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oi02 鶴竜横綱昇進について

 春休みになった。順当に行くと四月から四年生になる渡海雄と悠宇であるが、作中の都合上ここでループさせる予定なので特に祝うべきものもない。それはともかくとして、今日は素晴らしく春らしい、ほのぼのとした日差しが気持ちよさそうだったので悠宇は近所の公園へ散歩に出かけた。そして渡海雄も同じ事を考えていたらしく、しばらくうろついているとばったり出くわした。


「おはよう! って、あれ、とみお君、髪切ったんだ」


「うん。六年生の皆も卒業したし、僕としてもうざったかったこの前髪からの卒業をしようと思ってね」


「ふうん。それにしても急に暖かくなったと思ったら雨が降ったり、運動量豊富な天気の移り変わりを見せてくれているから大変よね。風邪とか引かないようにしないと。とは言ってもとみお君の場合は暖かくなる前からその足だし気にするまでもないか」


「まったくもう。僕だって馬鹿じゃないんだから風邪も引くよ」


「まあ知ってるけど。ところで見た? 昨日の千秋楽」


「もっちろん、見たよ見たよ! 鶴竜横綱! そしてかっこいいEDの音楽!」


「まさかこうもうまくいくとは思わなかったわ。両横綱を破っての十四勝一敗で初優勝。一応まだ正式に横綱昇進は決まってないけど、この成績を続けて残したんだから当然そういう事になるわよね」


「鶴竜は先場所も良かったよね。去年まではむしろ一番地味な大関で優勝争いにもあんまり絡んでこないってイメージだったのに、これが一皮むけたって事なのかな?」


「そうらしいわね。ただ今回の鶴竜綱取りに『いや、それはどうなの? 何となく釈然としないなあ』って思う人もいて、それは鶴竜がこれまでそんな立派な成績を残し続けては来なかった、それほどの存在感を見せてなかったからという事実があるからよ。いわゆるクンロク大関って、大関なのに平幕相手に度々不覚を取って優勝争いからは遠い九勝六敗程度の成績に終わる不甲斐なさを揶揄するような言い方があるけど、去年までの鶴竜はまさしくそれだったもの。それが今年は本割では横綱大関に負けなしで連続の十四勝だから、正直私としても呆気にとられている部分はあるわ。これが実力だとしたら今までは何だったの、みたいな」


「だよねえ。調べてみると鶴竜の去年一年間の通算成績が五十四勝三十六敗で、ぴったり九勝六敗ペースだもん。それに先場所も今場所も、特に序盤は危うい取組もあって、そんなに強くて強くてって感じではないよね」


「そこを見ると『もう少し様子を見てもいいのでは』って思われるのは仕方ないわね。ただ紙一重の勝負をきちんと拾えているとも言えるわ。こればっかりは外野がいくら議論したところで答えは土俵の上で出す以外にないし、鶴竜としても本当に大変なのはこれからよ。大関までなら地位ほどの力はないと証明されると番付が下がり、その分楽になるけど横綱は常に最強を求められて駄目なら引退しかないんだから」


「日馬富士なんかもよく叩かれたりしてるし、やっぱりシビアだよね。それにしても、鶴竜が今年に入ってからこんなに勝ち星を積み重ねられてるのは何でなの? まぐれだけじゃああはならないよね」


「よく言われてるのが体がそれまでより一回り大きくなったってところね。技は昔からあって何でも出来るものの、『型がない』とよく言われていたわ。それが今はパワーをつけてなおかつスピードも保てるぐらいのちょうどいいサイズになったから、それまで身につけていた技を発揮しやすくなったのが良かったんじゃないかしら。型がないって事は万能でどんな形の相撲も取れると考える事も出来るし、それこそ大鵬という昭和の大横綱ぐらいの境地に行ったら凄いけど」


「でもやっぱり地味だよね鶴竜って。先場所は綱取り挑戦していた稀勢の里とか、それが失敗してからは好調だった遠藤のほうがよく騒がれてたし、今場所だって綱取り場所だとは思えないぐらい静かに終盤まで行ったよね。日馬富士に勝ったあたりでようやくって感じ」


「普段と比べると報道は多かったほうだけど。それにその辺までは平幕とかの格下相手だし、綱取りを目指すような立場の力士なら勝って当然、そんなところでこけるようではお話にならないわ。それとやっぱりモンゴル人力士だからって部分もあるでしょうね。個人的にはどうでもいい話だけど、やっぱり日本人力士がいまいち振るわない、優勝に絡まないって現状が確かにそこには存在しているわけで『もっと日本人力士に頑張ってほしい。優勝したり横綱に昇進したりしてほしい』と願う相撲ファンがいるのも不思議な話じゃないわ」


「国技と称してるぐらいだもんね。それで日本人力士の中で期待されてるのが大関では稀勢の里、もっと若手では遠藤って事になるのかな」


「稀勢の里は長らく期待されてて、実際に大関まで到達したんだからよくやってるとは思うわ。大関でも割と安定して二桁勝利してて成績は明らかに鶴竜より上だったから、普通に考えると横綱に近いのは鶴竜よりも稀勢の里のはずだったんだけど」


「実際に優勝して横綱になるのは鶴竜のほうだもんね。それにしても期待が大きい分『こんなもんじゃないはずだ』と思われるから評価も辛辣になるのは大変だね」


「うん。稀勢の里に関してはやっぱり期待が大きすぎるという部分も正直あると思うの。思えば幕内優勝なし、決定戦に出た事すらないんだから。鶴竜はこれでも先場所含めて二度決定戦には出てたわけだし、本質的な部分における負けられない戦いの経験という点においては鶴竜のほうが実は上回っていたと言えない事もない。それに加えて、綱取りと目された場所において稀勢の里は平幕相手の序盤戦で早くも達成不可能になってしまったけど、鶴竜はご覧の通りの一発回答を見せたんだから。あるいは運と言ってもいいかも知れないけど、そういうチャンスを逃すか逃さないかって部分もまた実力の一つよね」


「確かに、肝心な場所でしっかりアピールするってのは大事だもんね。去年のサンフレッチェ広島も最後の最後でしっかり勝ったから優勝したしマリノスは千載一遇のチャンスを掴めなかった。それでこんなにも差が生まれてしまうんだから勝負って怖いよね」


「確かに鶴竜はサンフレッチェで稀勢の里はマリノス的な結果になったわね。ただ稀勢の里は根本的に強いからまたチャンスを作り出せるはずよ。そしてそれを逃してがっかりという流れを、断ち切れたらいいのにね」


「横綱昇進の目安が確か二場所連続優勝かそれに準ずる成績だっけ。稀勢の里はそれを一場所は達成出来ても二回となると難しいのかなあ。それにしても、先場所も今場所も鶴竜を破った隠岐の海って、あれは何なの?」


「隠岐の海ねえ。素質は凄いと言われつつも稽古嫌いで伸びきらないという日本人力士のパッとしなさを体現するような力士だけど、まあ心技体と言うようにそういった心がけも含めて本人の実力なんだから、やっぱり稽古を稽古と思わないぐらい稽古しないと一流の先には行けないものなんでしょうね。もちろんここまで上り詰めたって事は常人を凌駕する努力の末なんでしょうけど、なまじそこまで行けた分期待値も変わってくるってもので。遠藤も今場所は負け越したけど負けて学ぶという事もあるわ。何が通用して何が通用しなかったか、上に行くのに何が足りなかったのか。それを糧にすればもっと強くなる可能性を秘めているし、でも駄目かもしれないし」


「なかなか難しいよね。そう言えばエジプト人の大砂嵐は途中まで順調だったよね。明らかにパワーがある感じで、将来どうなるのかなあ」


「大砂嵐に関してもそうだけど、相撲はパワーだけじゃないから。長身に怪力って事だとまさに琴欧洲なんて凄まじかったけど、その琴欧洲でさえも横綱にはなれなかったし。今場所途中休場となったけど、とにかく相撲なんて競技の特性からしても怪我が多くなるのは必然だから、そこにも気を付けないと終わってみて『もっと行けたはずだったのに、こんなもんで終わってしまったなあ』みたいに思われるのよね」


「そう言えばその琴欧洲が今場所限りで引退したよね」


「去年限りで大関陥落となって、先場所で十勝すれば大関返り咲きだったけどそれもならず、しかも帰化して日本人になったから。もちろん相次ぐ怪我で肉体的なダメージが蓄積していたのが一番の原因だった事は間違いないにせよ、それでもなお相撲を取り続けたい勝負し続けたいという気力、モチベーションのほうも尽きてしまったという事なんでしょうね」


「本当についこの間まで大関だったのかと思わず問いかけたくなるような連敗してて、本当に苦しそうだったからねえ。ところで、他はともかく何で日本人に帰化する事がモチベーションの低下につながるの?」


「単に相撲を取るだけなら別に外国人のままでいいにも関わらずあえて今帰化するのにはやっぱり理由があって、それは平たく言うとね、親方になるためよ。親方になるには年寄名跡という権利みたいなものを取得する必要があって、これを取得するには日本国籍を有するという条件があるの」


「へえ、そういうルールがあったんだ。じゃあ今までの親方になった外国人力士も皆そうなの?」


「そういう事らしいわね。知っての通り、琴欧洲はブルガリア出身だからそのままではどれだけ実績を残しても親方には絶対になれない。例えば把瑠都という、その名の通りバルト三国の一番北に位置するエストニア出身の力士がいて、彼は元々角界に残る考えはなかったようでエストニア人のまま引退したわ。そして実際元大関にも関わらず親方になる権利を行使せずに相撲協会を去って後悔はなかったとの事よ。引退後も相撲協会に関わりたいなら帰化するしかない。逆に言うと、外国人力士が帰化するって事は引退以降を見据えての行動である可能性が高く、そういう事を考え始めるって事は現役に対するモチベーションが低下している可能性が高いって事よ」


「確かに報道でもこれからは琴欧洲親方として後進の指導にあたるって言ってるね。若くから大関として頑張って、本当にお疲れ様でした。そしてこれからは自分を超えるような力士を育てられるといいよね」


「うん。思えばちょっと前は大関六人とかだったけど、上がったり落ちたりですっかり整理されたわね。琴奨菊は多分このまま大関が最高位だと思うけど、稀勢の里はどうなるのかしらね。先場所は綱取りなどと騒がれながら序盤で可能性が失せて負け越し。カド番だった今場所は勝ち越しはしたものの存在感なしでまさか鶴竜に追い抜かれるなんてねえ」


「稀勢の里は二十七歳か。そして鶴竜は二十八歳。横綱になるにしても駄目にしてもそろそろはっきりとした答えが求められる頃合だね」


「鶴竜にしてもこれでスロー昇進と言われるぐらいなんだから。日馬富士も横綱昇進時は二十八歳でこれまたスロー昇進と当時言われていたわ。日馬富士の場合は大関時代がやや長かったわね。それと比較すると鶴竜の大関時代は十二場所、丸二年ってところだから早くもなく遅くもなく。ただ成績を見ると関取になるまでに苦労した感じね。白鵬や朝青龍は二十二歳で早くも綱取り成功してるわけだし、やっぱり大横綱になるような力士は若いうちからそれぐらいの勢いがあるものなのよね」


「そこまでの横綱になれるかは難しいとしても、とにかく一回は優勝してほしいよね。もちろんここまで上り詰めただけでも凄く立派なんだけどね、花田勝氏みたいに言われるのも辛い話。ううん、鶴竜横綱。もう一回言ってみよう。横綱鶴竜。時代は変わるもんだなあ」


 実際本当に鶴竜が横綱になれるとは思わなかったが、私が初めて鶴竜という名前を知った頃、勝ったり負けたりしていた頃は大関にすらなれるとさえ思っていなかった。相手を圧倒して勝利、みたいな取組を見た記憶がほとんどない。最初のパワー勝負では押し負けるが五分で、攻められてからの逆転も多かったと記憶している。そう言った事を話していると敵襲を告げる光が輝いたので素早く変身して敵の出現したポイントへ向かった。


「わはは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のツル男だ! この惑星のチャンピオンになって望む形とするのだ」


 思えば鶴竜という四股名は全く異なる動物を二つくっつけたというなかなかにワイルドな代物だが、最初聞いた時は「なんだか知らないけどいい名前だな」と感じて、そこから注目するようになったという事実もある。字面も響きもすぐ頭に残って、まあ師匠はうまく名付けたものだと思う。とにかく、ツル男の出現したビルの屋上に二人はジャンプしてたどり着いた。


「そこまでだグラゲ軍! ほのぼのとした空気を壊す敵は特に容赦しないぞ!」


「荒れる春場所とは言うけどそれを沈めるのが私たちの役目よ。確実に鎮圧してみせるわ!」


「ふん、やはり現れたか。しかしこの星を鎮圧するのがこの俺の役目だ。さあ行け雑兵ども! 奴らを討ち取れ!」


 ゾロゾロと出現した雑兵を勢いよく投げ飛ばして倒すと、気付いたらそこにはもう渡海雄と悠宇とツル男だけになっていた。


「後はお前だけだなツル男! いい加減観念しなよ」


「負けたら即引退ってわけでもないんだから、退くのも勇気よ!」


「馬鹿め。お前たち如きの言葉は耳に入らんわ。そして俺にはまだ戦う術はあるのだからな!」


 そう言うとツル男は懐に隠し持っていたスイッチを押して巨大化した。グラゲ軍人はなかなか話を聞いてくれないが仕方ないので気にしない。渡海雄と悠宇もまたその肉体と精神から溢れるエナジックウェーブを同調させた。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 ビルより高い二体は空を覆い、春の陽気を遮った。ツルロボットは見るも優雅な動きでメガロボットを翻弄する。しかしメガロボットは太陽を背にした撹乱作戦でツルロボットの動きを封じると、一気に勝負に出た。


「ええい、レインボービームで勝負だ!」


 渡海雄は白いボタンを押した。胸部から発射される波長の異なる七本のビームがツルロボットの胴体を貫いた。


「まさかこれほどとは! 残念だが脱出するしかあるまい」


 空の上にて、ツルロボットが爆散する直前に作動した脱出装置によってツル男は宇宙の果てへ撤退した。本当に横綱鶴竜となるのは次の夏場所からとなるが、どれほどやれるものなのか楽しみでもあるがそれ以上に不安が大きいというのが実際のところではある。もちろん白鵬も日馬富士も、大関陣も若手も中堅も、それぞれが実力を発揮して面白い取組を連発してくれればそれに越したことはない。

今回のまとめ

・鶴竜幕内初優勝と横綱昇進おめでとうございます

・平幕の頃から目をつけてたみたいに言えるのは楽しい

・日本人力士はホープがコロコロ変わるが遠藤はどこまでもつか

・周辺環境は問題山積みだけど見れば楽しいのが相撲

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