表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
384/397

pr64 縦縞ユニで暗黒臭増加した2002年について

 例年より少し長いように思えたゴールデンウィークもいよいよ最終日。それなのに、そんな日に限って雨が降って濡れたアスファルトを気にもせず、渡海雄と悠宇は今日も元気に落ち合った。


「外で遊ぶのは昨日までにいっぱいやったから今日は昔話しましょう。二〇〇二年の話よ」


「前年は山本浩二監督が就任していいところまで行ってたね」


「忌まわしきはあのルールよ。ともあれまずはドラフトについて。今回の目玉は甲子園で松坂の記録を抜く最速ストレートを投げた日南学園の寺原隼人で、カープも狙っていたけど過度な練習を口実に早々と断られ、それでも完成度では寺原以上とも言われる浦和学院の大竹寛を一巡目で指名した。ところでこのドラフトから制度的な面にやや手が加えられ、それまでの逆指名は自由枠という名称になりルールも多少変更された。具体的に言うと今までみたいに逆指名選手を二位に回して一位は強豪必至の高校生にチャレンジ、みたいなのは不可能になった」


「へえ、いい事じゃない」


「でも寺原を引き当てたダイエーは本来自由枠の目玉になって然るべきだった社会人左腕の杉内俊哉を囲い込んでドラフト二位相当となる三巡目で悠々指名と、早くも骨抜きにされてるんだけどね。また指名順位が直感的に分かりにくくなってて、大竹を一位じゃなくて一巡目と言ったり杉内の件でもわざわざまどろっこしい言い回しをしたのはそのためだけど、まず一巡目はカープなど自由枠不使用球団が参加、二巡目は自由枠を一人だけ使った球団のみ参加のためカープは不参加、三巡目はまた不使用球団のみが参加、そして四巡目からは自由枠を二人分使った球団も含む十二球団でのクロスウェーバー方式による指名となるけどこれが今までで言うドラフト三位相当で、以降は巡目と順位が一つずれた形となる」


「ふうむ、ごちゃついてるなあ」


「なおこの年は一般的に不作と見られ、その中で大注目された寺原を狙うために自由枠を使わなかった球団が比較的多かった。そしてカープだけど、前述の大竹に加えて四巡目では東北福祉大のキャッチャーで本来は枠クラスの実力者と目された石原慶幸、下位でも天谷宗一郎を指名と幸いにもかなり実り多きドラフトとなった」


「知ってる名前の割合がぐっと増えてきたね」


「次に外国人は大型右腕スタニファーとメキシコ人左腕ベルトランというリリーフタイプの投手を獲得するも、ともに敗戦処理がせいぜいで未勝利と安物買いの銭失いに終わった。他球団からの移籍選手はなし。加藤の大成功以降数多く試したけど山崎と東瀬が小当りしたぐらいで失敗多かったからね。だからってついに挑戦すらしなくなったのはいよいよ余裕なくなったかとか邪推しちゃうわ」


「でも結局軸は既存の選手になるものだからね」


「それはそう。それで本命の戦力について語るけど、まずトピックスの第一に置きたいのは新井の成長。全試合出場でホームラン二十八本はチームトップの金本の二十九本に肉薄するもので、打率に至っては上回った。そんな金本はオフにFAで退団したけど次の四番は兄貴から弟分への継承で安泰かと思われた。また前田緒方の復活も大きなトピックスよ」


「ここ二年は怪我で全然戦力になってなかったよね」


「それがともに規定到達で三割打つんだから見事なものよ。ホームランもそこそこ多い。しかし悲しきは元々走攻守揃った選手が打撃だけの男になりつつあるところで、特に前田はろくな走塁が出来ずそれに苛立ったロペスが試合中のベンチで掴みかかるといういざこざを引き起こした。この件で全部悪いって事になったロペスは以降成績が落ち込んだためこの年限りで退団となった。三十八歳、単純に加齢による衰えもありそうだけどモチベーションの低下は甚だしかったみたいで」


「残念な結末だね」


「でも残した成績は歴代でもトップクラスの優秀な外国人野手だった。これだけは間違いない。また負傷離脱があり前年ほどのインパクトを残せなかったディアスも退団。ショート東出とユーティリティ木村拓也は二割台前半の低打率。東出に関しては守備力もかなり低く、サード新井と情けない失策王争いを繰り広げた。キャッチャーは三年目の木村一喜が得意の打撃を武器に台頭、打率一割台と衰えの止まらない西山を凌いで一番手となった。衰えで言うと野村も無残。その他控えだとアベレージの浅井とパワーの町田の両代打は健在で、代走福地は打席に立つ機会も増えてきた。目に付くのはこれぐらいかな。廣瀬なんかもっと伸びてほしかったんだけどね。得点数は上位に肉薄するリーグ四位でまあそれなりにってところ」


「外国人があまり機能しなかった中でも一定以上の水準には達していた感じか」


「投手陣では長谷川が十三勝とドラフト一位の力を存分に発揮、黒田も二桁で続いた。高橋は引き続き先発に徹して九勝、佐々岡も八勝でこの四人がローテを支えた。でも他は……。鶴田は残念な成績だし河内も未熟、と言うか規定到達の四人も冷静に見ると防御率三点台後半が相場で他球団のローテと比べるといささか苦しいし。リリーフでは小山田が球団史上初の三十セーブ到達と力を見せ、小林と玉木も奮闘。左腕では広池が多く起用された。この広池、大学時代は野手だったけどドラフト指名はなく一度は野球と別れて全日空に入社も燻る情熱がスパークし投手としてカープのテストに合格、しかし編成上の都合からまたも指名されずドミニカのカープアカデミーでの練習生生活を経てようやく指名に至ったという苦労人ぶりでも知られ、引退後は西武で出世し今や球団本部長。異能の野球人よね」


「一方で菊地原は悲しい成績に終わってる」


「あんな無理な使い方じゃ肩を痛めても当然よね。ただダメージ以前にシンプルに実力不足な選手が多いのもまた現状で、若手としては四国学院大から初のプロ選手となったドラフト十巡目ルーキー天野浩一が少ない出番ながらもきっかけを作った程度で二桁防御率が実に五人、チーム防御率はリーグ最下位に逆戻り。順位も五位と達川時代並に落ち着いた。山内は二十九歳にして引退し、怪我が多すぎたシュールストロムは駐米スカウトに」


「山内、終わってみれば短命だったね」


「元々スペックが高いほうではなく変則投法から切れ味勝負のスタイルでは限界もあったかな。先発リリーフと便利に使われすぎたのは大変だったと思うけど。それで優勝は新たに就任した若大将原辰徳監督の下で選手達が躍動した巨人。野手では松井があわや三冠王の五十ホームランという文句なしの成績でNPBを卒業。投手は桑田が古武術を採り入れたフォームで防御率トップと突如復活、上原も最多勝と力を見せ、中途半端な投手だった河原純一の抑え抜擢も成功し、六月から独走を続ける圧勝だった。番長河原清水仁志由伸。二位はヤクルト。ペタジーニを筆頭にラミレス岩村と力ある打者を揃え、投手もホッジス最多勝に石川雅規新人王と頑張ったけど巨人が強すぎた」


「石川まだ現役でやってるよね。凄いものだ」


「三位は阪急のエースで投手コーチとして招聘されていた山田久志が監督就任した中日。福留が首位打者で荒木が規定到達、高卒三年目の朝倉健太が二桁勝利など若手が力を発揮し、海外移籍を目指してFAした谷繁の獲得も極めて重要なピースとなった。四位は阪神。妻が脱税で逮捕されたのに連座して退団した野村の後任となった星野仙一監督の下で序盤に快走、結局地力不足を露呈してジリジリ落下したけど停滞感は消え去った。投手では井川が十四勝でエースに覚醒。まあ内容的には去年九勝止まりだったほうがおかしいんだけど。それと秘球スーパーシークレットスライダーを武器とする新外国人左腕のムーアが十勝に加えて抜群の打力も注目された。野手は今岡が本領発揮し、オリックスから獲得のアリアスも三十二ホームランとパワーを披露」


「そして最下位は横浜か」


「しかも開幕当初から最後まで沈没しきった完全な独走状態で森監督は途中解任と全然いいところなしの悲惨な負け方だった。特に厳しいのが打撃で全くの迫力不足。鈴木は規定未到達で金城に至っては一割台。二年目の吉見祐治が十一勝で新人王争いに参戦も三浦は四勝に終わるなど後が続かなかった投手陣も良くない。阪神が暗黒を脱した瞬間、その後継者に躍り出たかのよう。なおこの年から親会社がマルハからTBSに変わった。その際に色々揉めてて、あくまでここはカープの話が中心だから割愛するけどその点では悪名高きTBSにも同情の余地はないでもない。ただ結果を見るとねえ、やっぱり酷すぎるし無能の謗りは免れないかな」


「数字としてはっきりと出る世界だものね」


「次にパリーグだけど、優勝は名コーチとして知られる伊原春樹が監督就任した西武。カブレラが五十五ホームランで松井がトリプルスリー、和田も完全に覚醒した打線は極めて強烈で、投手陣は松坂負傷離脱にも関わらず西口や許と張の台湾人コンビ、三井などが活躍しセットアッパー森と抑えの豊田もクオリティが高く、五月からの独走も納得の強さ。二位はまず近鉄。ローズ中村がともに四十ホームラン突破と破壊力は健在、投手陣はパウエルが最多勝で三年目の岩隈も伸びてきた。ダイエーも同率二位。小久保松中城島が中心の打線は粒揃いだけど、投手は二桁が若田部のみ、抑えのペドラザも不調でやや軸不足。それと登板のなかった四十一歳の長冨がついに引退」


「ピーク過ぎてからも粘って粘って不惑突破。お疲れ様でした」


「四位はロッテ。打者は福浦が三割ギリギリなどやや迫力不足。投手陣はミンチーが投げまくった。清水直行と加藤康介も二桁だけど防御率は悪い。抑えの小林雅英は盤石で、リリーフとして小林宏之も台頭。悪夢の開幕十一連敗から最終的にはそこそこまとめてきた。五位は日本ハム。小笠原が首位打者獲得しオバンドーと新外国人DTクローマーも一定のパワーを見せたもののもう一歩。投手陣は正田樹が新人王獲得し、金村や新外国人シールバックもそこそこ安定していたけど突き抜ける迫力に欠けた」


「最後に残ったのはオリックスか」


「仰木監督が退任して西武黄金期のチームリーダーだった石毛宏典が監督就任したけど指揮官としては能力不足だったようで、特に後半戦の低迷は目を覆うばかり。打線で頼れるのは谷ぐらい。新外国人のシェルドンとセギノールはパワーはあれど粗っぽく、他の選手はパワーもないのに確実性に欠けた。その煽りを受けたのが投手陣で、金田政彦は最優秀防御率なのに四勝止まり。具臺晟とヤーナルの外国人も負け越しはお気の毒。ヤーナルは本当に嫌になったのかオフに退団した。加藤伸一がFAで近鉄移籍した人的補償で加入したユウキこと田中祐貴が後半戦に台頭し七勝一敗と希望を見せるも直後のキャンプで肩を痛めるし、ドラフトも十四人指名したりかなりカオス。ここの暗黒も同時期の横浜に負けず劣らずの酷さよ」


「ただカープも大概どんよりしてるよね。去年はもう少し希望があったはずだけど」


「怪我から見事な復活を遂げた前田緒方は偉いものよ。でもともに三十代、いつまでも頼ってはいられない。長谷川小山田新井と進境を示した二十代の選手はいるけど、全体的にはまだまだ足りない。そして球団を取り巻く状況も良くない。本拠地の老朽化は深刻だけど新球場への道程はまだはっきりしないまま。辛うじて黒字を捻出するのが精一杯なフロントに経営を拡大する余裕はなく、結局金本もそれで逃げられた。ロペスディアスも含めて前年のクリーンナップトリオが一瞬で全滅っていくら個々の事情はあっても大概だし、ちょっと八方塞がりよね。この年からデザイン変更されたピンストライプのユニフォームは今や苦しい時代の象徴よ」


「そう呼ばれるために変わったわけでもなかろうにね」


 このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが所内に鳴り響いたので、二人はすかさず変身して敵の居場所へと雨の中をひた走った。


挿絵(By みてみん)


「フハハハハハハ、私はグラゲ軍攻撃部隊のキアゲハ男だ。この汚れた星を正す力だ」


 日本においてざっくりアゲハチョウと呼ばれるナミアゲハとは似ているが別の種で、特に黄緑と黒の縞模様になっている幼虫の姿が印象的な蝶々の姿を模した侵略者が雨降る草原に降り立った。そして間もなくその暴力を止めるための力もそこへ訪れた。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「わざわざこんな日に来る事もないのに。でも戦うようなら私達は全力でそれを止めるわ」


「ならば私も全力で貴様らを葬るのみよ。行け、雑兵ども!」


 指揮官の無慈悲な言葉をそのまま再現しようと起動する殺戮兵器の群れを、二人は情熱込めて次々と撃破していった。


「よし、これで雑兵は尽きた。後はお前だけだキアゲハ男」


「わざわざ雨の日に来てくれて悪いんだけど、即刻帰ってくれないかな?」


「そうだな。お前達を殺してから帰るとしよう」


 そう言い放つと、キアゲハ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり今は戦う以外に道はないようだ。二人は覚悟を決めると、合体して大いなる力を手にした。


「ヴィクター!!」

「エメラルディア!!」


 分厚い雨雲のそのはるか上空において、この星の明日を決める戦いが繰り広げられているとは一体誰が知るだろうか。しかしそれはまさしく現実なのだ。そして悠宇は持ち前の反射神経を駆使して敵の攻撃を回避すると、徐々に間合いを詰めていってカウンターを食らわせた。


「よし今よとみお君!」


「分かったよゆうちゃん。ここはエメラルドフレイムで焼き尽くす!」


 一瞬だけ生まれた隙を逃さず、渡海雄は緑色のボタンを叩いた。瞳から溢れ出す勇気を具現化したエメラルド色の炎が敵の全身を覆い、破壊していった。


「うわっ、ここまでか! 忌々しい奴らめ」


 キアゲハ男はそんな捨て台詞を残しつつ、機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によって宇宙へと帰っていった。明日からの日常もまた頑張ろう。雨が弱まった曇天の下で、二人はそう誓いながら家路を辿った。

今回のまとめ

・相当酷いけどもっとやばい球団も存在する地獄みたいな時代

・制度を多少いじろうが根本の腐敗を放置したままでは無意味だ

・ベテランの底力は流石だが若手が伸びないと浮上は難しい

・若い頃の大竹の糸を引くようなストレートは本当に綺麗だった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ