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pr54 謎のドミニカ人大量加入した1992年について

 雨の日が続く中で七月に突入した。七夕も雨かも知れないが梅雨だからこれも良い。夏は暑いものだから夏なのに涼しさを得られるならそれは天佑だろう。渡海雄と悠宇はそんな事を思いながら水たまりを進んでいた。


「私達が出会うまでは語ろうかという今後の見通しからするともうカープ優勝って場面はなくなるわけだけど、ともあれ今回は九十二年」


「前年は貧打を投手陣が支える形でなんか優勝しちゃったよね」


「でも野手は若手が出てきつつあるけど投手はベテラン中心という内実。コーチに現役時代は阪神一筋で活躍した山本和行、広島出身とはいえ外様の人材を招聘したのもその辺の危機感ゆえかなと思うけど、ドラフトにおいても駒大のエース若田部健一を指名したけど四球団競合を外した。結果として一位で専修大の町田公二郎、二位で高校生の徳本政敬という右の大砲を連続指名したけど、最終的に一番活躍したのは四位指名した地元出身の左打者金本知憲だったあたりが面白いところ」


「でもその金本、一年目は辛うじて一軍出場した程度でぱっとしないんだね」


「まさに努力の賜物。次に移籍選手だけど、まず金石とトレードで日本ハムから津野浩を獲得。かつての若手エースも肘を痛めて低迷中で、カープでもたった一試合登板で即戦力外という最悪級の失敗トレードとなった。また前年田淵にトレード要員と暴露された長内は一年越しに大洋へ。交換要員は古葉監督時代サードのレギュラーに抜擢されたけど監督交代後は出番を減らしていた銚子利夫。これも非力でろくに使えなかった。ただこっちに関しては引退後の指導者生活を見据えての人事異動的な目論見もあったみたいで、実際引退後はそれぞれ古巣へ戻った」


「そういう意味じゃ戦力にならないのも織り込み済みか」


「なってくれたらなお良かったんだけどね。またダイエーがドラフトで十人指名した余波で保留選手名簿に載った後から戦力外になった大塚賢一という左腕も獲得したけど一軍出場ゼロ。この年から選手枠が増加しドラフト外入団撤廃の代わりに指名出来る人数が増えたとかの制度変更があって、ダイエーは早速活用しようとしてボロが出た形だけど、まあ色々試す姿勢は間違いじゃなかったと思うわ」


「ともあれ移籍選手は外れ続きか」


「今までも失敗トレードはあったけどこの辺から戦力的な部分を度外視したかのような放出のための放出、引退のための引退に見える事案が増えるのは非常に気になるところ。ドラフトの成功率も下がってるし、内部の劣化が強く疑われるわ。最後に外国人だけど、前年の二人は解雇されて内外野こなすユーティリティな大砲マーティ・レオ・ブラウンを獲得した。低打率ながらもチーム最多の十九ホームランにハッスルプレーで人気を得たけど、事実上外国人一人体制でこの程度の数字じゃいささか物足りないわ。ドミニカのカープアカデミーから次々と選手が到着したけど三桁の背番号が象徴するようにまだ原石でしかない。今なら育成枠だし、少し前までなら練習生として加わったはずだけどそれがちょうど禁止になったから支配下登録はされてるだけで、サンギルベルトとかバウチスターとかいちいち覚える必要もないわ」


「今なら育成枠の人材か。連覇はあまり考えてなかったのかな」


「好意的に考えるとドミニカ人含めた若手の伸びに期待ってところだったんでしょうけど、まず野手で一番伸びたのはサクッと三割到達した前田。足も守備もある上にまだ二十一歳、末恐ろしい才能よ。正田も三割、野村もなかなかの高打率でトップバッターの役割を全う。規定はブラウン含めたこの四人だけど江藤が大砲として夏場からサード確保したし、小早川は持ち直した。緒方は代走要員として抜群の成功率を見せ、トレード二年目の山田は一三塁基調に正田離脱時は二塁を守るユーティリティ性を発揮、ベテラン山崎も堅調な働き、ルーキー町田は早速六ホームランと持ち前のパワーを披露、守備要員の高が三割だけどさすがに打席少なすぎか。西田は前年頑張りすぎて燃え尽きたのかな。キャッチャーは達川が最多出場にして引退した」


「ベテランとしてまだ使える数字だけど、潔いね」


「二番手の西山がかなり出番を増やして瀬戸もいるって中で、世代交代も意識したでしょうね。本人がという以上に球団側が。やっぱりちょっと早かったかなとは思うけど。ともあれトータルではリーグ二位の得点力と、打線は大幅に持ち直した、というか九十年もかなり上々な打撃成績だったし去年が悪すぎただけかな」


「しかも若手の成績向上が主要因だから見通しはぐっと明るいね」


「投手陣で珠玉はベテラン北別府の復活劇。防御率二点台十四勝で一気に二百勝到達は見事の一言よ。佐々岡はさすがに前年からは数字を落とすも十分な好成績、川口は勝ち運なくも内容は上々、逆に長富は防御率は悪いけど十一勝。川端は序盤ローテ入りも今ひとつな成績に終わったと思ったらあっさり引退し、途中からローテ入りした前年二軍最多勝の片瀬清利が七勝と頑張った。抑えはもちろん大野で、前年好調の石貫足立は続かなかったけど代わりに望月秀通や秋村謙宏が奮闘した」


「しかし望月、秀通ではじめと読ませるのはさすがに無理あるよ」


「本名は一で、高卒から長い下積みの中でそれは色々悩み考えたんでしょうね。それで順位だけど、開幕ダッシュには成功したけど六月にガタ落ちし、そこからもテンションが上がりきらないまま一応勝率五割は突破したものの四位に終わった」


「あらまあ」


「ただこの年のセリーグはかなり格差が小さくて、首位から三ゲーム差とそれなりに惜しい成績ではあったわ。優勝はヤクルト。前年から明らかに勢いを見せていたチームだけど、新外国人ハウエルが打率ホームランの二冠で大きな力となった。池山古田も三十本で広沢もいる、飯田は盗塁王、杉浦八重樫角富士夫ら前回の優勝を知るベテランも歓喜に華を添えた。投手陣は川崎が怪我で全休も伊東高野荒木らこれまた故障で苦しんでいた選手の復帰もあり、激しい優勝争いを勝ち抜いた。六十九勝六十一敗一分で貯金十もないからね。本当に大接戦の一年だったわ」


「二位は巨人と阪神が同率なのか」


「巨人は序盤最下位から新外国人モスビー、西武からトレード加入のデーブこと大久保博元ら途中加入組の勢いに乗じて大逆襲を見せた。投手は斎藤が最多勝と力を見せたけどいくら苦手だからってカープ戦登板ゼロはエースとしてどうよ。というわけでこの年は阪神の躍進のほうがインパクトは大きかったわ」


「優勝以来長らく苦しんでた阪神がか」


「特に投手陣では万年エース候補だった仲田幸司が十四勝とエースの働きを見せて、中込湯舟も防御率二点台と活躍。抑えは田村勤が抜群の働きを見せたけど前半戦だけで離脱。彼が最後まで戦えていればどうだったか。野手はオマリーと大洋から移籍のパチョレックがともに三割、岡田真弓らベテランは出番を減らす中で亀山努久慈照嘉新庄剛志山田勝彦といった、ちょうどこの年からラッキーゾーン撤廃されて広くなったグラウンドに適応した守備力重視の若手が台頭した。九月中旬に抜け出した瞬間があったけど、維持しきれず無念のV逸に終わった」


「やっぱり勝ち抜く、最後まで立っていられるって本当に大変だね」


「今年のカープもどこまでやれるか。それで五位は大洋。新外国人ラリー・シーツは打点王獲得もレイノルズは落ち着いて貧打は相変わらず。ただ好守の進藤達哉がショート定着し、投手から転向して登録名を忠徳から変更したばかりの石井琢朗も早速片鱗を見せた。投手陣は盛田幸妃がリリーフ中心で規定到達し最優秀防御率と十四勝、抑えの佐々木も十勝したけど先発陣の不甲斐なさの裏返しか。最下位は高木守道が監督就任した中日。落合すら平凡な成績だったように全体的に打力が落ち込み、投手陣も今中離脱などピリッとせず。ベテラン西本の一勝十一敗とか、逆によくそこまで任せたなという数字。ローテの柱となるべき山本昌がリリーフ登板したり抑えの与田に先発やらせたり、全体的に使い方が雑に見えるわ」


「前年の一位二位がBクラスに落ちてるんだからなかなかスリリングな展開だね」


「そしてパリーグだけど、優勝は西武。打者はデストラーデがホームラン王で清原秋山も三十本突破、田辺が三割打って石毛辻平野らも安定のハイアベレージ。ベストナイン七人ゴールデングラブ賞八人受賞のスタメンがずらりと並び、安部理笘篠誠二鈴木健大塚光二らが残りのポジションを争う陣容は充実しすぎ。投手陣は囲い込みの石井丈裕が十五勝に防御率一点台と軸になり、工藤渡辺久信郭も堂々二桁勝利。鹿取潮崎のダブルストッパーもまさに盤石で、六月頃から首位を奪うと悠々独走した。二位近鉄は三年連続最多勝の野茂にリリーフで最優秀防御率の赤堀元之や十三勝で新人王の高村祐、打線の中軸に座るブライアント石井浩郎など力ある選手はいてもチームとしての総合力が違いすぎる」


「近鉄の力不足じゃなくて西武がひたすら強いね。今とは大違いで」


「栄枯盛衰は時の定め。時間が正しく流れている証拠だからそれはそれで歓迎すべき事よ。三位はオリックス。序盤最下位独走し、そこから五割未満のままじわじわ順位浮上させたけど勢いを見せたんじゃなくてもっと弱いチームが三つあったって感じ。ベテランのブーマーを切った打線は高橋智が二十九ホームランと軸になり、新外国人トーベも三割打ったけどいささか非力。投手は星野を軸に酒井長谷川伊藤敦規のドラ一連中がローテを支えたけどリリーフはなおざり。四位はダイエー。ブーマーが打点王、佐々木が首位打者に吉永湯上谷藤本博史らを擁する打線はぼちぼちだけど投手陣は苦労。クジを引き当てた若田部は打たれながらも十勝して、村田勝喜や吉田豊彦も頑張ったけど他はちょっとね。それで田淵監督がクビになったけど、山内孝徳門田ブーマーらベテランも一斉に引退した」


「他はともかくブーマーはタイトル取ったのに引退?」


「年齢もあってシーズン終盤に成績急落したのが原因だそうだけど、ブーマーほど長く活躍した選手とて結局助っ人、傭兵扱いでしかないし当時の外国人枠のシビアさがそうさせた要因ともなったはず。今ならもっと残れたかもね。それで五位は東映のエースだった土橋正幸が監督就任した日本ハム。打線はウインタースが抜群の働きで鈴木慶裕や中島輝士、ルーキー片岡篤史も頑張ったけど全体的には迫力不足。投手は金石が十四勝とエースの活躍も他はリリーフの白井康勝ぐらいで後が続かなかった」


「そして最下位はロッテか」


「ディアズが精彩を欠いたまま途中退団するなど外国人は今ひとつで、日本人もインパクト不足。光るニュースはルーキー河本育之が抑え定着したぐらいかな。千葉移転を機にチームカラーをピンクに変更するなど大胆なイメージチェンジを図るも、新監督就任したかつての完全試合男八木沢荘六も含めてやっぱりまだ地味な印象は拭いきれずにいる」


「外見を変えても中身は同じままだし、簡単にはいかないね」


「そんな中でカープだけど、四位という成績自体は問題ではない。ちゃんと勝ち越してるし、若手野手も勢いを増してきた。ただ今後どう戦うかのビジョンがどこまで見えていたのか。外的要因もあって難しい時期だったのは間違いないわ。そう、この時期のプロ野球界は風雲急を告げていた。翌年にJリーグ開幕を控えた中で早くもサッカーブームが巻き起こりつつあったりね」


「ああ、ついにそういう時期に差し掛かったのか」


「ただそれ以上に前年読売新聞の最高権力者だった務臺光雄が死去して渡辺恒雄が社長就任というたかが一球団の親会社の人事こそより重大問題という球界の構造的な歪みが今後の地獄を生み出したのは間違いないわ」


 このような事を語っていると敵襲を告げる合図が光り輝いたので、二人は雨脚に紛れて人のいないところへ隠れると、変身して敵が出現したポイントへ急いだ。


挿絵(By みてみん)


「フハハハハハハ、私はグラゲ軍攻撃部隊のヨーロッパビンズイ男だ。この小さな惑星にも正義を打ち立ててやろう」


 夏場はヨーロッパから中央アジアに、冬はアフリカや南アジアに生息する小さな渡り鳥の姿を模した侵略者が山中に出現した。基本的に日本では見かけない鳥だが沖縄などにうっかり飛来する事もあるそうだが、今回の場合は偶然ではなく悪意ある到着なので放ってはおけない。そのための力は間もなく出現した。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「その邪悪な試みを今すぐ捨ててくれると誰もが喜ぶものを」


「グラゲの正義を広めるのは世界の喜びだ。それを理解しない馬鹿は死んでもらおう。行け、雑兵ども」


 地球に住む者を同じ生命と思わないからこそ口に出来る、傲慢で冷徹な指示にただ従うだけの血の通わない黒光りの殺戮装置を、勇敢な二人は次々と破壊していった。


「よしこれで雑兵は尽きた。後はお前だけだヨーロッパビンズイ男」


「鳥に生えた翼は遠く飛び去るためのもの。迷い込んだこの地球から即刻立ち去りなさい」


「そうだな。お前達を殺してからそうしようか」


 ヨーロッパビンズイ男はそう言い放つと、懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしかないようだ。巷に降り注ぐ雨は悲しい決意が流させた地球の涙であろうか。二人は心を重ねて合体した。


「ヴィクター!!」

「エメラルディア!!」


 空を覆う分厚い雨雲の遥か上空で、この星の運命を決める戦いが繰り広げられている。悠宇は持ち前の反射神経で敵の攻撃を回避しつつ懐に入り込み、カウンターを入れた。


「よし今よとみお君!」


「分かったよゆうちゃん! ここはウェービングシザーズで一気に決める」


 一瞬だけ生じた隙を逃さず、渡海雄は灰色のボタンを叩いた。背中に備え付けられた巨大なハサミで敵を打ち貫いた。


「おのれ忌々しい連中だ。必ず無残な死が待っているだろう」


 そんな負け惜しみを残しつつ、機体が爆散する寸前に作動した脱出装置でヨーロッパビンズイ男は宇宙の彼方へと帰っていった。雨上がり、光が反射した大地の白い輝きをこれからも見つめられる幸福を感謝しながら二人は帰宅した。

今回のまとめ

・FA逆指名前からフロントはかなり怪しくなってきているようだ

・今後もまだ使える戦力の引退放出が続いてちょっと気が滅入りそう

・野手の若手は着実だが投手は佐々岡以外いささか小粒な印象

・盤石そのものだった西武が零落したように永遠など存在してはならない

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