hg06 ふりかえって…Tomorrowについて
冬だから、雪も降る。冬だから、風邪も引く。それでも今日の日々を過ごした先には春が待っているものだしどうにか一日一日をたくましく生きようと決意しつつまた歩く渡海雄と悠宇であった。それでも今日は寒すぎる。訓練で体を動かして暖まろうにも研究所まで行くのに一苦労であった。走る車の天井に積もった雪を見ただけで震えてくる。
「いやあ、終わった終わった。それにしても寒すぎるでしょ。また風邪がぶり返したら困るなあ」
「風邪を引いた後はむしろ免疫とか出来てるし大丈夫なんじゃない?」
「それは知らないけど、そうだといいよね。ところで、前のアルバムが光GENJIが八十年代に出した最後の一枚だったんだ」
「おお、案外短かったわね。じゃあこれからは全部九十年代の曲?」
「いや、まだだよ。だってシングルがあるんだから。そもそもアイドルは基本的にアルバムよりシングルのほうが売れるものだからそっちメインで活動するもの。光GENJIもアイドルの中ではアルバムが売れたほうではあるけどやはりシングルメインなのはその通り」
「でも最初の頃のアルバムではシングルも入ってたけどだんだん入らなくなっていったわね。これはなぜ?」
「知名度の高いシングルなしでも十分戦える完成度の高いアルバムを作っているという自負、だと格好良いけどな。『Hi!』では明らかにシングルが浮いてたし全体の調和を大事にした結果ってのもあるんじゃない。まあそういうわけで今回はまず八十年代のシングルをまとめるよ。まずはデビュー曲『STAR LIGHT』のカップリングである『ROLLING STOCK』から」
「ええと、データによると作詞RICHARD STILGOE、作曲ANDREW LLOYD WEBBER、日本語詞高柳恋で編曲は佐藤準ね。外国の人に作ってもらったの?」
「すでに存在する曲を日本語でカバーしたって形だよ。この作曲者は光GENJIに携わった全ての人間の中で世界的に最も知名度が高いと思われる人物で、『キャッツ』『オペラ座の怪人』『ジーザス・クライスト・スーパースター』といった世界的に知られたミュージカルにおいて作曲をこなしたまさしく大物」
「『キャッツ』ってあの劇団四季の?」
「そう。元々外国のミュージカルだから。で、この人が作曲した『スターライト・エクスプレス』って、役者がローラースケートを履いて蒸気機関車や新幹線に扮するミュージカルが一九八七年に日本上陸するにあたって光GENJIもデビューしたんだ。デビュー曲のタイトルが『STAR LIGHT』なのもメンバーがローラースケートを履いてパフォーマンスを行ったのもそういう事」
「ふうん。そのミュージカルが今で言うバレーの大会みたいなものだったのね。それで、肝心の曲はどうなの?」
「全体的な雰囲気は硬派不良系っぽいけどこの時期らしく声が妙に高くて変。ただサビはキャッチーだから変な感じで頭に残る曲ではあるね。次は『ガラスの十代』と『Graduation』で、ともにファーストアルバム収録。となると『パラダイス銀河』のカップリング『LONG RUN』だね」
「作詞飛鳥涼、作曲CHAGE、編曲佐藤準。CHAGEはこの曲が最後の提供になるんだ」
「全体的には光メインの硬派な雰囲気だけど間奏辺りで活躍するキーボードの音が独特のファンタスティックな浮遊感を醸し出していて、夜明け前に海沿いの道をバイクで飛ばすうちに走っているのか飛んでいるのか分からなくなってるみたいな、ってそれ相当危ないな。歌詞も格好良い。ただサビがねえ。光とGENJIで二つのメロディーを絡ませてるけど歌唱が全然噛み合ってない。今は慣れたけど最初は本当にびっくりしたよ、このサビのグダグダさ」
「これで本当に正しいの? でもこの年に一番売れた曲のカップリングがこれと考えるとなかなか愉快よね。次のシングルは夏に出した『Diamondハリケーン』。作詞田口俊、作曲井上ヨシマサ、編曲佐藤準」
「まさに全盛期という感じの勢い剥き出しな曲。冒頭の雷鳴から一気にテンション上がって、途中でだれるけどサビでまた持ち直して。曲自体は意外と華奢なところを派手な盛り付けで肉付けしてるような曲。そんなに嫌いじゃないよ。しかし井上ヨシマサ、まさかピークはこの二十年以上後になるなんてねえ。田口は光GENJIにはこの曲だけ」
「冒頭からの勢いがキモって曲ね。カップリングは『Welcome』で、作詞松本一起、作曲編曲佐藤準」
「グループとしての人気最盛期なのに、そういう時期特有の変な熱量みたいなものが全然感じられない凡庸な曲。Aメロとかちょっと好きなんだけどね、本当にちょっとだけ。基本引っかかりがなく、もっといい曲なかったんだろうか。ジャケットは両端の光がむしろ目立ってるね」
「次は『剣の舞』。これは秋に出した曲で作詞康珍化、作曲馬飼野康二はともかく編曲は椎名和夫なのね。佐藤準じゃなくて」
「だからと言って特に変化もないけどね。まあ多少軽い感じはするけど。ただこの頃のシングルは当時のテレビ番組でパフォーマンスを披露してなんぼって部分が大きかったから、今CDで聴くと展開が唐突でキャッチーなフレーズを脈絡なく突っ込んだだけのバラバラな曲って感じはするよね。いきなり台詞っぽいメロディーが入ったり、最後に勢いのあるメロディーが新たに出てきたり。映像だと何十人も集まって動いてるから迫力あるけどさ。それと雷をバックに白い服の七人ってジャケットは今までで一番いい感じ」
「カップリング『涙の輝き』は作詞康珍化、作曲松任谷正隆、編曲佐藤準。『銀の風』と同じ面子ね」
「これは優雅でいいよ。特に歌詞が好。心の中のある一部分をくすぐりまくるロマンティックなフレーズが続出して、割と歯切れのいいメロディーやアレンジと組み合わさって独自の世界観を繰り広げていく。隠れてるようで案外ファンの中では隠れてないような気がする名曲だよ。ファン以外がどう思うかは別にしてね」
「何となく掴みどころのない曲って印象ね。聴き込めば違ってくるんでしょうけど。次は一九八九年の春に出た『地球をさがして』。作詞吉澤久美子、作曲都志見隆、編曲佐藤準。ジャケットの花柄とか明るい雰囲気ね」
「でもこの曲は……。対象年齢を下げてみたのかなってのはあるけど、正直最低だなと思った。マーチ調の楽曲だけど、軍艦マーチっぽいメロディーだと思ったらサビはボギー大佐かなって雰囲気で、まさかこんな大ネタをもろに引用するなんてさすがに志が低すぎる。歌詞もよく分からないし。単にサビに曜日の英語入れて親や先生のお墨付きもらいたかったのか。とにかく慣れるまで年単位かかったなあ。アウトロはちょっと凝ってるけどこそにたどり着くまでが長い」
「確かに今までとは全然雰囲気が違うわね。比較的二枚目な曲が多い中で可愛らしい曲だから違和感も大きかったでしょうね。カップリングの『New! 青春にはまだ早い』は飛ばして次は夏に出た『太陽がいっぱい』。作詞作曲大江千里、編曲中村哲」
「いかにも夏だなあ、アイドルだなあというキラキラしたイントロが素敵。間奏とかちょっと長く感じるけど。ただ売り方がちょっと変で、八種類のジャケットが用意されててそこまで売り上げをキープさせようとしたんだ。中にはメンバーが書いたカードとか入っててね」
「ふうん。とみお君はそれ集めてるの?」
「でも結局中身は同じだからねえ。ジャケットのバリエーションでカップリング『時をこえたフェスティバル』が表題曲みたいになってるものもあるけど、これも聞いてみたら一曲目『太陽がいっぱい』だから。曲自体は『時をこえたフェスティバル』のほうが好みかもね。跳ねるような曲調も歌詞もかわいらしくて。特に歌詞、こういうシチュエーションは案外他になくて」
「年上の女の人に恋してる年下の男の子ってイメージかしら。その割にやけに強気だけど。作詞白峰美津子、作曲三谷泰弘、編曲椎名和夫。」
「白峰も三谷もこれだけだけどもったいないなあ。特に三谷は同じグループの根本要が作った曲と比べても優っているから。この八十九年のシングルは二枚のみ。少なすぎる上にもっといい曲なら良かったのに。とにかく、これが光GENJIがその全盛期たる八十年代に出したシングルの全て。そしてこの『ふりかえって…Tomorrow』はそれをコンパクトにまとめたベストアルバム、だったらどれほど良かったか。悲しくなるよ」
「勝手に悲しくなられても困るわ。見たところ、一九九〇年の二月に出たのね。柔らかいパステルカラーを使用したジャケットとかいい雰囲気じゃない?」
「ジャケットは割と好みだよ、全体的な写真写りも良いし。佐藤寛之も一般人っぽさはかなり薄れてるし、大沢も笑いを作りすぎて不気味になってない。それと諸星がパーマを弱めたのかややストレートな髪質になってるのも印象的。それと関係あるのか知らないけど、ジャケットのセンターは諸星じゃなくて赤坂なのも特徴だね」
「あっ、本当。珍しい事もあるものね」
「これからは珍しくもなくなるけどね。さて、内容は『STAR LIGHT』から『太陽がいっぱい』までのシングルを収録なんだけど、当時テレビで披露されていたアレンジに近づけるよう多少変更して、さらに歌い直してるんだ。この歌い直しが曲者で、不用意なソロパートの多様によって単にパワーダウンしてるだけってパターンが多い感じ。元々歌唱力なんてないんだからソロ増加が命取りになるなんて誰にでも分かりそうなものを。『パラダイス銀河』は途中まで順調だと思ったら二番のサビで諸星がやけに気持ちよさそうに歌ってるけどさ、聴いてる側は興醒めもいいところだよ。何でこんな雑な歌わせ方をさせたんだと怒りさえ覚えるよ」
「ああ、でもでも、『地球をさがして』はかなりスマートになってて、これは悪くないんじゃない?」
「アウトロは削られたけど、確かにこれは元々のうんざりする構成がかなりすっきりとまとめられてて、まだ聴ける代物になってはいるね。それと『剣の舞』ぐらいかなあ。他は、それを許容できるかは別にしても明らかに原曲以下。でもこのアルバムはむしろ最後の三曲がメインって部分あるから」
「アルバムでは八曲目以降ね。まずは『伝説』。読みは『レジェンド』で、作詞高柳恋、作曲鈴木キサブロー、編曲武部聡志」
「ペキペキしたアレンジが結構ツボなファンタジー系楽曲。冒頭に入る内海の語りも雰囲気を醸し出してるし。結局武部との関わりはここで終わったのがもったいないな。そして初登場となった鈴木キサブローは今後も多くはないけど名曲を提供してくれる人だから、是非ともその名を覚えておいてね」
「はいはい。次は『エナジーは止まらない』。作詞作曲尾崎亜美、編曲佐藤準」
「軽やかなイントロから始まる明るいけどちょっとおしゃれな曲で、これも他にない雰囲気だよね。一見地味だけど意外とワクワクするメロディーとか、全体的な調和が取れてるのがいいのかな」
「最後は『空を渡って君のハートへ』。作詞三浦徳子、作曲和泉常寛、編曲新川博。それにしてもやけに壮大なタイトルね」
「これはタイトルが結構うまいなあって思うよ。二番で種明かしされてるように雨上がりの情景なんだけどね、サビのコーラスとか丁寧だし、綺麗なメロディーでじんわりとしみてくるバラードだよ。このアルバムの三曲は作者も曲調もバラバラなのにどこか統一感があって、ちょっと甲乙つけがたいクオリティだね」
「そうね。個人的には『伝説』かなってところだけど」
「僕は、ううん、やっぱり難しいや。本当同じぐらい好きだから。まとめると、ベストアルバムとして考えるとこれ以上ない地雷で、むしろおまけのように付いている新曲が本番だよ。並ぶタイトルだけ見ると初心者向けに見えるけど実はファンもおののく超上級者仕様。『三曲のためにこれだけ出す価値はあるか』と考えて、それに釣り合うと思ったら手を出すぐらいが一番かな。いきなり手を出して『ふうん、光GENJIのシングルって案外しょっぱいな』とか決して思わないでね!」
こう語っていると研究所内に警報のサイレンが鳴り響いた。グラゲ軍の襲来である。渡海雄と悠宇は素早く変身した。このスーツは暑さや寒さを感じないように出来ているので今日のような寒い日にはうってつけと言える。そしてすぐに敵の出現した浜辺へ急いだ。
「ふはは、私はグラゲ軍攻撃部隊のカキ女! 現れる敵は全て切り刻んでやるわ!」
冷たい冬の波が打ち付ける海岸に似合わない禍々しい集団が突如出現した。彼女たちがこのままのさばれば人類は絶滅するので、それを止めるための力である二人は素早く現場に到着した。
「こんな日に限って現れてくれたなグラゲ軍!」
「今日という今日だけは絶対に許さないんだから! 覚悟してもらうわよ!」
「ふん、現れたな逆臣ネイの生み出した兵器どもめ。さあ、かかれ雑兵! 奴らの首を上げるのだ!」
こうして襲ってきた雑兵はウォーミングアップとしてあっという間に処理された。こうして砂浜に残ったのは流れ着いた流木やペットボトル、そして渡海雄と悠宇とカキ女だけとなった。
「雑兵はもはや失せた! 後はお前だけだな!」
「ノロの原因って言っても好きなものは好きなんだから、いっそ一緒に鍋でも囲めばいいのよ!」
「甘いわ! 軍人たる私が貴様らなどの提案に乗るはずがなかろう! 返事はこれだ!」
そう言うとカキ女は懐に忍ばせてあったスイッチを押して巨大化した。あくまでも戦いを続けるという明確な意思表示。渡海雄と悠宇もその返事に答えることにした。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
モノクロームが似合う冬の海を背景に巨体と巨体がにらみ合う。カキロボットはその両手に装備された強力なカッターを振り回してメガロボットの巨体を切り刻もうとするが悠宇がうまく回避するのでどうにかダメージを受けずに済んでいる。この戦いは一瞬の雷鳴の如き動きで決着がついた。
「今だ! フィンガーレーザーカッター!!」
渡海雄は群青色のボタンを押した。メガロボットの指から放たれた高熱線レーザーはカキロボット得意のカッターごとそのボディをバラバラに切り裂いた。
「ぐおおおっ、もはやこれまでか! 撤退する!!」
カキロボットが爆散する直前に作動した脱出装置によってカキ女は宇宙に帰った。戦いの後、至福に戻った渡海雄と悠宇もまた帰宅したが、普通の服だと手袋をはめたところで指などが冷えてビームでも放てそうな気分になる。しかし人体はそう都合よく出来ていない。息を吹きかけて凍りつきそうな指先を温めて、そして明日はもう少し温くなれよと願うのであった。
今回のまとめ
・八十年代シングルは本人と時代の勢いが合わさってとにかく凄い曲が多い
・八十九年にシングル二枚はもったいないもっと出せば良かったのに
・「涙の輝き」「時をこえたフェスティバル」は個人的にシングル以上の評価
・歌い直しを改めて聴き直したら意外とすんなり聴けて我ながらびっくりした




