ng21 常廣獲得記念 2023年ドラフト会議について
シーズン最終戦が十月一日でCS第一戦は次の土曜日。さすがに感覚が空きすぎて脳内はもはやシーズンオフの感覚だ。それでいいのか日程。ともあれ秋は着実に過ぎ去っていく、そんな一日だった。
「CSの行方も問題だけどドラフトもすでに二週間を切って各球団の思惑が激しく交差する季節になってきたわね」
「そうか。レギュラーシーズンが終わったって事はそれも近い証明だからね。それで今年はどうなるんだろうね。しかも二位なんて望外の好成績を収めたドラフトともなると」
「まず一般的に言われている傾向として、今年のドラフト候補は大学生投手に有力選手が多い。特に青山学院大の常廣羽也斗や中央大の西舘勇陽、左腕だと東洋大の細野晴希や國學院大の武内夏暉など東都大学野球連盟に有力者が揃っているわ。無論カープもこれらの有力なピッチャーの中から誰かを一位指名するものと思われるけど、まだ公表はしていないから確実にこうと言えるほどではないわ」
「確か去年はほとんどのチームがドラフトまでに公言してたよね」
「かなり珍しい展開だったわ。去年は比較的有力選手が少なく一位で抽選になり、外れるとかなり力の落ちる選手を掴むしかなくなるのではないかという恐怖心があのような奇妙な展開を生んだ。でも今年の場合は大卒投手に限っても青山学院大の下村海翔、専修大の西舘昂汰、桐蔭横浜大の古謝樹など上位に次ぐクラスも豊富なので外れてもその辺を捕まえればとりあえず事故は起こるまいという流れになっている感じ。実際すでに公言しない事を公言した球団もあって、激しい駆け引きはまさに今行われている最中よ」
「水面下の争いか。一方で各球団の戦力外通告も行われて、カープからは岡田薮田三好らが今年限りとなったね」
「それぞれ実績はあっても今年は二軍でも厳しかったから仕方ないわ。それと一岡引退で支配下は四枠空いた。ドラフトでは五人か六人か指名するんじゃないかと見てるけど、その場合当然追加の戦力外が必要になる。多分ピッチャーの中から誰かってなるかと思うけど。そして指名するのはやはり多くいなくなったピッチャーを埋めるのが基本だけど、他のポジションで前々から言われているのが右打の二遊間を中位で指名というもの」
「二遊間だけじゃなくて右打限定なのか」
「このポジションで左打の若手は小園を筆頭に矢野羽月韮澤といるけど、右打は今シーズン一軍出場なしの二俣と育成の前川だからね。サードも相変わらず穴だし。これを高校生で埋めるか大社に行くか。両方もありかな。後は長距離砲の不在も多々指摘される部分だけど、佐々木はアメリカ留学するそうで他の候補と考えてもいきなり変えるほどの逸材がいるか。それに既存の選手でも光るものを持つ選手は野手には多い。投手は少ない。だから今年は投手中心で長打は新外国人に期待、駄目ならもう一年我慢してね、みたいな流れになるのでは」
「それはそれでしんどいねえ。今年からして苦しい戦力をうまくやりくりしてどうにか二位という、盤石な力は感じないシーズンだったのに」
「その弱点を一年で埋めようという考えこそ危ういので、まずは今いる選手の育成ありきよ。まさか色々渦中の山川や中田に手を出すわけないし。さしあたって明日には編成会議が開かれるそう。それである程度の方向性は分かるんじゃないかな」
「まずはそれを待つかな」
というわけで今年も始まった恒例の大型イベント。今は1000文字と少し程度だが本番までに徐々に文章を付け加えて、当日はリアルタイムでガッツリ書くいつものパターンを今年もまた続けるつもりだ。
そして翌十三日の昼、カープは常廣羽也斗の指名を公表した。今シーズンでは十二球団初の公言であった。
「常廣だってね」
「でしょうね。常廣か西舘かで、その中で本命はおそらく常廣だろうって雰囲気はあったから。高いポテンシャルを発揮しながら肉体的にはやや細くて未完成な印象さえある。そこに伸びしろを見出すのはいかにもカープらしい考えよね。大分県出身ってのもカープが歴史的に多く獲得してきたラインで今も森下などがいる。ただ一本釣りで共存共栄を図った去年と違い、今年はさすがに競合不可避なのでここで宣言したからと言って獲得可能性が高まったわけでもない」
「それでもわざわざ宣言した意味は?」
「つまり誠意の証明よ。まあ今更隠す必要もないし、後はどれだけの球団が来るかだけど、まあ祈るしかないわね。最後は籤引きなんだし。そして明日からようやくCSが始まる。こっちの結果も大変なところよね。負けるにしてもあんまり無様な負け方はやめてね。王じゃないけどシーズン終了するにもそれなりの格ってものがあるから」
まず一位指名は決定した。問題は外した場合だ。割とリカバリーが下手な球団なのでその辺はしっかりシミュレーションしてほしい。
十月十六日、CSファーストステージ終了。カープは前日に連勝で突破を決めていたがドラフトの話なので自重しようと思っていた。しかしロッテが延長三失点から裏に四点返してサヨナラという凄まじい勝ち方をしたのでこれは無視なんて出来るはずもなかった。
「いやはや壮絶」
「あんな事もあるものだね。そうなると接戦をしっかり制したカープは幸いだよ」
「割とシーズン中と似た流れではあったのは面白いところ。DeNAは強いけどどこか粗い。カープは代打とかバントとか作戦が当たりまくってたけど、そういう運もあるみたい。とはいえカープの野球を更に大型化したのが阪神なので、次は簡単じゃないからこそ体当たりで進むしかないわ。そしてソフトバンク、こういうショッキングな負け方で終わるんだからたまらないけど、それもまた運命」
「補強は成功したけど育成枠は機能不全を起こしてて、一つの岐路に立っているね」
「それが出来る以上根本的には金満補強ありきになるのは自然よ。勝てば押し切れるし負けたら叩かれるのもまた必然。まあ個人的な感想を述べるとシルエット補強みたいな所業をやらかす連中が負けて良かったとは思っているわ。ああいう恥知らずなやり口がのさばる球界では興醒めだから」
そういう中で着実にドラフトの日は近づく。その後ファイナルステージでは阪神にあっさり三連敗して終戦したがそんな事はもはやどうでも良かった。
とういわけでいよいよ当日たる十月二十六日に突入した。カープが早々と常廣指名を公言したため、そういう観点で言うと動きは少なかった。
「とは言え他球団も色々動いてたから退屈って事は全然なかったけどね」
「カープ以外だと西武とソフトバンクが武内、巨人が中大の西舘、そして中日が野手候補としてトップクラスと目されていた度会の指名を公言。他に公言こそしていないものの新聞報道では事実上決定的みたいな球団もある中で、常廣は各社見解が分かれてて単独指名から四球団ぐらいの大型重複まで全部ありそうな情勢」
「まさにドラフト本番って感じのカオスだよね。そして数時間後、それも全ての答えが出る。果たしてどんな未来が待っているのか。それとカープの指名は四人程度とも言われてるけど」
「育成はまた別でしょうけど、率直に言うと少ないなって思うわ。現在引退戦力外になった支配下選手が四人だし、まさかこのままって線もある? いやでもドラフトで四人でももう少し減らして他球団の選手を招き入れるぐらいやっても良さそうだけど。学校が終わって家に帰ったらドラフトを見ましょうね」
「うん。今年もまたお邪魔するよ」
確定していない未来に不安要素はつきものだからこそ面白い。そして夕刻、悠宇の家に集まった二人は各球団の担当者の入場を見ながら緊張を高めていた。そして一位入札だが、度会に中日DeNAロッテ、西舘勇に日本ハム巨人、武内にヤクルト西武ソフトバンク、下村に阪神、横山にオリックスが指名となった。そして注目の常廣はカープと楽天が競合となった。
「まあさすがに単独はね、虫が良すぎるよね」
「でも二球団競合ぐらいなら全然可能性高いわ。外れてもいい選手は残ってるからとにかく堂々と見つめましょう。そして抽選はまず度会から。まさか彼に三球団競合とはね。正直思ったより評価高いのねって思ったわ。いやいいバッターだけどプロで守備位置がどうなるかって部分も……」
「おっとDeNAか」
「ここは力のある打者がまた揃うのね。次は西舘の抽選」
「巨人だ」
「阿部新監督と同じ大学という縁もあり、先発よりリリーフで強いって評判もあるけど、力ある投手なのは間違いないわ。特にこの秋の成績は抜群で、それを二球団競合はまあおいしいわね。次は武内の三球団競合だけど、福岡県出身でソフトバンクファンでもあるみたいで」
「あらま西武だ」
「ここもクジが強い印象よね。左腕では一番安定した選手だと思うから早いうちの活躍も期待出来そう。そしてようやく常廣だけど果たして……」
「やった!」
「うおお!! 新井監督叫んだ」
「そういうゆうちゃんこそ!」
「まあなかなか当たりクジを引くのって難しいからね。よくやったものよ。即戦力にして将来性も抜群なエース候補。きちんと育ててほしいわね。イェイ!!」
続いて行われた外れ一位でヤクルトが専修大の西舘を単独指名。ロッテ中日競合の草加は中日、日本ハム楽天ソフトバンク競合の前田はソフトバンクが引き当てた。次の指名で楽天が古謝に決定、日本ハムロッテ競合の細野は日本ハム。最後に残ったロッテは上田希を指名して十二球団の一位が確定した。
「前田は最初に指名がなかったのが不思議なぐらいの選手だし、そこを外してもまだ細野がいた。全体的にサプライズは強いて言うなら横山ぐらいか。でも高校生ショートというポジションからすると不思議ではない。そういう意味では前評判の高い逸材が各球団に散らばった、いいドラフト一位なんじゃないかしら。無論本番はこれからだけどね」
「ここから一旦休憩でクールダウンする制度はよく出来てると言えるのか」
「しかしまあ冷静になったところで無事に常廣を獲得したのは良い事よ。二位以降はどうなるかな。今年は割と上位だしどれほどの選手が残っているのかが鍵になるかと思うけど。大学生の左腕とかに行く話もあれば高校生という説も」
「ともあれ本番はまだまだこれからだから、引き続き頑張ってほしいよね」
というわけで楽天との競合を制して常廣交渉権獲得はめでたい。まずは予定通りだろうか。素晴らしい素材なのでこれから伸びていくのに期待したい。いやあ良かった良かった。
気付けば十八時を過ぎたあたりで二位指名がスタートした。それで中日津田、日本ハム進藤、ヤクルト松本健、西武上田大、巨人森田駿、楽天坂井、DeNA松本陵、ソフトバンク岩井が指名された。
「ここまでの二位指名はどう?」
「やはり各球団必要なポジションの選手にバラけてきている感じよね。津田なんかは思ったより早かったけど、ショート確保したいという強い意志の賜物かしらね。前半より坂井や松本岩井あたりのほうがインパクトあるかも。そしてカープは」
「大阪商業大の高太一だって」
「広陵高校出身の左腕で、ちょうど河野と同級生だった選手よ。カープに密着していた人が事前に二位指名するかもと予想していた選手なので注目していたけど、さすがよく調べてるものね」
「出身は愛媛県みたいだけど地元枠でもあるのか。真面目に頑張ってほしいよね」
そこから二位三位でロッテ大谷木村、阪神椎葉山田、オリックス河内東松が指名された。
「独立リーグから連続で二位指名はなかなかインパクトあったわ。そしてカープの三位は」
「星槎道都大の滝田一希」
「うわあ。北海道の無名高校出身ながら大学で大きく飛躍したパワーのある左腕で、チェンジアップという武器もあるけどコントロールはあまり良くなくてまさに素材と言うべき投手よ。今年の候補だと細野をより極端にしたような成績であんまり上位だと怖いけど、三位ぐらいなら面白いチャレンジになりそう」
「なかなかこの手の選手をものに出来るか不安もあるけど、これはコーチ陣も含めたチーム力が問われそうなのかな」
というわけで二位は高太一、三位は滝田一希と大学生の左投手を連続指名した。一軍リリーフだとターリーの次にいるべき森浦塹江戸根あたりが不安定だったので、いい刺激になってくれれば。
三位から四位にかけては中日辻本福田、日本ハム宮崎明瀬、ヤクルト石原鈴木、西武杉山成田、巨人佐々木泉口、楽天日當ワォーターズ、DeNA武田石上、ソフトバンク廣瀬村田が指名された。
「楽天が凄い名前の選手指名したね」
「とは言えこの手のハーフ候補は毎年いるものだしね。巨人が社会人指名連発とか日本ハムの野手二人は身体能力タイプで面白そうとか色々あるけど、カープ四位は」
「沖縄尚学の仲田侑仁」
「恵まれた体格を武器に選抜で満塁ホームラン、夏にも怪我がありながら一発を放つなど印象的な活躍を見せた右のスラッガーよ。この手の候補は他にも何人かいてそこは好みの問題だったけどまずは仲田で行ったわね。守備は一塁で体格ゆえに走塁もそこまでではないから打つか打たないかが全てとなるけど、タフで泥臭く粘り強い大砲になれるか」
「三位滝田は北海道で四位仲田は沖縄。スカウトの皆様は全国各地本当にご苦労さまだよね」
四位から五位にかけてはロッテ早坂寺地、阪神百崎石黒、オリックス堀高島が指名された。
「前評判だとここらで終わるのかな。まだ早いように思うけど」
「まだ行くみたいね。おおっ、中京学院大の赤塚。高校時代に甲子園でストレートで押しまくるピッチングを見せた大型右腕よ。大学の成績を見ると安定しているけどリーグレベルなんかも勘案するとやはり素材である可能性が高そう。矢崎島内とかこの手の選手の矯正はある程度ノウハウもあると信じたいので、そういう意味では面白いと思うわ」
というわけで四位が高校生の仲田、五位は赤塚となった。ともにかなりビッグサイズな素材でスケール感はかなりあるが、プロの世界でどれほどの成長を見せるのか。
「そして六位は、ないみたいね」
「これで選択終了か。四人という噂から実際は五人。全体的にどうだった?」
「思った以上に素材型に手を出した大胆なドラフトという印象よ。今の時代大学生でもあまり即戦力を期待しすぎるものじゃないけど、それにしても滝田赤塚と集めるとはね」
「それも一発目で常廣確保に成功したからかな。そう思うと指名公表はうまくやったね」
「そうね。籤引きの前に誠意は通じない。運が良かった。でもそれを引き寄せたのは公表するしないとかそのタイミングといった細やかな駆け引きも含めた戦略にあったのは確かよ。ともあれ本当の戦いはこれから。無論個々の選手はみんないいものを持っているにしても、絶え間なくそれを磨く努力をし続けて、それでなお輝けるとは限らない厳しい世界へ挑む事となる。これから見ず知らずの人に無責任に叩かれまくる日々が訪れる。だから今だけは全力で祝福したいものよ」
「まったくだね」
そして育成枠では今年急成長した右腕杉田健、国立大の強打者佐藤啓介、高校生左腕杉原望来の三名を指名し、今年のカープのドラフトは終わった。
「いずれもカープがドラフト前から注目していたとしてマニアの中では知られていた選手なので、どこまでやれるか。しかし他球団を見ても前評判の高かった選手が結構育成に回ってて、彼らがどのような野球人生を送るのか興味深いわ」
「現実問題全員が大成功とはなかなかいかないものだからね」
「しかし全員失敗もありえない。誰かが出てくるしかしそれが誰なのか、現時点では分からない。だからこそ応援しがいがあるってものよね。じゃあそろそろさよならね。気をつけてね」
「うん。寒くなってきたし、風邪も引かないようにしないとね、じゃあまた明日ね」
時はすでに八時を回り、暗い中を渡海雄は家まで歩いた。道の見えない道を歩むのは彼らも自分も同じ。そんな事を考えながら、一歩また一歩と靴先で暗闇を蹴飛ばしていった。
一位 常廣羽也斗 投手 青山学院大
二位 高太一 投手 大阪商業大
三位 滝田一希 投手 星槎道都大
四位 仲田侑仁 内野 沖縄尚学高
五位 赤塚健利 投手 中京学院大
育成
一位 杉田健 投手 日大国際関係学部
二位 佐藤啓介 内野 静岡大
三位 杉原望来 投手 京都国際高
今回のまとめ
・まずは常廣獲得おめでとうというドラフトだった
・そこからは素材型中心のロマンを追った指名が中心
・北海道沖縄に関東中京関西の選手指名とある意味バランスが良い
・育成でも実のある指名が出来たのではないだろうか




