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vm32 サンフレッチェ広島スーパーカップV5について

 なるほど噂通りに結構な寒波到来だった。特に金曜日の夜にボクボクと降り続けた雪が翌朝にはガッツリ積もっており、渡海雄も悠宇もまるで犬のように白い平原を駆け抜け冷たさと戯れた。


 今日の建国記念日もまた寒い一日だ。普段の真冬より更に一枚着ぶくれした二人は、しかし元気いっぱいに白い息を弾ませていた。


「さすがにほとんど溶けたねえ。昨日はまだシャーベット状に踏み固められた雪が多く残ってて危なっかしい事この上なかったけど」


「この辺ですらこの寒さだから、もっと北に住んでいる人達はさぞかし大変でしょうね。南のほうだって最高気温を見るに普通に冬相応だし。しかしそんな中でも本州よりましって事で宮崎県あたりに集ってプロ野球のキャンプは繰り広げられている。無論カープもそのうちの一つよ」


「さすがに沖縄まで行くと違うみたいだけどね。それかいっそ海外でやればいいのに」


「一時期はそういうのも流行ってたんだけどね、気候が違いすぎると帰国後にギャップが大きすぎてかえって大変とか実戦練習を行う際の対戦相手の確保とか、あるいは単純に金銭的な問題とか色々あって近年は廃れたわね。まあその点カープは一貫して国内だから律儀なものよ。キャンプ地に関しては大昔だと各球団普通に地元でやってたり、行くとしても東京から伊豆半島にある伊東市とか近場で済ませるのが一般的だった。カープも六十年代前半までは呉でやってたみたいだし。それが一九六二年に宮崎県日南市の天福球場が完成してからはこっちがメインになった。全球団が九州四国や沖縄まで行動範囲を広げ、恒常的に海外へ行く球団までもが出てきた八十年代になって南海は呉キャンプを復活させた」


「ずっとやってて時代遅れになったんじゃなくてあえて復活させたのか」


「呉は往年の名将鶴岡一人の地元。低迷続き貧乏所帯の中で縋れるものはあの頃の栄光のみという苦しさが浮かんでくるみたい。ともあれ今年のカープのキャンプ、まだ対外試合もやってないからあんまり迂闊な事は言えないけど、そういう状況においては怪我人が少ないならひとまずそれが正解に近いと考えればいいんじゃないかしら」


「この間話してくれた九十九年、達川監督と大下ヘッドコーチ時代のキャンプは酷かったそうだからね」


「野手が十人以上離脱した地獄の中から奇跡的に将来大成を果たしたのが現監督の新井貴浩と考えると異常な才能の持ち主だと一目で分かるはず。逆に当時高卒二年目でポスト正田と期待されていた兵動秀治はこのキャンプで肘を痛めてアピール出来ず、その後は二軍に埋没したまま現役を去った。所詮は本人の実力不足だったと言われればそれまでだしそういうシビアな世界である事は間違いないんだけど、そういう幸不幸もあるものだとは思うわ」


「それで今年は投手だと九里が抜けたから当然先発ローテーションは空きが出来ている。残った枠に誰が入ってくるか」


「まずローテ確実な大瀬良森下床田は怪我だけには気をつけてね。そして去年規定到達はならずも十分に支えてくれたアドゥワと玉村も引き続き進歩してくれると信じている。もう一枠に関してシンプルに期待したいのが二年目の常廣よ。早くも代表入りの候補に入ったとかはさすがに気が早すぎで去年の田村みたいにならないか心配だけど、去年はほとんど稼働しなかった選手の中で一番の好素材なのは間違いないからね。パワーは間違いないから、それを上手く制御して新人王を獲得するぐらいに頑張ってくれれば最高なんだけどな。そして新外国人のドミンゲス」


「先発で行くのかな?」


「そこもまだ分からないけど、出来るならより多くのイニングを投げてほしいじゃない。それとドラフト二位の佐藤柳之介も、新人に期待をかけすぎるのは良くないんだけど出番は早いかもね。森はいい加減シーズン前半から実力を発揮してほしいし、滝田など他の若手からも台頭する選手がいるならいくらでも歓迎よ。斉藤なんかはまだ時間かかりそうだけど、でも高卒三年目ならそろそろデビューしてくれても早すぎる程じゃないから」


「それとオリックスからの人的補償を見送ってまで空けた枠を使ってのまだ見知らぬ外国人も?」


「本当に取るならありがたいけどね。次にリリーフだけど、栗林は今のところリハビリ順調らしいのでそのまま開幕に間に合ってくれる事を祈りましょう。もし駄目なら代役の抑えはハーンとすでに明言されている。このハーンもフルシーズンでいけるか。島内や森浦塹江も引き続きの活躍に期待。しかし去年台頭した黒原が離脱したように疲労の大きいリリーフ陣は常に新しい人材が求められる。それが誰になるか。去年出番が少なかった中でもある程度光るものを見せた河野や長谷部? 大道の復調やアンダースロー鈴木健矢の使い方も含めてこれから実戦を経て確定していくものと思われるけど」


「しかし投手陣はそれなりに駒がいるからきっと大丈夫だと信じたいよね。問題は野手だよ」


「そういう本当に解決が難しそうな問題を考えるのは気が引けるけど、まずはパワフルなモンテロと柔軟な打撃のファビアンがどの程度やれるかに期待しましょう。シート打撃や紅白戦で投手好調のニュースは打者が抑えられてるのと表裏一体だし逆もまた然りだから判断し辛いものがあるけど、とにかく対外試合でどうなるかよ。スタメンはきっと大して変化ないんだろうな、という諦観を打ち破る何かが出てくれれば。そしてサンフレッチェだけど、土曜日に開催されたシーズンの幕開けを告げるスーパーカップにおいて連覇の王者神戸に見事勝利!」


「いきなり幸先良いね!」


「とは言えベストメンバーだったサンフレッチェに対して神戸は控え中心だった。それで早々と先制点を決めて優位に立てた部分もあるからね。単純に実力差の反映とは言えないし、シーズンは長いから現時点でどうこうってのはまだ早過ぎる。ただやっぱり勝つ試合って良いものよね。なおサンフレッチェ、この大会に関しては五回出場して優勝五回、つまり全勝しているかなり縁起が良いカップなのよね。来年からのシーズン時期移行に伴い現行のレギュレーションでは今年が最後になるみたいだけど」


「そこまで勝てるのも珍しいね。天皇杯決勝とは大違いで」


「一発勝負ってやっぱり実力だけじゃないものよね。その上で今年のチームの実力を見ていくと、新加入選手が早速輝きを放っていたのが朗報よ。ジャーメインや田中聡は早速スタメンで頑張ってたし、菅も交代出場から即コーナーキックで荒木の追加点をアシスト。ルーキーの中村もスピードを見せたし、今の完成度高いサッカーの中にこれらの選手がもっともっと馴染めば素晴らしい力になると判明しただけでもありがたいわ」


「しかしこう見ると外国人が少ないよね。先制ゴールを決めたアルスランはやっぱり素晴らしいけど、マルコス・ジュニオールはまた怪我だそうで」


「最近になってチョン・ミンギという野球選手みたいに目の下にアイパッチを塗ってるのがトレードマークの韓国人の大型キーパーを獲得したけど、基本的には臨時雇いの二番手候補でしょうしね。ただアジアの戦いも加わる過密日程に加えて大迫の場合代表による離脱もあるから、川浪や田中雄大より上ならそれなりに出番も巡ってくるはず。将来的にはヒル袈依廉が伸びてくれればって想定かと思うけど」


「その頃には大迫は海外か。でも下手したら今年中とか早くに抜かれる線もある?」


「そこは中島のほうが危なかったりしてね。まだ十八歳だけどこれは目をつけられないはずがないってプレーしてたもの。彼の父親である中島浩司もプロ選手で仙台千葉を経てサンフレッチェではボランチやリベロをこなし味のあるプレーを見せたけど、息子は更に上のラインを走っているみたい。中野も更に伸びてる。とにかくサンフレッチェ、ピーク時の力がリーグ屈指なのはもはや言うまでもないんだから、それをどう持続させるかよ。スキッベ監督4シーズン目、今年こそ……!」


 このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので、二人はすかさず変身して敵の出現したポイントへ急いだ。この服は温度を調整する効果があるので今日のように寒い日はぜひとも着込みたいものであった。


挿絵(By みてみん)


「フハハハハハハ、俺はグラゲ軍攻撃部隊のシマエナガ男だ。この汚れた惑星に正義を注入してやろう」


 エナガという尻尾が長い小鳥の亜種で北海道に生息し、冬場のもふもふした白い体毛が可愛らしいと評判の鳥の姿を模した侵略者がまだ雪が残る山中に出現した。しかし勝手に暴れられても困るという地球の意思を具現化した二つの影が間もなくその場に到着した。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「せっかくの祝日を虚しい戦いに費やしたくはないんだけどな」


「ならばいっそ死ねば良い。行け、雑兵ども!」


 ボスの冷徹な指示にただ従うだけの冷たい殺戮マシーンを、二人は情熱込めて次々と撃破していった。


「よしこれで雑兵は尽きた。後はお前だけだシマエナガ男」


「寒い世界にも温もりはこころのうちにある。それを信じてほしいな」


「何を意味不明な発言を。俺とお前達の間にあるのは生か死かの勝負のみ!」


 シマエナガ男はそう言い放つと、懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしかないようだ。雪よりも冷たい手触りの言葉にも負けない情熱の炎を燃やし、二人は合体した。


「ヴィクター!!」

「エメラルディア!!」


 北風がもたらした分厚い雲のそのまたはるか上空にて、この世界の運命を決する戦いが今繰り広げられていると知る者はそう多くない。そして悠宇は敵の素早く鋭い攻撃を回避しつつ間合いを詰めていき、痛烈なカウンターを浴びせた。


「よし今よとみお君!」


「分かったよゆうちゃん! ここはウェービングシザーズで勝負する!」


一瞬だけ生まれた隙を逃さず、渡海雄は灰色のボタンを叩いた。背中に取り付けた巨大なハサミで敵を殴り切り裂いた。


「おのれぇ忌々しい連中が!」


 シマエナガ男はそう吐き捨てるように叫ぶと、機体が爆散する寸前に作動した脱出装置で宇宙へと帰っていった。明日は気温が上がり雨が降るらしい。それはそれで煩わしいけど間違いなく春に近付いていると思えば少しは心も晴れる二人であった。


 そして最後にこの時期恒例のJリーグ順位予想。とは言うものの結局得られる情報が限られている中での予想となるのできっと今年も的外れな結果に終わるだろう。でもやる。思うにこれもまた一つの年中行事なのかも知れない。




1 広島 今年こそ一年通じて安定した戦いを繰り広げられるか

2 横鞠 戦力はいいけど日産の先行きが不安過ぎる

3 桜阪 そろそろ優勝してくれるかなと微妙に期待してるんだけど

4 神戸 さすがに三連覇はされたくないなって思う

5 川崎 去年苦戦したが若返りが進めば浮上は普通にある

6 鹿島 選手は揃ってるし鬼木監督就任も良い人事だが

7 浦和 フロントが動きすぎなければ十分いける

8 名鯱 シュミット・ダニエル即負傷は締まらないな

9 東緑 去年よく頑張ったし補強も面白い城福は大丈夫かな

10 町田 色々言われつつ金も戦力も十分だがマークもきつくなろう

11 脚阪 去年はなかなかいい順位だったけどなんかピンとこない

12 脚東 東京トップの地位も揺らぎかなり正念場かも

13 福岡 心象的にはかなり悪いが過小評価は出来ない

14 柏柏 危ういシーズンが続くけど真の実力はもっと上のはず

15 清水 なんだかんだで力ある選手は多いしそれを活かせるか

16 京都 去年後半のエリアスの爆発プラスで何があるか

17 岡山 江坂とか面白い補強はあるけどやはり簡単にはいくまい

18 湘南 胸に戻ったFUJITAの文字は感慨深いが苦戦はするだろう

19 横蹴 もう少しコクが出ればエレベーター脱却も可能なはず

20 新潟 監督人事それでいいのかとか方向性にやや危惧


1 長崎 山口蛍はかなりインパクトある補強だった

2 札幌 思ったより選手が抜けなかったし即復帰を狙いたい

3 山形 後半戦の戦いが出来れば昇格待ったなしだが

4 仙台 森山監督の昇格も見たいし心情的にはより上にしたかった

5 磐田 戦力はともかく監督がどこまでやれるか

6 徳島 去年はもたついたがあんなものじゃないはずだ

7 千葉 小森退団は仕方ない新しい何かが出てくれば悲願達成も

8 甲府 ここも外国人とかガツンとしたものがあれば十分昇格圏内

9 磐城 2m超えの木吹をどれだけ鍛えられるかが注目点

10 大宮 レッドブル参画の効果がどれほどのものか見もの

11 山口 志垣監督はよく頑張った引き続きいけるか

12 鳥栖 限界を超えての降格という印象で当分は力を養う時か

13 大分 去年苦戦したけどそこまで悪いか

14 水戸 鷹啄って良い名字だクラブとしては例年通り粘り強く

15 秋田 ここも難しいところだけど貫き通す大事さがある

16 藤枝 ユニフォームデザインの派手さでちょっと順位加算

17 今治 単純にどれほどやれるか興味あるところ

18 熊本 戦力が揃えば戦えるはずなので頑張って

19 愛媛 愛媛県内の戦いも熱いが将来的にどうなるものか

20 富山 久々昇格で期待はするが公式サイトの作りが良くない

今回のまとめ

・寒いからこそ元気いっぱいで頑張らないとやってられない

・まずは外国人野手がどれだけやれるかを見極めてほしい

・スーパーカップはまず良いところが出たのでこのまま順調に

・ただ今のメンバーが完成形ではないはずで次なる補強にも期待

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