vm25 信じてて良かったかもと思える流れについて
ツツジの派手なピンクが街頭を彩り、そろそろゴールデンウィークも近付いてきた。気温もかなり高まっているがこの程度なら許容範囲。寒い時は重ね着して、暑ければ脱ぐ。そうして清々しい春風を感じる渡海雄と悠宇は今日もまたいつものように仲睦まじく何事か話し合っていた。
「というわけで前評判が悪かったカープとサンフレッチェだけど、なんだかんだでここまでは悪くない推移で来てるよね」
「そもそも前評判が不当に低すぎたってのもあるけどね。まあ理由は分からないでもないけど。実際順位予想の際に指摘されたネガティブなポイント、つまりカープで言うと鈴木誠也の穴であるとか、サンフレッチェにしても補強なしや監督の来日が遅れるといった部分に関しては実際その通りではあった」
「特に監督来日時期に関しては、迫井コーチが監督代行してた時はリーグ戦で勝てなかったもんね。合流してからのしばらくも含めて」
「あそこで失ったものは決して小さくない。にも関わらず現状この成績を残せているのはどういう事かと言うと、最も過小評価されていたのは既存の選手達だったとは言えそうよね」
「それまでも別に最下位付近をうろついてたわけでもないしフロントがトチ狂ったわけでもない。そういう意味だと今の順位も事前評価による色眼鏡を外せば大したサプライズでもないんだよね」
「それでは実際にこの両者がここまでどんな戦いを繰り広げてきたかという本筋に入る前に、まず今年のプロ野球で信じられない動きを見せているポジティブなほうの話題は佐々木朗希、そしてネガティブなほうは阪神の戦いぶりよね」
「まず前向きな話から行くけど、止まらないね佐々木朗希。圧倒的な内容で完全試合を達成した次の登板でもまたしてもあんなピッチングするんだから」
「まさしく凄まじいの一言。ここまでパリーグはかの評判最悪なボールが再び使われ始めたのかなどという声が上がるほど全体的に投高打低傾向が顕著だけど、あそこまでバットがボールに当たらないんじゃもはやそういう問題じゃないわね。パワーが違う」
「この快進撃、いつまで続くかな。そしてネガティブなほうだけど、なんであんな事になってるんだろうね」
「まず特定の何かが悪い程度じゃあんな成績にはならないという意味においてタイミングが悪いのはまず間違いないわ。いきなり開幕投手に指名されていた青柳が陽性になったのが今思えばケチの付き始めかな」
「矢野監督がスピリチュアルな方面でやばいって話もあるけど」
「元々ちょっと宗教がかってるとは感じていたけど想像以上だったわね。とは言え野村克也は血液型の性格判断というインチキ科学を信じていたけど名将と讃えられているように、多大なプレッシャーに晒されるプロスポーツの選手や監督という職業にある者は技術体力を鍛え抜いた先に精神面の充実を求めて一般人の目から見ると信じられないような、怪しい世界の扉を開いてしまうのはよくある話よ」
「いきなり変な改名したりするしね」
「矢野監督も現役晩年に名前を本名の輝弘から燿大に改名したり、今になって色々ネタにされてる例の予祝なる奇行に関しても就任当初からすでに語っていたりと元々そういう部分はかなり持っていたみたいで、つまりそういうオカルト的思考のせいで低迷したというより低迷した事で異常な言動がピックアップされるようになったって順番が正しいみたいだけど、まあやばいかやばくないかで言うと明確に前者だから阪神ファンは大変よね」
「久々に勝って良かった良かったと思ったらインタビューでよく分からない色紙を見せて知らない人に感謝したりね。とてもじゃないけどついていけないよね」
「一時期はプロ野球史上初となる勝率六分台を記録していたけど一割台まで跳ね上げたように、こんな数字のまま終わるわけがないんだから今は辛抱する以外にないでしょうね。野次りたい気持ちは分かるけど警察や病院のお世話にならない程度にしていただければ」
「そしてようやくカープだけど、ここまではとりあえず勝ち越せてるね」
「阪神から大いに稼がせて頂いたのが主な勝因じゃないのって気はしないでもないけど、ともあれ好調を喜ぶのは自然な構え。全体的には投手陣、特に先発陣の奮闘がこの成績を呼んでいるのは間違いないわ」
「当初期待されていた大瀬良九里森下床田だけでなく、遠藤と玉村もよく頑張っている」
「パリーグほどあからさまじゃないけどセリーグも大概打低って話もあるけど、まあよくやってるわ。それに二軍ではアンダーソン、高橋昂也、野村らも控えているし、ここは去年より確実にパワーアップした部分よ。リリーフに関しては、黒原松本といったルーキーが敗戦処理メインながらそれなりに投げてたりと新戦力の台頭もあるけどまだまだ。中崎とか無理し過ぎない程度に使いたいところよね。打撃陣は、事前の予想通りホームランが少ないのがしんどいところ」
「さすがに少なすぎるよね。その割に案外打線が上手く回ってるのが不思議だけど」
「鈴木退団でホームランが減るのは最初から分かっていたから、下手に振り回すよりコツコツ繋ぐ意識でやれてるのかなとは思うわ。八番上本とかね、この瞬間がプロ野球人生におけるクライマックスなんだろうなという奇跡の大活躍を見せたしね。西川菊池坂倉なんかもよくやっていると言いたいけどやっぱりホームランが少なすぎるわ。確かに長距離砲ではないけど、シーズン二桁は計算出来る選手とは思えない数字なのでもう少し改善されるとありがたい。となると期待はルーキー末包や新外国人のマクブルームにかかるけど、ここまでは一定以上のインパクトを残せているので幸いよ。最終的にはどこまで行けるかな。ついでに堂林も」
「末包は存外肩が良いね。一方で小園なんかはちょっとまずい成績」
「この壁はいずれきっと乗り越えられるものだとは思うけど、現状の一割台はさすがに困るわね。今更田中広輔に頼れるものでもないし、復調は必須。しかしどうやってそれを為すか。トータルで言うと優勝というよりもまずはAクラスに入るために打線の奮起は絶対条件。二軍では二俣あたりがよく奮闘しているようだけど、さすがに現育成枠にそこまで期待するのはね。外野なんかもまだ定まる気配はないし、可能であれば外国人の野手を獲得するなどテコ入れしたいところ」
「オリックスがマッカーシーとかいう選手に手を出したり動くところはすでに動いてるもんね。でも先立つ物はあるのか。また赤字だったみたいだし」
「そこで鈴木誠也で得たあぶく銭よ。いや、借金返済に徹するのかな。ともあれ鈴木誠也もアメリカでよく頑張ってるみたいだし何よりよ」
「ホームラン打てて、出塁率もなかなかのもの」
「それぐらいの実力者を失ったマイナスは結局全体で埋めるしかないけど現状ではまだ足りない。ともあれこれからも全員が団結して戦い抜くしかないわね。そしてサンフレッチェだけど、ようやくエンジンがかかってきた」
「一気に三連勝して実力発揮したね」
「特に素晴らしかったのはマリノス戦。あのレベルの相手にあそこまでやりたいゲームをやれたのはまさしく素晴らしいの一言だったわ。二点ともストーミング、嵐のような急襲の典型と言える前線でのプレッシャーでボールを奪ってからのゴールだったし、ギリギリのタイミングで得点こそ逃したもののスコアを重ねても不思議ではなかった形はもっといっぱいあった。あんな完勝も久しぶりよ。あれが今後も安定してやれるようになるなら文句なし」
「ユース出身の新人と期限付き移籍からの復帰ばかりで新規加入者ゼロだった時はどうするのかと思ったけど、新人の中から満田が早速ポジションを確保するなどよくやってる」
「満田はもはや欠かせない存在よね。藤井も良い。キーパーにはようやく大迫が定着の気配だし、ディフェンス陣も野上荒木佐々木は相変わらず不動だし住吉も面白そう。それにボランチ塩谷もさすが。とまあこの辺は良いとして、やはり前線の迫力不足は気になるところ」
「永井はよく頑張ってるけど、もっと根本的な部分でねえ」
「マリノス戦のバイシクルは格好良くてそのうちゴールも決められるだろうと思ったけどね、それだけに次の福岡戦におけるPK失敗は心底がっかりしたわ。ああいうプレーをしてはいけない」
「あの試合もなかなかのものだったよね。PK失敗はがっかりしたけど、このまま引き分けかと思いきや最後の最後に途中出場のベテラン柴崎がヘディングで決勝点という劇的な展開」
「城福監督時代はアディショナルタイムにゴールを決めての勝利がなかったとか。それもめぐり合わせではあるけど、ただスキッベ監督の交代策が当たった結果でもあるのでそういう面から考えてもやはりこの指揮官は非常に優秀である可能性が限りなく高いと言えそう」
「そんな指揮官であってもフォワードのファーストチョイスが永井という現実もまた横たわってくるわけだけど」
「とは言えジュニオールサントスは未だにご覧の通りだし、チームとしてスキッベ監督のサッカーをするとなった時ファーストチョイスとなるのが永井なのは残念だけど納得でもあるのよね。だからこそやはり補強しなければならなかった。でもそれはしなかった」
「まさに今スタジアムが建設されている最中だし、迂闊な出費は出来ないってのもあるのかな」
「中央公園には今工事の音が響き、市民球場跡地も新たな計画に基づいた顔を整えつつある。なかなか進まなかった時はじれったく感じられたけど限られた土地をいかに有効活用するかという問題なので慎重を期すのは当然。街も人もサッカーも、確かな進歩を続けてくれれば」
「将来に関しては楽しみだよね。現状は決して楽じゃないけど」
「現有戦力で優勝は無理である以上、今年の目標はスキッベ監督のサッカーをチーム内に深く浸透させる事、その際に降格しない程度に着実に勝ち点を稼ぐ事と、そうなるのも仕方ないかな。それで言うと現状は合格点を余裕で突破している。今の調子で頑張って。フロントは補強を頑張って」
「結局一瞬噂になったモロッコだかチュニジアの人はどうなったんだろう」
「ベンカリファだっけ。あれはスイスの人よ。まあ噂なんてそんなものだし、万が一実現したらその時に喜びましょう。世界は広いんだから、その中で彼以外に候補がいないわけでもないんだから、釣りをしている時のように寛容な気持ちで」
そのような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので、二人はタンポポの綿毛が飛び交う道を走って敵のいる場所へと向かった。
「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のベダリアテントウ男だ。この惑星の汚濁を消し去ってやろう」
オーストラリア原産だが柑橘類に被害を及ぼす害虫を食べる効用を買われて十九世紀にまずはアメリカへ、そして世界中に導入されて大いに活躍した益虫の代表格と呼べる虫の姿を模した侵略者が草萌える野原に出現した。なかなか皮肉な状況だが、どんな姿の相手であれ負けるわけにはいかないと二つの小さな影はすぐさま敵の進撃を止めた。
「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」
「春風に吹かれれば日差しも心地良い季節、勝手に破壊されるのはとても困るわね」
「おお、あれが例のエメラルド・アイズか。死んでもらうぞ。行け、雑兵ども」
無慈悲な指令にただ従うだけの殺戮マシーンを、心に情熱を秘めた二人が次々と撃破していった。そして残る敵は一人だけとなった。
「これで雑兵は打ち止めか。後はお前だけだベダリアテントウ男」
「そっちがそっちの利益で動くのは仕方ないけどやり方によっては反発が巻き起こるのもまた当然でしょう」
「いや無駄に抗うのはお前達が愚かだからだ。つまり死ね」
ベダリアテントウ男はそう言うと懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしかないようだ。二人は覚悟を決めると合体して眼前の暴力に対抗する暴力を手にした。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
来週は雨が増えるらしいが今日もすでに雲が空を覆い始めていた。その雲のまた上で激戦が繰り広げられているとはほとんどの人類から気付かれていない。
そして戦いの行方は、双方激しい攻防を繰り広げていたが悠宇が持ち前の反射神経をフル稼働してカウンターを食らわせて敵の動きを一瞬止めた。
「よし今よとみお君!」
「分かったゆうちゃん。ここはスプリングミサイルでとどめだ!」
わずかに生まれただけの隙間を縫うような絶妙の早業で、渡海雄は橙色のボタンを押した。脚部に秘蔵されたミサイルがベダリアテントウの胴体に直撃した。
「うぐおぉぉ! やるな!!」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってベダリアテントウ男は宇宙の彼方へと帰っていった。戦いはまだ道半ば。それは分かっている。でもきっと訪れる平和のため、明日もまた前を向いて歩いて行こうと誓い合う二人であった。
今回のまとめ
・ここまでは悪くないが肝心なのはどこまで続けられるか
・阪神だってそのうち良くなるだろうけどやっぱりキモいはキモい
・フォワード永井を選択せざるを得ない選手層で勝てるスキッベは名将
・それに応えるためにもどうにかお金を捻出して補強しよう