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rm56 絶望的な急失速について

 九月だというのにいくらなんでも秋としての誠意がなさすぎる。台風を弾き飛ばす高気圧がいつまで居座るつもりなのか。でも太陽の力を目一杯浴びて、その光と同じくらい元気いっぱいな渡海雄と悠宇は休日を満喫していた。


「まあそれは良いとして、先週の火曜日から木曜日にかけて行われたカープと巨人の三連戦に三連敗と玉砕した事で優勝の可能性は決定的に霧散したわね。残り試合数から考えても巨人の優勝が極めて有力で、とは言えまだ決まってない以上もう一波乱起こる可能性はゼロじゃないけど、それを起こせるチームがカープではないともうはっきり示されてしまったわね。非常に残念で悔しい結果に終わったけど、これが現実」


「儚い夢だったね。元々九月の声を聞いてからガクッと失速していたので期待より不安のほうが大きかったけど、まさかここまで完膚なきまでに叩き潰されるとは」


「一戦目にいきなりあんまり希望のない負け方をしたけど一つまでならまだ許容範囲だった。やはり致命的だったのはあの二戦目よね。途中までは、八回まではリードしていたけど守護神の栗林が信じられないほどの大乱調で地獄のような時間を体感したわ」


「三戦目は戦う前からすでに勝負はついていたようなものだったし、今や優勝どころかAクラスを守れるかというところまで来ている」


「でもこれを投手が打たれるようになったから、みたいにはまとめたくないわね。今まで頑張ってきたのは、上位を争ってこられたのは間違いなく彼らの力ありきだったんだから。夏を走り抜けて当然疲労も溜まっている。それである程度打たれるようになったのは仕方ない。じゃあどうすればいい? どう補えばいい? それは言うまでもなく打撃陣が奮闘してくれれば最高だったんだけどそうはならなかった。確かに貧打を投手と守備で守り切るのが今年の勝利のパターンだった。でもそれ一本だけじゃ限度がある。もっとドーンと打ち勝つ試合を増やせないと」


「でも現実的には難しいよね。典型的打撃ポジションであるファーストを最後まで埋められなかったんだから」


「投手だけでなく守備に関しても九月に入ってからは多少の乱れが見られるけど、だからと言って今までの功績を無視するわけにはいかない。よく頑張ってきたわ。でもやっぱり打撃よ、パワーよ。でも例えば小園や秋山が急に二十本三十本打てるようになるものでもないしそういう選手だとは期待もしていない。末包一本でそれが怪我したり不調に陥ると即死とか、さすがにそこまで絶対的な選手じゃないからね。結局フロントの無為無策のつけを払わされたとしか言いようがないわ」


「シャイナーとレイノルズがどうやら駄目みたいだとは割と早い段階で判明していた上にレイノルズに至っては途中退団で枠が一つ空いたにも関わらず新外国人の補強はなかったもんね」


「巨人がヘルナンデス、モンテスと途中加入選手を立て続けにヒットさせて活力とした以上人材がいなかったとは言わせないわ。新井監督が新外国人はいらないと言っていたなんてのもそもそも忖度ありきじゃないのって疑ってるけど、本心からの言葉だとしてもフロントにはそれを無視する権利もある。戯言に甘えて本当に補強しないのはあまりにも楽をしすぎ。例えば今年このまま低落を続けてBクラスに終わったとしても、他球団のファンからすると『実力相応の順位に収まっただけ』としか思わないでしょうね。だからこそもう一踏ん張りしてほしいんだけど」


「とはいえもはや優勝は絶望的だし上位狙いもどこまでいけるか。こうなると今後の観戦のモチベーションをどうすれば良いだろう」


「とにかく最後まで見守りましょう。例えばかなり大きく出遅れたけど最近ようやく二軍でも一定以上のナイスピッチングを見せるようになったドラフト一位の常廣が今日一軍で初登板するとかね。仮に好投したとしても今シーズンの趨勢には影響しないけど、来年新人王取れるといいわねってぐらいの慰めにはなるでしょうね。後は、これも残り少なくなったけど二軍の成績で一喜一憂するのも悪くはないんじゃないかしら。二年目の内田は随分見てられる数字になったなとか」


「でも今の時期は別のシビアさも感じずにはいられないよね。シーズンの終わりは近い。すなわち引退や戦力外の季節にも突入しつつある」


「今のところカープの選手でそういうのは聞こえてこないけど、他球団では色々動きがあるわね。大物ではヤクルトの青木。メジャーリーグでも活躍したヒットメーカーも四十歳を超えてついに現役生活に別れを告げる日が訪れる。他にはオリックスの安達岡田比嘉、阪神の秋山、西武の金子岡田といったあたり。決して短くはない日々を厳しくも華やかな環境の中で過ごし、その中で放った輝きが本物だったからこそこうして引退という形で去っていられる。それは稀有な誉れよ」


「気温とは別の部分で確実に秋になってきているんだね」


「それで今回は一軍優勝が絶望になって気持ちが荒んでるのもあって例年よりぶっこむけど、カープにおいて引退の可能性があるのは野村松山田中ってところでしょうね。特に野村は極めて可能性が高いのではないかと見るわ。まあ最後は本人の決断だけど。守備走塁は元々論外だった上に肝心の打撃でも迫力が大幅に減じている松山、元ショートでのゴールデングラブ賞受賞者がファースト守備固めなんてどうでもいい役割を延々担いつつ打撃では六月以来ノーヒットととてもじゃないけど戦力とは呼べない田中。この二人は球団によってはバッサリ行っても不思議じゃない。ただ何と言ってもカープだからね。こんな体たらくでも一軍でいる時間のほうが長いという現実もあるわけで、全員が引退する事はないかと見るわ」


「その分誰かが戦力外になるという世界ではあるんだけど。ベテランに対する温情はまたどこかで別のシビアさを生み出している」


「とは言え若いからってだけで今後の見通しもなくダラダラ続けるよりは……、という選手もやっぱり存在はするわけで、そこはやっぱり厳しい視線は避けられないわね。去年は戦力外選手が少なくて早い段階で枠がパンパンになっていたからろくな補強も出来なかった。ああいうのは良くないから、若手の育成落ちなんかももっと活用して柔軟性のある運用を目指してほしいわね」


「もはや来月に迫りここ数日は高校生大学生の誰がプロ志望届を提出したという話題が定期的に供給されるドラフトも気になるよね」


「投手だって大瀬良九里の年齢や森下のメジャー志向を考えると早い内に使えそうな戦力の補強は必要だけど、既存の選手の成長である程度補える可能性なんかも考慮に入れると今のところは最上位は野手メインかなとは思うわ。例えばセンター。現状秋山が離脱でもしてしまったらいきなり大盛レベルまでガタ落ちしてしまうのは相当危険な状態よ。野間がセンターに回った時はかなり苦しそうだったし、中村奨成や中村健人をこちらに回して一軍で納得の成績を今すぐ残すというルートも現実的とは……。菊池の衰えも見逃せない。今年はショートに矢野でサード小園という形を作ったけど、よっぽど有力な二遊間候補を獲得出来ればまだ動く可能性はあるはずだし、それと二軍の人数を見ても確実に指名はありそう」


「ファーストは?」


「大砲も当然必要だけど、基本的には外国人で埋めてほしいポジションではあるからね。とにかく打線にはもっともっとテコ入れが必要だとは誰の目にも明らかなので、そこは本当に頼むわ。現役ドラフトももっといい選手を出していい選手を獲得して。というあたりでカープの話は終わらせて、サンフレッチェだけど、前回『もう補強はないでしょうし』とか口走ったけどあの後更に獲得したから驚くわ」


「ポルトガルのパシエンシア」


「大型フォワードでまずはポストプレーに期待となるのかしらね。ブンデスリーガでは時折スーパーゴールを披露してダイジェスト動画だけ見るととんでもないゴールゲッター降臨って感じだけど、残してきた数字を見るとそこまで迫力があるものではなかったり。ムラが大きいタイプなのかな。ともあれ先日の鹿島戦では早速ゴールを決めたし、ベストなコンディションで戦えると間違いなく戦力になる選手なので大いに期待したいわ」


「まずアルスランが大成功だもんね」


「相手ディフェンダーの身を呈してのブロックをあっさりいなす、あのゴール前での冷静さは凄まじいわ。そして復帰の川辺もやっぱり素晴らしい選手だし、本気で優勝を狙うフロントはこうやって動くべきだという見本よね。真剣さが違う」


「はいそこまでそこまで。情念溢れすぎちゃうよ」


「東京や大阪とは違う、地方球団だからってのが本気でやれば何の言い訳にもならないとこうやって明確な形で示されて何も思わないほど愚鈍であり続けられるものかしらね。まあ相手もいる勝負だからここまでやってなお優勝確定というものではない。それこそ長らく首位をキープしてきた町田だって日本代表クラスを補強して文句なしかと思いきや以前以上のパワーを現状においては発揮しきれていないんだけど、だからって補強したのが間違いだったとは言えないわけだし。絶対に成果が出るわけじゃないからこそ出来る限りの事をやるのが真っ当なフロントのあるべき姿よね。それと日本代表がとんでもない事になってるわね」


「中国にホームで七点取ったかと思ったらアウェーのバーレーン戦でも五得点。しかもともに無失点。格の違いと呼ぶにはあまりにも圧倒的すぎる」


「それぐらいやれる実力があるのは確かだけどさすがに怖いわ。今大会から枠が更に広がってもはや予選敗退なんてありえないほどだけど、ただ大事なのは本番だからね。本来は前回大会にでも八強入りしてもおかしくなかった程に高められているけど、内実を全く考えず数字上の話だけで語るとワールドカップは二〇〇二年から一切進歩なし、オリンピックは未だに一九六八年の記録を破れずにいるとも言えるわけだしね。やっぱりこの壁を打ち破るという、明確な形でのブレイクスルーが今の日本サッカー界には求められているんじゃないかしら。その力はすでに持っているんだから、今度こそはきっと実現させてほしいと願うわ」


「そうなるといいよね。後は大相撲も今開催中」


「先場所優勝の照ノ富士はやはりコンディションの調整が難しいようで休場。大関も随分すっきりしちゃったけど、今一番期待されているのはまず大の里で、近いうちに大関昇進するんでしょうね。でも怪我したらあっさり落ちてしまうものだからそこは本当に気をつけないと。それで新入幕即優勝を果たしたものの今や十両の下の方まで落ちた尊富士だけど、出ればおいそれと負けはしない。伯桜鵬なんかも今は十両だけど、まあそのうち本領を発揮してくれるといいわ」


「大関の琴櫻も頑張ってるよね」


「年齢的にはこれぐらいの力士で突き抜けていく者があればってところだけど。霧島もようやく本来の姿を取り戻しつつあるみたいだしね。最終的に優勝が誰になるのか現時点ではまだ見えてこないけど、その中から照ノ富士を安心して引退させられるような大物が出てくるれればそれが一番。まあカオスが延々と続くのもそれはそれで世界の有り様ではあるけど、そこを圧倒するような人が出ると格好良いじゃない。さてどうなるかな」


 そんな事を語っていると敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので、二人はすぐに変身して敵が出現したポイントへと急いだ。


挿絵(By みてみん)


「フハハハハハハ、私はグラゲ軍攻撃部隊のミズラモグラ女だ。この暗黒惑星を正義で照らしてやろう」


 日本の古い髪型である角髪がその名の由来となっている日本固有の、特に青森県から広島県に生息するというモグラの仲間の姿を模した侵略者が山中に出現した。だが勝手に荒らされてなるものかという地球の言葉なき声の代弁者が二つの小さな体としてすぐさま現れた。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「こんな暑い中わざわざ来てくれてありがたいけど、余計な事はせず帰ってくれるかな」


「答えはもちろん否だ。行け雑兵ども! この愚者どもを叩き潰せ!」


 音の響きがドグラ・マグラみたいなミズラモグラ女の冷徹な指令にただ従うだけの機械仕掛けの兵隊を、ハートに血の通った二人は次々と撃破していった。


「よしこれで雑兵は尽きた。後はお前だけだなミズラモグラ女」


「モグラなら穴の中というか自分の星の中に籠っていればいいものを」


「正義の光は広めねばなるまいよ。そしてそれを理解出来ない程度の低い生物は駆除せねば」


 ミズラモグラ女はそう言い放つと懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしかないようだ。二人は覚悟を決めると合体して大いなる力を手に入れた。


「ヴィクター!!」

「エメラルディア!!」


 真夏と何も変わらない熱気漂う街のはるか上空で、この星の未来が決まろうとしている。その戦いに赴いた二人の戦士のうちで機体操縦を担当する悠宇は持ち前の反射神経を駆使して敵のクロー攻撃を回避すると僅かな隙を狙ってカウンターを決めた。


「よし今よとみお君!」


「分かったよゆうちゃん。ここはサターンミサイルで勝負だ!」


 一瞬だけ生じたタイミングを逃すまいと、火器管制担当の渡海雄はすぐさま橙色のボタンを叩いた。脚部にチャージされていた土星のような形をしたミサイルが敵に向かい炸裂した。


「うぐうっやってくれるな! 忌々しい野蛮人め」


 苦々しい顔でそう吐き捨てつつ、機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってミズラモグラ女は宇宙の彼方へと帰っていった。


 それで今日の常廣は五回一失点と及第点のピッチングを見せて、打線もやたらと活発に打ちまくった。そうそうこれで良いんだよ。今更優勝しろとは言わないからまずAクラスを死守して、来年はこういう愉快な試合を増やしてくれれば。

今回のまとめ

・カープは今までよく粘ったがもはや事実上終戦だろう残念だ

・状況の中で最善を尽くさなかったせいで出る言い訳は惨めなものだ

・アルスランに続いてパシエンシアも当たりだととても嬉しい

・大の里はたまに見る分だとこれは強いとなる本物と見ていいのか

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