hg07 Cool Summerについて
とても暖かい日差しが花のつぼみを揺さぶる。花咲く季節はもうそこに迫っているというのに明日は雷を伴う大荒れ模様ともっぱらの噂である。気象庁の偉い人達が言う事だからきっとそうなんだろう。それでも今の快晴を楽しむのが一番朗らかな生き方と言えるだろう。
「春はいいよね。誕生日もそろそろだし」
「ふうん、とみお君の誕生日っていつなの?」
「三月の末だからもうちょっと先だけどね。ああ、プレゼントはいいよ。今のところ十分裕福にやっていけてるから」
「そんな事は知ってるわ。まあ春は色々なイベントがあるし、気分が高揚するのも仕方ないわね。相変わらず寒そうなそのズボンもじきに違和感のない季節になってくるし」
「ふふっ、今は春と言ってもまだまだ冬を受け継ぐ部分が多くて寒いからね。そんな時期に僕らの肝をさらに寒くさせるジャケットがこの『Cool Summer』」
「うわっ、何考えてんのこれ! 背景はどこか南の島だから開放的になってるのはいいとして、この透明の衣装は……」
「発売は一九九〇年の七月。ロケ地はカリブ海に浮かぶ島国バハマと言う事だし夏らしく南国らしく、かつインパクトのあるジャケットって事なんだろうけど正直きつい。また、一応九十年代に突入しているもののメンバーのルックスはそれまでのものを大いに残してるね。ちょうど今が暦の上では春なのにまだまだ寒さが残っているように、八十年代から九十年代になっても突然変異は起こらずいかにも八十年代っぽい部分は特にその初期ほど色濃いものだね」
「まあそんなものよね。さて、見てるだけで精神が削られそうな表紙をめくると歌詞が載ってるけど、まずは『Rabbit Train』なる曲ね。うさぎ電車? 作詞三浦徳子、作曲編曲は佐藤準」
「快速電車を意味するrapid trainのもじりだと思う。楽曲は、主人公をうさぎに見立てた歌詞が散見されるけど舞台は都会でファンタジー色は比較的薄いね。佐藤準と中沢堅司によるコーラスが賑やかな雰囲気を強めているよ。そうそう、このアルバムから曲ごとのミュージシャンが記載されるようになったんだ。例えばこの曲だとドラム山木秀夫、ベース美久月千晴、ギター今剛、キーボード佐藤準と国吉良一、シンセ松武秀樹という風にね。まあこんなの全部あげてたらキリがないし、特徴的な名前が出ない限りはあんまり言わないけど基本的には有名なスタジオミュージシャンだよ。ミュージシャンが豪華と言えば一時期のSMAPだけど、ああいう音楽をよく聴く人達がびっくりするような人選は基本的にない」
「そうは言ってもドラマーだのベーシストだのの名前を言われてもある程度詳しくないとさっぱりね。ましてやバンドとかじゃなくてスタジオミュージシャンとなると。ええと、次は『風はオレンジ』。作詞澤地隆、作曲松尾清憲、編曲椎名和夫」
「これはまさにアルバムのタイトル『Cool Summer』を体現したような曲だよ。タイトルからも想起出来るような夕暮れに吹く心地良い風をそのまま音楽にしたような曲調は涼しげで、なかなかの佳曲。やっぱりあまり見ない作曲家が携わると違ってくるものだね」
「次は『あてもなくオルフェ』。作詞平井森太郎、作曲網倉一也、編曲和泉一弥で、大沢のソロ曲なのね」
「網倉はこの十年ほど前がピークって人で光GENJIにもこの一曲だけだね。ラテン全開でアダルトな雰囲気を醸し出す曲で、大沢の癖のある巻き舌を多用した歌唱も合わさって独特の濃厚な世界観が出ている。それと和泉一弥が編曲だけこなしてるけど、基本的にこの人は作曲してこそって印象かな。アレンジだけしてる場合に『うわあ、いいアレンジだなあ』ってなる事ないし」
「ううむ、この歌い方は正直ちょっときついかも。アクセントとして使われるぐらいならまだしも全部この歌唱となると、曲調と合わさって私には濃すぎて胃もたれしそうになるわ。さて、四曲目は『素敵に…』。作詞作曲西岡千恵子、編曲新川博」
「アコースティックな雰囲気のシンプルなバラードで、まあ悪くはないよ。次は『バラードにリボンをかけて』という赤坂ソロ曲。赤坂はキャラクターとしては王子様的なところがあったけどこの曲ではテーマが学園祭とあえて普通っぽいキャラクターをイメージした歌詞となっているんだ。作詞は吉元由美、作曲井上ヨシマサ、編曲佐藤準。曲自体はかなり正統派と言うか、素直で明るい感じでしょ」
「確かに陽気な曲ではあるわね。ただ女性コーラスが存在感を主張しすぎてるのはちょっとね。もっと赤坂の声を活用する方向で良かったのに。次は『あの日の忘れもの』。作詞三浦徳子、作曲編曲佐藤準」
「『Rabbit Train』と同じ人たちによる曲だけど、カントリーミュージックっぽい曲調が新味だね。楽器も単なるヴァイオリンじゃなくてフィドルとあえて表記されてるし。最初聴いた時はなんだこれと思ったけど慣れると可愛らしく思えるし、何より歌詞だね。ロマンがあって実は結構好き。幼馴染っていいよね、みたいな。三浦徳子お得意の語尾が『~さ』って気障っぽさとかも炸裂してるし、やっぱりこれだよってなる」
「ところでフィドルってのは普通のヴァイオリンとどう違うの?」
「楽器としては同じとの事だけどね。色々調べたけど要はクラシックなんかでその楽器を使うとヴァイオリンで民族音楽なんかでその楽器を使うとフィドルと呼ばれるみたい。だから演奏のスタイルが違うから呼び方が変わるって事。『あの日の忘れもの』の間奏では跳ねるような演奏を見せているけど、こういう多少ラフだったりワイルドな演奏がありなのがフィドルって事で、多分いいんじゃない?」
「厳密に区別するより感じろって領域なのね。次は『ヒット・パレード・ボーイ』という山本ソロ。作詞作曲森若香織、編曲佐藤準」
「ゴーバンズという当時知られていたガールズバンドの中心人物である森若の手による、かなりテンポが速い打ち込みが印象的な曲。割とポップな感じは好ましいけどやや軽いのと、山本の歌い方がもう一歩平板なのが惜しいかな。と言うか歌詞カードがね、歌詞の横にメンバーの写真も年齢順に載ってあるけど大沢ソロ曲の横には諸星の笑顔で大沢は一ページ前だったり、この山本ソロ曲も横は佐藤寛之で次のページに山本だったりと、どうも間が悪いんだよね。そこはちょっと調整しても良かったんじゃないかな」
「その山本が笑う横に載った歌詞は『君を探して』という曲ね。作曲都志見隆、編曲佐藤準はいいとして作詞内海光司というのは新機軸ね。自分のソロ曲とは言え、メンバー自身が曲作りに携わるとは」
「まあ作詞ぐらいならね。しかしこれがまたしょっぱい曲でねえ。まず曲調が古いと言うか地味なバラードだし、内海の書いた歌詞もねえ。『今は別れるけどいつかきっとまた会える』とか多分そういう事なんだろうと思うけど。そして何より歌だよ。内海は元々歌唱力も声量もないから特にサビなんかはパワー不足があからさまで、しかもやたらと長くて最後まで聴くのがちょっとしんどいなあ。どうやって着地するんだって仰々しいイントロはちょっと引き込まれるけど、曲が始まるとたるい」
「ファンにとっては嬉しい曲でしょうね。次は『冒険者たち』。作詞高柳恋、作曲岸正之、編曲米光亮」
「これはこのアルバム最大の名曲だよ。まず曲のパワーが違う。イントロが長いけど格好良いし、歌詞も都会が舞台ながらファンタジー的な見立ても用いつつ真面目かつアグレッシブで熱い。間奏もかなり盛り上がるしこれはシングルでもいけたじゃないのかなというぐらい個人的な評価は高いんだ。米光亮の編曲は結構好きなものが多い」
「確かにここまでいかにもシングルって勢いの曲はなかったからかなり力強く響いて来るわね。そして十曲目が『荒野のメガロポリス~PLEASE』。作詞作曲は、おお、飛鳥涼! 編曲も佐藤準だし、まるで全盛期に戻ったみたいじゃない」
「これは一九九〇年の二月に出たシングルとそのカップリングを一曲にまとめたものなんだ。元々『荒野のメガロポリス』と『PLEASE』は二つで一つと言うか、そのシングルの時点でアウトロとイントロが繋がってる組曲風になってたんだけど、はっきり言ってとんでもない名曲だよ。それはもう、歌詞も曲もアレンジも攻撃力が高くてイントロからアウトロまでどこを切り取っても格好良い『荒野のメガロポリス』と、真摯さゆえの得難い美しさを持つ賛美歌のようなバラード『PLEASE』の組み合わせはもはや最強。売り上げガクッと落としてるけど」
「確かにこれは凄まじいわね。とにかく圧倒的だわ。それなのに売れなかったのは、ちょっとダークな雰囲気だから? 何となく二〇一一年の大災害を思い浮かべちゃったし」
「世紀末的と言うのか、とにかく未曾有の災厄に見舞われた際の先の見えなさを形にしたような曲だからね。ここでまず徹底的な破滅を描写した後でそれでも愛を胸に抱きながら、勇気を持って、希望を捨てずに生きていこうという『PLEASE』につながるんだ。ただ『荒野のメガロポリス』は六分を越える大曲だからシングルでは四分台にまとめるため二番はカットされたんだ。そしてそのカットされた二番をこのアルバムにおいて披露して、これ以降の解散までに発売されたベストアルバムにおいては六分越えのフルバージョンが収録されているんだ。だから基本的にはそっちで聴くのが一番だね。そもそもこの『Cool Summer』に入ってるバージョンは両者をくっつけているけど明らかに無理やりでかえって良さを削いでいる印象」
「確かに冒頭のバラード部分から加速する際の音色とか唐突な印象があるわ。それでいて意味不明なエネルギーを生み出してるって程でもないし。ただそれでも名曲は名曲だから問題ないけど。そして最後は『I Love Youは雲にのせて』。作詞真名杏樹、作曲来生たかお、編曲新川博、コーラス編曲椎名和夫と割と手間がかかってるわね」
「これはなかなか爽やかな、広大な北海道の草原を思い浮かべるイメージのバラードだよ。アカペラとソロパートから始まってだんだん声と楽器が重なって結構な盛り上がりを見せつつ、最後はまたアカペラで終了って構成もいいね。作曲家もなかなかの大物だし。お姉さんは光GENJIに関わってこないけど。そう言えば、このタイトルはどこかのアイドル雑誌に歌詞を掲載してタイトル募集した結果選ばれたものらしく、そこも凝ってるよね」
「アルバム名『Cool Summer』に違わぬ曲で綺麗にまとまったわね。ジャケットに反して夏全開! みたいな曲が案外少ないのは拍子抜けと言うか、むしろアルバムタイトルに沿ってるのは楽曲のほうだからジャケットこそアレよね」
「まあ一番インパクトがあるのがジャケットなのは否定しないよ。それにソロ曲が多く、しかもその質は『Hello…I Love You』と比べてもちょっと微妙かなという部分もあって、総合力ではやや劣る印象は強いね。このアルバムらしいのは『風はオレンジ』『I Love Youは雲にのせて』あたりの爽やかなバラードやミディアムテンポの曲で、しみじみといいよ。『あの日の忘れもの』みたいな変わり種も許容できる程度には幅も広がっているけど、結局一番いいのは『冒険者たち』みたいな勢いがあって格好良い王道の楽曲だね。そしてAmazonで中古1円はいつも通り」
コンピュータルームにて、このような事を話しているとグラゲ軍襲来のランプが光りサイレンの音がけたたましく鳴り響いた。春の嵐よりも先にこの問題に対処する必要があるとすれば、それに立ち向かうのにためらう必要などない。渡海雄と悠宇は素早く変身して敵の出現したポイントへ急いだ。
「私はグラゲ軍攻撃部隊のカジキ女! この星を貫くマシンを設置するべく地均しを行わねばならぬ」
穏やかな春の海に突如襲いかかる暗雲のようなグラゲ軍のカジキ女登場。しかしそれに対抗する地球の矢である渡海雄と悠宇の二人が素早く現れた。
「そうはいかないぞグラゲ軍! 地球は地球だ。お前たちの好きなようにさせられるものか!」
「そうよ。今日みたいな暖かい一日がこれからもっと増えていくはずなのに地球の命は今日限りなんて、絶対に認めないわ!」
「ふん、現れたなエメラルド色の瞳を持つ二人組。まさしく今日が貴様らの最期となるのだ。雑兵ども、かかれ!」
勢いよく砂の中から飛び出して二人の方へと駆けていった雑兵たちを片付けると、もうそこにいる敵はカジキ女だけとなった。
「後はお前だけだな、カジキ女!」
「そもそも地球をあなたたちに授ける意思なんて1000%ないんだから、そろそろ諦めなさい」
「ふん、我がグラゲ軍を甘く見るなよ。そしてまだこの戦いは終わっていない。この私自らの手で決着をつけようではないか!」
そう言うとカジキ女は懐に持ち歩いていたスイッチを押して巨大化した。それに対して、渡海雄と悠宇もそれぞれの持つエナジックウェーブを同調させる事で身も心もひとつの巨体となって立ち向かった。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
カジキロボット持ち前の角、正確に言うと吻を生かした突撃をうまく回避しつつ体勢を整えると、一気に逆襲に転じた。長い吻も逆に極限まで接近するとうまく扱えなくなるもので、メガロボットの我が身を顧みない突撃的格闘によって追い詰められたのはカジキロボットのほうであった。
「むうっ、カジキロボットがひるんだわ! とみお君、今こそとどめを!」
「よし、カジキには電撃だ! サンダーボールで決める!!」
悠宇の声に促されるように渡海雄は黄色いボタンを押した。右手首から発射された光の玉はカジキロボットの全身を捕捉して、そのメカニックを完全にショートさせた。
「ええい、これ以上の戦闘はもはや不可能か! 撤退する」
海に散ったカジキロボットがその姿を完全に消滅させる直前に作動した脱出装置によってカジキ女の命は助かった。しかしグラゲ軍にとってそれはまたも作戦の停滞を意味する。これで諦める相手ではないにせよ、日々の積み重ねによっては何かが変わるかも知れない。それを信じて、今は戦い続けるしかないのだ。たとえ明日が雨だとしても。
今回のまとめ
・今日は本当にいい天気でこんな日が続くといいのだけれど
・ジャケットほど楽曲はいかれてなくてむしろ落ち着いた楽曲が印象的
・そしてソロ曲は軒並み微妙
・昨日光GENJIのCDで一番入手困難なものを入手出来た




