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pr55 順位も周辺環境もかなりやばい1993年について

 八月は白い雲だけ見ていたい。日中などはただ外に出るだけで体力がガンガン減らされる灼熱をものともせず、渡海雄と悠宇は貴重な夏休みの日々を有意義に過ごしていた。


「というわけで今回は昔話。一九九三年よ」


「前年は勝ち越しながらも四位だったね。その中で若手野手は順調に成長していた」


「でも投手陣のテコ入れはなかなか進まない。それでドラフトだけど、この年の目玉は野手だとゴジラと呼ばれた大型スラッガー松井秀喜、投手はオリンピックでも活躍した伊藤智仁だった。カープは当然とばかりに伊藤を指名したけど、三球団競合を外した」


「またかあ」


「それで外れ一位には本田技研の佐藤剛、三位でも日本石油の鈴木健という即戦力候補を指名したけど……。佐藤なんて速球が武器とか言われてる割に最速百四十三キロなんてスペックからして一位不相応で、本当に他の選択肢はなかったのかしら。二位の高校生左腕菊地原毅はまだしも、下位はことごとく使いものにならず。一度は廃止されたドラフト外入団を例外的に復活させて獲得した古河有一という隠し球も成績は振るわなかったし」


「例外ってそういうのもあったんだ」


「この古河はアメリカの大学でプレーしてて、当時のドラフトにはその辺の規定が整備されていなかったからこうなったみたい。今はたまに育成枠でそういう選手が入団してるけど、なかなか活躍するまでには至らないケースが多くてやはり厳しい世界よね。次に移籍選手だけど、西武から前田耕司、中日から小早川幸二と左腕をトレードで獲得。どちらもワンポイントが関の山の小物だけど交換相手は元々外様だった大塚や松井だからね。出血ほぼゼロと思えば悪くはないわ。どっちも広島県出身の地元選手だし」


「しかも名前がコウジ。思えば監督も山本浩二だし、それが狙い?」


「まさかね。そして外国人だけど、ドミニカ勢は一旦後退させてアメリカからルイス・メディーナを獲得。オープン戦三冠王と大暴れして期待されたものの開幕わずか三試合で負傷し、そのままシーズン終了。結果的には前年同様ブラウン一人体制となった」


「なんと情けない」


「結局頼れるのは既存選手という形になったけど、実際去年からグングン伸びていた前田と江藤はますます成績を伸ばした。特に江藤は三十四本でホームラン王獲得し、前田も首位打者争いを繰り広げた。ブラウンも二年目で水に慣れたか中軸として成績の大幅向上に成功。この三人は文句なしよ。野村正田の二遊間は実力からすると物足りない成績。特に二割五分台の正田は。とは言えしっかり規定に到達し戦力となった」


「ただようやく打線にしっかりとした軸が出来たね」


「そうね。また規定未到達選手だと小早川がシーズン終盤に数字を伸ばして十七ホームランと久々にパワーを見せた。原が代打で三割も西田の存在感が消えてきた。二年目の町田は試合数倍増したのにホームラン数が去年と同じってのは相対的には微妙か。緒方も煮えきらない。金本はまだ打率一割台だけど四ホームランと素質の片鱗を見せた。前年貢献した山田は怪我で全休。キャッチャーは主に西山が務めたけどこの程度の数字では。瀬戸もあんまり出番増えてないし、やっぱり達川引退は早まったかなって感じ。とか言いつつ今度は山崎隆造が百試合近く出場しながら引退となった」


「いきなりサードこなしたり本当に欠かせない選手だったよね。お疲れ様でした」


「野手は全体的に迫力が出てきたのは間違いない。でもそれでも救えないぐらい投手陣が崩壊した。特にエースたるべき佐々岡が規定到達は果たしたものの防御率四点台で十七敗と絶不調ではどうしようもないわ。川口は悪くないし片瀬ももっと使って良かった成績だけど、前年二百勝到達の北別府は目標達成で燃え尽きたか成績を大きく落とし、長富も五点台。佐藤鈴木の新人コンビや高橋ら若手が積極的に起用されたものの数字は寂しい」


「鈴木なんか一勝七敗で防御率六点台か。よく我慢したね」


「有望な駒がいないからね。リリーフは近藤が六十試合登板、望月秋村にトレードの前田も頑張ったし大野はさすがの安定感だけど、チーム防御率はリーグ最悪の四点台。そして順位だけど、開幕六連勝スタートを切るなど序盤は首位を走ったけど五月には早くも大負けして陥落。この時十六対十七という馬鹿そのものな試合をやらかしたけど、ある意味この年の象徴だったかな。以降も勝率五割前後で戦えていたけど八月末から絶望の十二連敗で一気に破滅。というわけで最終的には七十四年以来の最下位に沈み、山本監督は退任となった」


「あらまあ」


「一応優勝も果たしたしあんまり悪く言いたくはないんだけどね、この止めどない転落ぶりはきついわ。優勝はヤクルト。カープが落ちた頃から安定して首位を走り、一時期追い上げを許すも勝負どころで大型連勝を決めて振り切った。攻守にハイレベルな数字を残した古田は納得のMVP、広沢は打点王、ハウエルの数字はやや落ち着いたものの盤石、もう一人の外国人ハドラーも三割打っていい感じ、荒井幸雄も久々に存在感発揮。投手陣は競合を引き当てた伊藤が大きく曲がるスライダーを武器に防御率一点台未満という驚異的な成績を残し、途中離脱したものの新人王に輝いたインパクトが絶大だけど伊東西村川崎ら安定した先発陣に抑え定着した高津も好成績。リリーフ中心で二桁勝利した山田勉の頑張りも特筆もので、全員書いてたら足りなくなるほど良い成績の選手が溢れている」


「貫禄すら出てきたね。さすがCD出すだけある」


「二位は中日。特筆すべきはともに十七勝で最多勝に輝いた今中と山本昌のダブル左腕エースで、ルーキー鶴田泰も頑張った。カープではさっぱりだった津野が結構使えてるのも何だかなあ。ただ与田も森田もガタガタで今更郭が復帰した抑えは微妙かな。打線はパウエルがますます良くなってきた。八月九月と猛烈な追い上げでリーグを盛り上げたわ。三位は長嶋茂雄が監督復帰した巨人」


「へえ今更復帰するのか」


「Jリーグ開幕を控えてサッカーに客を取られないためにスター中のスターを復帰させたとか色々考えはあったみたいだけど、原を筆頭に八十年代を支えた選手が衰えて若手も発展途上という難しい時期で、打撃コーチとして復帰した中畑清が無能なのもあって得点力はリーグ最下位。本来は長嶋一茂獲得とか親バカやってる場合じゃないんだけど、高卒ルーキーながら十一ホームランの松井は評判通りの逸材。投手陣は藤田時代ほど圧倒的じゃなくなった先発陣を補うように『勝利の方程式』と称して橋本清から石毛博史というリリーフの形を作った」


「藤田時代は先発偏重すぎたしこうなるのも当然か」


「まあ石毛は前年の時点で十分活躍してたんだけどね。四位は阪神。オマリーが首位打者で新庄もパワーを見せたけど後が続かない。オリックスから獲得した松永は怪我もあり本領発揮とはいかなかったし。そして投手陣は前年覚醒したかに思えた仲田の大崩れが痛い。五位は親会社や本拠地が変わったわけじゃないけどイメージ戦略で大洋からチーム名を変更した横浜ベイスターズ。新外国人のローズとブラッグスが大迫力の活躍を見せて石井盗塁王など野手はいい風が吹いてきた。でも衰えた高木豊をファーストに回して全試合出場は余計。投手陣は野村が中日の二人と並んで最多勝に輝き、二年目の斎藤隆やルーキー小桧山雅仁も頑張ったけど全体的には迫力不足。夏場にズルズル落ちて最下位かと思いきやカープがいきなり凄まじい勢いで転落したので辛うじて最悪は免れた。監督は小兵の近藤昭仁で、バレバレのスクイズ多用をよく揶揄された」


「でもカープはそれ以下だったんだよね」


「次にパリーグだけど、言わずもがな優勝は西武。デストラーデが出身のマイアミに誕生した新球団に加わるため退団したので中軸の迫力は低下したものの辻が首位打者石毛も三割などさすがに層が厚い。投手陣は十五勝に最優秀防御率でMVPとなった工藤を軸に、元々鹿取潮崎がいた中にルーキー左腕杉山賢人も加わったリリーフ陣はサンフレッチェと称された」


「何で急にサンフレッチェ?」


「当時のチーム名を見ると半分以上は◯◯ス、◯◯ズといった野球チームでもありがちな英語の複数形的ネーミングで、そうじゃないジェフ、ヴェルディ、ガンバもある程度は耳馴染みのある響きだった。その中でサンフレッチェ。日本語とイタリア語を無理やり合成して毛利元就の逸話である三本の矢を表現した完全なる造語でその突飛さは図抜けているわ。折しもこの年は自民党が結党以来初めて下野したけど、その中で光を見せた橋本龍太郎、石原慎太郎、河野洋平の三人が自民党のサンフレッチェと称されたとか。内輪だけじゃなく全く畑違いのジャンルに意味もなく顔を出してこそブームだからね、それだけ世間にインパクトを与えた証明でもあるわ。結果的に造語ネームがJリーグの基本になるけど、そのパイオニアたるサンフレッチェの名は本当に脳がどんな働きをしたらそうなるのかという脅威の存在よね。話を戻すと、二位は日本ハム」


「しかも一ゲーム差と大健闘してる」


「球団幹部やってた大沢啓二監督の下で、三割打者不在もウインタースや新外国人のシューらを軸になかなか得点力ある打線を形成。三十歳を超えてようやくショートのポジションを掴んだ広瀬哲朗も頑張った。投手陣は西崎武田に白井も先発転向して二桁勝利、抑えは金石が務めた。三位はオリックス。松永とトレードで獲得した野田が最多勝で大戦力となった投手陣は上々だけど、野手は前年活躍した高橋が低迷して迫力不足。終盤に成績を伸ばしたものの優勝争いまでは至らず土井監督は退任」


「悪い成績ではないけどとにかく地味だったね」


「四位は近鉄。野茂は当然のように最多勝、ブライアントは大量に三振しつつ二冠で石井は打率二位、ベテラン大石が六年ぶりの盗塁王に抑えの赤堀も抜群と個々の選手は強かったけど問題は監督。元エースの鈴木啓示が就任したけどその唯我独尊ぶりはあらゆる選手から評判が悪くチームの空気は最悪だったそう。それとあれだけの騒ぎを引き起こした小池が社会人経由でひっそり加入したけどインパクトのない成績に終わった」


「それも悲しい話だね」


「でもここまでは勝率五割以上で、大きく離されて五位は勝率三割台のロッテ。千葉県出身の人気者宇野を中日から獲得したけど打率一割台と戦力にならず。新外国人のメル・ホールは好成績だったけど人間性は本当に最悪だったみたい。投手陣は二桁勝利こそ小宮山だけだったけど伊良部がついに本格化してきた。河本成本のダブルリリーフも良いし、迫力不足の中でも徐々に戦力が整いつつある」


「そして最下位はダイエーか」


「ここも低迷が長いからね。小手先の補強ではなくチームの抜本的改革が必要って事で西武から根本陸夫を招聘した。監督になったのは成績を残すためでなく現状を把握して今後の戦力となる選手を見極めるためだったみたいだし、南海末期に平凡な成績ですぐ退団したライトを今更復帰させるやる気なさからしてもこの結果は想定内でしょうね。本拠地を広い福岡ドームに変更した影響もありホームランは藤本博史の十三本が最多、投手も村田勝喜が辛うじて二桁と戦力の苦しさは明らかだけど本領発揮はこれから」


「どれだけ負けても見通しの明るい最下位と暗いそれはやっぱりあるものだからね。カープはどうかな」


「野手に関しては順調に成長中だけど、とにかく投手よ。今まではリーグ上位常連だったものがいきなり最下位に転落して、しかもなお悪い事にこの年から新人獲得のルールが変わって悪名高い逆指名制度が導入されてしまった。今までは小池若田部伊藤と結果的に獲得出来ずとも手は出せた。これからはそれすら不可能になる。はっきり言って絶望的なんてものじゃないわ。それにFA導入も加わって、ひたすら逆風の中を進む事になる」


「それは長年優勝も出来なくなるか」


「ただ影響が出るのはもう少し先の話なので、しばらくはまだ明るい話も多いと思うわ。それがいつまで続くかはまた別にして」


 このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンがけたたましく鳴り響いたので、二人はすかさず変身して敵が出現したポイントへと走った。


挿絵(By みてみん)


「フハハハハハハ、俺はグラゲ軍攻撃部隊のエラブウミヘビ男だ。この毒々しい惑星を正してやろう」


 日本においては沖縄県の島々に多く生息する、強い毒を持つが沖縄料理ではイラブーと呼ばれ食材として珍重されるウミヘビの姿を模した侵略者が真夏の海岸に出現した。この危険な毒牙から守らねば。そんな意志の力を具現化したかのような二つの影が間もなく彼らの前に現れた。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「夏休みは意義あるものにしたいけど意義がありすぎても困るから程々にしてくれないかな」


「おおう、これが噂に聞くエメラルド・アイズか。死んでもらうぞ。行け、雑兵ども」


 真夏の日差しと同じように厳しい指令にもただ従う以外の術を持たない黒光りする殺戮マシーン達を、二人は情熱込めて撃破していった。


「よしこれで雑兵は尽きた。後はお前だけだなエラブウミヘビ男」


「本来あなた達がこの星に来たのがほんの間違いだと思って、今すぐ帰りなさい」


「間違っているのはお前達の存在のほうだ。だからこの俺が殺してやるのだ」


 エラブウミヘビ男はそう言い放つと懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり今は戦うしかないようだ。二人は覚悟を決めると合体して大いなる力を手にした。


「ヴィクター!!」

「エメラルディア!!」


 夏の大地にそそり立つ巨体が二つ、そして今は空の彼方でこの星の運命を決める戦いを繰り広げている。そして悠宇は研ぎ澄まされた反射神経を駆使して敵の攻撃を回避しながら接近し、背中に痛撃を与えた。


「よし今よとみお君!」


「分かったよゆうちゃん。ここはエンジェルブーメランで勝負だ!」


 一瞬だけ生じた隙を逃さず、渡海雄は桃色のボタンを叩いた。肩から出てきたブレードを組み合わせて投げつけると、不規則な軌道の果てに敵の胴体をバラバラに切り裂いた。


「ええい、やってくれる! この俺を倒すなどと」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置で、エラブウミヘビ男は宇宙へと帰っていった。今は灼熱の中をのたうち回るのが定め。でも心が澄み切った真夏の海に飛び込む夢を見るのも自由なように、きっといつかもっと良くなると信じながら、二人は帰路についた。

今回のまとめ

・前田江藤筆頭に若手の伸びはあれど周辺環境含めるときつい最下位

・投手陣は弱体化しまくった上にドラフトも移籍も厳しくなる絶望感

・根本的には使える中堅ベテランを安易に放出しすぎなのが問題

・サンフレッチェってネーミングセンスは改めて考えると異様

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