oi16 熱戦記念 東京オリンピック中盤について
オリンピックはまだまだ続く。これから陸上競技も本格的にスタートしていよいよ佳境に入るところだ。
七月二十八日分
「今日も色々あったけど、まずは野球からにしようか。何だか雑な試合だったね」
「今大会において一時的に復活した野球だけど、根本的にそこまでやる気のあるチームは多くない。まずメジャーリーグが全然協力的じゃないしね。という事で対戦相手のドミニカ代表はマイナーや独立リーグ、そして日本の球団に所属する選手で構成されていた。先発は巨人のメルセデスだし、元巨人の失敗選手としてお馴染みだったフランシスコが日本に戻ってくるのも驚きだったわ」
「それでそんなメルセデス相手に体良く抑えられる日本代表。九回表を終えて二点差と、これは駄目かなと思ったらいきなり局面が激変した」
「そもそもの始まりは柳田のファーストゴロにカバーが入らず出塁を許したところ。そこからはもうあっという間に連打が続き、結局サヨナラ勝ちとなった。うん、やっぱり守備って大事。しかし今回の野球、順位決定方式があまりにもおかしいわ。予選リーグで全敗してもまだ金の可能性ありって。どうせ今回限りだからって何かしらの実験でも行っているのかしら」
「それで言うとサッカーの方式はよりシンプル、つまり完成されているよね」
「そんなサッカーで日本はフランスに四得点の圧勝、結局グループリーグ全勝という見事な成績で決勝トーナメント進出を決めた。久保建英は三試合連続ゴールだし、次のニュージーランド戦でも期待大よね」
「しかしサッカー日本代表、もしかすると強いのかなって雰囲気はあったけどここまでとはね」
「でも選手も粒揃いで、オーバーエイジの人選も本気だもんね。藤春とかいないし。このまま勢いよくメダル、しかも六十八年を上回る色を十分に狙えると思うから、頑張ってほしいわ」
「それと金メダルでは女子柔道の新井は壮絶だったね」
「あの準決勝よね。正規の四分間が終わっても決着がつかず、延長戦も十分を超えるというまさに死闘よね。それを乗り越えたからには決勝戦とて恐れるものは何もないって心境だとしても不思議ではないわ。去年の十二月、阿部一二三と丸山城志郎といういずれ劣らず両名による代表決定戦が開催されて二十四分の激闘が繰り広げられたのを思い出したわ」
「そこまでの戦いを繰り広げたのに次であっさり負けましたじゃ顔向け出来ないもんね」
「とは言えやっぱり勝ち切るって難しいものよね。バドミントンの桃田賢斗は格下と目されていた韓国人選手に負けてしまうし。この桃田、闇カジノに入り浸ってて処分されたり、そこから立ち直ったと思ったら事故に遭ったり、とにかく浮き沈みの激しい人生を送ってて、そしてオリンピックでは思いっきり凶が出たみたい。事故で目が駄目になったのが根本的な原因とも言われているけど」
「なかなか難しいものだね」
「かつての第一人者だった内村航平や瀬戸大也、白血病からの復活を果たした池江璃花子、最終聖火ランナーも務めた大坂なおみ、そしてこの桃田と事前に有名だった選手であっても敗北は無慈悲にも訪れる。しかしこういった従前の英雄が倒れたところで全てが終わりではない。その証拠に内村がいない日本体操界には橋本大輝という新たな王者が誕生したのだから」
「三十代の内村が退場する一方で十代の橋本が輝きを見せる。綺麗な世代交代の構図だよね」
「それと日本が順位に関わらなかった競技では、馬場馬術がちょっと面白かった。音楽に合わせて馬がぴょこぴょこと動いてるのがなかなか滑稽味があって。和風の意匠が組み込まれた会場も良い雰囲気だし。それと七人制ラグビー。成績は振るわなかったけどこれも十五人制よりもスピード重視って感じで、時間が短い分よく走らないといけないからかなり競技性が違う雰囲気なのが興味深く思えた」
「同じ広さのフィールドで人数は半分以下だからそうもなるのか。そして順位を見るとニュージーランドを破ってフィジーが優勝なのか。しかも連覇」
「国籍に対する考え方も違うし、団結さえすればアイランダーズは強いってよく言われてる証明の一つじゃないかしら。チーム戦における団結力なんてものは想像以上にあっさりと崩れるものだからこそ重要よね。選手だけでなく、それをまとめる監督の力も」
「という事で森保監督には引き続き頑張ってほしいね」
正直桃田も負けるとは思わなかった。とにかく運命に翻弄される運命の男だ。サッカーは逆の意味で予想外。野球に関しては、優勝チームの勝率五割台や圧倒的最下位でも三割は勝てるのが普通の競技なので日々の勝敗に拘泥しすぎないように楽しみたい。
七月二十九日分
「今日は柔道で金メダルを二つ獲得と相変わらず好調だね。しかもウルフ・アロンとかいう名前からして強そうな選手が」
「アメリカ人の父親を持つけど日本で生まれ育ったから英語はそんなに話せないんだとか。女子の浜田も全部一本勝ちと実力を見せた。ついでに実力を見せたと言えばここまで苦戦が続いていた瀬戸大也が最後に残った二百メートル個人メドレーで萩野と一緒に決勝進出を果たしたわね」
「今まではそれすら満足にこなせなかったわけだし、大進歩だよね。メダル候補と見られていた前評判からすると後退ではあるけど、そもそもこの境地に立つのも簡単じゃないわけだし。後は卓球の混合ダブルスで金メダルを獲得した伊藤美誠が個人でも銅メダル」
「しかしやはり何だかんだで卓球は中国が強い。苦戦して当然だからこそあの勝利の価値も高まるというものだけど。他には子供用みたいな小さい自転車を用いてモトクロスのようなバチバチのバトルが繰り広げられるBMXレースもちょっと面白かった」
「調べたら他にスノボーやスケボーみたいにジャンプしたり技を繰り出して得点を競うフリースタイルなんてものもあるんだね」
「いわゆるエクストリームスポーツの一つよね。それこそスケボーとか3x3のバスケとか、そっち系からのオリンピック採用は目覚ましいものがあるわ。ただ競技して凄いってだけじゃなくてその上で格好良いって要素、大事にしたいものよね」
今日は比較的イベントが控え目だった気がする。しかし柔道は偉い。重圧に負けずに勝ち抜くなんて並大抵じゃない。
七月三十日分
「今日も色々あったけど、まずはフェンシングでしょ」
「そうね。男子エペ団体で日本代表チームが金メダル。しかも勝ち方も凄まじくて、初戦のアメリカ戦では途中で八点差を付けられるも選手交代などの策が功を奏して逆転で突破。次のフランス戦も世界一位の強豪相手にマッチポイントを握られたもののそこから連続得点で大金星。準決勝ではリオで金メダルを取ったエースがいた韓国を下し、そして決勝でもロシア相手に見事な勝利」
「こう見ると劇的な試合連発だったよね! でもエペとか急に言われてもよく分からないよね」
「まあまずそこからになるわね。まずフェンシングって中世ヨーロッパの騎士の剣術から発展した競技なんだけど、日本においては剣道を差し置いてあえてこっちを選ぶ理由が薄いからね。人気実力ともに長らく低迷していたけど、そこに風穴を開けたのが北京五輪で銀メダルを獲得した太田雄貴だった。今回の金メンバーにも太田の雄姿に憧れてフェンシングに道に入った選手もいたから、まずそういうきっかけになったという意味でも限りなく大きい存在よ」
「やっぱり急に生えてきたんじゃなくて歴史の積み重ねなんだね」
「それでフェンシングの中にフルーレ、エペ、サーブルという三つの種目があって、まずフルーレは一番軽い剣で手足や顔面を除いた胴体が有効面。三つの中ではスピード重視と言える。先述の太田もこの種目が専門で、伝統的に日本ではフルーレがメインだった。サーブルは突きだけでなく斬りも有効なのが最大の特徴。元々馬上の決闘から発展したもので、その場合馬を狙うのは卑怯って考えから有効面は上半身のみとなっている」
「細い剣でツンツンしてる程度のイメージだったけど、そうやって挙げてみると結構違うんだね」
「そして今回のエペだけど、他二つとの最大の違いは攻撃権がない事よ。これは試合において先に仕掛けたほうがポイントを得る権利を得るってもので、守る側は剣を払う回避するなどしたら権利が入れ替わるんだけど、初心者どころかやってる剣士も実は分からないまま斬り合っていると言われるぐらい判定が難しいの。でもエペはそれがない。しかも有効面は頭から足の裏までの全身。だから観戦初心者でも分かりやすいと言われているわ。競技人口も世界で一番多く、だから日本のフェンシング協会はここを重点的に強化していたそう」
「それで見事に結果を残したわけか」
「フェンシングという競技自体も顔全体をマスクで覆うため誰が誰だか分からないという弱点を補うため国旗をあしらったデザインを入れたり、マスクにライトを付けて得点した方に点灯させたりと、いかにも伝統的ってイメージとは正反対で自己変革に余念がない競技なのも面白いところ。かなり早いうちから機械判定を導入してたりするしね」
「あのスピードでどっちが先に突いたなんて肉眼じゃ完璧に分かるわけないからそうもなるか」
「ともあれ今回の結果でまた競技人口も増えるはず。太田から今回の金メダルが生まれたように、今回から一体何が生まれるかも重要な要素よね。他の競技だと、柔道の個人戦も今日終わったわね」
「一番重量が大きいクラスで男子は四位だったけど女子は素根が金で有終の美を飾った」
「柔道もここまで本当によくやったと思うわ。それと水泳の瀬戸大也も四位だし、とりあえずお疲れ様でした。今大会においてはなかなかパッとしない成績が続いていたけど、ようやく勝負出来て本望だったかな」
「今大会の日本水泳陣は女子の大橋ぐらいしか目立たなかった感じがするよね」
「まあ各国が激しくしのぎを削る中だから、そういう事もあるわ。原因を分析して今後に活かせるかが肝心よ。勝利も敗北も積み重ねによって生まれるもの。女子サッカーなんかも含めてね、負けたなら仕方ない。それを未来に繋げていけば敗北も意味を持つし、そうでなければただみじめなだけとなる。まあこれからよね」
フェンシングのエペ陣は勝ち方も壮絶で、卓球混合ダブルスを思い出した。それと順位を見ると日本以外も尽く下剋上が決まっていたらしくて、それはフェンシングという競技の新境地にも繋がってくるかも知れない。
七月三十一日分
「いよいよ七月も終わりか。とにかく暑かったね」
「そして熱かった。この戦いの日々は八月になってもしばらく続くんだから、テンション上がるわね」
「それで今日は野球もあったけど、それよりはまずサッカーなのかな」
「ニュージーランド相手に攻めきれずPK戦に突入。本当にしんどかったわ。でも結果的には突破に成功した」
「危なかったね。二本目に守護神の谷がセーブして、次の人は外したけど日本はしっかり決めてくれた」
「PKってもちろん実力が介入する余地もあるんでしょうけど、ほとんど運みたいなものだからね。でも運だとしても、ここで手放さなかったのは大きい。もう一つ勝てればメダルだけど、ここからが大変なのよね」
「残ったのは日本スペインブラジルメキシコ。グループリーグで戦ったメキシコも残ってるし、やっぱりあの組はレベル高かったんだね」
「しかも韓国相手に六点も取ってるというね。ここまで来たらどこが勝ってもおかしくないし、その中に日本もいる。そんな幸いを噛み締めつつ、まずは次のスペインにも全力で立ち向かうのみよ。そしてここで残念なお知らせだけど、今大会初のドーピング違反者が出てきてしまった。ナイジェリアの女子陸上選手だそうで」
「やっぱりいるものなんだね」
「結果のみを追い求める中では、そういった誤った道への誘惑に容易く転びやすくもなる。最後は精神性、モラルの問題にもなるけど、まあ簡単じゃないわね。これ以上増えない事を望むけど……」
「なかなか簡単にはいかないよね」
やっぱり出てくるドーピング問題。所詮はいたちごっこか。フェアに戦い抜くのは当然と思うが、でもより速くより強くという世界を見てみたい欲求も仕方ないのか。百メートル十一秒台が限度の筆者には計り知れない境地であろう。
八月一日分
「というわけでついに八月に突入したけど、陸上競技も本格的に進んできたしいかにもオリンピックらしくなってきたね」
「しかし女子の砲丸投げで銀メダルを獲得したアメリカのレーベン・ソーンダースの強烈なルックスにはびっくりしたわ。鍛え抜かれた肉体に紫と緑にセンターで染め分けられた短髪。おまけにマスクやサングラスまで加わるとそのままアメコミに出演しても違和感なしのパワフルすぎる風貌はインパクトしかなかったわ」
「投げ終えてから不思議なダンスを踊るし、表彰台では政治的アピールするし、実際同性愛者かつ鬱病らしいし、キャラクターが濃すぎる」
「普段は抑圧されていると感じているからこそ本当の自分を曝け出せるのは勝負の瞬間のみって感覚もあるんでしょうね」
「それで競技に戻ると、日本勢は早々と予選敗退した男子百メートル走はイタリアのヤコブスが優勝した」
「この種目で今までダントツの実力を示していたのがジャマイカのウサイン・ボルトだったけど、そんな絶対王者が消えてどうなるのかと思ったら、イタリアかあ。まあこの人もやっぱり黒人だけど、準決勝において中国人選手がアジア人では初となる九秒八台を記録したのもなかなか衝撃的なトピックス。いよいよそういう世界に突入したのね」
「女子三段跳では世界記録が出たしね」
「ベネズエラのロハスね。あの細長い肉体がいかにもジャンプに特化した体って感じで、そういう資質ある人が努力してついに到達出来る境地にこそ美がある。そうやってフェアに競い合ったからこそ男子走高跳において、両者同じ記録を出してから決戦はせず金メダルを分け合うという光景も麗しい。ここにドーピングが加わったら台無しもいいところだからね、自分を律するのは大事よ」
今回も文字数、とりあえずの目安は五千字だがこれを突破したのでここで投稿。ちょっと野球に目を取られすぎて投稿が遅れたが、次回の投稿は閉会式についても何か書いている事だろう。
今回のまとめ
・かつてのスターが落ちても新たなスターが出てくるのは世の習い
・フランスとニュージーランドを見るとサッカーって戦術だなと再確認
・逆にストリート系の競技など全然分からなくてもそれはそれで楽しい
・陸上競技が始まるといよいよオリンピックもクライマックスだ