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oi17 閉幕記念 東京オリンピック終盤について

 八月に入り、オリンピックも佳境に突入した。日本勢は連日メダルに絡んでくるし、そうでない種目でもそれぞれのドラマが展開されている。普段も見られない競技も今ここで行われているという同時代感こそ自国開催のオリンピックだ。しかしそれも永遠には続かない。




八月二日分


「まずは野球から。しんどい試合だった。基本的にリードを追いかける展開で」


「先発の田中は序盤こそ順調だったのに途中で崩れるし、青柳がホームラン打たれた時はいよいよ駄目かと思ったわ。でもそこからどうにか追いついて、最後はノックアウト方式をどうにか制して逆転勝利となった」


「サッカーのPK戦もだけど、見てるだけでもしんどいよね」


「しかも投げてるのが栗林だし。新人にそんな大役を担わせるとはね。どうにか抑えてくれてるからいいものの、疲労蓄積とかも気にしちゃうわ」


「でも栗林はここまで三試合で二勝利一セーブだから、監督もそりゃ使いたくもなるよね」


「ともあれ次に勝てばメダルは確定。でも負けたらよく分からない敗者復活戦に突入する。対戦相手は韓国。どうにか勝ってくれればいいんだけど。鈴木誠也もようやくホームラン打ったし、次は大爆発してくれるといいな」


「楽しみだよね。他には、女子体操の種目別における床で村上が銅メダルを獲得したね。なんと女子体操選手のメダルは前回の東京以来だとか」


「確かに日本の競技力においては男子のほうが有力で、今回も男子は団体であわや金メダルだったけど女子は惜しくもメダルを逃していた。でもこうやって力のある選手も着実に育っている。ちょっとした言葉の綾から不毛な誹謗中傷を浴びたりもしたけど、まさに思い知ったかって結果を残した強さよね」


 ほんの少しの言葉があらぬ方向へと解釈されたり、軽い気持ちで発された言葉に思ったよりも深く傷つけられたりする。それも全ては五輪が注目を集めているからこそ。もはや「興味ない」などとはほざけまい。




八月三日分


「及ばなかったね。もう少しだったのにね」


「そうね、男子サッカーでスペインと対戦した日本代表だけど、まず実力においては明確に相手のほうが上だった。とは言えそんな事は最初から分かっていた。そもそもスペインはポゼッションを旨とするサッカーにおいては世界の基準。ボールを保持される展開は分かっていたけど、さすがよね。囲まれた状態でも的確に味方へ鋭いをパスを出せるあの技術力とか」


「それでもどうにか九十分を無失点で守りきって、延長戦でも途中何度かチャンスを作ったりもしてたけど……」


「特に谷は獅子奮迅の大活躍だった。彼のファインセーブがなければ延長はなかったでしょうね。それと吉田麻也。後半に一度はPK献上かと思いきやVARで見るとその正反対、絶妙なスライディングだったと判明した好プレーもあった。しかし届かなかった。残念だけど、こうなったからには切り替えていくしかないわ」


「後一歩と言うけど、それを詰めるのがいかに難しいかをまざまざと思い知らされたね。そして三位決定戦はメキシコと当たるみたいだね」


「グループリーグ以来の対戦となるけど、一度勝った相手にまた勝てるとか言えない。無論、勝てない相手じゃないとポジティブに考える材料にはなるでしょうけど、。銅メダルを獲得した六十八年大会でもメキシコとの対戦だった。前回はメキシコが開催国で日本が勝った。今回は日本が開催国だけど、さてどうなるかな」


「メダルとなるとまさに半世紀以上の時を経てだからね。頑張ってほしいよね。他の競技だと卓球女子団体も決勝進出だね。それにボクシングやらレスリングといった格闘技でもメダルが」


「日本人に関係ないところだと、四百メートルハードルで凄い世界記録が生まれた。それまで世界記録保持者だったノルウェーのワーホルムが自己記録を大幅に更新して初めて四十五秒台に突入という衝撃的な数字に、興奮のあまり自分のユニフォームを引きちぎるほどだった」


「それと陸上競技って黒人の天下かと思ったら白人でこの記録なのも凄いよね」


「まあ女子の一部では白人が叩き出した記録が未だに残ってたりするんだけど、これはぶっちゃけドーピング疑惑が濃厚だからね。検査が厳格な今の時代でこれはまさに快挙では」


 スペイン戦、悔やんでも仕方あるまい。次の試合がある、そんな幸いを噛み締めてメキシコ戦に挑んでほしい。




八月四日分


「まずお昼にはスケートボード女子パークで日本人メダリストが二人も出たね。金メダルの四十住と銀メダルの開。後者はなんと十二歳にしてこの栄冠」


「十三歳の西矢が金メダルと獲得したストリートは階段や手すりなど街角を模したステージだったけど、このパークは街にこんな地形があったら困るだろうという斜面に囲まれた窪地みたいなところを縦横無尽に走り回るので、スポーツの競技としてはこっちのほうがそれっぽくはあったわ。スノボーでもこういうのあったなってデジャヴ感がそうさせるのかとも思うけど」


「明日の男子では実際にスノボーの選手がスケボーでも参戦するみたいだし、ある程度の互換性はあるのかな」


「エクストリームスポーツの系譜ってのはあるわね。格好良さこそ命みたいな。オリンピックという伝統的な祭典において新しいスポーツに馴染めるのは素敵よね。後は野球だけど、無事にメダルを確定させたようで何より」


「まあ相変わらずヒヤヒヤさせたよね。特に近藤健介のプレーは」


「守備では何でもない打球を弾くし、打撃でもあわやダブルプレーかと思いきやベースカバーに入った韓国の投手がベースを踏みそこねて、暗闇で物を探すようにゴソゴソしてるうちに走り抜けるという珍場面を演出。その後あわやタッチアウトかと思わせる紛らわしさも凄い」


「あそこで併殺だと山田のタイムリーもなかったかと思うと、割と勝負の綾だったプレーなのよね。とりあえず勝てて良かったわ。また栗林が出てきてお疲れ様よ。その前に投げた日本ハムの伊藤といい、新人なのによくやってるわ」


「それと激戦と言えば女子バスケも」


「残り十五秒ほどで炸裂するスリーポイントにはしびれたわ。本当にギリギリの戦いよね。そういう勝負をくぐり抜けてようやく手にするメダルという勲章なのに、あの恥知らずな名古屋市長は……!」


「最低におぞましかったよね。自分のものでもないのに」


「ただこの一件に関してはあまり詳しく語りたくないわ。気持ち悪すぎるから。だから森佐々木小山田らと同じく今の日本から消えてほしい人材だなって結論だけ言って終わりにするわ。私達が注目するのはこの日この瞬間のために磨き抜かれた技術を総動員した真剣勝負。それに乗っかり悪目立ちする無粋な輩は恥を知るべきよ」


 色々な競技でクライマックスに近付いてきたのでなかなか日本選手すら全然追えてなかったりするのに、場外乱闘は自重しろ馬鹿。




八月五日分


「今日も面白い、ユニークな競技がいっぱい出てきたね」


「この世にはまだまだこういうワンダフルなスポーツがいっぱい広がっている。そういう層の厚さを見せつけた一日と言えるわね。日本がメダルに絡んだ種目ではまず陸上の競歩で銀と銅を獲得した」


「急いで歩くって奇妙だよね。走るのと何が違ってくるんだろう」


「平たく言うと両足が浮いた瞬間を作ればそれは走った事になって、それと膝の使い方なんかにも制限があるわ。距離が長い上に結構違反にも厳しいので、完走不能に陥る選手もかなり多いハードな競技よ。だから札幌でやったけど結局真夏日が連発しててどこまで効果があったのか不明」


「やっぱり北海道の夏も暑いんだね」


「後は空手。これもなかなか不思議な競技だったわ。具体的には型だけど、見ていると何となく違いは見えてくるものの上位同士となると素人にはさっぱりという世界。それで清水選手が惜しくも銀メダルだったけど、やっぱりスポーツって間口が広いものよね」


「それとスポーツクライミングもなかなか面白かったよね」


「元々登山の技術だろうに、壁のカラーリングがポップなのでカジュアルに見えるのもいいセンス。特に猛烈な勢いで壁を登るスピード競技は人間業とは思えないほどだった。それとシュールだったのは近代五種。水泳、フェンシング、馬術、射撃と走りを組み合わせたレーザーランを一人でこなす無茶な競技なんだけど、そのフェンシングの予備予選と言えるものが今日やってて、延々とエペやってるのは壮観だったわ」


「近代五種かあ。トライアスロンとか陸上の十種競技もだけど、聞いてるだけで凄まじいよね」


「まあ本番は明日からなので、サッカーと一緒に楽しみにしておきましょう」


 こういうのがスポーツなのかと隔離するのではなくこれもスポーツなんだと可能な限り広い視野を持ちたいものだ。




八月六日分


「今日は日本代表にとってはいささか悔しい結果が多かったかな。サッカーにリレーにと」


「そうね。サッカーの三位決定戦はメキシコに敗北、リレーに至ってはバトンパスをミスって失格だもんね。特に後者は第一走者がよく走れているように見えただけに悔やんでも悔やみきれないわね。とは言えこれが現実。受け入れるしかないわ」


「サッカーもねえ、グループリーグでは勝てた相手にねえ」


「その時は前半から早々と二点決めたけど今回はPKを献上するなど逆の展開となった。セットプレーも決められまくるし、ちょっとガッツが切れていたのかなと傍目には思ってしまったような展開だったわ。逆に日本勢が勝ち上がったのは女子バスケ。準決勝でフランスを破り初となる決勝進出を果たした」


「見事な展開だったね。でもバスケという絶対的に身長が求められるスポーツで日本がここまで躍進するとは思わなかったよ」


「その弱点を補うべくスリーポイントシュートを磨いてきたみたいだからね。それを知ると準々決勝のベルギー戦もまぐれじゃなかったって見えてくるわ。決勝の相手はアメリカ。まあ、堂々と立ち向かえばそれでいいわ。それと面白かったのは、昨日も少し触れたけど近代五種」


「一応見たけど、何と言うかカオスだったね。特に馬術が波乱連発で」


「あれは正直ルールがおかしいわ。普通の馬術競技は何年もかけて人馬一体の関係を築くのに、近代五種は競技開始二十分前に初顔合わせした馬とほぼ即興で合わせていくんだからミスがあって当然よ。それで首位だった選手が一瞬で三十ほど順位を落としたのは泣けたわ」


「最後のレーザーランもやばいよね。走って射撃して。しかもレーザーだからなんだかよく分からないうちにアウトセーフが決まる」


「そしてそれと一つの会場で行うという最大のカオス。味の素スタジアムに即席のプールとか作ってて夏だけの遊園地みたいだったわ。しかし文字通り馬場にされたピッチコンディションが心配。オリンピックが終わっても日焼けした肌のようにしばらくは残り続けるんでしょうね」


「それがレガシーなのか」


 近代五種はとにかく見て良かったと思える競技だった。でもこんなの競技人口が少なくて当然だろう。クーベルタン男爵もとんでもないものを考えついたものだ。




八月七日分


「今日もまた色々あったけど、まずはずっと見てきた競技って事で野球かな。無事に金メダルを獲得したね!」


「本当にお疲れ様でした。参加チーム数が少ないとか順位決定の形式とか疑問はあったけど、終わってみれば全勝と文句なしの結果だからね。どこも強いチームばかりだったけど、ギリギリの戦いをどうにか制し続けたんだからお見事よ」


「それで毎試合栗林は投げるし」


「新人にして厳しい場面でよくぞ投げてくれたわ。日本ハムの伊藤もそうだし、この決勝で先発した森下も二年目。こういう若くて旬の投手の奮闘なくして優勝はなかったわ。一方で野手は山田坂本など実力を知られた選手達がまた見事に役割を果たしてくれた。戦力がチームとして一つに融合出来たのが最後は勝因でしょうね。」


「それにゴルフやレスリングも頑張った。飛び込みやアーティスティックスイミングでも入賞を果たした」


「しかし飛び込みなら中国、アーティスティックスイミングならロシアが完璧だったわね。あの壁は相当高い。それと昨日に引き続いて近代五種、今日は男子を見た勢いで馬術も見たけど、やっぱりかなり競技性が別物だったわね」


「本職の馬術は障害が高いしスムーズさも全然違ったね。そしてどちらの競技場にもいかにも日本風の装飾が施された障害物がやけに目立っていた」


「これは毎度のお約束で、リオ五輪の時は熱帯雨林の動物やカラフルな鳥の置物があったり、ロンドンならロンドン橋やらグリニッジ天文台からイメージした星型の障害物だったり。そういう通常見ないデザインで馬を驚かせつつ人馬一体で乗り越えてみせよという意図もあるみたいで」


「地味になりがちな競技だからこそ楽しませる方法を心得ている。馬術に限らず各競技のそういう工夫を知れるのもオリンピックの素敵なところだよね」


「ともあれそんな夢の世界も残るは一日のみ。もう明日には閉会式なんだから、時が経つのは早いものよ」


 まず野球はよくやった。他国はやる気がなかったから勝って当然みたいな声もあるが、何より勝って当然の試合を勝ち切る難しさはこれまで何度も実演された通り。優勝は優勝以外の何者でもない。




八月八日分


「というわけで閉会したね、オリンピック。閉会式はやっぱり大した事なかったけど」


「まあ開会式のクオリティからしてもあんなものでしょ。光の粒が集まって五輪になるCG演出とかソプラニスタはなかなかだったけど、相変わらず登場する謎のダンスパフォーマンスとか日本各地の祭りを映像で紹介する場面はいまいちで、何よりコンセプト不在でとっちらかった演出がねえ。あれで多様性やカオスを表現したつもりだとしたらてんで落第よ」


「正直お祭り紹介あたりはかなり眠たくなったけど、東京音頭で目が覚めた。そういう身も心も踊るような演出は多くなかったね」


「要素一つ一つは良くても見せ方が駄目だとここまで映えなくなるんだから、演出って大事よね。それを小林とかいう小劇場止まりの人間に任せる珍判断。ああそうだ、次回のパリ五輪のプレビューはやっぱり面白そうだったわね」


「エッフェル塔に旗をなびかせ、コンコルド広場やヴェルサイユ宮殿といった名所で各競技が行われるというコンセプトも非常に強力だった」


「まあ東京も引き継ぎ式は最高だったから、お手並み拝見よね。その頃までにコロナが収まってるといいけど……。北京の冬季五輪はまあ間に合わないとして」


「しかし色々課題もあったけど、終わってみると素晴らしいシーンも数多く作れたよね。今日もメダリストが出て、毎日日本勢がメダル獲得し続けたなんてね」


「そうね。終わってみれば金二十七銀十四銅十七の計五十八個で、これは当然過去最高の成績となった。その詳細はこれまでに語ってきた通りだけど、メダルの色や有無に関係なく、やりきったと思えたならそれが一番よ。選手の皆様は本当にお疲れさまでした。今はただゆっくり休んでください」


「見てるだけの僕らですら疲労感というか虚脱感があるぐらいだし、実際にやってた選手達はどれほどだったか」


「半月もひたすら踊らされ続けた末の満足感は確かに存在するわね。夢の時間は終わった。次に来るのは感染拡大が続くコロナ対策や不透明な金の流れの精査といきたいところだけど」


「とか言ってたら台風が来るという。ある意味絶妙なタイミングだったね」


「とりあえず私達も眠りましょう。未来に立ち向かうために」


「そうだね。それじゃね!」


 というわけでスポーツの祭典は終演を迎えた。色々見たけど多くは一期一会となるのだろう。雫が水に落ちるような僅かな時間の出会いであれど、確かに触れ合った。このイベントで私は儲けたわけでも栄光を勝ち取ったわけでもない。ただ少しだけ心が跳ねて豊かになった気がする。他人が騒いだだけでだ。そんな人がいくらでも生まれたならば、それは十分に意義があったと言えるのではないか。

今回のまとめ

・野球はさすがサッカーも十分よくやったほうじゃないか

・近代五種みたいな謎競技こそオリンピックの醍醐味

・次回パリ五輪のコンセプトは面白そうだけど上手くやれるかな

・選手の躍動も開会式閉会式のしょぼさも全て含めて今の日本だ

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