放送するらしい。見れば凄まじさはまさに一目瞭然というやつだから、広く見てもらうのは即座に機運を高める一手となるはず」
「その果てにいつかきっと、みたいになるといいわね」
「そこは引き続き期待していかねばなるまいと覚悟している。人間がこの世界を生きていく中で諦めこそが最大の敵だと信じるがゆえに。だからカープだってまだ今シーズンを諦める必要なんて……!」
「そうね。まずは最下位争いを勝ち抜きましょう」
このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンの音が鳴り響いたので、二人は変身して敵が出現したポイントへと馳せた。
「フハハハハハハ、俺はグラゲ軍攻撃部隊のイボイノシシ男だ。この腐敗した惑星を正してやるぜ」
アフリカのサバンナに生息し、水をあまり飲まなくてもいいように適応したイノシシの仲間の姿を模した侵略者が、真夏の草原に出現した。しかし他人の土地を勝手に踏み荒らされてなるものかという地球の意思を具現化した二つの影が間もなくそこに訪れた。
「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」
「ちょうど日中の一番暑い時間に来てくれてありがとう。そして帰ってくれるかな」
「ほう、こやつらが噂に名高い愚者どもか。死んでもらうぞ。行け、雑兵ども」
気温とは正反対の冷徹な指令にただ従うだけの、黒光りする殺戮兵器の群れを、二人は情熱込めて次々と撃破していった。
「よし、これで雑兵は尽きた。後はお前だけだイボイノシシ男」
「伊之助みたいな姿してからに。戦うなら容赦しないし帰るならその決断を全力で歓迎するわ」
「何もせずに帰る手はない。勝負だ!」
イボイノシシ男はそう言い放つと、懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしかないようだ、今は。二人は覚悟を決めると合体して、大いなる力を得た。
「ヴィクター!!」
「エメラルディア!!」
敵の攻撃はまさしく猪突猛進。直撃すればただでは済まないが、悠宇は持ち前の反射神経を駆使して回避するとうまくカウンターを決めた。
「よし今よとみお君!」
「分かったよゆうちゃん。ここはエメラルドフレイムで丸焼きだ!」
僅かに生まれた隙を逃さず、渡海雄は緑色のボタンを叩いた。瞳から溢れる情熱を形にしたエメラルド色の炎が敵を焼き尽くした。
「うわああ! やられただと!?」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってイボイノシシ男は宇宙の彼方へと帰っていった。これからもっと暑くなるんだから、せめて心もヒートさせるニュースが増えるといいなと願う二人であった。
今回のまとめ
・今回はネガティブな気分にさせるネタばかり豊富で苦労した
・勝てないならせめてファンを喜ばせる補強の一つぐらいしろ
・分かったからサンフレッチェでも点を取れジャーメイン
・とにかく何であれ諦めない心をこれからも持ち続けたい