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ng16 コロナ禍真っ最中の新年について

 そして訪れた二〇二一年。年末から訪れている寒波のお陰でいきなり白い雪がチラチラと舞い落ちる中の年明け、それでもやはり生き方というものは変わらないもので渡海雄と悠宇は初詣で落ち合った。


「あけましておめでとう、ゆうちゃん!」


「今年もよろしくね、とみお君。それで早速だけど、サンフレッチェのエースストライカーであるレアンドロ・ペレイラの退団は決まってしまったけどその代わりにジュニオール・サントスを獲得する見込みだそうね」


「そうなんだ。それにしても去年のサンフレッチェ、そんなに強いイメージがなかった割に案外八位とかで終わってるんだね」


「とは言え二位、六位と来てこれだから城福監督体制の中では最低順位ではあるんだけどね」


「こう見るとジリジリと下がって来てるんだね」


「まあそうもなるわね。守備陣はよく頑張ってたんだけどね。まずキーパーに関しては、一昨年台頭した大迫がいよいよポジションを固めるかと思いきやミスもあって信頼を獲得しきれず、むしろベテラン林がスタメンに舞い戻ってきた」


「一昨年は怪我もあって若い大迫にポジションを奪われたかに見えたけど、簡単に譲らないのはさすがだよね」


「無論大迫もこれから成長していかなければならないホープ。だからこそ林という壁は高い方が良い。それを打ち破れるかは注目点の一つよね。三番手になりそうな増田も契約更新してるし、去年まで六年在籍してリーグ戦出場は一試合の廣永もよく頑張ってるわ」


「しかしそういう選手ってどういうモチベーションで臨んでいるものなのかな」


「元々一枠しかないポジションだし交代枠もあってあの試合数だからレギュラー以外は試合出場ゼロとか割と普通なんだけど、今の自分の立場に誇りを持ちつついつ訪れるかも分からない出番にベストを尽くすべく常に高い意識を持っていないととても務まらないポジションよね。そしてディフェンダーだけど、佐々木、荒木、野上のスリーバックはやはり優秀だった」


「ただレギュラー三人がここまで盤石だと控え選手はなかなか大変だよね」


「控え一番手の井林はクローザー的な起用もなされていたけど、新加入の櫛引は結局一年だけで大宮へ移籍というか復帰だからね。まあ選手の旬は短いから自分を輝かせる場所がここじゃないと思えばそうなるのは仕方ないわね」


「サンフレッチェを応援してる身からすると残念ではあるけどね」


「まあね。それで今年の新戦力として甲府から今津佑太を獲得した。かなりの武闘派と評判で、空中戦で競り勝つと絶叫するなどとにかく声を張り上げまくる熱い男だとか。一方で足元が不安なんて言われたりもしてるけどその辺はJ2から獲得して主軸に成長した塩谷や野上とも被るのであまり気にしてないわ。最初は苦労するとは思うけど、大事なのはそこでグッと耐えてレベルアップしていけるか。そういう点ではこの今津、甲府でも一昨年は外国人の活躍もありポジションを失ったけど去年パワーアップして返り咲いた前例を持っているのは好材料」


「しっかりサンフレッチェの戦力になってくれるといいよね」


「中盤の底には青山と川辺がレギュラーとして安泰。ただ控えはどうするのかなってところ。福岡に期限付き移籍した松本泰志は戻ってくるのか、今年も修行か」


「ちょうど福岡も昇格したところだしどう判断するのかな。後福岡と言えばサロモンソンもいるよね」


「あれは事実上構想外だろうとは思うけど。彼のポジションでもあるサイドにはチームの中心と呼べる存在だった柏の他に、去年は茶島や東が出場試合数を大いに伸ばした。二人ともユース出身者であり、茶島は以前サンフレッチェにいた頃とは異なるポジションで新たな魅力を開花させた。資金的に余裕があるわけではないクラブにおいては生命線と言えるだけに、今年もどんどん若手の台頭があるといいんだけどなあ。なかなかねえ。松本大弥も大宮へ期限付き移籍みたいだし」


「未来のための投資とは言え今年中はゼロに等しいわけだからね」


「まあじっくりやっていくしかないわ。二列目はまずは森島。そして去年が事実上の新加入となった浅野だけど、単なるコネ入団かと思ったら案外得点感覚があるところを見せてくれたので、これを磨いていけばかなり面白くなりそう。またエゼキエウもチームにフィットする事でよりレベルの高い活躍をしてくれるとありがたい」


「そしてワントップには最初のお話になると」


「レアンドロ・ペレイラはシュートという強烈な武器を持ち、それで昨シーズンは十五得点を奪ったまさしくストライカーと呼べる存在感を放つ男だった。帰国後のラスト三試合で一点も取れなかったのがまたその存在の大きさを物語っていただけに退団決定的の知らせを受けた時はショックだったわ」


「上手いドウグラス・ヴィエイラもいるけど、やっぱりガツンと得点を量産する選手じゃないもんね。細いし」


「それで場合によっては最悪の展開も考えてたけど、まさかジュニオール・サントスほどの選手を獲得出来そうとは思わなかったわ。彼は一昨年に柏に加入したもののほとんど試合に絡めないまま昨シーズン途中マリノスへ移籍し、ここで実力を発揮した」


「途中移籍なのに十三得点も奪ってるんだね。凄いペースだ」


「長身に加えてスピードも抜群で、センターサークルの手前辺りから外国人ディフェンダーのマークをものともせず単独突破してそのままゴールという豪快なプレーも見せていた。また浦和戦ではハットトリックを決めるなど固めて取る傾向もあるみたい」


「でもそんな選手をよく手放せるよね。一億五千万円を要求したとされるレアンドロ・ペレイラみたいに金銭的に揉めたわけじゃないんでしょ?」


「柏にはオルンガがいるしマリノスにはエリキがいて、他にもエウベルという新外国人を獲得って報道がなされている。そういうのもタイミングだからね。コロナ感染拡大もあって外国からの獲得は色々と困難を伴う中で、強化部は考えられる限り最善と言っていい仕事をしたと手放しで褒め称えたいわ」


「後は実戦で結果を残してくれるか、だね」


「うん。そこはね。工藤もそうやって期待してたものがあんな結果に終わってしまったという経験は未だに苦さを口の中で再現出来るぐらい鮮烈だったわ。うん、あの年に降格してたら一体どうなってた事やら。それで緊急補強連発とかいかにも非常時っぽい慌ただしさは少し懐かしくもあるけど。それでチームに加わった一人である椋原は引退するし」


「本当に厳しかったあの年を思い出させる選手の一人だったね。お疲れ様でした」


「最初から決められた道なんてなくて、何もないところを人が踏みしめるから道になる。椋原はプロの中で飛び抜けた実力の持ち主とは言い難かったけど、そういう人間の集合体がクラブの歴史という道を形作る。そういう意味では印象深い選手だったわ。それはともかく、さっきまで述べた選手たちが今年のサンフレッチェのメンバーだけど、やっぱりそれなりに人材が揃ってはいるのよね。ただ優勝を狙うにはもう少し爆発的なものが必要かも。特にサイドあたり。柏もそろそろベテランだし、大学在学中の特別指定選手ながら昨年早速十五試合に出場した藤井とか期待したいところだけどどうかな」


「でも優勝した年ってドウグラスとか浅野がいきなり大化けしたし、結局シーズン入ってみないと分からないよね」


「去年独走優勝した川崎は早速天皇杯も制して強いけど、沈まぬ太陽はない。粘り強く戦い抜けば違う景色だって見えてくるはずよ。とまあサンフレッチェはこれぐらいにするかな。それでカープだけど、結局バード獲得から動きなしでここまで来たわね」


「元々あんまり動かないチームだけどやっぱりそうなったかという」


「枠もないしね。開幕前にトレードでもしてくれるとまた違ってくるけど。まあここも忍耐よ。まず投手陣の成長は必須だけど、最大の伸びしろは監督にあるのでそこによっては当然より高い位置へも行けるはず」


「優勝した巨人とて決して超えられない壁には見えないし、まずは序盤戦をまともに乗り切れれば色々可能性も出てきそうだよね。スコットみたいなのを抑えに使ったり松山みたいなのを守備につかせたりしなければ」


「ファーストはクロンが定着したらそれが一番。リリーフ陣は、いくら安いと言ってもスコット残留とはちょっと現状を甘く見ているのかなと疑念を抱いてしまいそうになるけど、私達よりチームの内実を知っている人達の決めた事だからやはり今は忍耐しかないか。現実的にはフランスアにケムナ、塹江、島内といった去年使われた若手から誰が伸びてくるかって勝負になろうかと思うけど」


「とにかくまずはAクラスを目指して頑張ってくれるといいよね」


「後は、大相撲だけど、いよいよ鶴竜が帰化したわね。これで引退後親方になる資格を得た。……次に出場する場所は一つでも二つでも勝ってほしいと切に願うわ」


「去年はほとんど休場だったもんねえ」


「国籍という事情があったから本来禁じ手と言えるような連続休場も何となく許されたと言うか『まあ理由は分かるからなあ』って感じだったけど、普通だったらとっくに引退を余儀なくされていたところ。二〇二一年まで生き延びた力士生命、今から再び復活出来るならそれが最高だけど無理強いはすまい。最後まで悔いのないようにと、もうそれだけよ」


「実際問題白鵬も含めて決して長くはないだけに、いよいよ決定的な世代交代となるのかな」


「そういう言い方も結構長いんだけど、今年は本当に動きそう。それと政界においても衆議院の任期満了が今年の十月に控えているので、そこまで待つかそれ以前に動くかは知らないけど確実に総選挙は行われる」


「しかし菅総理、ぐんぐん支持率下げてるよね」


「安倍総理じゃないのに安倍総理みたいな言動してたらそうもなるわ。あんなの普通の人間相手に認められるわけないんだから。前総理となった安倍は桜を見る会の問題で『秘書が勝手にやったので知らなかった』と相変わらず芸術的なまでの厚顔無恥を披露したけど、それが許される人とそうじゃない人がいるって事よね。それを器と呼ぶのかも知れないけど。それと河井夫妻、あれこそいい加減にしてほしいわ」


「あの二人まだ辞めてなかったのか。しかし対抗する立憲民主党も大して支持が広がってるわけでもないし、それと社民党がいよいよ分裂したりで全国の舞台から姿を消す寸前まで来たね」


「いよいよ来るべき時が来たって感じよね。元々の社会党の政策なんて九十年代以降通用するものではなく、本来なら消えて然るべきだったところで根本的に変わろうとした人達は大体離党して民主党とかに行った。本当にこれっぽっちも変わろうとしなかった人達は新社会党を作って間もなく国政から退場した。それはそれで信念に殉じた美しい生き様だとは思うわ。主張には一切共感出来なくても。そして社民党は、変わろうとした時もあったけど結局変われなかった」


「ある意味一番無残な道を歩んだ人達とも言えるのか」


「拉致問題で日本人向けの政党じゃないと判明した後は、むしろよく二十年ぐらい保ったと感心するわ。でも大丈夫。新社会党だって未だに地方議会に勢力あるみたいだし、社民党だってそういう存在としてこれからも生き永らえるわ。支持者の寿命が尽きて文字通り全滅するまではね」


「でもただ生きてるってだけで、党勢拡大なんて夢のまた夢の中で緩慢な死を迎えるのをただ待つばかりなんて、果てしなく厳しい旅路だね」


「それもまた人生」


 新年早々そんな事を語っていると敵襲を告げる合図がビカビカと輝いた。とんだ初詣になったものだと観念して、二人は人目につかないところに隠れると変身して敵が来たポイントへと急いだ。


挿絵(By みてみん)


「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のニワトリ女だ。この汚れた星に黎明の光を照らしてあげるのだ」


 けたたましい叫び声とともに、赤いとさかをつけた白い体の異星人が自粛して人通りの少ない道路に出現した。朝を告げる声を上げるだけならいいが、破壊行為は迷惑なのでそれはやめようと、すぐに地球からの返事は訪れた。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「本来は平穏に過ごすべき一日だけど、敵が来たなら戦うしかないわね」


「貴様らが無駄に抵抗しなければ平穏は訪れるものを。行け、雑兵ども。奴らに死という安らぎを与えてやれ」


 ニワトリ女の冷徹な指示によって、メカニカルなマシーンたちが襲いかかった。しかしせっかく新年を迎えた地球がこんな連中にぶち壊されてはたまらない。二人は全力で相手した。


「よし、これで雑兵は全滅か。後はお前だけだニワトリ女」


「新年早々騒動の嵐を巻き起こすとは、情緒も知らずして宇宙の覇者気取りなんてお笑い草ね」


「ほう、言ってくれる。そしてそれが最後の言葉となるのだ」


 ニワトリ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。今年もやはり血塗られた戦いの歴史を紡ぐのか。しかし今は生きるため、この苦しみが未来に繋がればとだけ考えて二人は合体した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 誰にも知られない戦いは分厚い冬の雲に隠して行われた。ニワトリロボットの激しい突きをうまく躱して体勢を整えると、悠宇は得意のカウンターで相手の動きを止めた。


「よし、今よとみお君!」


「分かった。ここはエメラルドビームで一気にケリをつける!」


 一瞬だけ生じた隙を逃さず、渡海雄は緑色のボタンを押した。二人のエネルギーそのものである緑色の炎がニワトリロボットを焼き尽くした。


「くっ、さすがにやるな。この私が退くとは」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってニワトリ女は宇宙へと帰っていった。かくして始まった新年、今年はきっと去年よりいい年になると信じたい。

今回のまとめ

・いきなり無茶苦茶寒いけどあけましておめでとうございます

・ジュニオール・サントス獲得出来るとしたら望外の成果

・サンフレッチェはいいチームだからこそ破壊する力が必要

・菅総理は長続きしそうにないけど野党が勝つ絵も描けない

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