rm51 2位固めについて
台風が来たあたりで少し涼しくなったのも束の間、また馬鹿みたいな最高気温を記録する灼熱の世界が戻ってきた。もう八月も終わりが近づいているというのにこの体たらくは一体どういう事なのか。
ともあれ夏休みは最後の最後まで絞り尽くして味わわねばと決意を新たにする渡海雄と悠宇は今日もまたいつもの場所で落ち合っていた。
「甲子園もそろそろ終わるのに夏の暑さは終焉の気配さえ見せないね」
「近年は九月もまだ夏の範疇みたいなものだからね。とにかくもう少し辛抱しながら生きていくしかないわね。というわけでカープだけど、残念だけど優勝はもうないなというところまで離されたわね」
「一瞬一位になったのが最後の輝きで、そこから連敗もあって阪神とは極めて大きく離された。いよいよマジック点灯を許したし」
「最低限五ゲーム差以内じゃないと優勝争いなどと口にする資格はない。現状こうなったからならそれはもう仕方ないわ。夏場だから怪我人も増えているし。西川はようやく復帰してくれたけどまた秋山や上本らが……。しかし四番上本とかいう明らかな苦肉の策が意外と効果的だったのは今でも不思議に思うわ。本当によく頑張ってくれたものよ」
「本来そういうタイプのバッターじゃない選手が『四番らしい打撃』に囚われて苦労する展開は時折見られるものだけど、あそこまで四番らしさからかけ離れた、長打を最初から期待出来ない誰も期待していない選手のほうが上手く切り替えられるのかもね」
「まあそれはそれとして四番らしい打撃が出来る選手が全く不足しているのは今のカープの明確な弱点の一つなんだけどね。デビッドソンは巨人戦ではやたらと頼りになるけどやはりあの確率の低さは下位打線が相応。地味に堂林が健闘してるけどトータルで見るとなかなかね。そして本来やってくれるべきだったマクブルームは怪我で復帰は当分先になったとか。非常に残念よ」
「やっぱり期限となる七月末までに新外国人補強なりトレードなり何か動くべきだったのかな」
「とは言え本来優勝争いのほうが想定外だったのも実感としてはある。優勝が無理なら堂々と二位を目指せばいい。しかしその二位も安泰と呼ぶには試合数があまりにも残りすぎている」
「なかなか簡単にはいかないよね。打撃が弱いのはもはや言うまでもないとして、投手陣もやっぱり大変だもんね。矢崎に加えてターリーも二軍落ちしたり」
「勝つにしても少ない得点による接戦が多い中で今までよく奮闘してくれたけど、やはり疲れはあるみたいでそこは仕方ない。抑えには幸い復調してようやく防御率三点台まで落としてきた栗林もいるしね。島内も頑張ってるし中崎大道、そしてリリーフ要員として一軍に戻ってきたアンダーソン。特にこの男がどれだけやれるかによって今後の展開は大きく変わってくるはず。先発は床田と森下が主軸で九里に森遠藤玉村野村あたりも奮闘中。大瀬良は去年も夏以降炎上続きだったし、もしかしてもう一年保たないのかな」
「ともあれ頑張ってほしいよね。それで優勝はこのまま阪神だろうけど、二位争いのライバルとなってくるDeNAや巨人はどれほどのものかな」
「いずれも打撃の力強さに関してはカープを上回っているけど、粘り強く守っていけば十分戦える。そういう意味では野間みたいな迂闊な選手を追い出せるようになれればそれが一番素敵なんだけど、口で言うほど簡単じゃないものよね」
「野間だって打撃ではピンポイントで抜群の存在感を見せているわけだし、大体他に候補がいないから」
「特に秋山離脱に伴いセンターやってるとね。末包や中村奨成は別の枠だし、大盛と野間どっちを選ぶかと問われると私だって即座に野間を選ぶわ。せめて中村健人あたりが上でもやれる程度の成績を残してくれれば良かったんだけど。そして未だに二軍で打率一割台の宇草は一体何をやっているのか」
「上ではあんまりアピール出来ず二軍へ戻ったはずの中村奨成がすぐ復活してきたし、下も人材が乏しいのか」
「中村奨成自体は二軍では屈指の成績だから上で試したい筆頭なのは納得なんだけどね。じゃあ他に誰がいるのかって話になると簡単じゃないもので、でも上本離脱時はユーティリティ枠という観点から二俣が上がるかと思ってたわ」
「この二俣も育成枠からせっかく支配下登録したのに全然上がってこないのはちょっともったいないよね」
「辻空とか中村亘佑とかたまにカープはそういう事するけど、上げるタイミングもっと考えればより効果的に育成枠を使えるんじゃないかしら。ソフトバンクみたいにシーズン前から枠カツカツかつ外国人補強も行った結果五十四人いるうちの一人しか昇格せずって厳しすぎる争いもどうかと思うけど。そこそこの選手や怪我人をオフにガッツリ落として枠を広げて、結局そういう選手が優先的に支配下復帰するんだけど形の上では競争を演出している巨人風の使い方が一番上手いのかなとも思ったり」
「あんまりカープには馴染まないやり方かなとは思うけど。しかし成績を見極めるのは難しいよね。打ててなんぼの宇草が二軍ですら大低迷してるけど、守りありきの矢野が上でもそれなりにヒット打てるようになってたりするし」
「本来ショートを守るべき小園は良い時は良い悪い時は悪いで調子の差が極端だけど、そこで矢野レベルの選手がいるのはありがたいものよ。打率一割台じゃ無理、二割台前半でもメインじゃ使いたくないけど二割五分でも打てるようになったらショートのポジションを奪っても不思議じゃないぐらい守備力のプラスは大きいし、その場合小園はサードになるのかな。サードは数年に渡って固定するに値する選手が出てこないし、それはそれでありかなと思えるのも情けないけど本音ではあるわ」
「ともあれ矢野にしても小園にしても更なるレベルアップは必須だし、それを望める選手でもあるはずだからこれからも伸びていってほしいよね」
「簡単にはいかないものだけどね。後はヤクルト戦は死球に気をつけて、中日戦はあんまり取りこぼさない。どちらも上手くやるのはそれなりに難しいものよ。そしてパリーグを見ると、オリックス三連覇はもはや揺るぎないものとなりつつあるけどまだマジックは点灯していないみたい。まあ時間の問題かと思われるけど」
「そうなると今年の日本シリーズは関西対決となるのかな」
「なかなかない展開なので早くも期待したいものよね。とにかくカープは二位を目指して全力で戦ってくれれば。そうするとCSの一回戦はホームで迎えられるわけだし。とにかく残り試合は三十となんぼぐらいだし、最後までしっかり戦い抜いてほしいものよ」
「そうだね。ところで今やってると言えば甲子園もいよいよ決勝戦を残すのみとなったね。連覇を目指す仙台育英か百何年かぶりの優勝を目指す慶應か。特に後者は旋風と言える躍進を遂げている」
「ここまで来た同士、どちらが勝っても不思議じゃないわ。それで慶應、髪型自由とかで色々言われてるけどそもそも言われるほうがおかしいわ。昔は校則などもあって野球部もサッカー部もバスケ部も新聞部も帰宅部も坊主で、それが正しい高校生の髪型だった。でも今は違う。だからサッカー部もバスケ部も新聞部も帰宅部もそれぞれが今の高校生として普通の髪型をしたところで誰も何も言わないけど野球部がそうすると伝統がどうとか金髪ロン毛みたいな極端な髪型を持ち出す変な人が出てくる。実用性云々も噴飯もので、そんなに明確な差が出るなら野球で金を稼ぎ生きるプロ選手が軒並み坊主じゃないとおかしい。こういう茶番劇を終わらせるには慶應勝利のほうが得かもね」
「人気競技は大変だよね。それとサンフレッチェだけど、ようやく悪い流れから抜け出したと見てもいいかな」
「あの日々は本当に苦しかったけど、もう振り切ったと言えるでしょうね。まずキーマンとなったのは満田の復帰となるのは間違いない。彼の復帰までは湘南や横浜FCといった現在残留争いに巻き込まれているチームにも苦杯を嘗めさせられたけど、復帰後は浦和川崎というレベルの高い相手にいずれも後半アディショナルタイムに決勝ゴールを決めるという劇的な形での連勝だからね。まあくっきりしてるわ。無論それだけじゃないけどね」
「選手も数人入れ替わったもんね」
「まず七月末にセレッソから加藤陸次樹を獲得した。彼は元々広島ユース出身だったけど高卒時に昇格を見送られ、大学で活躍するもまたもスルーで金沢に加入、ここで十三得点といきなり実力を発揮したけど広島ではなくセレッソへ。大阪の地でも一定以上の存在感を発揮していたけど、このタイミングで前線に苦労していたサンフレッチェがようやく動いた。つれない相手を無理矢理にでも振り向かせた加藤の粘り勝ちってところかしらね」
「そういうのも巡り合いだよね。選手としても早速浦和戦でゴール決めるし」
「ここからが新しいスタートだからますます泥臭く頑張ってくれるといいわね。しかしそれから判明した森島名古屋移籍。高卒から長かったから残念ではあったけど、加藤とは逆に元々東海圏の人ではあるから仕方ないのかしらね。サンフレッチェではこれぐらいやれるってのが良くも悪くも定まりつつあった中での決断、もっと大きく育つならそれが正解になるので大事なのはこれからよ。ともあれこのショックすら吹き飛ばすほどの衝撃を与えたのはマリノスからマルコス・ジュニオール獲得というビッグニュースだった」
「あれは本当にびっくりしたよ。加藤はまだユース時代からの繋がりがあったけど、こっちは全く予想しないところからの大型補強だったもんね」
「十九年には得点王に輝き優勝にも貢献した、小柄ながらも独創的なプレーに定評ある前線の実力者。最近は別の選手の台頭によってやや輝きが色褪せていたのも事実だけど、それでもまだ三十歳と老け込む年齢ではない。そしてチーム合流してからわずか三日程度にして早速紫のユニフォームを身に纏って川崎戦に初出場したけど、いきなり魅せてくれたわ。複数のディフェンスに囲まれながらもスルスル動いて捕まらない華麗な個人技から見事なコントロールのシュートを決めて初ゴール。更に試合終了直前の一対一を演出する完璧なラストパス。上手い。シンプルにレベルが高い。ここまでの戦力はそう拾えるものじゃないだけに、フロントはよくやったなと素直に称賛したいわ」
「森島一人のマイナスはこの二人で補えるどころかプラスさえあるかもね」
「しかも移籍金なんかを計算するとこれでもなお黒字みたいだし、後は右サイドがちょっと弱いかなってのはあるしそこも獲得に動いていたみたいだけど、まあ一発で何でもかんでもとはいかずともトータルでは巧みに立ち回れたと思うわ。既存の選手でもソティリウがだんだんと良くなってきている。去年途中加入、今年も怪我が多くてなかなかフィットしなかったけど、キプロスの美男もようやく本領発揮かな」
「負けてた頃は得点力不足が悩みのタネだったけどここが噛み合うと面白い、と言いたいけどシーズン後半戦ここからどう目標を見出していくかは難しい課題だよね。リーグ戦は上を狙うにも下に巻き込まれて焦るにも遠い位置にいるし、悪い時期に天皇杯とルヴァンカップ両方敗退したのも痛い」
「まあそこは……、とにかく残されたリーグ戦の中で一つ一つ上の順位を目指していくしかないわ。現状優勝争いはマリノスと神戸。マリノスはマルコスジュニオール放出してなお豊富な戦力を擁しており、神戸は大迫が存在感抜群だけどここからが正念場となりそう。残留争いは湘南横浜FC柏の三択になる公算が高いけど、まだまだこれからよ。そして昇格争いは首位町田に迫りつつある磐田清水の静岡コンビ、そして町田から堂々たる引き抜きを受けたヴェルディも代わりの人材を整えて反撃なるか。J2残留争いは大宮が極めて苦しい。山口金沢あたりはまあそんなものとして、徳島の低迷も不思議よ」
「割と期待されていたはずなのにね」
「ただこれも十二位の秋田あたりまではまだ争いの範疇かと思われるので、油断禁物よ」
このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが所内に鳴り響いたので、二人はすかさず変身して敵が現れたポイントへと急いだ。
「フハハハハハ、私はグラゲ軍攻撃部隊のチュウシャクシギ男だ。この汚らしい惑星を正義の光で照らしてやろう」
三日月型の曲がった長いくちばしを使って干潟にいるカニや水田に潜むカエルなどを捕らえる鳥の姿を模した侵略者が、夏の終わりの浜辺に出現した。この邪悪な渡り鳥の陰謀を阻止すべく、地球はすぐにその意志を託した使いを寄越した。
「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ!」
「相変わらず攻撃的ね。しかしその間違った考えもここまでよ」
「正誤も見分けられぬ愚か者め。今こそ死ぬが良い。行け、雑兵ども!」
波が満ちるように次々と現れる敵を、二人は力と知恵の限りを尽くして撃破していった。そして残る敵は一人だけとなった。
「よしこれで雑兵は尽きた。後はお前だけだチュウシャクシギ男!」
「波が満ちる時は過ぎたからあとは波が引くように本来いるべき場所に帰ってほしいものよね」
「私は今まさに本来の任務を果たしているのだ。貴様達を抹殺するというな!」
チュウシャクシギ男はそう言い放つと、懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。八月も終わろうとしているのに暑さがなかなか引かないようなしつこさに辟易しつつも、こうなったからには戦うしかない。二人は覚悟を決めると合体した。
「ヴィクター!!」
「エメラルディア!!」
夏の積乱雲と秋の鰯雲がせめぎ合う季節、今はまだ夏の雲のほうが多い空の更に彼方でこの星の運命を決める戦いが繰り広げられていると知る者は未だに少ない。
そして悠宇は敵の鋭い突進攻撃を持ち前の反射神経をフル稼働して回避しながら体勢を整え、カウンターを決めて一瞬動きを止めた。この一瞬こそが勝利の鍵であった。
「よし今よとみお君!」
「分かったよゆうちゃん。ここはレインボービームで一気に決める!」
僅かな隙を逃さず、渡海雄は白色のボタンを叩いた。胸から発射された波長が異なる七本のレーザーが敵の胴体を貫いた。
「うおおおお、この力! 強さだけはひたすらやっかいなものだ」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置でチュウシャクシギ男は宇宙の彼方へと帰っていった。
今日もまた勝てて良かった。戦い終えた二人の戦士はプールで泳いで昼寝して、すっかり二人の子供に戻ったところで家に帰った。
それで二位三位の対決となった今日のDeNA戦は無事に勝利した。もはや阪神の結果はどうでもいいのでこのまま順調に今の順位を固めてほしいものだ。
今回のまとめ
・優勝はなくなったと見て問題ないが二位は確保してほしい
・暑さの中で投手陣の苦労は当然だから今こそ打って援護を
・満田復帰だけでなく補強も含めたチーム全体の躍進が見える
・去っていく選手がいるのは仕方ないから今いる選手を愛でたい