pr58 前回の歴史的大失速だった1996年について
日本シリーズも終わったオフシーズンだが、野球の話がそれで尽きたわけではない。FA戦線や新外国人の話はまだ過程の段階なので今は語らずにおくが、やはり大した補強はなさそうだ。
「日本シリーズはソフトバンク首脳陣の驕り高ぶった悪役ぶりとそこからの転落で存外盛り上がったわね。そして今回は昔話、一九九六年よ」
「前年のカープは強力打線にチェコ山内など投手の新戦力が絡んでかなり上位まで来たね」
「そして狙うは優勝のみ、といきたい流れでまずドラフトでは一位に高校生投手ビッグスリーの一人と称された市立銚子高の長谷川昌幸、二位も岡山の関西高から左腕吉年滝徳と高校生の素材を指名した。また三位に三菱自動車川崎から日系ブラジル人の玉木重雄、五位に本田技研から内野手の高山健一と即戦力候補も抜かりなく補強。特に玉木は一年目からリリーフ中心で三十試合登板は悪くない」
「高山は確か今スカウトやってるよね」
「今年の佐々木の担当だったみたいね。そして移籍選手としては大型トレードでロッテ移籍して活躍するもここ二年は一軍出場ゼロだった白武が復帰、またダイエーから南海末期の若手エースだったけど九十年代は怪我が相次ぎついに戦力外となった加藤伸一もテストで拾った」
「そんな選手もいたね懐かしい」
「後はトレードだけど、スピードある外野手としては緒方本格化で出番がなくなりそうな河田と交換で西武から実績皆無な内野手の野々垣武志を獲得。これはまだいいとして問題はもう一つ、長嶋とのトレードから戦力になった音山田コンビだけど監督復帰した星野が今更『元々この二人は自分が復帰したら中日に戻る約束だった』などと言い出して実際中日に復帰、代わりに来たのが投打に素質ありと言われつつも要は中途半端な投手として前年四試合に登板しただけの若林隆信でとてもじゃないけど釣り合わない、詐欺に遭ったような不愉快な移籍となったわ」
「本当にそんな約束してたの?」
「さあ。でもそれを戯言と処理せず交換に応じたって事はそれなりの何かはあったのかもね。ともあれ古い実績はあっても近年は怪我で計算出来ないロートルと実績皆無の若手ではマイナスと見られても仕方ないわ。そして外国人は大量にドミニカ人を加えたもののこれは今なら育成枠レベルなので期待するものではない。一応陽気で小柄な外野手のティモニエル・ペレスは開幕戦でサヨナラヒット打ったりそこそこ出番を得たけどね。本命の外国人としては左投手に強いという触れ込みのルイス・ロペスを獲得」
「事実上彼一本か」
「チェコも残留はしたけど心は既にアメリカへ飛んでいて案の定途中で消えたしね。ともあれこのロペス、山本コーチの指導によるフォーム改造がハマりいきなり三割二十五ホームラン、そして打点王の大活躍を見せた。これぞ助っ人の働き! 頼むわよモンテロとまだ見ぬもう一人の外国人野手。そして既存選手だけど江藤は三割三十本に出塁率抜群でまさに四番の存在感抜群だったたけど守備で目に打球を受けて無念の離脱。怪我から復帰の前田金本、そして西山も三割突破。緒方は二年連続盗塁王、前年トリプルスリーの野村は怪我の影響で数字は落ち着いたけど十分ハイレベル。正田は二割三分台の悲惨な低打率のまま規定到達してしまった」
「代役はいないの?」
「正直露骨に力が落ちる選手しかいないのは事実よ。強いて言うなら高か。ルーキー高山も平凡だし。しかもこの辺は江藤離脱の穴埋めに使って野村も全力疾走不可能なほど満身創痍ながら強行出場してる中で正田も外すなんて選択肢はなかったと見られるわ。一方で浅井町田はともに三割突破パワーも抜群ながら外野も一塁も盤石なので百ちょっとしか打席数を与えられない代打要員止まりともったいない起用。それで最後は町田サード起用なんて強行突破を試みるも、準備なしではさすがに厳しかったみたい」
「どっちかが今のチームにいたら不動の四番だったのにね」
「ままならぬものよ。次に投手だけど、チーム最多十二勝の紀藤は終盤にかなり数字を落として防御率四点台でチェコは前述の通りやる気なし、不惑突破の大野にも頼れまい。その中でローテを支えたのがテスト入団の加藤と六年目で斎藤雅樹そっくりのサイドスローで飛躍した山崎健よ。ともに規定到達し防御率三点台九勝と頑張った。それとね、あんまり関係ないけどね」
「何?」
「この年の名鑑の写真見ると球団内ではヒゲが流行ってたみたいで野村西山ら主力含む数名が突然ヒゲ面になってるけど、山崎健がぶっちぎりで似合ってない」
「どういう悪口よ」
「いやだって本当に不自然だもの。話を戻すけど、抑えは佐々岡が防御率一点台で安泰、山内もリリーフメインで十一勝と奮闘した。ワンポイントの小早川幸二に七年目の前間卓もそれなりに出番を得た。でもまだ足りないわ。高橋建が伸び悩み、近藤片瀬望月もぱっとせぬままそれなりに働いたベテランの白武井上とともに全員今季限りで退団。シーズン途中にキャッチャーの吉本と交換で近鉄から緊急補強した入来智も未勝利でカンフル剤にならず、結局チーム防御率四点台の弱小投手陣だった」
「しかしある程度実績ある中堅ベテラン層を思い切って一気に整理したものだね」
「思い切りが良すぎた気もするけど。それと一軍出場八試合に終わった小早川毅彦も千本安打達成を花道に退団。そして順位だけど、まあこの年は比較的有名よね。序盤はかなり走って一時は優勝確実かとも見られたけど、七月以降は大きく停滞した。しかも優勝争いの真っ只中なのに三村監督退任報道がなされ、球団部長だった上土井勝利は否定どころか認めるかのような、しかも無駄に挑発的な言い回して完全に火に油を注ぐ始末。この上土井って人物は相当無能だったみたい。そういう獅子身中の虫を抱えつつも九月に六連勝で巻き返すかと思いきや下旬には逆に六連敗を喫して完全脱落、結局三位と球団史上に残る大失速劇に終わった」
「そしてその失速劇は今年再び塗り替えられたわけか」
「こういうのは更新される必要なんてなかったのにね。優勝は巨人。松井が堂々たる主砲に成長して新人の仁志敏久や清水隆行も台頭、大ベテラン落合も三割と実力健在な野手陣に、投手は斎藤と新外国人ガルベスが防御率一位二位かつ最多勝を分け合う活躍を見せた。カープが一番勢いあった六月頃に停滞していたためゲーム差は十以上開いていたもののそこから巻き返しに成功したので、巨人からすると奇跡の大逆転優勝、メークドラマって形になった。なんか福王に打たれて負けた試合とかあったり。それと一茂はこの年限りで解雇され引退した」
「打線はともかく投手陣はリーグ内でも明確にトップ。やっぱり投手って大事だね」
「二位は中日。途中までは巨人より上だったけどぶち抜かれて、最後にカープの低落に乗じて順位を浮上された。首位打者のパウエル、ホームラン王の山﨑武司と一本差の大豊、三割突破のコールズ立浪らを擁する打線はカープに勝るとも劣らないほど強烈。その中でなぜか五番打者として使われてた音もよくやってる。山田は怪我で全休から即引退。投手は山本昌が復調途中でノーノー達成の野口茂樹もまだ確たる安定感なく結局今中ありき。韓国最強投手宣銅烈も噂ほどじゃなかったし。四位はヤクルト。二年目の稲葉が主力定着し西武から獲得の辻もさすがの力を発揮、投手陣はダイエーでは凡庸な投手だった田畑一也がトレード移籍から突如十二勝など喜ばしいサプライズはあったものの要の古田が良くなかったのでこの順位。ドラフトでカツノリ指名する野村監督の親馬鹿ぶりも見苦しい」
「まあそれが人間だから」
「五位は大矢明彦が監督就任した横浜。谷繁が三割で鈴木駒田も肉薄と確実に良くなってきてるけどまだ投打に迫力不足。ローズサードや盛田先発など失敗コンバートも多かったけどショート石井誕生はトピックスか。そして最下位は阪神。打線は大卒五年目の桧山進次郎やオリックスから移籍の平塚克洋が和製大砲として名乗りを上げるも監督と確執あるグレンとクールボーは途中退団して代役のクレイグとマースも平凡で非力は明らか。投手陣もピリッとしないまま藤田監督は解任を告げられるも納得せず球団事務所で日付が変わるまで籠城するなど混乱は続いた」
「去年に引き続き闇は深いね」
「パリーグの優勝はオリックス。飛び抜けた選手は当然首位打者のイチローにホームラン打点二冠のニール、十三勝の星野ぐらいだけど近鉄から獲得した堅守のユーティリティ大島公一がレギュラーを掴むなど地味な選手を巧みに起用して連覇を果たし、日本シリーズも制した。二位は日本ハム。グロス最多十七勝に西崎も十四勝と久々に復活、岩本勉今関勝など新戦力も出てきた投手陣はなかなか強力で、打撃もブリトーはさすがに落ち着いたけど片岡田中や新人王となった好守の金子誠らを中心に力を見せて一時期は首位を快走した。しかしシーズン途中に上田監督が休養を余儀なくされてチームは失速。しかも休養の理由は統一教会に入信した妻と娘を脱会させるためという」
「なんて最悪な失速理由」
「三位は西武。三年目の松井稼頭央がショート定着し二年目の西口文也が十六勝、他にも大友進高木大成豊田清石井貴など若手が次々に台頭してきたけど黄金時代の選手は退団したり衰えたりですっかり別物になった感じ。最下位で前半戦を折り返すなど極めて苦しいシーズンだったけど最後に多少持ち直して負け越しながらAクラスだけは保った。四位は元首位打者の佐々木恭介が監督就任した近鉄。ドラフトで七球団競合の福留孝介を引き当てるも入団拒否でいきなりケチが付いたものの、中村は順調に成長し新外国人のタフィー・ローズも力を見せた。投手陣は佐野赤堀のリリーフ陣はいいけど先発が迫力不足。それと外国人の扱いも妙で、オクトパス投法と称される軟投でチーム最多十一勝のアキーノや二十ホームランのC・Dことクリス・ドネルスをあっさり解雇はちょっともったいないような。五位はロッテ」
「あっという間に落ちちゃったね」
「早大の後輩で広岡GMが操りやすい江尻亮を監督に据えてジャックとスパイクって新外国人を連れてきたけどこれが大外れ。代役のチェンバレンとウィットモアはそこそこだけど打線の迫力は一気に落ちた。投手は伊良部ヒルマンが防御率のタイトルを争い、小宮山は今ひとつも二年目の黒木知宏が規定到達するなど悪くなかっただけに打撃でフォロー出来れば事情は変わってたでしょうに。結局前年本当に優秀だったのはバレンタインと見られたようで広岡は解任と相成った。それから今に至るまでなまじ長生きした事で陰湿な老害ぶりを振り撒き続ける姿は見るに堪えないほど惨めで、海老沢泰久も草葉の陰で泣いてるでしょうね」
「でも九十超えた人間って存在自体が宝みたいなものだから何を言おうと受け流すのが一番かと思うよ」
「そして最下位はダイエー。六年目の村松有人が盗塁王、日本ハムからトレード加入の武田一浩が十五勝など力を見せた選手は散見されるけど外国人があまり良くなかった。それと一部投手が登録名変更したけどこれも酷いセンス。前年斉藤学と間違えて登板させられた斉藤貢をありふれた名字のお前が悪いとばかりにミツグに変更、ついでにドラフト一位の斉藤和巳も登録名カズミで最悪なプロ生活スタートとなった。ただ渡辺秀一から変更したヒデカズは防御率三位と健闘。王監督がファンから生卵を投げつけられたのがまさにこの年だけど、優勝争いした九十四年から強くなるどころか低迷続きな上に『監督が選手名覚えられないからカタカナ登録名にします』なんて児戯にかまけてるようじゃフラストレーション貯まるのも当然よ」
「最下位球団にはやはりそれ相応の問題があるものか」
「そしてカープだけど、レギュラーと控えの格差があまりにも広がりすぎて内野の穴を埋めきれなかった。投手陣は加藤山崎は掘り出し物だったけどやはり層が薄い。結局力不足だったとまとめるのは容易だけど、それを招いたのは中堅ベテランを口減らしで簡単に放出してきたフロントの失態だからね」
「なるほどだからその反省に立って今は使い物にならないベテランも後生大事に養い続けてるんだね」
「そこもバランスなんだけどね。ともあれ優勝に向けて千載一遇のチャンスを逸したのは間違いない。それを受けてどう戦うかだけど、ここからよりその道程は厳しさを増していくとだけは言っておくわ」
「怖い怖い」
そんな事を語っていると敵襲を告げる合図が光り輝いたので、二人は秋風に紛れてそっと姿を消してから変身し、敵が出現したポイントへと走った。
「フハハハハハハ、俺はグラゲ軍攻撃部隊のオオアリクイ男だ。この惑星の害悪を全て消し去ってやろう」
中南米に生息しており長い舌を用いて一日で三万匹のシロアリを捕食すると言われる動物の姿を模した侵略者が、山の中に出現した。しかしアリの巣のように壊されたくはないという地球の意思を具現化したかのような二つの影がまもなく送り込まれた。
「出たなグラゲ軍。お前たちの思い通りにはさせないぞ」
「貴重な秋の一日をこういう形で終わらせてなるものですか」
「愚か者どもめ。死ぬが良い。行け、雑兵ども!」
オオアリクイ男の残酷な指令に感情なく従うだけの殺戮マシーン達を、二人は情熱込めて撃破していった。そして残る敵は一人だけとなった。
「よしこれで雑兵は尽きた。後はお前だけだオオアリクイ男」
「地球とそこに住む人達にも意地というものはある。あんまり舐めないようにね」
「その無謀で無意味な勇気も今日限りだ。俺に殺されるのだからな!」
そう言い放つとオオアリクイ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦う以外にはないようだ。二人は悲しい覚悟を決めると、合体して大いなる力を得た。
「ヴィクター!!」
「エメラルディア!!」
秋の清々しい空の更に高いところで、まさかこの星の運命が決まりかけているとは誰も思わないだろう。そしてその当事者たる悠宇は持ち前の反射神経を駆使してオオアリクイロボットの舌を突き出す攻撃を回避しつつ接近すると、カウンターを決めて相手の動きを一瞬だけ止めた。それが合図だった。
「よし今よとみお君!」
「分かったよゆうちゃん! ここはメガロブレードで勝負するよ!」
僅かな隙を逃さず、渡海雄は赤いボタンを叩いた。光とともに召喚されたソードを投げつけて、敵の胴体に風穴を開けた。
「うぐおおお! 忌々しい奴らめ!!」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってオオアリクイ男は宇宙へと帰っていった。本当に貴重な秋の一日はこうして守られた。
今回のまとめ
・本当の秋らしい気候が続けばいいのにあっさり寒くならないで
・悔しい結果もまた歴史の一部と受け入れたいが出来れば少なくして
・新戦力が当たっても投手陣の根本がぐらついているから追いつかない
・あのレベルのスタメンだと基本ノーチャンスな控え陣はきつかろう