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rm46 第5回WBCについて

 春になった途端いきなり二十度を楽々突破して、これは五月の気温らしい。上着を調整する暇もないが、とりあえず洗濯物がよく乾くのはありがたいものであった。今日はホワイトデーなので渡海雄は白っぽい食べ物って事でバームロールをあげた。


「ブルボンのお菓子の安定感たるや、もはや神の領域よね。私も来年のバレンタインはアルフォートに切り替えようかしら」


「それはそれでありがたいなあ。それにしてもWBCはなかなか盛り上がっているね」


「なんだかんだで国内で注目される競技の国際大会はそうなるものよ。ワールドカップだって始まる前は散々な言われようだったけど、実際に始まってみれば日本代表の活躍もあってかなりのインパクトを残したわけだし、ましてや今回は前回や前々回よりメンバーもいいしね」


「前回は……、あれ、いつだっけ?」


「二〇一七年だから、六年も経ってるのよね。コロナのせいで二年ずれたのはまあ不可抗力ではあるにせよ、この不定期開催っぽさはまだこの大会の存在の軽さを如実に示しているかのようね。次回大会も三年後だし」


「確かに歴史はまだまだだけど、それでも五回やってそろそろ二十年近くにもなる。もっと定着していくといいんだけど」


「それでもまあ着実に進歩しているほうではあるんじゃない。今回は日本代表に大谷も選出されたし」


「前回は渡米直後って事もあって不出場だったっけね」


「そこからアメリカでも二刀流として確かな実績を引っ提げて満を持しての登場。年齢的にも二十八歳とベストだし、今大会の日本代表の中心選手となるのはもはや決定づけられていた」


「それと日本人の血が奥底に流れるアメリカ人としては初めて代表選手となったヌートバーも期待通りの実力を発揮してるね」


「日本名が榎田達治ってのもなかなか味があるけど、選手としてはカージナルスに所属、二十一年にメジャー昇格して去年は主にライトとして百試合以上に出場したけど規定には到達していない、いわば準レギュラークラスの選手と言える。二十五歳と比較的若い伸び盛りの選手なのもポイントかな」


「メジャーでの成績自体は決して飛び抜けたものじゃないのもあって本番が始まる前は本当に彼でいいのかと疑問視する人もいたよね」


「結局プロスポーツ選手である以上、周りから色々言われるのは仕方ないし、それを押しのけるには実力以外に道がないのもまた宿命。大谷の二刀流もそうだったし、古くは野茂だってイチローだってこんなのは駄目という声はいくらでもあった。そしてこのヌートバーもそれらの雑音を実際のプレーで払拭して、そうなると愛される存在にもなる。しかしこれから何かミスでもしたらまた厳しい言葉が飛び交うんでしょうね。一寸先は闇。本当にシビアな世界よ」


「一次リーグの中だと村上がやたらと叩かれてたね」


「一番ヌートバー二番近藤三番大谷という上位打線がよく機能してしばしば塁上を賑わせたけど、それをなかなか返せなかったというシーンは確かに目についたし、そういう意味だとこの一次リーグは圧勝続きではあったけどそれでもなお点差以上の実力差はあったって言い方になるかしらね。でもここからはもっと接戦となるはず。その時にどうなるかはかえって不安かも」


「間違いなく格下の中国とかチェコ相手にもコールドゲームにはならなかったしね。特にチェコ。申し訳ないけどこの国出身の野球選手なんて一人も知らなかったよ」


「野球でチェコって言うとカープアカデミー出身のドミニカ人ピッチャーのほうが日本では知られていたのは間違いないわね。それでも今回現地では初めてテレビで野球を放送したらしく、そこから『WBCって何? 野球ってどんなもの?』と思うチェコ人が出れば、それこそがこの大会を開催する意義というもの。サッカーのワールドカップだって元々は踏み台枠だったアジアから日本韓国オーストラリアと実に三ヶ国がグループリーグ突破したみたいに、今はまったくの弱小国でも未来には台頭してくるかも知れない。そうなった時がWBC本当の成功となるはず」


「その時日本は相対的にどれぐらいの地位になっているか。すでに韓国は低落傾向にあるみたいだし」


「韓国は特に準優勝した第二回の激闘の印象が強かった人も多いかと思うけど、実は第三回以降早期敗退が続いているのよね。数名の優秀選手はいるけどやはりトータルの実力としては準決勝敗退で『今大会はいまいちだったな』と総括されるような日本には及ぶべくもなく、しかも今大会はピッチャー起用に際して無理な連投とや一人で投げきるといった強硬手段が規制されているからなおさら選手層という弱点が顕在化してしまったわね。それとオーストラリア戦の二塁打から足が離れたミスも」


「それでもう負けられなくなった日本戦では次々とピッチャーを繰り出したけど、中にはどうにも手に負えないノーコンもいたりで、あわやコールドゲームだった」


「冷徹に見るとこれが現時点での実力差って事。台湾なんかも含めて日本が、NPBがアジアの盟主としてその辺をどうにかしていかねば、的な発想は浮かばないでもないけど、少なくとも現時点においてやれる事はほぼない。でも二軍球団が新設される暁にはこの手の外国人育成に注力する方向性は戦力供給の観点から見てもなしじゃないかもね。極端な話全員外国人球団とかも二軍限定ならいけるわけだし」


「絶対採算取れなさそう。ともあれWBCはもう少し続く。まずは準々決勝のイタリア戦になるけど」


「さすがに未来予知は出来ないので確信じみた何かを口にするのは控えるけど、素晴らしい結果を残すものと願いましょう。それより栗林が腰の張りで離脱とか言い出したのが最悪なんだけど。すでに森下は開幕に間に合わないのが確定、矢崎も離脱中で更に栗林までもとなると、去年信頼出来た投手全滅に近いからね。絶望を楽々と飛び越えるこの絶望感。もはや清々しささえ感じられるわ」


「実際本当にどうするんだろうね。抑えターリーとか洒落にならないよ」


「オープン戦を見た限り本番だとまず炎上するだろうなって程度のピッチングしか披露していないように思えるし、じゃあ他に誰が候補なのかって言われると厳しい。森浦は違うでしょ」


「中崎を使いまくって負けまくった去年と大して変わらなくなってきたか」


「去年の中崎に関しては見切りをつけるのが遅すぎたのも問題だった。どうせ決定的な選手はいないという中であれば、あるいは色々試しながら本命の復帰まで保たせるという形が一番いいのかもね。ただいくら社会人出身とはいえ益田河野長谷部といったルーキーを現段階ですでにやれるものとして計算したり、オープン戦ではそれなりに出番を貰っているけどそもそも三年間一軍登板のなかったアドゥワあたりに無理をさせるのも気が引けるところ」


「そう思うとアドゥワって佐々岡監督時代一切上で投げてなかったわけか。しかしそんな事言ってるともう人材ないよ。島内かケムナか、まさか戸根?」


「とにかく全員で頑張ってもらうしかないわね。開幕投手が内定している大瀬良だって去年後半戦の不甲斐なさとは別の姿を見せてくれるはずだし、九里に怪我明けの床田に、後は遠藤玉村森といった面々がどれだけやれるか。特に遠藤はそろそろしっかり信頼される存在となってほしいわ。それとついさっきルーキーは計算するな言ったその舌の根もまだ乾いてないけど益田もオープン戦ではいいところを見せているし、期待というより祈りみたいなものだけど頑張ってくれるといいな」


「開幕前からスクランブル体制だね。野手に関してはどうだろう」


「なんだかんだで主力選手は主力選手たるものを見せてくれているので、そこはまず良いんじゃないかしら。新しく突き破ってくるような若手の台頭が見られそうにないのは多少残念ではあるけど。初打席初球初安打の中村貴浩も現状は育成選手の一人でしかないし、二年目の田村あたりとともにまず二軍でどれだけやれるか。その中で新戦力であるデビッドソンがどの程度かがまずは試金石となるけど」


「オープン戦では噂のパワーはまだ全開とはいかなかったみたいだね」


「そこは本番までにもっと仕上げてくれるといいわね。二年目を迎え、去年と違って言葉の通じる野手が増えたのは精神面でも良い影響を与えたはずのマクブルームが成績を伸ばしてくれたりするとなお良いけど、なかなか計算通りにはいかないのがこの世界でもあるからね。所詮去年も最下位と紙一重の順位だったチーム。上を見ながら全員で突き抜けていかないと。それとタイミングがないのでここで強引にねじ込むけど、DeNAがトレバー・バウアー獲得したのはさすがに驚いたわ。実力はメジャーでもトップクラスだけど人間性の評判は最悪で、色々あって出場停止処分を受けていた。そういう意味でも大胆な賭けだけど、やっぱりこういう非日常な動きってワクワクするわね」


「そうだね。後はサンフレッチェについてもどうだろう。日曜日に終了間際のPKでようやくガンバに勝ったけど、どうにも波に乗れてない成績に見える」


「とは言え内容が極度に悪化したわけでもない。基本的には慌てる必要はないわ。開幕の札幌戦なんて誰の目にも明らかな誤審で勝った試合を落とした事にされたわけだしね」


「あれはないよね。そのためのVARだろうに、せっかく高い金をはたいて整備したテクノロジーも、プロのはずの人間が使いこなせないんじゃまさしく宝の持ち腐れだよ」


「あの試合のVAR担当審判は以前にも間違ったルール解釈に基づいてアディショナルタイム十八分という問題試合を演出した前歴もあるし、根本的に不適任な人物なんだろうけど、まあいいわ。とにかく今年は降格枠がゆるゆるで最下位にさえならなければ問題ないんだから、でんと構えて事をなすべきよ。焦りすぎるのが最大の敵。あえて注文をつけるならもう少しシュート練習でもしてくれればって程度ぐらいかな。とは言えそれも些細な運にも等しい部分だし、右サイドは中野の成長に期待するなどして耐える時よ。逆風に耐えていればそのうち順風だって吹いてくるはずだから」


「そして日曜日からは大相撲も始まった。いきなり負けた貴景勝の綱取りはどうなるかな」


「現在の年六場所制になってから初日黒星から綱取りに成功したのは四人いるそう。報道で知った話だけど、正直結構多いんだなと思ったわ。まだこれからよ。とは言え鶴竜稀勢の里照ノ富士と近年の横綱は昇進場所に十四勝しているので、まずはこれが一つのラインよね。十三勝でも多分大丈夫だけど、十二勝じゃあねってのは優勝したけど誰も横綱になれるとは思ってなかった先場所の通りよ」


「春は始まったばかりなのに早くも土俵際か」


「季節で言うとこれから放っておいても桜は咲く。でも実力の世界は本人の奮闘なくして花は咲かない。自然の摂理よりもハードな世界で戦うんだから、偉いものよね」


 このような事を語っていると敵襲を告げる合図が光り輝いたので、二人は人目につかないところへ隠れると、変身して敵が出現したポイントへと急いだ。


挿絵(By みてみん)


「フハハハハ、私はグラゲ軍攻撃部隊のクビナガカイツブリ男だ。この荒野に真理の光を照らすのだ」


 北米大陸の西部に生息しておりこの種の中では最大級のビッグサイズを誇る鳥の姿を模した侵略者が水温む春の湖畔に出現した。水の上をバタバタと走る独特の求愛行動でも知られているが、身勝手な理由で勝手に踏み荒らされるのを待つだけの地球ではない。抗議の声はすぐに届けられた。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「春の光に包まれた世界を害する者は許されないわ」


「出たな愚かな反逆者ども。今楽にしてやろう。行け、雑兵ども!」


 クビナガカイツブリ男の冷徹な指令をただ実行するだけのプログラムされた殺戮マシーン集団を、情熱を薄い胸に秘めた少年と少女が次々と撃破していった。


「よし、これで雑兵は尽きた。後はお前だけだクビナガカイツブリ男」


「今ならまだ間に合うから早く帰るべき世界へと帰りなさい」


「成果なくして帰るなどと、それではこんな辺境まで来た意味がないではないか」


 クビナガカイツブリ男はそう言うと懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。冬の寒さは終わっても、心の冬はまだ続く。


 そういえば月曜日からマスク着用に関してルールが緩和されたが、電車の中においてノーマスクだったのはスーツ姿の中年男性一人だけだった。結局コロナの特効薬でも出てきたわけでもないから混雑時はそうするほうが安全と思えるのは当然だし、何より今まで三年続いてきたから心は急に変われないものだ。


 とにかく地球人類の心なんてグラゲ星人は考えようとは思わないし、それが常識という中では争いだってなくなるはずもない。そんな事実に寂しさや無力感を覚えつつも、こうなったからには戦うしかない。二人は覚悟を決めて合体し、力を得た。


「ヴィクター!!」

「エメラルディア!!」


 朗らかな陽光に照らされて輝く二つの巨体が、大空で激戦を繰り広げた。悠宇は持ち前の反応速度をフル活用して敵の攻撃を回避しつつ間合いを詰めてカウンターを仕掛けた。


「バランスが崩れた。今よとみお君!」


「分かったよゆうちゃん。ここはドリルハリケーンで勝負だ!」


 わずかに生まれた隙を逃さず、渡海雄は青いボタンを叩いた。全身から生えてきたドリルで突進して、敵を穴だらけにした。


「くっ、さすがに延々と反抗を繰り返しているだけあって強くはあるな」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置に乗せられて、クビナガカイツブリ男は宇宙へと帰っていった。華やかな季節はまだこれからだ。


 という事で本編以降のWBCだが、まず準々決勝のイタリア戦は九対三で勝利。これは割と見ていても楽な展開だった。今大会、最終的に大勝した試合でも先制されるケースが多かったけどイタリア戦に関しては早い段階でリードを奪えたのがそう思わせた要因であろう。


 アメリカへ行って準決勝メキシコ戦はまさに死闘であった。いきなり三点ビハインドでなかなか反撃出来ず苦しい時間が続いたが、七回から一気にゲームが動いた。日本追いつくもメキシコがすかさず突き放して二点差。でも日本が八回に一点取って、そしてラストイニングはもはや言うまでもないだろう。二塁打にヘルメットを飛ばし疾走する大谷。四球を選び『お前が決めろ』と指をさす吉田。そして苦しんできた村上が最高の輝きを見せた。大谷が帰ったと思ったらもう周東も回っていて劇的な逆転サヨナラ勝利となった。


 決勝のアメリカ戦も見事だった。投手陣がよくあの打線を二点に抑えたものだとしみじみ思う。割とランナー自体は出したがそこからの粘りが良かった。前半戦のうちに取っておいた三点を守りきり、実に十四年ぶりの栄冠。おめでとう日本代表。本当に強かった。

今回のまとめ

・国際大会は感情が激しく揺さぶられすぎるから大変だ

・よく分からない新興勢力が出てきてこそ普及なのでまだ道半ば

・カープは早くも投手陣が厳しそうだけど新しい波はあるだろうか

・サンフレッチェはそのうちに結果も伴ってくるだろう

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