rm07 目下好調なカープとサンフレッチェについて
桜の花びらはあらかた散り終えた代わりに緑の若葉が顔を出した。新緑の季節、暖かさをまとった空気が次の美しさを誘発している。通学路にあるちょっと大きな家の庭ではジューシーなピンク色をしたツツジが花をつけていたので悠宇はご機嫌だった。ツツジを漢字で書くと無駄に物騒な字面になる事を彼女はまだ知らない。
「はははっ、おはようとみお君!」
「おはよう、ゆうちゃん。今日はいつもより元気だけど何かあったの?」
「ふふっ、そりゃあね。まずサンフレッチェがACLの一次リーグを突破したでしょ」
「ああ、それかあ。それにしても前話してくれた時の夜にちょうど試合あったけど、あれは酷かったねえ。広島がリードしてたら突如PK連発で、むしろ一本止めてくれた林に感謝しなければという展開」
「何が起こっても不思議ではないアジアらしい展開だったわね。でも先日のセントラルコーストマリナーズ戦ではアジアで一番評判のいいウズベキスタンのイルマトフさんだったからそういう変な心配をせずにいられたのは良かったわ。なかなか点を取れなかったけど勝てればいいのよ。これでひとまずノルマ達成と言えるんだから」
「それとセレッソも逆転勝利で勝ち上がったって言うじゃない。しかも決めたのは柿谷とフォルラン」
「それと川崎もね。マリノスは残念ながら敗退したけど3/4がリーグ突破したんだから上々よ。これからどこまで勝ち上がれるかはまた別にしてもね」
「Jリーグと並行しての戦いだからねえ。その中でサンフレッチェは二位とこっちもいい順位だよね。でも神戸が首位ってのが意外だなあ。去年はJ2だったのに」
「神戸は外国人がいいって話よね。もちろん日本人も伸びてないとこうはならないけど。数字を見ると得点がリーグトップだから、まさに好調って事なんでしょう。サンフレッチェはいつも通りのサッカーをいつも通りに展開した結果この順位という印象だけど」
「塩谷が凄いよね。まさかあんなに得点力があるとは夢にも思わなかったよ」
「ええ。セントラルコーストマリナーズ戦でもゴールは塩谷の直接FKが山岸に当たってコースが変わったというものだったし、攻め上がりのほうも切れ味抜群。キックフェイントでDFのスライディングをかわして左足でゴールとか得点感覚が抜群すぎる一撃を決めたり、今Jリーグで一番乗ってる選手の一人と断言出来るわね」
「まるで前線の選手を紹介してるみたいだけどDFで、そっちの仕事もちゃんとこなしてるもんね。このままうまく頑張ってくれるといいよね。でも下のほうに目を向けると、ああ、徳島が……」
「ううん、徳島ねえ。苦戦するとはそりゃあ思ってたけどここまで歯が立たないとはさすがに予想以上だったわ」
「リーグ戦八戦全敗。しかも得点は広島戦での一点だけ、失点は二十六。ちょっと洒落にならない数字だよね、これって」
「去年の大分や一昨年の札幌も酷いと言われてたけど、さすがにここまでじゃなかったわ。ナビスコカップでは浦和に三対四とか、結局負けたにしても試合を展開出来たみたいだけど。現状どこが悪いとかそういうレベルじゃないもの。まさかこのまま全敗って事はないはずだけど、じゃあどうやって勝つのかと問われるとねえ」
「目指せ一勝どころか目指せ勝ち点という段階じゃあねえ。でも序盤からこうも離されると応援してる人も苦しいよね。セリーグの横浜とヤクルトもそうだけど」
「ああ、そっち行っちゃうのね。徳島は初めてのJ1でレベルの違いに跳ね返されてるとは言えるでしょうけど横浜とヤクルトは初めてでもないのに酷い事になっているからなかなかのものよ」
「やっぱり怪我人なのかなあ。ヤクルトは投手陣が猛烈な勢いで離脱していってついにエース小川さえも魔の手の餌食に……」
「横浜も去年の二冠王で主砲のブランコ、さらにレギュラーと見込んだキャッチャー黒羽根が離脱ってのはかなりまずい展開よね。もっともベテランキャッチャー鶴岡をみすみす放出するというフロントの失策もあるから自業自得とも言えるけど。それにブランコ離脱後に昇格した中村は一番怖い、良くも悪くも何かやりそうという雰囲気があるバッターよね」
「さすがベテランって感じだね。他の選手も別の意味で何かやらかしてくれそうって期待はあるけどね」
「こらこら。ただ実際ミスも多いのよね。それに加えて元々投手陣は弱体だから厳しいわ。補強した久保や高橋尚成はちゃんとローテーションに入っているものの数字はあまり良くないし。リリーフも酷くて二軍降格したソーサの代わりの抑えは山口だそうだけど、ここ最近は信頼感がないのでいかにも苦しいという印象が強いわ」
「好調とは言ってもルーキーの三上とかワンポイント的な大原じゃ心許ないもんね。この横浜とヤクルトが最下位を争う中、下には強く上には弱い中日が五割前後で四位独走。そして上位には巨人と阪神、そして広島がここまで順調に戦えてるよね」
「うん。順調と言えばこれ以上ないほどに順調よね。特に投手陣」
「ルーキーの大瀬良と九里がここまではローテーションとして十分役割を果たしてるもんね」
「ルーキー二人ともいけるとは、期待はしてたけどそううまくいかないだろうとも思ってたから嬉しい誤算よね、篠田も含めて。むしろ前田や野村が心配という状況だもの。それ以上に凄いのはリリーフ陣の、特に中田と一岡よ。中田は回跨ぎ出来るから便利だし、一岡も信じられないほどの安定感を見せているからリードを安全に守りきる事が出来てるのがカープの強みとなっているわ」
「永川とミコライオもよく安定しているし、リリーフに関しては現状セリーグではトップだよね。それにしても一岡って巨人のプロテクト外だったんだよね。よく漏れてたなあ」
「まあ、そこは巨人としても微妙な判断だったでしょうね。一岡は二軍では完璧に近い数字だったし、去年のオフもプエルトリコのリーグに参戦させていたから巨人としても期待していたのは間違いないと思うの。でも二十八人のプロテクトという枠では有望な選手全員を守りきる事は不可能だから断腸の思いで外して、そこを見逃さなかったカープのフロントはお手柄だったって事よね。大竹も向こうでしっかりローテーションに入ってるしお互いに良かったんじゃないかしら」
「その代わり今巨人のリリーフがやや不調なのが皮肉と言うか、広島に移籍しなかった場合も多分今頃一軍でバリバリ投げてただろうね」
「それだけの力があったのは間違いないわ。でも実際はカープにいる。誰をプロテクトしたかは公表されないわけだし、誰がどうとか言えないからもしもの話は蚊帳の外よ。打線に関してはカープは横浜ヤクルトの六試合でかなり改善されたとは言えそれほど良くないけど、ただ他球団がインフレしすぎという部分もあるから全然取れてないってわけでもないのよね。総じて打率は低いけどホームランがやたらと出ているからある意味得点効率はいいんじゃないかしら」
「エルドレッドが絶好調だよね。パワー方面は言うまでもないにしてもアベレージ方面でもあんなにいけるとは思わなかった」
「むしろキラが不調で、ようやく上向きになったというタイミングでデッドボールを背中に受けて脊髄震盪なる診断を受けて二軍落ちしてしまうなんてねえ。代わりに昇格したロサリオはまだまだ荒削りで本来は二軍で鍛えたいタイプに見えるけど、逆にそういう選手を今のうちに上で試しておける余裕の現れとも考えられるわ。キラはどうも十日で戻ってくる予定だって言うし『ロサリオは戦力としてどうしても活躍してくれないと困る』みたいな切羽詰った状況ではないもの」
「外国人はまずバリントンとミコライオは外せないしエルドレッドも好調で離脱する前はキラも上向きだったから、試すにしてもなかなか枠がないもんね。フィリップスなんかも二軍では抜群の成績という話なのに」
「今は敗戦処理ぐらいしか枠が無いしそこで使っても仕方ないから今回は昇格を見送られたんでしょうね。ただ当然、中田や一岡だってシーズンずっとこのペースでいけるはずがないから、その時にフィリップスがどれだけやれるか。でもその際も枠があるし、とにかくモチベーションを保って頑張ってほしいわね。チャンスなく終わるとは思わないし、チャンスがないほど他が磐石ならそれはそれでありがたい話ではあるけど」
「去年のソコロビッチみたいな感じになるのかな。打線で他に好調なのは菊池だね。基本的に低空飛行だった去年と違って三割も打ってるぞ」
「うん。やっぱりルーキーの頃から目をつけてた選手だけに順調で何よりよ。と言うか普通にプレーしてるだけでもどうしても目がいってしまうのよね。彼が一年目の頃、テレビ中継を見ると何でもない普通のゴロなのにやたらとダイナミックかつ俊敏な動きで処理してるのを見て『この異常なまでの躍動感は一体何!?』と衝撃を受けたのは忘れられないわ。とにかく心に残る選手だから去年レギュラーを取って素晴らしい守備を連発したのは嬉しかったし、今年はさらにエラーも減って打撃も好調となるとねえ。かなりの選手になってるわ」
「それにショートは梵、サードは現状堂林が一番手かなあ。梵はちょっと不調だけど。そして堂林は変な事になってるよね」
「打率は低いけど一発は結構多くて出塁率も案外悪くない。そして何よりそんな選手が一番打者ってのが一番変なポイントよね。でも意外と機能していると言うか、勝ててるから少なくとも今は特にいじる理由もないのよね。たまには打ってくれるし、とにかく堂林は余計なことを考えず時々爆発してくれればいいわ。幸い内野には木村や小窪、守備だけは上等な上本といるから。それとルーキーの田中も割と使えそうだし。うん、層が厚くなったものよね」
「田中は物怖じしないのがいいよね。今は打率一割台だけど力はあると思うから、梵のポジションを奪うぐらいやってほしいよね。外野は、丸は磐石としてキラが落ちたからエルドレッドはファーストとした場合廣瀬や松山を中心に、相手先発に文字通り左右されてスタメンを決めてるけど、まあ悪くはないよね」
「もっと決定的な選手がいたら本当はいいんだけど現状ではベターよね。悪くないと言えば二番手キャッチャーの白濱がここまで意外と無難にこなしているのも驚きよ。倉が二軍にいても案外どうにかなってるんだから。そして二軍と言えば他にも栗原、東出、天谷などがいるけど、ううん」
「二軍成績見ると、ああ、こっちも目下好調で首位なんだね! 栗原はホームランも打ってるらしいけど打率がちょっと寂しいかなあ」
「栗原に関しては成績よりオープン戦で見せた腰砕け打法がどうなってるかよ。まだ老け込む年齢ではないとは言ってもあれが改善されない限り一軍で戦力になる可能性は皆無だから。東出は内野に若い選手が増えたから大変だけど、ベテランらしい存在感を見せればまだ出番はあるはず。とにかく、昔から、それこそ一九七五年に初優勝する前から脈々と受け継がれてきた言い回しとして『カープは鯉のぼりの季節まで』というものがあるわ。つまり滑り出しだけは良くても地力が足りないから長く続かない事を揶揄する言い回しよ」
「今年もそれを言ってる人はいるよね。実際どうなの? やっぱり五月五日程度で終わってしまうの?」
「終わるかも知れないわね。でも終わらないかも知れない。ただ言えるのは、ここ数年においては鯉のぼりの季節まで好調だった事さえなかったって事よ。去年なんかも今の時期は調子の上がらない今村をそれでも使い続けたり、確かヤクルト戦の延長で上野や菊地原が投げて案の定負けた試合とかあって絶望的だったわ。それが今年は中田や一岡の活躍でリリーフも比較的余裕を持った起用が出来てて、しかも結果を残せてる。それが今だけに終わるとしても、勝ってるうちはそれを素直に喜べばいいのよ。とにかく今年は最低でもAクラス、シーズン勝ち越し、もしも出来たら優勝を狙おうと、ここまで言っても他球団のファンからしても誇大妄想には聞こえなくなってるはずだから」
このような事を語っていると敵襲を告げる光が点滅した。まだ朝の会も始まってないのに、ああ、今日もまた遅刻って事になるんだなと嘆きながらも地球のためには仕方ない。二人は目につかない校舎の死角に潜り込んで変身した。
「ははははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のエミュー女だ。この星に潜む偽人類はひとり残らず絶滅させてあげるわ!」
草原に出現したエミュー女はそのがっしりとした二本足で大地を押さえつけていた。間もなく渡海雄と悠宇がその姿を現して、敵と対峙した。
「嫌な時間に現れてくれる。でも僕たちが来た以上はお前たちの企みは頓挫したも同然だぞ!」
「毎度毎度ねえ、教科書を忘れて取りに帰ったとか言い訳考えるの面倒なんだから放課後に来なさいよ!」
「ふん、意味の分からん事を。しかし辞世の句がそれでは締まらないのではないか。お前たちは今日がその最期なのだからな!」
エミュー女の叫びとともにどこからともなく雑兵たちが出現して渡海雄と悠宇に向かって攻撃を開始したがすぐに全滅となった。
「よし、後はお前ひとりになったな、エミュー女!」
「もう遅い中ではまだ遅くないはずよ。今からでも帰りなさい!」
「お前たちが何を言いたいのかまったく理解出来ないが、私たちには奥の手があるとはお前たちだって知っているだろう。今がその時だ」
エミュー女はそう言うと、懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり直接対決は避けられない。それなら迅速に終わらせるに限ると覚悟した渡海雄と悠宇もまたその心と体を一つにした。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
大地に立った巨体が二つ。しかしそのバトルはまさしく一瞬であった。エミューロボットの強烈なキックに耐えながら接近したメガロボットが一気に勝負をかけたのだ。
「もう決めてやる! エメラルドビームで勝負だ!」
至近距離まで接近したところで渡海雄は緑色のスイッチを押した。瞳から発射された勇気を具現化したような熱いビームがエミューロボットの胴体を貫いた。
「むう、この私がやられるとは。まったく、噂以上のパワーだな」
エミューロボットが爆散する寸前に作動した脱出装置で戦場から離脱しつつ、エミュー女はそうつぶやいていた。またも彼らの陰謀は挫折という結果を生み出した。しかし明日はどうなるか分からない。グラゲの邪悪なる企みが完全に潰えるまで、渡海雄と悠宇に本当の安楽は訪れないのだ。
今回のまとめ
・サンフレッチェACLグループリーグ突破おめでとうございます
・サンフレッチェとカープが揃って強いのってそれこそ史上初なのでは
・開幕前やってくれればと願った選手がこうも活躍しているのが珍しい
・ヤクルトと横浜の暗黒争いもかなり熾烈




