ng17 松本竜也再来記念 2021年ドラフト会議について
秋になったくせに、日によっては夏かなという日差しが炸裂したり、でもそんな中で吹く風はやっぱり夏のものとは違うようであった。コスモス揺れる河原を抜けて、二人は寄り添うように歩いていた。
「それにしても、プロ野球は戦力外通告が解禁されたのにカープはなかなか発表されないね」
「確かに他にもまだ公表していない球団はあるけど、まあそれはそれで色々な意図があるって事でしょ。今年はいつもよりもドラフトの時期が近いしね」
「十一日だっけ。なんとまあ、後たったの三日だよ。その割にあんまり情報は流れてこない印象だけど」
「そりゃあ今はペナントレースが一番盛り上がってるタイミングだからね。しかも両リーグ昨年の最下位チームが優勝に向けて優勢ながらも依然競り合いを続けているというどうやっても盛り上がる展開」
「改めて見ると凄い流れだよね。セは巨人がまず脱落したし、パだとソフトバンクが勢いを落としBクラスは免れそうにないのも含めて」
「まあよそはよそって事で、カープだけど相変わらず底質な争いを続けているけど、今更四位に浮上したわね。正直一時期は最下位確定かと思ったけど、ここに来て浮上してきたのは割と予想外だったり」
「投打がようやく噛み合ってきたのかな」
「九月は鈴木誠也と床田が月間MVPで、そして野手だと坂倉小園林といった面々がよくやっている。坂倉は三割キープ、林は二桁ホームラン行けばかなり箔がつくと思うし引き続き頑張ってほしいわ。一方で二軍戦は終わり、ドラフトと同じ日にフェニックスリーグが開幕する。そのメンバーも先日発表されたけど、今年限りじゃないかと思っていた野手が複数含まれていたのには驚いたわ。えっ、まだ雇うつもりなの? それとも単なる数合わせ? 田中広輔や中田廉が今更参加してるのもなんだかなあって感じだし」
「ともあれそういう今年はもう一軍に戻ってこないであろう選手達も来年以降戦力になってくれるといいよね」
「そうね。で、ドラフトだけど、十月の始めには高校生投手を一位指名するように言っていたわ。具体的には中学時代から有名だった森木、完成度の高い小園、速球が武器の風間の三人」
「投手を狙うなら即戦力かと思ってたよ」
「素材としての評価がどうかって部分もあるし、それに今年は奥川佐々木宮城など二年目にして大いに活躍している投手が次々と出現したから、そうなると高校生とは言え準即戦力と考えられる。カープだと玉村も頑張ってるし」
「玉村は本当に想像以上だよね。遠藤やアドゥワみたいに消えないように精進してほしいよね」
「とりあえず、今年は例年にも増して情報が少ないから、確実にこの選手って事は言えないけど、まずはスカウトを信じましょう。その上でざっくりとした希望を述べると、まずは右の外野手が足りないので出来れば将来クリーンナップに入れそうな素材を期待。それとセンター出来る人もいればいいけど、これは右にこだわりすぎなくてもいいかな。でも野間大盛と思いっきり被るのもどうかってなると案外難しい問題か」
「とりあえず外野は複数必要って事かな」
「そうね。外国人で埋めるにしても、やはり若い素材は絶対必要と見るわ。内野はちょうど今年高卒三年目の小園と林が出てきたから緊急性は下がったかな。とは言えこれだという選手がいたならためらいなく動いてほしいところ。キャッチャーは質こそ高いけど人数などを勘案すると指名はありえない話じゃない。白濱とかいつまで雇うつもりなのやら」
「野手に関してはそんな感じかな。そして明らかに足りていない投手は?」
「現在の一軍戦力も将来有望な逸材もともに不足している現状では何人獲っても満たされないぐらいだけど、とりあえず言えるのはそろそろバリエーションを増やしてほしいってところよ。別にいきなり八回を任せられる投手を取れとは言わないけど、ポテンシャルのある投手って以上に安定感の高い投手であればありがたいわ。育成枠なんかも活用するようになればまた世界も開けると思うけど、その辺は保守的だからあんまり期待していないわ。まあトータルで言うとスカウトを信じましょう」
「そうだね。さて、どうなるかな」
というわけで今年も相変わらず当日にバシバシと書いて更新するスタイルで行く。でも例年以上に不安だ。特にフェニックスリーグ参加メンバーを見てそれが高まった。このもやもやが杞憂に終わるなら、それが一番なのでどうぞ吹き飛ばしてほしい。
そんなこんなで迎えたドラフト当日の朝、各社の一位予想が信じられないぐらいバラバラだった。
「という事で各社から出た情報を総合した結果、カープの一位予想は小園、森木、佐藤、隅田、山下に絞られたみたいね」
「全然絞られてないじゃない!」
「こんなケースは初めて見たわ。今までは情報漏洩ガバガバだったのに。それも内部の体制が変化した証と見るべきか、単純に今年限りの極めて特殊な事情なのか。現状で指名を公言しているのは西武の隅田、ソフトバンクの風間だけだからね。これぞという絶対的な候補がいない中でどう立ち回るべきか思案のしどころよね」
「その結果ガッツリ抽選もあるのかな」
「上手くバラけてくれれば楽だけど、なかなかそうもいかなさそうよね。そうなると外れ一位も重要だけど、これまた社会人左腕の森、山田から大砲の正木まで色々な名前が取り沙汰されてて、一体どうなるのか」
「それでも今日中には全て判明するんだから、恐ろしいね」
「今は監督も参加して最後の会議が行われている頃かな。一体どんな結論が待っているやら」
いやあ、こんなに読めない展開があるとは。去年栗林か早川で割れただけでも異常事態に思えたのに、今年はそんなレベルじゃない。それはそれで楽しみなのは間違いない。
というわけで夕刻、二人は一つの部屋にこもって黒く薄い画面に映る映像を眺めていた。天気はあまり良くない。夜には雨だとも言う。だから傘も持ってきたがどうなるだろうか。
「ああ、いよいよ近づいてきたわね。いよいよ午後五時、もう数分後には指名も判明する」
「今年もやっぱり全員集合みたいなのはしないんだね。監督だけが歩いてきたけど」
「まだまだコロナは手強いからね。その本体であるスカウト陣は相変わらず別室で今はもう最初の指名選手を入力して他球団がどうなるか見守っているところよね。さあ、いよいよ指名が始めるわ」
という事でいつも通り十七時十五分頃に指名が読み上げられた。その結果DeNA小園、日本ハム達、中日ブライト、西武隅田、広島隅田、ソフトバンク風間、巨人隅田、楽天吉野、阪神小園、ロッテ松川、ヤクルト隅田、オリックス椋木が指名された。
「ひゃあっ隅田かあ! かなりの大型競合だよ」
「あらかじめ西武が指名を公言しており、競合は覚悟の上だったかと思うけど。しかし達、吉野、松川、椋木あたりが早速指名されるとはね。外れ一位か二位かと見られていた選手だけど、それぞれ確実に確保したいという願いが現れたと言えそう」
「でもその前に小園がくじ引きだね」
「あっ三浦監督が手を上げた! 高校生としては一番完成度の高い投手かと思うし、早くから戦力になる可能性は十分にあるわね」
「そうなると恐ろしいよね。そして隅田の抽選だ。四球団はちょっとしんどいかなあ」
「そう言えば佐々岡監督のくじ引きは初か。全然引き当てられなさそうな顔してるわね。そして結果は、西武!」
「あらまあやっぱり外れたか」
「最初から公言してたところだし、まあ収まるところに収まったんじゃないかな。問題はここからよ。久々に外れ指名するけど、カープってここから割と独自路線に走りがちだからね。まだ有力とされる選手は複数いるし、どうなるかな」
「残るはカープと巨人阪神ヤクルトって、セリーグばっかりだね」
というわけで外れ一位は広島山下、巨人翁田、阪神森木、ヤクルト山下が指名された。
「山下輝競合! どんな投手?」
「法政大学に在籍している大型左腕で、大学では怪我なんかもあって一時期アピール出来なかったところから評価を高めてきた。ちょうど昨日ナイスピッチしてたし、当然即戦力候補よね」
「で、くじ引きは、あっ外れた」
「うーむ……。まあ佐々岡監督って基本的に運が悪そうだもんね。やっぱり一本釣りって素晴らしい戦略だわ。で、誰を指名するかと思ったら黒原かあ」
「これはどんな選手なの?」
「彼もやはり左投手で、所属する関西学生野球連盟では上級生になってから抜群の成績を残して一位候補に浮上したわ。カープがこのリーグから獲得するのは歴史的経緯から見ても割とレアなので、そういう意味でもどこまでやれるか楽しみよね。それと高校は智弁和歌山なので、ちょうど林の先輩でもある選手よ」
「へえ、縁は確かにあったんだね。当然即戦力期待になるんだろうからね」
正直な話「ああそっち行っちゃったか」って思った。とは言え二人も外した上ではある程度方向性も縛られてしまうのも仕方ないだろう。というわけで関西学院大学の黒原拓未、今の投手陣なら出番もすぐ来るだろうし、いきなり頑張ってほしい。
そして十八時から始まった二位指名。DeNA徳山、日本ハム有薗、中日鵜飼、西武佐藤が指名された。
「さあ二位はどうなるかな」
「ここまでは有薗鵜飼など大砲候補が次々と指名されているわね。一位ではブライト吉野松川がその枠だし」
「そしてカープは、森翔平」
「うわあ左で固めてきたわね。大卒社会人ではトップクラスと評判の左腕で、一部球団は外れ一位の候補にも挙げていたとされる投手よ。球速がどうこう以上に完成度で勝負のタイプ。無論、年齢的にも即戦力期待だし、それだけ足りてなかった証明よね」
「まあねえ。先発は最近かなり埋まった雰囲気はあるけど、思えば去年終盤も遠藤とか中村祐太が頑張ってた記憶もあるし」
「やはり選手層は必要。森は早速ローテに入ってくるんじゃないかしら」
二位指名は三菱重工Westの森翔平と決まった。しかも出身は関西大学。この関大こそかつてカープが契約で大騒動を巻き起こした当事者であり、まさしく歴史的和解の瞬間と言えよう。なお出身自体は鳥取だそうで、案外地元に近かった。
ソフトバンク正木木村、巨人山田赤星、楽天安田前田、阪神鈴木勇斗桐敷、ロッテ池田来瞳広畑、ヤクルト丸山柴田、オリックス野口福永が指名された。
「ここまでだと個人的におおっと思ったのは西武とソフトバンクと阪神かな。それと楽天のガッツリ野手素材型ドラフトもチャレンジ精神旺盛で興味深い。へえこの選手が二位なんだってのも散見される中で、カープの三位はどうなるか」
「それと巨人三位の赤星優志って、いい名前だよね」
「ああ、うん、そうね。ふふっ、まったく。さあさあ、カープは誰になるかなーっと」
「中村健人。また社会人か」
「これは投手の次に懸案となっていた右の大砲候補よ。体格は良いしスピードもある。肩も強いしセンターなんか守れたら最高かなって選手。鈴木誠也もそのうち抜けるでしょうし、即戦力という意味では納得。後は本人がそれに足る器か」
「しかもトヨタ自動車って事は栗林の後輩でもあるわけか」
「だからチームにも馴染みやすいんじゃないかな。しかし社会人をこうも指名するのも久しぶりよね」
カープの三位にはトヨタ自動車の中村健人が指名された。これまた即戦力が期待されるタイプだ。一年目からどれだけアピール出来るかにも注目したい。
三位から四位にかけてはDeNA粟飯原三浦、日本ハム水野阪口、中日石森味谷、西武古賀羽田が指名された。
「火の国サラマンダーズ! 中日三位の石森が所属するチーム名が格好良いね!」
「元々は社会人チームだったものをプロ化したもので、まだ今年誕生したばかりの新しいチームだけど小窪もロッテ入団前はここに在籍していたわ。独立組としては屈指の順位よね」
「それとDeNAの粟飯原ってのも凄いな。ASKAのアルバムにそういう名字の人がクレジットされてた記憶があるけど」
「FC岐阜にもそういう名字の選手がいたっけね。一見珍しくはあるけど全然いないわけじゃないみたい」
「という事でカープは、田村」
「へえ田村か。愛工大名電高校では投打に活躍したけど、甲子園でもホームランを放ったり基本的には打者としての評価が高い選手よ。左投げだし、おそらく外野手になるかと思われるわ。高校時代はサード守ってたりしたみたいだけどね」
「まずはどういう育成方針になるのかに注目だね」
四位に選んだ素材は愛工大名電高の田村俊介。まさしく素材であるが、ここまで高卒が少なかった中ではカープらしい指名と言えるだろう。
そして四位から五位にかけてソフトバンク野村大竹、巨人石田岡田、楽天泰松井、阪神前川岡留、ロッテ秋山八木、ヤクルト小森竹山、オリックス渡部池田陵真を指名した。
「今年の地方予選で十一打数十安打と大暴れして地味に注目していた小森はヤクルトの四位だったわね。他にもソフトバンクの野村とか、確か去年カープの指名候補にちょっと名前が出てたっけね」
「そしてカープの五位は、松本竜也!」
「ふははははっ! いや失礼。社会人だけど高卒から入ったので年齢的には大卒と同じ世代で、松本スカウトが注目していたと報道されていたから、指名はあるかもとは思っていたわ。でも巨人の賭博選手を彷彿とさせる名前がね」
「まあプロ野球における松本竜也は彼の事だと、悪評を塗り替えるぐらいの活躍を見せてくれるといいんじゃないかな」
五位はHonda鈴鹿の松本竜也。うん、正直その名前を聞いた途端吹き出してしまった。でもそれは彼本人が悪いわけじゃないので、活躍をしてくれれば何も問題ない。
五位から六位はDeNA深沢梶原、日本ハム畔柳長谷川、中日星野福元、西武黒田中山が指名された。
「ここまで六位、そろそろ終わる球団が出ても不思議ではないけど各球団なかなか積極的に指名を続けているわね」
「カープもそろそろ、あれ、末包って選手が。今年は社会人がやたらと多いねえ」
「今年の選手権大会で大活躍した右の大型大砲よ。二十打数九安打と大当たりで打撃賞獲得したとか。年齢的にも大卒三年目で許容範囲内だし、このタイプの即戦力候補として内心注目していた一人だったので本当に指名されてびっくりしたわ。まずは正随あたりとポジションを争うかと思うけど、目指すは今年三十歳にしてホームランバッターとして目覚めたオリックスの杉本ってところかな」
「珍しい読み方だね」
「四国にはそれなりにいるみたい。実際この末包も香川県出身みたいだし。しかし体重百十キロとか、嫌でも期待してしまうでしょこんなの」
ドラフト六位には末包昇大。彼の真価が問われるのは打撃。あえて言うと打てなければ駄目という選手である。しかし杉本や去年首位打者の佐野など下位指名のそういう選手が結構活躍しているので、末包もその流れに乗れるか。
六位から七位は巨人代木花田、楽天西垣吉川、阪神豊田中川、オリックス横山小木田が指名された。なおソフトバンク、ロッテ、ヤクルトは五位で選択終了となった。
「中川と花田は注目していただけに嬉しかったりちょっと残念だったり。そろそろ選択終了かな」
「おっと、高木翔斗を指名」
「ああ高木が残ってたか。岐阜県が誇る大型キャッチャーで、強肩と打撃の良さで知られているわ。高卒のキャッチャーって事でまずは現在育成枠にいる持丸と二軍でポジション争いってなるかな。その持丸、今日開幕したフェニックスリーグで早速アピールしたみたいだし、決して楽な戦いにはならないはずよ」
「質の高い争いをして、お互いに高め合うといいね」
七位では県岐阜商業の高木翔斗を選んだ。人数がやや不足していたキャッチャーの指名はある程度予想されていたが、よくぞ残っていたものだ。
本指名はこの七人で終了。育成ドラフトでは左腕の新家颯、内野手の前川誠太、大型右腕の中村来生、ナックルボーラーの坂田怜の四名を指名した。
「いやあ、ようやく終わったね。気づいたらもう八時を過ぎている」
「上位では左投手を固めたけど、全体的な印象としてはパワーのある外野手を集めた印象が強まったわね」
「しかも森、中村、松本、末包と社会人が多い」
「一位の黒原も含めて即戦力候補が多いのは、それだけ現状打破への強いが込められていると言えそう。に三連覇のメンバーは衰える一方で坂倉小園林といった次世代の選手が早くも出てきている。彼らを中心にかなり近い将来、新たなサイクルを作って浮上出来るかってところかな」
「しかし即戦力が多いだけに早速来年から成績も評価される事になりそうだよね」
「まあそこは望むところでしょ。まあ今日のところはこのぐらいじゃない。とみお君天気大丈夫?」
「うん、まだ降ってないみたいだから、傘を開かずにすむうちにさっさと退散するよ。それじゃね、ゆうちゃん。また明日!」
「またね!」
暗闇の中を駆け出す渡海雄の姿が見えなくなるまで悠宇は手を振り続けた。今回のドラフトに関しては一位のくじは外れたが左が欲しいという姿勢にブレはなく、以降も足りていない強打の外野手を複数指名するなど方向性はかなり明確だった。その結果が出るのはまた未来の話だが、今は彼らの活躍を願わずにはいられない。
一位 黒原拓未 投手 関西学院大
二位 森翔平 投手 三菱重工West
三位 中村健人 外野 トヨタ自動車
四位 田村俊介 外野 愛工大名電高
五位 松本竜也 投手 Honda鈴鹿
六位 末包昇大 外野 大阪ガス
七位 高木翔斗 捕手 県岐阜商高
育成
一位 新家颯 投手 田辺高
二位 前川誠太 内野 敦賀気比高
三位 中村来生 投手 高岡第一高
四位 坂田怜 投手 中部学院大
今回のまとめ
・かなり即戦力かつパワー寄りのドラフトだった
・早速来年から結果が問われそうな面々だけに期待も不安もある
・社会人の右の大砲として密かに注目していた末包の指名は割と嬉しい
・育成一位の新家颯って名前は格好良いな活躍するかな