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pr14 空前絶後の大補強を敢行した1953年について

 せっかく春が来たのに全体的に天気の優れない日々が多い。しかし晴れた日の光は体中にエネルギーが湧いてくるタイプのものになってきた。これからもっと草が透き通った輝きを見せるようになればいよいよ春本番だ。


「という事で昔話。五十二年、カープはどうにか最下位を回避した一方でかつての覇者である松竹ロビンスは勝率三割を下回る大低迷を喫した」


「それで何か罰則あるんだよね。具体的にどういう罰を受ける事になったの?」


「実は何をするかは決まっていなかったとされるけど、まず元々奇数球団ではやりにくいので一つ潰すのは既定路線だった。その上で松竹だけど、実質本体の田村オーナー本人だけは熱意十分だったけど会社は彼の判断ミスから多額の負債を抱えてて、現実的に球団経営する体力は尽きていた。だからカープとの合併案が浮上したりしたけど、最終的には大洋と合併して大洋松竹ロビンスとなった。略称は洋松」


「名前だけ見ると大洋が松竹に合併されたみたいだ」


「主催試合も難波や西京極など関西中心だしね。まあ観客が多いほど利益も多くなるフランチャイズ制の中で下関は人口が少なすぎる上に人気もなかったみたいから、仮に合併がなくても遅かれ早かれ立ち行かなくなって撤退してたとは思うけど。カープみたいに早々と熱狂的ファンを多数獲得したわけでもないし」


「そもそも中国地方に二球団ってのが無理だったよね。いっそ西日本消滅後の九州にでも行ってればまだ可能性はあっただろうに」


「下関以外に関門海峡を挟んだ今の北九州市となった自治体からの動員もある程度は考えてたはずだけど、駄目だったから仕方ないわ。なお球団は合併したものの急な話だったのもあって運営会社は統一しきれず、給与も元大洋の選手は下関にある大洋球団から、元松竹の選手は京都にある松竹球団から受け取る分裂状態だったと言うわ」


「チームがバラバラじゃないか」


「ともあれこうしてセリーグは現在まで続く六球団制を確立させたけど、それは今から見てこの時がそうだったとなるもの。さっき言った通り生まれたばかりの洋松の内実はグチャグチャだし、当然カープの経営だって多少は好転したとは言え火の車だしで、まだまだ波乱が起きる余地はあったはず。というわけで、しばらくは鳴りを潜めていた赤嶺昌志がまたも蠢動を始めた」


「まだ懲りてなかったの?」


「しかも今回はカープが当事者となる問題だからね。というのも赤嶺はこの合併を機に松竹に在籍する自派選手、つまり小鶴誠、金山次郎、三村勲らとともにカープへ移籍し社長だか代表に収まろうと水面下で画策していたみたい。でも就任前に中国新聞にすっぱ抜かれて頓挫、選手だけは無事に移籍した。その際に後援会で集めた資金が大きく物を言ったのよ」


「入り組んでるけど、とりあえずカープにとっては超大型補強に成功したわけか」


「小鶴は三年前のMVP、金山は前年の盗塁王だからね。結成時みたいに全盛期が十年前の選手達とはいささか事情が違うし、まさに空前にして絶後の大補強よね。無論ファンの喜びようは尋常ではなく、彼らが広島駅に到着した時に大歓声で迎えたと言うし、またこの年のオールスターファン投票でも自軍の選手に投票しまくり、長谷川白石小鶴の三人を一位に押し上げた」


「凄いなあ。でも前者はまだしも後者はちょっとまずいんじゃないの」


「要は組織票だし、当時からいかがなものかって声もあったけど、その伏線は一年前にあったと見る。つまり前年のオールスターだけど、カープの選手は一人たりとも選出されなかったのよ」


「ええ」


「確かにあの年の個人成績見ると、カープから誰を選ぶかってのは難しい問題ではあったわ。長谷川は移籍騒動から成績を落としたし打撃陣も軒並み低調。可能性があったのは前半戦好打率をキープしていた大沢だけど、彼のポジションであるファーストには川上や西沢といった球界を代表する強打者が揃っている。セリーグを率いる水原監督は気位の高い人だし、スターたりうる人材がいないなら無理に全球団から選ぶ必要はないって判断は分からないでもない。でも巨人のキャッチャー二人が監督推薦で選ばれてるのに釈然としないものを感じるのもまた事実」


「いくら成績が良いと言っても、いささか鼻持ちならない起用だね」


「エリート人生を謳歌して今も監督として連覇という最高の結果を残している水原が『自分は間違っているかも知れない』と悔い改める可能性はないし、リーグが巨人贔屓なのは今に始まった事じゃないからこれも当てに出来ない。なら動けるのはファンしかないでしょ。なお五十二年はカープの他に松竹、東急、近鉄もゼロだったけど五十三年以降は概ね全球団から選ばれるようになった。たかだか六球団そこらから二十数人を選ぶのに未選出なんて普通の頭してたらありえない話だし、正常化の足がかりになったとしたら大いに意味のある抗議活動だったと言えるんじゃないかしら」


「それはそれで凄まじい贔屓の引き倒しにも聞こえるけど、ともあれやはり熱いファンは大事だよね」


「ただその熱さが裏目に出た事例として、選手を退団させようとなった時にその選手を支援している後援会が抗議して大騒動に、みたいなケースもあったみたいだけどね。またこの年の途中に石本監督が退任したけど、これも後援会が色々関係していたと言うし」


「あらまあ」


「それで後任は白石が選手兼任で務めた。石本は総監督に祭り上げられたけど結局退団の運びに。戦力に戻るけど、小鶴金山三村に加えて松竹から赤嶺一派とは別に片山博という左腕、また大洋から元松竹の木村勉も加わった。他にも当時の雑誌における噂ベースだと創立時にも話があった小林恒夫も一緒に来る、江田も移籍希望らしい、青田も行くかも、阪急の天保だって……と喧しい事この上なかった。一方で武智が近鉄へ移籍。前年獲得した塚本、上野、野田や初年度にある程度出番を貰った紺田らが引退した」


「元三割打者の武智は痛いけど、トータルで言うとかなりの戦力アップなのは間違いないね」


「それも結局は資金力の向上あってこそ。それゆえにこのシーズン途中にはハワイから銭村健三、健四の兄弟や光吉勉という日系選手を獲得するというなかなか派手な補強も敢行してるし。巨人が与那嶺や広田、この年も大阪が与儀という選手を獲得し大きな戦力になっていたハワイ勢の獲得はこの時代の流行で、カープもそれに乗ってみたわけ。もちろんそのトレードマネーは後援会から出たものよ」


「おお、やるねえ」


「まあ健三は夏休みにバイトする程度の意識ですぐ帰ったし、光吉は怪我もあってまったく活躍出来なかったけど、健四はスピード感溢れる守備走塁を武器に一番レフトのポジションを確保。この銭村兄弟の兄である銭村健次は東洋工業サッカー部で活躍したとか、それ以上に父親の健一郎が凄まじいんだけど割愛するとして、この年のカープはこれらの大型補強が功を奏して勝率四割台の四位にまで浮上した」


「いよいよそこまで強くなったのか」


「小鶴は全試合で四番センターとしてスタメン出場、さすがにラビット時代のような馬鹿げた数字には及ばないものの二割八分の安定した打率に二桁ホームラン、そして三十三盗塁とガッツを見せた。金山はセカンドに定着しリーグ最多の五十八盗塁。白石は監督を兼任しつつ成績を持ち直したし門前も二桁ホームランを放ち存在感を発揮、規定未到達ながら三村山川長持磯田も持ち味を発揮したと言える数字をしっかり残した。一方で名前を伸夫に戻した大沢は全試合出場したものの二割代前半の低打率に喘ぎ、木村は塚本上野レベルの低空飛行。打率一割台に終わった岩本は引退して裏方に回った。とは言えチームのホームラン数は二十九本から名古屋を上回る七十三本、盗塁数は四十四からリーグトップの百七十四と劇的に増加している」


「まさに補強の効果覿面だ」


「投手陣では長谷川が球団初となる二十勝到達、大田垣も十三勝。また二年目の川本徳三が七勝、移籍の片山も六勝を挙げた。一方で前年奮闘した杉浦と渡辺は成績を落として、その後も復活はしなかった」


「あまりにあっけないものだね」


「まさに使い捨て。それで全体的な勝敗を見ると、四月は派手に負け越したものの白石が正式に監督就任した五月以降は五割前後で健闘、九月にはガクッと落ちたもののどうにか逃げ切って四位確保って感じ。なお優勝は巨人」


「またか」


「とにかく水準が違うとしか言いようがない。野手は川上千葉与那嶺ら三割突破の主力選手でも数試合は欠場しているのがかえって余裕を感じさせるし、投手も藤本別所中尾らを差し置いて二軍から着実にステップアップした大友がタイトルを総なめしてMVP。日本シリーズでも南海を破り三連覇した」


「シリーズの相手まで同じだしつまらないものだね。今も大概だけど」


「なおパリーグの順位は南海阪急大映西鉄毎日東急近鉄の順。毎日は初年度を支えたベテランが成績を落とすのと比例して低迷。横須賀基地に勤務していたメジャーリーガーのレオ・カイリーを休日やナイターのみ選手として使うという禁じ手に走り、実際カイリーは六試合に登板して六連勝、打っても打率五割超と大活躍したものの除隊命令が出て一瞬で去っていったし」


「しかし凄まじい実力だね、そのカイリー」


「この手の在日軍人と契約するのは特にパリーグで流行した裏の定番ルートで、前年から利用していた西鉄はこの年もオニール、ペイン、ロングという三投手が活躍したけど所詮はアルバイトなので除隊となるとあっさりチームから去って継続した戦力とはなり得なかった。そんな西鉄、日本人も中西二冠、豊田新人王、川崎最多勝など実力を見せたけどチームとしては伸び悩んだ。成績を見ると主力とそれ以外の差が大きいのが痛いところ。一方で黒人選手が大活躍の阪急、堅守の大映が優勝争いに堂々殴り込みをかけて大混戦となったけど最後は南海が十二連勝するなど底力を見せた。東急近鉄はまあ……」


「でも近鉄の成績見ると序盤戦は首位に立ったり最終成績でももう少しで最下位脱出だし、力を付けてはいるよね」


「首位南海も勝率五割台だし、かなり接戦のシーズンだったのは間違いないわね。セリーグに戻るけど、二位大阪三位名古屋は相変わらず。四位がカープで、終盤に激しい順位争いを繰り広げた洋松が五位。合併したのに成績落としてるけど、まあ松竹の主力はむしろカープに行ったし仕方ないかな。巨人から獲得した青田も期待外れの凡庸な成績だし」


「あれ、青田結局放出してるんだ。西日本の時あんなに大騒ぎしたのに」


「戦力としては必要だったけど素行は悪いし毎年契約で揉めるうるさ型でもあったからね。成績落とした瞬間が縁の切れ目って事で即座に放出を画策し、最初はカープへのトレード案もあったけど最終的には十年選手制度で洋松へ。もしカープに来ていれば、強力打線結成のロマンを感じつつポジションが被る小鶴との関係がどうなってたかいささか不安でもあり、まあ本人の気質からしてもカープには合わなかったような気はしないでもないしこれはこれで良かったのかな」


「そして最下位は国鉄か」


「去年のカープに盗塁を増やしたみたいな迫力不足の野手に金田以外力不足の投手。五月に猛烈な逆噴射をかましてそのままシーズンが終わった。そんな年にも貯金十を稼ぐ金田の実力は抜きん出ていると言わざるを得ないわね」


「しかし一人だけじゃ長いシーズンを勝ち抜けないのもまた真実か」


「ともあれカープは戦力の底上げに成功した事で最下位確実という黎明期は脱したけど、上位の壁はまだ限りなく厚かった。ではその壁をどう超えるかだけど、ここからがまた長いのよね」


 このような事を語っていると敵襲を告げるフラッシュが点灯したので、二人は散歩にでも行くかのようにしれっと群衆から離れて変身し、敵が出現した位置へと走った。


挿絵(By みてみん)


「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のスマトラトラ女だ。この野蛮な惑星を正義の色に変えてみせよう」


 野草が萌える春の草原に、スマトラ島の森林にのみ生息する世界最小の虎の亜種の姿を模した侵略者が降り立った。黄みがかった体色と黒い縞模様が危険な雰囲気を醸し出す。しかし地球は彼女の横暴を認めなかった。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「暗号みたいな名前してるけど、余計な騒動は持ち込まないでほしいわね」


「ふっ、お前達が噂に名高いエメラルド・アイズか。早速だが死んでもらうぞ。行け、雑兵ども!」


 スマトラトラ女が下した冷徹な指示に従うだけのメカニカルなマシーンが次々と出現したが、それを全滅させた。


「これでもう雑兵はないな。後はお前だけだスマトラトラ女」


「いくら春だからって乱暴者を許容する事は出来ないわ。さあ、争いではなく手を取り合いましょう」


「戯言を。君達と私との間に交わされる言葉はこれのみ。勝負!」


 スマトラトラ女はそう言い放つと、懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。まさしく猛虎魂の結晶だが、地球を食い荒らされないために二人は合体して出来るならなりたくなかった巨人と化した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 太陽が傾いて濃いオレンジになった空の彼方で、二つの巨体は激しい闘いを繰り広げていた。強者の象徴たる空を飛ぶ虎が連発するパワフルな攻撃を悠宇はギリギリの集中力で回避し、タイミングを狙ってカウンターを決めた。


「よし、今よとみお君!」


「よーし、ここはエメラルドビームで一気にかたをつけるぞ!」


 僅かな隙を見逃さず、渡海雄はためらいなく緑色のボタンを押した。瞳から溢れ出す炎が虎の体を焼き尽くした。


「くうっ、強いな。この私を退かせるとは」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によって、スマトラトラ女は宇宙へと帰っていった。そして空も大分暗くなってきたので二人はまた明日と言い合って別れた。地球に明日が訪れる幸せを噛み締めながら。


 おまけ。オープン戦開始でクロンもホームラン打ったしここから上げていけるか。Jリーグは開幕し、サンフレッチェは勝てる試合を立て続けに引き分けに持ち込まれた。やはり城福退任しかないか。

今回のまとめ

・もっと晴れて温もりに満ちた素敵な春になれ

・今のカープもこれぐらいの巨弾補強したら愉快なのに

・小鶴金山はもちろん三村も一年目の成績は案外悪くなかった

・出れば負けの段階を突破したが次のステップはあまりにも遠い

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