hg03 Hi!について
十二月になってしまった。もう冬だから寒いのは当然だ。しかし慌ただしい季節の到来でどこか心が浮き足立つのもまたこの月の特徴である。イベントも豊富だし多少寒かろうが嫌いにはならない。もう終わると思えば普段よりちょっとだけ大胆にもなれるものだし。
そして今日もまた渡海雄と悠宇は南郷宇宙研究所に集まってBGM代わりにつけたテレビのニュースを時々つまみながらとりとめのないお話を始めた。
「クワイだよ、クワイ! 福山市でクワイの収穫が最盛期を迎えていますってニュースを聞いた時に『ああ、もうこんな季節になっちゃったんだな。そろそろ一年も終わりかな』ってなるんだ」
「クワイってあの、爪みたいな奴でしょう。スーパーとかで変なのがあるなって見たことはあるけど食べた事はないわよね。見た目だけで言うと食べ物としては正直そんなおいしくなさそうじゃない?」
「まあ、それはいいんだけどね。風物詩ってだけで十分。おせち料理とかね、栗きんとんと豆と、せいぜいかまぼこぐらいしか食べられないけど変な魚の卵とか昆布とかなくなればいいとは思わないからね。それでさ、ここ半年ぐらいずっと言おうと思ってたのに言いそびれた結果、全然季節と関係なくなっちゃったのが光GENJIのセカンドアルバムなんだ。テレビも消したしもう言っちゃうよ」
「はいはいどうぞどうぞ」
「発売は一九八八年の七月で、彼らの最盛期に発売されたアルバムなんだ。ジャケットからしていきなりどこか南の島で撮ってる写真だからね。大きな木に登ったりもたれかかったりしてポーズをとっている七人の衣装もオレンジと緑で熱帯に実る果実と葉っぱみたいでセンスが爆発してる」
「帯には『赤道気分でサウンド遊泳! もぎたてのニューアルバム』なんて書いてあるわね。前回のダンシング、じゃなくてオーバードライヴ・ゼネレーションと比べると言いたい事は分かるわね。つまり夏らしいんでしょ」
「そうだね。まずはルックスから見ていくけど、全体的に写りはいい。山本は散髪に失敗したみたいな前髪が気になるけど。本人の実力以上に不細工に見える。佐藤寛之もまだ平凡なルックス。佐藤敦啓は流石に顔が良くて、赤坂は幼さと成長のバランスが程良い感じでこの二人はいいね。諸星は帽子被ってたり鉢巻締めてたり、いかにも中心ですって雰囲気全開。大沢と内海は安定。全体的には悪くないかな」
「うわっ、何これ! 歌詞の間に挟まって変な文章があるんだけど。『Hi! と呼べば、Hi! と答える。これが僕らの合言葉Hi! ……』って。終盤略したけど」
「笑えばいいと思うよ。次に楽曲の特徴としては、チャゲアス絡みの曲が急に減ったのがまずこのアルバムの大きなポイント。これはお互いが当時所属してたジャニーズとヤマハの間で大人の争いが勃発したのが原因らしい。そのために新しい作家を大量に起用してて、編曲は引き続き全曲佐藤準にも関わらず前作とは全然ムードが違っている」
「そうなの? ええと、まず一曲目は『ファンキーランド』。作詞松本一起、作曲佐藤健」
「陽気であけっぴろげなイントロの音は夏全開で結構好みだけどね、肝心のメロディーが取って付けた感じで微妙。それに歌詞も、整合性よりも『はしゃごうぜ! 暴れようぜ!』って勢い重視なのは別にいいんだけど、それにしても弾けきってなくてどうも中途半端に聴こえる。いっそもっとふざけた曲にしても良かったのではと思いつつ、ただ光GENJIは案外そういうのが合わないんだよね。基本的には二枚目なほうがいい。総じて言うとアルバム一曲目だから景気付けに派手な曲をって事かも知れないけど、ちょっと滑り気味で先行き不安になる」
「次は『サマースクール』。作詞原真弓、作曲濱田金吾」
「作詞の原はこの曲がデビューって見たけど、同名の作詞家がもっと古い曲を書いたりしているのでちょっと怪しいかも。ともかく歌詞としては普段は元気な少年だって雨でも降ればふと物思いに耽ったりするよね、みたいな世界観。七十年代からコンスタントに活躍する濱田によって書かれたセンチメンタルな曲調で、湿気を感じる醒めた質感のイントロは好きだな。リズムがくっきりしすぎてるのがややアンバランスだけど、この曲に限らずこのアルバムの曲は洗練されてない雰囲気が独自の味となってる」
「次は『君を乗せた海賊船』。作詞高柳恋、作曲米倉良夫」
「これもまたそこそこノリはいいけどフックがなくて、いかにもアルバム曲らしいちょっと地味な曲。作詞の高柳はともかく作曲の米倉良夫は検索しても情報は少ない。で、もっと調べたところ実は米倉良広って名前らしいんだ。誤植なのか本当にこの名義で提供したのかは知らないけど。それと二番のサビで『ガラスの十代』に喧嘩売ってるような歌詞があるけど、これがある意味この曲のフックかもね。脳天気な声でこれを歌わせるセンスはなかなかのものだと思うよ」
「次は『汐風の贈りもの』。作詞安藤芳彦、作曲椎名和夫」
「安藤はこれ限りだけど椎名はどちらかと言うとアレンジャーとして今後も関わってくるよ。八十年代にはかなり活躍してたけど今ではロビイストとして有名なんだって。曲自体はイントロのミョーンってデジタル音が印象的だけどなかなかいいバラードで、冒頭の歌詞がこの曲の世界観を全て言い表してる感じ。情景が浮かぶようでいい空気感のまま進むけど最後、誕生日を祝うような歌詞の部分はデジタル処理されすぎてて虫の鳴くような聞き取りにくい声になってる。これはさすがにいじりすぎ。ただ曲のコンセプトはしっかりまとまってるし、それに合う効果的な演出もなされてる。ここまででは一番の名曲じゃないかな。これで折り返しとなる」
「もう半分なのね。次は『インナーアドベンチャー』。作詞芹沢類、作曲林哲司。って、うわあ何この冒頭の変な声は!」
「いきなり変なスキャットから始まるのはまさに奇襲だし驚くのも当然だよ。僕も最初は何これって思ったから。作詞の芹沢はこの曲限りとして、作曲の林はオメガトライブや菊池桃子などで名を馳せた八十年代屈指のヒットメーカーだからそれまでの曲よりパワーがあるのが特徴。サビではハイって言ってるし、これが実質表題曲と言えそう。それと歌詞は、SF的な単語が散りばめられてて冒険ものみたいな体裁だけど、真面目に解釈しようとしたらどうしてもノクターン不可避の方向に行っちゃうんだよね。自分が宇宙船だか潜水艦になって君の体のインナーをアドベンチャーするとか明らかに、いや、もうやめておこう。聴きどころとしてはラストの赤坂ソロ。これは、いいものだよ」
「際物なのか真面目なのか、ちょっと分からなかったわね。次は『Dream-風に打たれて-』。作詞澤地隆、作曲都志見隆」
「はっきり言ってこのアルバムで一番好きな曲だよ。作曲の都志見は後々まで関係が続く有力作曲家。読みは『つしみ』なので覚えておこう。歌詞はバイクとかやや不良成分が入ってるのがいかにも八十年代らしいけどあくまで少女漫画に出てくる不良って感じでセンチメンタル。出だしは静かだけど間もなく加速して、最後はまた綺麗な演奏で終了って構成も美しい。全体的には一応恋愛の歌詞ではあるけどそれ以上に二番とか友情を讃えている印象も。風に打たれてって感じはあるけど言うほどDreamかなあって部分はなきにしもあらずだけど、まあ夢と言うか儚さは確かに感じるよね。メロディーやアレンジも含めてキラキラとしてて、つまりは青春だよ。いいよねえ。でもこんな日々はずっと続かないぞって。さて、ここまで夏らしい曲が続いた中で突如入り込んでくるのが」
「次の『パラダイス銀河』ね。作詞作曲飛鳥涼。ああ、これは知ってるわ。甲子園でもよく流れるあの」
「さすがに詳しいねゆうちゃん。これは一九八八年に一番売れたシングルで、翌年の選抜における入場行進曲にもなっている。B面はそれなりに勢いのある曲が続いたけどさすがシングル、そんなレベルをはるかに凌駕する凄まじい破壊力を持っている圧倒的楽曲だよ。短いイントロからいきなり爆発的なサビでグッと引きつけて、演奏のテンションもかなりのもので特に間奏は盛り上がりまくるし、一番と二番ではメロディーが変わってたりアイデアをこれでもかとぶち込みまくった凄まじくエネルギッシュな曲。夢とロマンと大いなる愛をいっぱいに詰め込んだ歌詞も珠玉。この国における年間ナンバーワンヒットの中で最も美しい歌詞を持つ曲だと断言する。でもアルバムの今までの流れからするとちょっと唐突と言うか、全部吹き飛ばすぐらいの迫力があるのは痛し痒しかな。今まで楽曲は小粒ながらも夏の海を舞台にした少年の恋愛情景、みたいなある程度統一された流れがあったけどここで完全に無視だからね。単体では圧倒的な名曲。しかしこのアルバムに入るべき曲だったのだろうかとも」
「とは言え大ヒット曲を外す選択肢もないし、簡単じゃないわね。そして最後の『銀の風』。作詞康珍化、作曲松任谷正隆」
「作曲は言うまでもなくユーミンの夫、作詞の康もヒットメーカーというわけでここに至って大物が提供してくれたけど、これまた今までの流れなどなかったかのように新緑が眩しい五月の山へピクニックに行ったような牧歌的な曲。今までの海沿いな雰囲気は何だったのか。ほのぼのとした可愛い曲ではあるけどね、音程が不安定なの含めて。歌詞も年齢一桁って感じだし、ほぼ童謡」
「これでもう最後の曲となったわけね」
「そうだね。最後の二曲でそれまではある程度取れていたアルバム全体の調和が取っ散らかったなあって。そう言えば二曲目、四曲目、それに八曲目にはコーラスアレンジとしてJINなる人物もクレジットされてる。ただこのJINが絡んだ曲に限らず、全体的にコーラスが無駄に厚いのはこのアルバムの特徴と言えそう。まあそりゃあ下手だから補正しなきゃって気持ちは分かるけど、拙い歌唱含めて光GENJIだからね。本来の声が圧迫される程の分厚いコーラスはさすがにやりすぎ」
「言われてみると確かに、『サマースクール』のサビとかもうコーラスの人だけでいいんじゃないってぐらい歌いまくってるわね」
「それと前作では例えば一番がGENJIで二番は光とか、両者を対照的に演出してたけど今作では七人のグループであるという点を重視したのか、そこまで劇的には分かれてないんだ。特に光の使い方がね、このアルバムではあの大人びた声があまり活かされてないという印象。ただし『パラダイス銀河』は除く。そう考えると光とGENJIを一番うまく扱えたのは飛鳥涼だったという結論に至るけど、とにかくそのあたりも他の曲とのギャップを際立たせてるよね。アルバム全体の評価で言うと、個人的にはそこまで高くはないかなという感じ」
「AmazonではCDの最安値が222円で、ファーストアルバムよりは大分リーズナブルね」
「その辺も如実に表してるのかな。実際それまで聞いた事のなかった人が『大ヒット曲が入ってるから』って理由で本作を買ったとして、『光GENJIってアルバム曲は案外しょぼいんだな』って思われたらちょっと心外だし、あえて最初に手を出すアルバムではないかな。ある程度光GENJIに慣れた上で手を出せば前半の小粒ながらもまとまった楽曲たちも受け入れられるはずだから」
「しかしまあ、こんな夏全開のアルバムを冬が始まった今になって説明するのもねえ。本当に季節外れだったわ」
「そこは、責任感じてるよ。最初は季節ごとにアルバム紹介しようかとも考えてたし。ただ提供者やルックスの変遷を見るには発売順のほうがいいと思ったから。ああ、でも次のアルバムは冬に発売されたから今の季節に合った曲も多いよ!」
ここで二人のいる部屋を含めた研究所全域に敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたのでお話を中断して戦闘態勢に入った。
「ふはは、この俺はグラゲ軍攻撃部隊のセイヨウミツバチ男だ! せっせと働きよりよい星に改造してやる!」
この間まで色鮮やかに色づいていた木の葉もすっかり地面に舞い降りて一層寒々としている山道に現れたグラゲ軍の正確な居場所をいち早くキャッチし、二人はそこへと急行する。敵にも敵なりの大義はある。しかしそれを認めるわけには行かない。それは地球に生きる人間であるために必要な戦いと言える。
「そうはさせないぞグラゲ軍!」
「あなたたちの理屈で働き蜂になってもわたしたちからするとまったくの害虫だって分からないわけじゃないでしょう」
「ふん。現れたな。俺はカササギ女とは違うぞ! かかれ、雑兵ども!」
木々の裏に隠れていた雑兵たちが二人を取り囲んだが、力量においては二人に敵うものではなく次々と倒され、最後にはセイヨウミツバチ男だけが残った。
「後はお前だけだなセイヨウミツバチ男!」
「ただでさえ儚い命、はるばる訪れた地球征服などに使うのはあまりにももったいないわ!」
「ほざくなよ! 戦いはこれからが本番だ!」
そう言うとセイヨウミツバチ男は懐に隠し持っていたスイッチを取り出し、巨大化した。やはり戦わなければいけないのか。対話は双方にその気がないと成功しないものである。そして渡海雄と悠宇も合体した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
空を自由に飛びまわる機敏なセイヨウミツバチロボットの踊るような8の字回転はまるでこちらを誘っているようであった。挑発には乗るまい。しかしどうにかして近づかない限り勝ち目はない。そのわずかなタイミングを悠宇は見極めていた。
「敵も強力なニードルを持っているし、どう立ち向かうかな」
「そこよね、遠いままじゃ駄目だけどうかつな接近は死につながるわ。どうすればいいか」
「そうだ! 敵がそうならこちらもそうすれば! ゆうちゃん、接近だ!」
何かを思いついた渡海雄の提案の真意も問いたださないまま、悠宇は渡海雄を信じてセイヨウミツバチロボットに最速で接近した。その姿を見て「ようやく来たか」とばかりに急旋回してメガロボットに向かうセイヨウミツバチロボット。そしてその二体が今まさに接触しようとする寸前にはもう射程圏内に入っていた。
「ここまで来ればもう外さないぞ! ランサーニードルで勝負だ!」
渡海雄は黒のボタンをおして、腹部に潜んでいたメガロボットのニードルでセイヨウミツバチロボットを蜂の巣にした。
「くっ! まさかこの俺が敗れるとは!」
冬空に大きな花火が舞い上がる間際に脱出装置が作動してセイヨウミツバチ男は命からがら退避に成功した。時は冬、ミツバチが飛び交う季節はとうに過ぎている。
今回のまとめ
・夏のアルバムだけに十二月なんかじゃなくて夏に聴くのが本当はいい
・A面のほうがまとまってるけどB面のほうにいい曲が揃ってる
・改めて聴き直したがパラダイス銀河は色々と格が違うとんでもない曲だ
・変と言って差し支えないほど山本のルックスが不調




