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pr47 猛虎爆発の中で古葉監督勇退した1985年について

 師走の朝を迎えた途端に吐く息が白くなった。春や秋はなかなか訪れないのに冬だけはこの手際の良さだ。でも小学生男子たる渡海雄はまるで怪獣の力を得たかのように一層いきいきとしていた。


「いよいよ今年も終わってしまうねえ。それでカープは二位でサンフレッチェも最後の最後で三位を確保。全てが順調ってわけじゃないにせよ、概ねいい流れだったよね」


「そうね。昨日発表された現役ドラフトでは近年出番を失っておそらく戦力外一歩手前まで来ていたであろう中村祐太を放出して楽天から剛腕原石の内間拓馬を獲得。後はFAの補償をどうするか。そして外国人は安価で予備枠のコルニエルを除くと総入れ替え。日本人選手の移籍は少なくともなかなか大胆な施策じゃない。吉と出るか凶と出るか。というわけで昔話よ。今回は一九八五年」


「全然繋がってないような気がするけど。ともあれ前年はカープ現時点で最後の日本一となったね」


「その余裕からか、アイルランドとレーシッチの両外国人を解雇して代役は不在。つまり外国人選手なしでシーズンを戦う事にしたのよ。ねっ、大胆な施策でしょう」


「そういう大胆さはあんまり歓迎したくないけどなあ。役に立ってなかったレーシッチはともかくセカンドはどうするつもりなの?」


「アイルランドも数字は落としてたしね。最低限木下はいるし後は若手の原、前年のロサンゼルスオリンピック代表で金メダルを獲得した実戦的と評判のドラフト二位のルーキー正田耕三らの台頭に期待ってところかな。それでドラフトだけど、一位では箕島高校のエース嶋田章弘を指名するも阪神に籤を引き当てられ、結局その控えだった杉本正志を指名したけど一軍登板なく引退した」


「あらまあ」


「でも嶋田も投手としては未勝利のまま野手転向するし、素材を見抜くって難しいものよね。三位は地元広陵から強打の内野手石橋文雄。これも期待されてたけど……。また下位やドラフト外で高校生捕手を三人指名し、大洋からもキャッチャー福嶋久晃を獲得した。この福嶋、第一回ドラフトでカープが指名するも拒否した選手なので実に二十年来の念願成就となった。とは言えすでに四十近く、開幕戦でサヨナラヒットを放つなど代打として働きつつ一年で引退し指導者へ転身」


「打撃だけだともう少し使えそうだけど、最初からコーチ転身前提だったのかな」


「それで既存の選手だけど、まず野手で全試合出場が衣笠高橋山崎長嶋の四人。そのうち三割到達の山崎はベストナインを獲得、衣笠と長嶋は打率二割九分台で安定した成績、高橋は打率をやや落としつつも自己最高七十三盗塁でタイトル獲得。また山本浩二も規定到達したけどさすがに年かという落ち着いた成績になってきた」


「四月は肉離れで全休か。欠場が増えたのも含めていよいよ大名人の最晩年だね」


「サードショートと外野は彼らが頑張ったけど残りのポジションは、まずキャッチャーは達川が二割三分と打撃不振で山中の出番が増えた。ファーストは小早川と長内が競争。そしてセカンドだけど、木下は予想通りの働きも正田はまだ通用せず、原もインパクトを残せなかったのでシーズン終盤には小早川が担うに至った」


「無理するなあ」


「力あるけど守備位置が被る選手の共存はいつの時代も大変よ。浩二離脱時は長内外野で問題なかったんだけどね。その他控えだと西田が代打要員として存在感を増しつつある。ただ全体的に打高傾向が進む中で三十ホームランの選手がいないのは数字以上に迫力不足と言えそう。次に投手陣だけど、北別府はエースとして盤石。大野と川口の両左腕も規定到達したけど防御率四点台。ただ大野なんてこれでも防御率十傑に入ってるし、十分以上の働きよ。そして二年目の川端がリリーフ中心ながら先発でも投げて防御率二点台で十一勝と活躍し、前年出番が少なかったのも幸いし新人王に輝いた」


「小早川に続いて二年連続新人王って事か」


「八十年代まで一人もいなかったとは思えないペースよ。他に高卒四年目の左腕高木が前半戦好調でオールスター出場も果たしたけどそこから急失速して、二桁も規定も届かなかったのは残念。九勝目は六月だったのに。金石や白武は先発で出番を増やし、左サイドスローの清川も台頭の気配。去年最優秀防御率の小林はさすがに数字を落とすもまだ使える。一方で七十九年に台頭し最大の輝きが八十四年とカープの日本一とともにあった山根が肩を痛めて低迷、津田も苦戦、池谷は引退した」


「池谷もついにか。しかし初優勝時の主力もさすがに減ってきたね」


「十年経てばね。そして順位だけど、六月に貯金十と伸ばして阪神巨人と優勝争いを繰り広げたけど九月に失速し二位。優勝はご存知の通り阪神。そしてバース三冠王を筆頭に掛布四十本、岡田と真弓が三十本突破などその強打もまたよく知られたところでしょう。なお有名なバックスクリーン三連発は四月の話で、結果的にこの年の猛打の象徴となったけど優勝出来てなかったら特に言われる事もなかったでしょうね。投手陣はチーム最多の十三勝を上げた新外国人のゲイル含めて四点台ばかりで見栄えはしないけど、ただベテラン山本と新鋭中西清起の二本柱を軸にしたリリーフはなかなかの働きだった」


「でもここまで援護があると楽だったろうね」


「その勢いのまま日本シリーズも制覇。二リーグ分裂後初にして長らく唯一の日本一だったけど今年ようやく呪縛を破った。カープも早くそうなりたいものよね。三位は巨人。カープと同時期に失速したけど十月に遅まきながら立て直したカープと異なりそこからも転落を続け最終的には貯金一。中軸の原クロマティに吉村も成長を見せた打撃陣は強力だけどさすがに阪神には及ばず。投手陣は三年目の斎藤雅樹が防御率二点台の十二勝で台頭し、新外国人のカムストックもぼちぼち、リリーフでは鹿取が六十試合登板とタフに頑張りリーグ唯一のチーム防御率三点台」


「選手は相変わらず頑張ってる。やっぱり監督なのかな?」


「バースが自身の五十五ホームランに迫ったから抜かれまいと敬遠攻めを仕掛けた結果出塁率が上昇して吉村のタイトルが消えたり、下手な采配を叩かれたのは事実よ。四位は近藤貞雄が監督就任した大洋。スーパーカートリオと称された高木豊、加藤博一、屋鋪要と四十盗塁を超える俊足を揃えたお陰で盗塁数リーグトップも中軸はレオン以外もう一歩。投手陣も実績十分な遠藤と齊藤以外計算が立たない。欠端光則が九勝とは言っても五点台だしね。そんな大洋と激しく争った末の五位は中日。宇野がショートを守りながら四十本突破は見事だけど、中軸に離脱者多発は厳しい。投手陣は小松がタイトル総なめして郭や鈴木も頑張ったけど、牛島をリリーフ専念させきれなかったのは苦しさを感じる」


「そして最下位はヤクルトか」


「四月の時点で最下位独走だから世話ないわ。特に投手陣が苦しい。エース尾花が先発と抑え兼任の駒不足に、その尾花も四点台という成績そのものも大概で。打撃陣は杉浦若松八重樫とベテラン頼りも、ルーキー広沢克己が十八ホームランと大砲の素質を存分に披露した。まあその程度じゃ全然足りないんだけどね。チーム盗塁数二十九も少なすぎ」


「とにかく各球団四点台と三割打者山盛りで、派手な野球が展開されていたんだね」


「そしてその最たる球団だった阪神が強いインパクトを残したのも必然。そしてパリーグだけど、優勝は西武。しかも五月に抜け出してからぐんぐん後続を引き伸ばす独走だった。以前はベテラン頼りの印象も強かったけど野手だと秋山が四十ホームラン放ち辻発彦もセカンドを確保、投手では工藤公康が最優秀防御率に渡辺久信や郭泰源も出てきて一気にフレッシュになってきた」


「チャゲアスが作った泥臭い応援歌『Vのシナリオ』もこの年だったね。中日から移籍してきた田尾のパートはさだまさし作詞だとか」


「それは知らないけど、田尾は凡庸な成績だったわね。日本シリーズで阪神に屈したものの、根本が集めた若手が本格化してきたという意味では重要な一年と言えそう。広岡監督退任も含めて、フェイズの変わり目がこの年だった。二位以下は三球団が五割前後で延々と争ってたけど最終的に少し上に立ったのがロッテ。圧巻は落合二度目の三冠王で、数字もバースに負けず劣らずの凄まじさ。村田復活とか台湾人荘勝雄の活躍とか新人横田真之の三割とか他にもトピックスは色々あるけど、やっぱり落合よね」


「バースも含めて凄まじい成績だね」


「三位は近鉄。デービス四十本バンボ三十一本と助っ人がパワー発揮、高卒二年目の村上隆行をショート抜擢しエラー連発も打撃はいいものを見せた。投手だと石本貴昭がリリーフ専任で七十試合登板し十九勝、規定到達と凄まじい成績。ただチーム防御率五点台で先発陣が頼りなかった裏返しでもある。鈴木は防御率七点台に落ち込みシーズン途中で引退するし。その中で四球団目となる高橋里志が中継ぎとして頑張ってるのは嬉しくなる。四位は阪急。佐藤最多勝や松永盗塁王、熊野輝光新人王と個々の奮闘はあったけど序盤に出遅れて以降もなかなか勢いを見せず」


「でもロッテ近鉄阪急はほとんどゲーム差もないし、大体同じようなものか」


「五位は高田繁が監督就任した日本ハム。打撃の軸は三割三十本の古屋英夫で、投手は十一勝の柴田保光を中心に河野博文、津野浩、田中幸雄など若手が頑張ったけどまだ力不足で低空飛行に終始。そして最下位は南海。年明け早々主力の久保寺が二十六歳にして急死する不幸にも程がある幕開け。門田新井らベテランが不振の打撃陣に、両山内や九勝と力を伸ばした二年目の加藤伸一も含めて一軍で投げた投手全員が防御率四点台以上という投手陣では低迷も当然。むしろ途中まで日本ハムと最下位を争えただけでも御の字よ」


「本当にいい事がないね」


「それでカープだけど、外国人がいない割に十分戦えたものよね。ポジション的に弱かったのはセカンドとリリーフだから前年の方向性は正しかったと思うけど、当時二枠しかなかった外国人枠をそういう脇役に使うのももったいない。でも中軸にふさわしいファーストや外野も空きがないとなると一つ合理的ではあったんでしょうけど、でもやっぱり外国人のパワーは捨てがたいものがあるだけにもうちょっと調査すべきだったんじゃないかなとは思うわ」


「バース並の外国人がいれば、ってそれはどこでも同じか」


「浩二衣笠も年齢的に引退は近そうだけど現状主軸としては十分働けている。いずれやるべき事だけど今すぐではないという面倒さもありそうよね。そんな中で十一シーズンに渡ってカープを率いてきた古葉監督の勇退も決まった。ルーツ監督シーズン途中退団というアクシデントによって突然スタートした監督生活。就任時は優勝なしAクラスすら一回という弱小球団をリーグ優勝四回日本一は三回という文句なしの強豪に仕立てたその手腕はカープの歴史において特筆すべき、まさしく名将だった」


「かつての青年指揮官が、それでもまだ年齢は五十歳程度だから若いものだよね」


「実際次はまだある年齢なので、ここらで一度充電って発想も自然かと思うけど、ともあれ時は流れ続ける。古葉に準じて寺岡と佐野もコーチを退任。新監督はコーチとして長く体制を支えてきた田中尊か阿南準郎の内部昇格、特に阿南が順当と目されるも、いずれも地味で控え目なタイプだからぱっと華やかなところでは山本浩二を選手兼任で監督就任というアイデアもあったという。その辺の人事も含めて大変な舵取りを迫られる時期に入ってきたわ」


 このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが所内に鳴り響いたので、二人はすぐさま変身して敵が出現したポイントへと馳せた。


挿絵(By みてみん)


「フハハハハハハ、私はグラゲ軍攻撃部隊のニシツノメドリ男だ。この貧弱な惑星に正義を注ぎ込んでやろう」


 北極圏など寒い地域の洋上に暮らし、得意の潜水から赤く大きなくちばしで食料となる小魚を捕らえる鳥の姿を模した侵略者が池の畔に出現した。しかし本来住んでいない土地で勝手に暴れられても困るので、地球はすぐに対応する使者を送り込んだ。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「ようやく今年も終わりに近づいたタイミングでいっそ全てを終わらせようという発想は良くないわ」


「しかし貴様らはもう終わりだ。今ここで死ぬのだからな。行け、雑兵ども!」


 指揮官の冷たい命令を疑いもせずただ従うだけの殺戮マシーンを、赤い血潮が流れる二人は情熱的に次々と撃破していった。そして残る敵は一人だけとなった。


「よしこれで雑兵は尽きた。後はお前だけだニシツノメドリ男」


「歳末の時間はあっという間に過ぎていくんだから、あんまり手間取らせないでよね」


「よくぞほざいたな。いよいよ貴様らの死は確実になったぞ!」


 ニシツノメドリ男はそう言い放つと懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはりこうなるか。そしてこうなったら戦う以外にない。二人は覚悟を決めると合体して暴力に立ち向かう力を得た。


「ヴィクター!!」

「エメラルディア!!」


 どんよりとした鈍色の雲の彼方で、地球の運命を決める戦いが繰り広げられているとは誰も知らない事実であろう。ニシツノメドリロボット得意の突進攻撃を悠宇は全身のニューロンネットワークを駆使して回避すると、逆にカウンターを食らわせた。


「よし今よとみお君!」


「分かったよゆうちゃん! ここはエメラルドフレイムで一気に勝負だ!」


 一瞬だけ生まれた隙を逃さず、渡海雄は緑色のボタンを叩いた瞳から溢れ出る勇気の色を具現化したエメラルド色の炎が敵を焼き尽くす。


「おのれ忌々しい。いずれ不幸が訪れるだろう」


 そんな負け惜しみを口にしつつ、機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってニシツノメドリ男は宇宙へと帰っていった。今日は冬にしては比較的暖かかったがそれも明日までとなるだろう。冬は冬の備えが必要だ。セーターを首に巻きつけて、二人は家路をのんびり歩いた。

今回のまとめ

・内間はやや高齢の原石だが中村祐太と交換と考えるとマイナスは皆無

・打高傾向が顕著なので打撃は印象より厳しく投手は印象より良い感じ

・カープの歴史において今後古葉程の長期政権はないのではないか

・バースと落合の成績はやばすぎるが近鉄石本の酷使も今ではありえない

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