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hg08 333について

 始業式も終わり、渡海雄と悠宇は三年生になった。先週末の雨と風は桜の花びらを絨毯に変えたが、その狭間では新たな生命が躍動している。踏みしめられて変色する花びらの欠片が元々いた場所にはくすんだ色の葉が芽吹いているが、いずれ鮮やかな緑で周辺を染める事になるものだから。


 もっとも、だからと言って何かが変わるわけでもない。しかし少なくとも気持ちが多少リフレッシュされて「さあやるぞ!」という気分にはなってくるかも知れない。今日もまた放課後は研究所に赴いて敵に備える二人であった。


「と言うわけで今日はこれ、『333』」


「あれ、この間手に入れたって話の奴はどうなったの?」


「あれは後。具体的に言うと一九九三年の終わりに出たアルバムを語る際にまとめて処理する予定。どうせ曲数少ないもんね。さて、この『333』が発売されたのは一九九一年、つまり平成三年の三月三日。ゆえにこのようなタイトルになったんだ」


「『(333)Thank you』というのが正式な表記だから、333をサンキューと読むのが正しいという認識でいいの?」


「多分。僕が持ってるのは通常盤で、洋書の背表紙が本棚に並んでるみたいなデザインの上着を着た七人が横並びしているものだけど、中央が諸星ではなく赤坂なのが特徴かな。シングルのジャケットでも特に九十年代に入ってからは諸星を中央に置かないパターンが多くなってて、もちろん人気は相変わらずナンバーワンだったようだけどそれ以外のメンバーにも目立たせようという作戦かな」


「両端の光と真ん中の赤坂は比較的身長が高いからバランスを取るためにはこの配置が一番って事もあるでしょ。それと諸星は例のパーマではなくて丸っこい髪型になってて妙ね。それ以外の写真はそうでもないのに。それと大沢の髪も縄文式土器みたいに逆立っているし」


「佐藤敦啓など輪郭ががっしりしてかなり成長した雰囲気だしね。そして佐藤寛之はもはやああだこうだ言う必要がないぐらい洗練されて幸いな事だよ。なお初回限定盤は襟のない学ランみたいな服だけど、他と違ってこの『333』は初回盤でも通常盤でもどっちでもいいってわけじゃないんだ。と言うのも、初回盤は全十曲だけど通常盤は十二曲収録と差がついてるんだ。言うまでもなく、買うなら通常盤に限るね」


「でも今は初回盤なり何とか盤なり三つぐらい出てそれぞれに限定の曲が入ってて集めるには全パターン買う必要があるとか普通だし、そう考えると商売のテクニックも昔よりはるかに進化してるものね」


「そうだね。ところで光GENJIはこの時点で佐藤寛之まで、つまりメンバーの半分以上が二十代となってるんだ。当然楽曲の雰囲気もそれまでと同じではいられなくなるもので、学生気分の曲もまだ残ってはいるものの昔を回顧したり、もっとはっきりと大人びた方向を向いた楽曲もじわじわと増えていく過渡期と言えるんだ。逆に言うとまだどっちもいけるわけで、先に言っておくけどこのアルバムは名盤だよ。いい曲が多くてねえ」


「ふうん、それは楽しみね。じゃあまず一曲目は『ファンタジェンの英雄』。作詞高柳恋、作曲鈴木キサブロー、編曲佐藤準」


「早速だけどこの曲は個人的にこのアルバムで一番好きなんだ。何よりスケールのあるメロディーが最高。歌詞は『大人になるのもいいけどあの頃を忘れてはいけないよ』みたいな感じだけど、それでいて単語単語にファンタジーっぽい部分を入れてくる辺りがらしいところ。特に最後のサビでそれまでと異なるメロディーが出てくる箇所は歌詞とも合わさって、かなりグッとくるよ。全体的に管楽器が目立っているのも曲の輝かしさを高めているし、とにかくいきなりこれほどの曲から始まるってのはこのアルバムのクオリティの高さを如実に示しているようで素晴らしいよ」


「まあアルバムの一曲目は大事よね。次は『ジプシーカード』。作詞は高柳恋で作曲編曲佐藤準」


「これはちょっと毛色を変えてみたって曲だね。カードをシャッフルするようなリズムに乗った性急なメロディーはエキゾチックな雰囲気。でも慣れると結構気持ちいいんだ。歌詞はまさに大人びたと言うのか、告げられない想いにうだうだ悩んでる感じだね。夜の雰囲気をまといつつまだ夜そのものに慣れてはいないんだってバランス。もっと大人だと逆に妖しくなりすぎるだろうからね。このぐらいがちょうどいいよ」


「確かに独特なリズムだし、好きな人は好きになるって感じかも。次は『時のかけら』。作詞津田りえこ、作曲割田康彦、編曲新川博」


「津田はこれが最初だったかな。今後特にアルバム曲において多く歌詞を提供する人だけど、光GENJI以外にはあんまり提供してないから詳細は不明。実はプロデューサーなりディレクターなりの別名義とか言われても驚かないぞ。それはともかく、歌詞の中に卒業という単語が出てはいるもののそれまでのように卒業式当日ではなく、すでに過ぎ去った日々である学生時代を思い出しているというシチュエーションが新味。ふわっとしたミディアムテンポで無茶苦茶いいってわけじゃないけどじんわりといい曲だよ」


「多少地味だけど優しい雰囲気でこれはなかなかいいわね。次は『DANCE ALONE』。作詞平井森太郎、作曲井上ヨシマサ、編曲米光亮」


「これは光の歌う、夜のイメージが濃厚な激しい曲。歌詞もやたらと英語が多いし。全体的に疾走感のあるテンポだけどサビでふいに囁くようなコーラスが入って、ここが格好良いんだよね。それと格好良いと言えば歌詞の横にある大沢の写真。前髪を下ろして作り笑いをしなければこんなにも美形なんだなあってしみじみ思うよ」


「ああ、これ大沢なんだ。普段の髪型と違うから誰だか分からなかったわ。そして次は『天使が天へ帰る日』。作詞が麻生圭子・佐藤準で作曲編曲佐藤準。つまり佐藤が全部関わってるわけね」


「あんまり作詞はしない印象だから珍しいよね。そして麻生はこの曲だけの参加。そんな独自のライターによって書かれた歌詞こそがこの曲最大の特徴で、これまでのシングルの要素を集めて歌詞にしているんだ。この単語は『パラダイス銀河』だな、とかここは『剣の舞』からの引用か、みたいな楽しみ方が出来るよ。ただ歌詞のラスト、オチの部分が今となってはって感じだけど。楽曲としてはコミカルなロック調で、意外とこういうのは少ないね。だからと言っていい曲かと問われるとそうでもないんだけど」


「色々と強引な曲って感じね。次は『しょーがないよ!』。作詞森田由美、作曲辻畑鉄也、編曲佐藤準」


「通常盤しか入ってないうちの一曲がこれ。爽やかさと賑やかさを両立させた夏全開の曲でシングルでも行けたんじゃないのってクオリティ。イントロの時点でかなり弾けていて盛り上がるもの。他にサビのパーンって音とか、アレンジも抜群にいい。歌詞は夏の海辺を舞台にした少年と少女の色恋沙汰。少女は少年と会うため、親にはそれと気付かれないよう嘘をついて出かけたらしいんだ。その行為について少年がどう思ってるかというのが曲名だね。つまりしょうがないと。近年における『ファンタジェンの英雄』の評価上昇が起こる前はアルバムで一番いい曲って言ってたぐらいの名曲」


「確かにこの曲はいかにもアイドルって感じでいいわね。次は『忘れかけてたMELODY』。作詞山本英美、作曲和泉一弥、編曲新川博」


「素直、純粋といった単語が思い浮かぶような佳曲だよ。間奏で突如異なるリズムに突入するのは多少驚かされるけど、基本的にはするりと通り抜ける感じ。季節的にはまさに今頃が舞台で心地良い。山本と和泉は中村繁之の『マジカル・シンデレラ』とか作ってるけど、お互いアマチュア時代から交流があったいわば盟友のような存在らしいんだ。光GENJIの曲で二人が組んだのはこれだけだったかと思うけど、そう言う意味では既にコンビネーションが完成されているわけで、それがこの完成度につながったのかなと思うよ」


「ひねりがないと言うか、間奏がひねりって事なのかも知れないけど全体のストレートな純粋さが勝っているわね。次は『ちいさな勇気』。作詞津田りえこ、作曲岸正之、編曲佐藤準」


「かなり強力なイントロの掴みから非常に綺麗な物語が展開される曲。歌詞は好きな人と偶然二人きりになったから今告白しようかというシチュエーションで、曲の進行と合わせて少しずつ時間が経過している流れなんかもいいよね。GENJIメインの曲だけあって初々しさが保たれてるのも特徴。曲自体は意外と地味な気がしないでもないけど、歌詞とアレンジの尽力もあって実のある作品に仕上がっている」


「次は『Heartの地球儀』。作詞田久保真美、作曲尾関昌也、そして編曲は、ええっと……」


「鷺巣詩郎だね。SEを多用した賑やかな音作りが特徴の人だけに、この曲も代名詞であるローラースケートで疾走している姿を即座に連想できる賑やかさとスピード感満載なアレンジ。キーボードに大谷和夫がいるのも意外。大谷はアレンジャーとしても活躍してたけど光GENJIにはあくまでキーボーディストとしてしか参加してないみたいだね。そしてこれが通常盤にしか入ってないうちのもう一曲なんだ。はぶられてるのがどうでもいいような曲なら初回盤だろうが通常盤だろうがどっちでもいいって言えたんだろうけどね、まあジャニーズなりポニーキャニオンなりの狙い通りだよ」


「でも幸い後追いならそういう情報もすぐ手に入るしいいじゃない。次は『365コの夜』。作詞真名杏樹、作曲山口美央子、編曲佐藤準」


「ちょっと暗いと言うか、抑え目の雰囲気が特徴だね。でもサビの早口でうねるようなメロディーはなかなかインパクトがあって決して地味な曲ではないよ。別れて一年というのがこのタイトルの由来で、つまり会いたいって歌詞だね」


「次は『君がいるから』。作詞森田由美、作曲松浦有希、編曲新川博」


「作曲の松浦は内海より年下のシンガーソングライターで、可愛らしい声質が特徴。アイドルの楽曲提供からスタートしたらしいけど今となってはアニメ系の仕事のほうが多いかな。光GENJIに提供したのもこの曲だけだし。夜景のきらびやかさと暖かさを両立させたなかなかいい曲だよ。間奏に入るピチカートみたいな音も印象的。歌詞はタイトルが全てを代弁しているけど、二番のサビは好きだな」


「二番のメロディーとか最後のサビとか、なかなか盛り上げてくれるわね。これで終わりでも大団円って感じだけどもう一曲あるのよね。それが『AMATERASU』。天照大神? 作詞三浦徳子、作曲都志見隆、編曲新川博」


「テンポがコロコロ変わるジェットコースターのような曲だよ。歌詞もなかなかのもので、ちまちました恋愛の歌詞かと思いきや曲がスピードアップするにつれてテンションも上がってきたかのように壮大な単語を連発してさすが三浦、プロ中のプロは格が違う。タイトルも言いたい事は何となく分からないでもないけど、それにしてもはったりかましすぎだし、とにかく意味不明なエネルギーがある曲で賛否両論あれど僕は結構好きだな。何より最後にバラードで締めるなんて事をしなかったのはアグレッシブでいい事だと思うな」


「前向きな感じで終わったわね。しかしなるほどねえ、確かに水準の高い曲が並んでいるとは言えるわね。実験的な曲も含めて全体的に力強さが出てきたみたい」


「その辺は光GENJIという存在の安定もあるんじゃないかな。これならこう出来るという形がある程度確立された上でそれに沿うなり多少外す実験をしてみるなり、幅が増えた感じはあるね。小粒な曲は小粒なりにしっかりとまとまっており、大きい曲はガツンと大きい。シングル曲は一切入っていなくてもこれぐらい出来るぞという力強い主張を感じるよ。というわけで個人的には全アルバムの中で一番好き。ミュージック・マガジンにおけるアルバムレビューでも普段は大体十点中六点とかなのに本作は八点も取ってたし、あながち僕一人の一方的思い込みでもないはず。なお中古だと初回盤だろうが通常盤だろうが廉価で手に入るけど、絶対に通常盤を買ってね。派手な色使いのスーツを着てるほうだよ!」


 このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので渡海雄と悠宇は変身して敵の出現した地点に急いだ。


「ふはは、私はグラゲ軍攻撃部隊のヤモリ女だ。この星に張り付いて正しい方向に導く一里塚となろう!」


 関係ないけど笑っていいともが先月限りで終了となったが、思えばあんまり見た記憶がないのでお疲れ様でしたぐらいしか言い様がない。さて、そんなヤモリ女が出現した草原に、間もなく二人が到着した。


「春爛漫、しかしお前たちのような奴らが現れるのは甚だ迷惑と言えるぞグラゲ軍!」


「木の芽時とは言うけれど私たちにとって悪いものが出現したら排除するしかないでしょ。出てこなければ良かったのに」


「ふん、出てこなければ良かったのはそちらのほうではないか。我々のターゲットがみすみす現れてくれたのだからな。さあ行け雑兵ども!」


 いつの間にか二人を囲んでいた雑兵を素早く蹴散らすと、草原に残ったのは三人だけとなった。


「後はお前だけだなヤモリ女!」


「あなたがきっと優秀な人なのは分かったから自分たちの家だけ守ってあんまり外征してくれなければいいものを」


「何を言うか。我がグラゲ魂の根幹は拡大志向にあるのにそれをやめろなどと。しかしお前たちもここで最期だ。この私が踏み潰してくれるわ!」


 そう言うとヤモリ女は懐からスイッチを取り出して巨大化した。それに対抗すべく、渡海雄と悠宇も心と体を合わせて一体化した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 二十度を超える陽気が血の通わないメタリックな巨体を包む。しかしその内部は情熱に満たされているのは言うまでもない。地球を守るという情熱とこの星を我らのものにしたいという情熱のぶつかり合いである。戦いは守る側が積極的に仕掛けた。


「こうなったらエンジェルブーメランでバラバラに切り裂いてやる!!」


 渡海雄は素早く桃色のボタンを押した。背中から飛び出したブレードを素早く組み立ててヤモリロボットに向かって投げつけた。このブーメランはヤモリロボットの腹部を一文字に、次いで背中から縦方向に切り裂いた。


「おのれ、これまでか。残念だが撤退するしかあるまい」


 四分割されたヤモリロボットが完全に爆散する直前に作動した脱出装置に乗せられてヤモリ女は宇宙へ戻り、それを確認した二人もまた基地へ戻った。帰る家があるとは何と幸せだろう。そしてその幸せを壊さないために明日もまた戦いに身を投じる覚悟なのだ。

今回のまとめ

・何度も言うが333だけは十二曲入りの通常盤に限る

・力のある曲を狙い撃ちではぶる初回盤は鬼畜の所業

・でもそれ以外の曲もかなりクオリティ高い

・とにかくアルバムとしては光GENJI屈指の出来栄え

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