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oi15 開幕記念 東京オリンピック序盤について

 東京オリンピックの不愉快な都合に関しては前回までに十分語った。そこからもまだ解任される人間が出るなどまだまだ膿は溜まっている。しかしそれはそれとしてせっかくやってきた大イベント、どうせなら楽しまなければ。次はないだろうし。


 というわけで渡海雄と悠宇は夏休みを利用して、一緒にオリンピックを楽しむ事にした。日付ごとに色々語り、分量が溜まったら吐き出す感じでやりたい。




七月二十三日以前分


「ついに来てしまったね、開会式の日が」


「音楽担当が過去に得意げに語っていた鬼畜の所業を叩かれてからの辞任に続いて、開会式の演出担当者がこれまた過去にホロコーストを揶揄するコントをやっていたとかで解任。でも今更タイミングが遅すぎるわ」


「実際どうするんだろうね。音楽は今から作り直すみたいだけど」


「もう覚悟を決めるしかないでしょ。そう言えば昨日『いだてん』の総集編をやってたけど、落語パートの分量が減ったお陰で締まった物語になってたわね。それを見るに、つまりスポーツの力を信じられるかどうかよ。頼むわよ。昨日の南アフリカ戦における久保建英のゴールなんかまるで芸術だったじゃない。あれが見本よ」


「苦しい試合だったけど、それだけにカタルシスが凄かったよね。あそこしかないというピンポイントを縫うように決めるんだから。他にソフトボールなんかも既に始まってるよね」


「いずれも日本代表の成績はなかなかのもので徐々に日本全土がスポーツ脳に支配されつつあると見るけど、そうやって注目される中で開会式がどこまでやれるか要注目よね」


「コロナだからそんな大層なクオリティは期待してないけど、とりあえず状況の中で恥ずかしくないものなら良いよ。寛大な心で見守るよ」


「まあまっとうなクリエイターは既に排除された後なんだけどね」


 期待と不安だと明確に後者のほうが大きい中、それでも期待を捨てずにはいられなかった。結局現実の厳しさを思い知らされる事になったが……。




七月二十三日分


「いやあ、がっかりな開会式だったね!」


「ピクトグラムなんかはちょっと面白かったし、最終聖火ランナーの大坂なおみってチョイスも政治的に妥当って感じだったけど、一部では滑ったとしか言いようのない演出も見られたわね」


「テレビクルーとか」


「うん。コンテンポラリーダンスなんかは私には分からなかったけど『そういう世界もあるんだろうな』とは感じられたけど、あれは悪い意味で芸能人っぽくて寒かったわね。噂によると解任された人の持ちネタと言うか世界観だったみたいで、まああんなタイミングで首にされたところでいきなり仕切り直しも難しいからそれ自体はいいんだけど、クオリティの低さがただただ悪い」


「それと中途半端な演出も多かったよね。大工とタップダンスとか、歌舞伎とジャズピアノとか、和洋折衷的なイメージだったのかも知れないけど『コラボしました』止まりで一つ一つの繋がりに欠けたと言うか」


「多様性と調和を象徴って事らしいけど、一歩間違えると今回みたいに散漫になりかねない難しいテーマよね。人海戦術を使えなかったのはコロナのせいかも知れないけど、それならCGで埋めるなりやりようはあったはず。せっかくのスタジアムという巨大空間を活かせてなかったのはもったいなかった。メジャーのど真ん中で戦えるタフネスが足りない人間に任せたらああいうこぢんまりしたものが出来上がるって例なのかな?」


「とは言え本来の主役は選手達。それで言うとやっぱりその主役が一堂に会する選手入場はいつもと同じく素晴らしかったよね」


「その後にありえない長話をかます橋本とバッハ。これだから偉い人は……。まあこれから選手達の宴が始まると思えば、出しゃばるべきではない人間が今のうちに出しゃばる浅はかさも大目に見て……、やれないわさすがに。反省しろ!」


 開会式に関して、ベストパフォーマンスの金メダルやはり選手入場だろう。銀はピクトグラム、銅はドローン芸かな。ワーストの金はテレビクルー、銀は長話、銅は大工タップとなろうか。とは言えこんなものは所詮余興。本番はこれからだ。




七月二十四日分


「そしていよいよ始まったね、オリンピックの本番が!」


「そして大事なのはそれまでのサッカーだの野球だの普段から注目してるようなスポーツだけでなく、むしろそれまで知らなかった、興味を持てずにいたスポーツにも目を向けられるって部分よね」


「何となくテレビを付けたらやってたウェイトリフティングとかも、つまり重たいバーベルを持ち上げるだけでしょってシンプルな理解しかなかったけど、解説を聞いてるとそれなりに『なるほどなあ』って気分になるから魔法だよね。すぐ忘れてしまうんだろうけど」


「それでも何千何万の中から一人ぐらいは別の感想を持つ人がいるかも知れない。それで競技人口が増えれば本望ってところでしょ。そして今日一番異様な盛り上がりを見せたのはおそらく3x3のバスケットボールよ」


「あれは凄かったよね。夜にやってたベルギー戦、無茶苦茶ごちゃごちゃしてるし疲れからかお互いミス連発する中でボロボロになりながらようやく決勝点を決めて日本勝利という」


「相手が平凡なレイアップを外したかと思えばこちらはド派手なダンク失敗。ゴール一つしか使わないし、まさに普段遊びでやってるようなストリートバスケにルールを付けた感じで、なかなかカオスだったわ。ただ惜しいのは、この競技って試合中もMCがガンガン喋りまくり音楽鳴らしまくりらしく、現地で観戦したらもっと楽しかったんだろうけど返す返すもコロナがねえ……」


「テレビでもこれだけ楽しめるんだからいわんや現地ではってね。早く世界が修復されるといいね」


 バスケの3x3とかまさしく今まで見たことも聞いたこともない競技だったが、とりあえず面白そうというイメージだけは確実に伝わってきた。お祭りだから「なんか知らんけど面白そうな事やってるやんけ」でいいんだよ。今世界に必要なのはポジティブなメッセージだ。




七月二十五日分


「いきなりだけどスケートボードで日本人の堀米選手が金メダルを獲得したね!」


「『半端ないっす』『熱い! やべー』とかいかにもチャラい兄ちゃんって感じの解説者もちょっと面白かったけど、競技自体は普通に転倒しまくりでかなり痛そう。階段の手すりなどを模したステージの中で、一瞬であそこまでテクニカルに動くのかと驚倒する細やかなプレーが繰り出されてて、新鮮な世界だったわ」


「一方で水泳でも大橋が400m個人メドレーで優勝」


「主に平泳ぎで奪ったリードを、上手く逃げ切ったわね。一方で瀬戸大也がペース配分をミスるという相当無様な負け方をした男子は、それまであまり知られていなかったチュニジアの選手がいきなり優勝、一日にして世界のヒーローとなった」


「まさに劇的な展開だったけど、女子ロードレースも珍しい展開だったみたいじゃない」


「個人種目でありながら実質団体戦が繰り広げられる競技性ゆえの結末だったと言えるのかな。普段プロの試合では無線などを駆使するけど、オリンピックは情報伝達手段が少ない。それで世界ランク一位二位四位五位を揃えて優勝最有力だったオランダ勢は、平たく言うと勘違いしちゃったのよね。まずレース序盤に先行した選手が数名いたけど次第に追いつかれて消えていった。一人を除いては。でもオランダはその一人の存在をチームとして共有していなかったのよ」


「あらまあ」


「で、その見落としてた選手抜きでラストに向けてペースを整えるなど集団内での駆け引きを繰り広げているうちに逃げ切られたという顛末。オランダ勢は唯一にして最大の誤算を除けば完璧なレース運びを見せたのは間違いない。それで二位となった選手は自分が金メダルと勘違いしてガッツポーズまでしてしまったんだから、まさしく痛恨よね」


「やっぱりロードレースって距離が凄まじいからそういうミスもあるものなのか」


「普段からプロのやり方に慣れすぎていたのが仇になったというか。でも体力温存の観点からしても集団で走ったほうが合理的なのに一位の人はスタート時から前に飛び出して最後四十キロぐらいは一人で走りきったんだから相当なタフネスよ。柔道の阿部兄妹の同日金メダルも凄かったし、それと卓球の混合ダブルスも奇跡的な決勝進出を果たした。準々決勝のドイツ戦、追い込まれた状態から炎の大逆転はしびれたわ」


「サッカーもメキシコ相手に先手必勝で二点取ってどうにか逃げ切ったし、ソフトボールもギリギリの試合を連発しつつメダル確定。日本勢がなんだかんだで順調だよね」


「超一流のバトルは楽しいけど、その中に同胞がいるとより楽しい。やっぱり私達日本人よね」


 いよいよ各競技本格的にスタートして、日本人もそれ以外も大いに躍動している。それにしても卓球の水谷伊藤ペアの勝ち方は凄まじかった。大橋も、チュニジアの水泳選手も、オーストリアのロードレーサーも。台本ありじゃとても成り立たないようなプレー。これこそがスポーツの醍醐味。開会式の演出担当は恥を知れ。




七月二十六日分


「今日も日本勢のメダル続出だったね」


「まず早い時間帯から驚いたのは女子のスケートボード。西矢椛という十三歳のうら若き乙女が金メダルだからね。本番中でも銅メダルの中山選手とラスカルの話をしていたという子供らしさを見せつつ演技はバシッと決める強心臓」


「まあラスカルの曲は盛り上がるからね。『もえるゆうひ』『つりびより』あたりの挿入歌も良い曲だし。ストーリーは根本的に少年の成長物語なのでラスカルなしでも成立しないわけじゃないけどスターリングなしじゃ絶対成立しないのに商品化では毎度ハブられてかわいそう……。ともかく二位のブラジル人選手も同年齢だから凄い世界だよね」


「でも傷だらけの肘を見るとジュニア世代の遊びなんかじゃなくて真剣勝負だと否が応でも知らせてくれて、気が引き締まるわ。それからアーチェリーに柔道に。特に柔道の大野など、金メダルで当然銀すら失敗という中で実力を発揮してみせた。本人の佇まいもアスリートと言うより武人って感じだったし、一体どれほどのプレッシャーをはねのけてきたのか」


「勝って当然なんてありえないだろうにね。後は卓球! 混合ダブルスで日本が最強の中国を打ち破るという快挙!」


「思えば昨日の展開からして奇跡的だったけど、この決勝戦も凄まじかった。最初の二セットを取られて駄目かと思ったけどここから巻き返しに成功。最終セットでは炎の八連続得点で決定的なリードを奪い、そのまま勝利へ突き進んだ。体操もあれで銀なら仕方ないってところまで高めきってたし、それとソフトボール。すでにメダル確定の中でアメリカとの全勝対決。ここでは負けたもののまだ次がある。果たしてどうなるか。甲子園の予選もあるし、見逃し配信を駆使したところで目が追いつかないわ」


 マジで卓球優勝まで行ってしまったよ。凄すぎてよく分からない。金と銀の選手が健闘を称えて抱き合う光景がジュニア選手権みたいだったスケボーもなかなか凄い絵面だった。十三歳、真夏の大冒険とか言い出したのにはちょっと笑ってしまったけど。




七月二十七日分


「今日はまずサーフィンで男女ともに日本人がメダル獲得したね。というかサーフィンが種目だったのを知らなかったけど」


「今回からの新種目だったみたいね。ちょうど台風が迫っていたのもこの競技にとってはかえって好条件だったそうで、ボート競技が延期になる中で嬉々として日程を早めて開催されたというのも特異な部分よね。今回は千葉県の太平洋側でやったけど、次回のパリ五輪ではタヒチが舞台になるらしいわ。」


「フランス領だからって無茶するなあ」


「二十八年のロサンゼルスは西海岸、最近決まった三十二年のブリスベンもオーストラリアだからどこかしらにポイントはあるはず。でも今後例えば内陸国でやる場合はどうするのかな。野球みたいにハブられながら開催?」


「それはともかく、男子の五十嵐は準決勝で逆転を決めた波乗りは見事だったね」


「一応競技としての駆け引きとかもあったけど、それ以上に自然との戦いって印象が強かったわね。延々と寄せては砕かれる白波を前に人間二人のなんとちっぽけな存在か。それでも果敢に攻めて乗って滑って回って……。しかし優勝したブラジル人は強かった。いきなりボードが折れるトラブルに見舞われるもそこから波と戯れるように技を繰り出して、納得の順位」


「それと五十嵐の名前がハワイ語で自由を意味するカノアだったのも印象的。女子には月を意味するマヒナさんもいたし、やっぱり親がハワイとか好きなんだなあって」


「そうでもないと子供の頃からサーフィンやろうってなかなかならないものね。それとソフトボールも金メダルだったわね」


「大接戦だったね!」


「日本が弾いたボールをショートが取ってダブルプレーに仕留めたかと思ったらアメリカはホームランをジャンピングキャッチ。やっぱり守備って大事よね。上野がまだエースやってるのも凄まじかったわ」


「一方で瀬戸大也はまた負けたし、柔道ではついにメダルなしの選手も出た」


「瀬戸は不祥事も報じられて叩かれたりしてたから、見返すには成績しかなかったけど……、歯車が噛み合わないとこうなってしまうのかな。まあ言い訳の見苦しさで恥の上塗りとなってしまったけどまだ終わりじゃないから、最後に少しでも意地を見せられるといいわね。柔道に関しては、仕方ないでしょ。日本発祥とは言ってもすでにブラジルやヨーロッパのほうが競技人口はよっぽど多いわけだし」


「そう考えるとむしろよくやってるわけか」


「一時期はもっと苦戦してたところから持ち直した結果でもあるしね。テコンドーも韓国は金を取れなかったらしいし、日本の競技だから日本が勝ち続けるよりも世界に広まったほうが嘉納治五郎も喜ぶでしょうし、これで正しいのよ、きっと」


 サーフィンの壮大さ、ひたすらナイスゲームだったソフトボール。これからもそんな素晴らしい勝負が続くのは間違いない。ドーピングなんかに気をつけて素晴らしい競技生活を送ってください。


 というところで文字数が規定を突破したので今回はここまで。二回か三回って考えてたけどこれは三回ありそうだな。その場合次回は八月の最初で、もう一回は閉会式の後ってなるはず。

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