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rm55 それなりに甲斐のある苦しさについて

 いよいよ夏休みが始まった。もうちょっと梅雨が続いても良かったんじゃないかとは思うが、ともあれ暑さの本番はまだこれから。湿った風が薄い夏服の裾を揺らす中、渡海雄と悠宇は南郷宇宙研究所で涼んでいた。


「それでこの間の試合でDeNAの選手が複数熱中症の疑いで途中交代を余儀なくされたそうだけど、そりゃそうもなるよね。本当に暑いから」


「素晴らしいプレーを保つための心身の健康維持は本当に大事だから、そこをケアするのは大事だけどどれだけ気をつけてもこの暑さじゃあやられても仕方ない。ただそれは人事を尽くした場合の話であって、例えばこの間発覚した女子体操選手の件なんかは、まあ情けないものよ」


「未成年なのに飲酒喫煙が発覚してオリンピックを辞退したんだったっけ」


「飲酒喫煙なんか、昔なら大目に見られていたであろう事柄も今は厳しくなっているのは必然的な時代の流れ。結局自分を律するのもアスリートの資質だからね。体操協会はチームとして活動しているうちは飲酒喫煙は禁止という行動規範を作っていたそうで、ただその中で内々に処理されるのではなくこうやって公になったからにはほんの少しの過ちとして済ませるだけでは看過出来ないものがあったと見るのが妥当。プライベートの部分でうっかり羽目を外してしまうところがあっても人間だから仕方ないと許されるかも知れないけど、やっぱり脇が甘かったとしか言いようがないし、それで人生をふいにしたとなれば悔やんでも悔やみきれないものよね」


「それにしてもパリオリンピック、もう今週には開幕だからあっという間だよね」


「あの東京から三年経って、今度はどんな光景が待っているのか。少なくとも無観客でやったあの夏よりは素晴らしい世界が広がっているものとは思うけど、差し当たっては開会式がどうなるか要注目になるんじゃないかしら」


「東京オリンピックの開会式は今思い出しても寒々しいものだったね」


「狭い世界でしか通用しない人間を用いる事なく堂々と勝負出来る人間を使えばああはならなかったでしょうし、一億を超える日本人の中から選ぶにしてもあれ以外の人材がいなかったはずはないんだけどね。でもああいう連中もその後の時代の流れで少しは排除されたから今はもっとずっと透明度が上がったものと信じたいものだけど、いやここまで来るともはやパリには関係ない領域かな。とにかくパリオリンピックのスタッフには全力を尽くしてほしいものよ。いきなり泥を塗った日本人にもめげずに」


「幸先悪いね。しかしスポーツ界の不祥事って話だとサッカーの佐野海舟はもっと最悪だった」


「こっちはちょっとした過ちどころじゃなくてより悪質な犯罪者だからなおさらどうしようもないわ。しかも日本での活躍が認められ代表選出、ドイツ行きまで決まったというタイミングで全て台無しにするどころか現役生活すら全て棒に振ったも同然の愚行をしでかしたんだから。これに関しても現状まだ全てが明らかになったわけではないのと、明らかになったところであんまりじっくりと調べたくもない事案でもあるのでざっと見た感じで雑に語るけど、友達付き合いなんかも含めて今までの人生を全て変えてようやく真っ当にこの社会で暮らせるようになるかというところなので、とにかく現役生活どうこうではなく人間としてどう生きるかって部分から真剣に考え直さなきゃね」


「せっかくの才能がこうやって潰れていくのは悲しいものだね」


「とまあ暗い話はここらで終わらせるとして、まずは前半戦終了したプロ野球について。セリーグは上位が混戦の中で、カープは幸いにも優勝争いの中に食らいついている。正直今月上旬なんかはかなり厳しいなって時期もあったけどね。末包離脱したら露骨にパワー不足で」


「その穴が埋まっているとはとても言えないけど、開幕直後に離脱して復帰後は二軍成績でも見どころなしだったシャイナーが東から奇跡的に決勝スリーランホームランを放ったり、辛うじて少しずつ繋げている」


「シャイナーはねえ、現状はまだ物足りないなんてものじゃないわ。ただ肩を手術して今シーズンは間に合うまいって事で挽回の機会すらなく退団したレイノルズと比べると少なくとも彼のお陰で勝利を掴んだと言える試合が一つあっただけでもまだましと言う他にないわね。根本的に外国人野手の活躍が足りない、足りない、足りなさすぎるんだけど、だからと言って補強があるとは限らないどころか否定する言葉さえ聞こえる始末。去年日本でプレーして今フリーになったばかりの外国人野手がシャイナーとインスタグラムを相互フォローしたとかちょっとした憶測はないでもないけど、根拠とするにはあまりにも薄いのでこの戦力のまま戦い続けるという前提でいたほうが無難そう。そのほうが万が一何かが起こった時に喜べるから」


「一応まだ枠もあるのにね。トレードなんかも話があるかも知れないけど決定するまでに浮上する事はないだろうから静観として、育成枠から昇格ってパターンはある?」


「うーん。強いて言うなら岡田復帰はないでもないのかしらね。かつてのドラフト一位にして十七年には十二勝を上げて三連覇に貢献した確かな実績持ちではあるものの、ここ五年ほどは一軍登板すらままならないまま今や三十歳。二軍で抑えてはいるものの現状ではリリーフが関の山と見られ、単純に戦力のプラスという点では大きいものにはならなさそう。ただここまで長らく苦しんだキャリアの持ち主が復活というイベントがチームの活力になる事例はないでもないので、そういう形で最後の奉公をという考えはないでもないんじゃないかしら。後は内野手の前川誠太もいい成績だけどポジション的に出番少なさそうだし待つんじゃないかと予想。去年の二俣みたいに支配下登録したものの一軍出場なしじゃ意味がないし、何よりまだ若いしね。色々なタイムリミットも迫る岡田とは違って来年以降もチャンスはあるはずだから」


「内野手の状況を見るとこのままシャイナーで決まるとも思えないファーストは置くとして、他は菊池小園矢野で固まってるけど菊池の打撃成績なんか見ると付け入る隙はないでもなさそうに見えるけど」


「とは言え守備は未だに盤石だし、二遊間を守れる控えも十分に揃っているからね。近い将来に支配下登録される可能性が高い位置にまで前川が来ているのは間違いない。でもそれが今年なのか来年なのか、そこはフロントの判断を尊重するしかないかな」


「外野も秋山野間ともう一枠が埋まりそうにないね」


「末包はもう練習を再開したそうだから、結局彼の復帰以外に道はないみたいね。キャッチャーの坂倉も未だに二割ギリギリだし、打撃は結局弱いままここまで来たし今後も劇的な改善は望めないものと思われる。そうなるとやはり今年は投手陣の奮闘に全てがかかっていると言えるわ」


「でもそっちも島内が二軍に落ちたりで簡単にはいかなさそう」


「島内は去年の実績を信じたのは理解出来るけど、内容からすると落とすのが遅すぎたぐらい。リリーフが調子を持続する事は難しいものなのでこうなるのも予想出来ないではなかったけど、あんまりその時々の調子によって重用する選手をコロコロ変えるような節操ない使い方しても選手達が全体的に疲弊するからね。固定出来るならそれに越した事はない。それで島内がいないブルペン陣だけど、ハーンは今のところ十分にセットアッパーを任せられる程度のピッチングを見せている。森浦塹江黒原も含めて左投手のレベルが急激に上昇したのはありがたい話よ。抑えの栗林は最終的にどれだけセーブを稼げるか。先発だとアドゥワがそろそろ期限切れの雰囲気なので後半戦はハッチ再昇格か森あたりで行くか。現状問題はそれぐらいだしこうやって簡単に代案も浮かぶ。やはり投手陣は基本このまま最後まで突っ走るでしょうね」


「投手と守備で失点を抑えつつ粘り強く得点を奪い接戦を制する。これが今年のカープのスタイルとして、最終的にどれだけの順位になるかだよね」


「今の順位を見るとヤクルトが大きく遅れて中日も未だに借金生活。外国人が今ひとつなのもあって打線に迫力が足りないなどカープと課題が似ている阪神は優勝争いからやや離されつつあり正念場となりそう。新外国人ヘルナンデスが起爆剤となった巨人と強烈な打線が持ち味のDeNAが当面のライバルになるのかな。迫力の点でカープが劣るのは言うまでもない。でも今の戦力でそればかり追い求めるのではなく、やれるやり方を徹底する。『やっぱりもっとホームランがあれば』って思う事は一度や二度じゃないけど、それでも歯を食いしばり我慢強く戦うしかないから、ファンも同じく辛抱しながら見つめるしかないわね。そう言うと絶望的な戦いみたいだけど、案外勝ててる以上はそれなりに楽しく苦しめているわ」


「最終的にどこが抜け出してくるのか現時点では全く見えないから、つまりカープにもまだまだチャンスがあるって事だからね。報われる可能性がある我慢と思えば何とかこなせそうな気もするよ」


「やはり今年は飛び抜けたチームがない中で最後まで立っていられるのはどこかという九十一年の再来なのかしらね。とか言いつつ来月には全然違う状況になっている可能性だって十分あるんだから筋書きのないドラマって恐ろしいものよ。次はサンフレッチェだけど、やっぱりボランチの補強は必須よ。ベテラン塩谷や若い中島が悪いわけじゃない。よく頑張ってる。でも川村レベルが抜けたら当然しんどいわ」


「分かっていた事ではあるけど、簡単にはいかないよね」


「とにかく怪我人が続出する状況の中で本来の実力はこんなものではないという悔しさもあるけど、大橋新井と補強した選手が確実に戦力になっているのはしっかり見極めた結果でもあるはず。だから補強にしても獲得すれば何でもいいものではなく、使えるかどうかが一番、なんて思っていると最近トルガイ・アルスランなるトルコ系ドイツ人選手の獲得が決まった。そこそこ年齢が高いけどドイツやイタリアの中堅クラブなどで十分に実績を積んだ中盤の選手で、今年はここまでオーストラリアで実力を披露していた。即戦力となれるかな」


「名前に加えて利き足は両足ってのも格好良いね。やっぱりちゃんと動いてくれるフロントって良いものだよ。リーグ全体的には町田が相変わらず頑張ってて、下のほうは最下位の札幌が今更大型補強してどうなるかってところか」


「さすがに離されすぎかなとは思うけど、まあオリンピック期間中はリーグ戦がしばらく中断なのでそこでサッカーを練り直せば生まれ変わる可能性なきにしもあらず、なのかしらね。他の降格枠の争いもかなり激しくなっていて、最後までスリリングな戦いが繰り広げられそう。そして大相撲名古屋場所も現在開催中。今一番強いのが唯一全勝中の横綱照ノ富士なのは相撲内容を見ても明らかで、最後まで肉体を保てるなら優勝待ったなしね。一方カド番の貴景勝や大関返り咲きを狙う霧島だけど、いずれも簡単じゃなさそうよね」


「でもまだ決まったわけじゃないし、戦いはまだまだこれからだよね」


「そうね。根本的に力のある力士なんだから、ここからどれだけ意地を見せられるか。あるいは潔く休んで来場所以降に向けて英気を養うという考えもある。ともあれ最後は本人が決める世界なので、どんな選択であれそれが正解である事を願いつつただ見守りましょう」


 このような事を語っていると敵襲を告げる合図が館内に響き渡ったので、二人はすかさず変身して敵が出現したポイントへと急いだ。


挿絵(By みてみん)


「フハハハハハハ、俺はグラゲ軍攻撃部隊のマレーグマ男だ。この汚らわしい星に正義と秩序を打ち立ててやろう」


 東南アジアに生息する、熊の中では小型で凶暴性も比較的低いもののやっぱり人間への襲撃がないわけでもない動物の姿を模した侵略者が、青々と生い茂る広葉樹に覆われた林の中に出現した。しかし間もなく、その暴力を制止するための使者も現れた。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「灼熱の太陽のような厳しさだけで従わせようとはしない事ね」


「おおうこれが噂に名高い反逆者どもか。死んでもらうぞ。行け、雑兵ども」


 指揮官の冷徹な言葉をただそのまま実行するだけの殺戮マシーン達を、二人は情熱込めて次々と撃破していった。そして残る敵は一人だけとなった。


「よしこれで後はお前だけだなマレーグマ男」


「いよいよ始まった夏休みを否定されるわけにはいかないからね」


「ならば一生休ませてやろう。死という救いでな!」


 マレーグマ男はそう言い放つと、懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦う以外に道はなさそうだ。二人は覚悟を決めると合体して、暴力に対抗する力を手に入れた。


「ヴィクター!!」

「エメラルディア!!」


 鮮烈な日差しに白光りする巨体の共演は抜けるほどの青空の中で行われた。激しい争いを悠宇は持ち前の反射神経を駆使して徐々に形勢を作っていくと、隙を見てのカウンターで相手の動きを一瞬止めた。それだけで十分であった。


「よし今よとみお君!」


「分かったよゆうちゃん。ここはメルティングフィストで一気に決める!」


 僅かなタイミングを逃さず、渡海雄は朱色のボタンを叩いた。プラズマ超高熱線によって極限までヒートした拳が敵の装甲を溶かして致命傷を与えた。


「うぬぬ、やってくれる! こんな星を守るなどと無駄な努力をいつまで続けるのか」


 そんな負け惜しみをつぶやきつつ、機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってマレーグマ男は宇宙の彼方へと帰っていった。そして二人は、プールで泳いでから家に帰った。ああ、若さとは一体どこまで莫大なエネルギーなのだろうか。この無尽蔵な気力で二人はこの夏も全力で乗り切る事だろう。

今回のまとめ

・パリ五輪は見る時間確保出来そうにないので流し見になるか

・でも飲酒喫煙程度で結果が重大すぎとはやや思う佐野は駄目

・カープはよく戦っているけどやっぱりフロントはもっと動けよ

・よく分からない外国人獲得はロマン供給の観点から大変望ましい

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