表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
241/397

rm38 甲子園代替交流試合について

 災害級と形容されるほどの猛暑が日本列島を覆い、確かに日中の刺すような光はもはや直接的な暴力と言えるまでに強烈だった。加えてまといつく湿気もあって呼吸困難になるほどだ。だから渡海雄と悠宇も連日冷房が効いている研究所内で過ごしているが、そこまで移動するだけでも命がけであった。


「七十五年前の夏は気温なら今ほど暑くなかったはずだけど、それでもジリジリとした議論を延々と続けた中でようやく終戦という決断を下した時はさぞかし暑さが身に染みただろうね」


「昔はこんなクーラーもなかっただろうしね。まさに耐え難きを耐え忍び難きを忍び、しかも一部不逞軍人は勝手に暴れ回るし」


「あのタイミングで暴れた連中はほぼお咎めなしだから、見方を変えると上手い事やってもやもやを解消したと言えるのかな。それにしても、もしオリンピックが普通に開催されてたらこんな中でやってたんだね。まあ気温なんて来年になったら涼しくなってるってものじゃないからどっちにしても灼熱地獄は避けられないんだけど。いやその前に中止か。それはそれであまりにも残念だけど」


「でも実際のところ来年本当にオリンピックやるのか、やれるのかって考えるといささか不安になるわね。来年にはコロナがどんなものになってるかと言うと、まさか都合よくワクチンの開発に成功しましためでたしめでたしってなるとは思わないし、結局やるとしても騙し騙しになるのはどうにもならないわね」


「それなら潔く中止にしたほうがってのも、そりゃあ分かるけどねえ」


「まあ、こんな暑さの中で真面目に考えようとしても頭がゆがいてろくな考えにもならないからそこそこにしておきましょう。ましてや未来の予測など、去年の今頃こんな事になっていると予想出来た人は一人もいないように、鬼が笑うって話よ。それでカープだけど、少なくとも一時より勝ちパターンにおけるリリーフの信頼度は高まったのはありがたいわ」


「まああんな僅差リードで確実に追いつかれるような地獄絵図がいつまでも続くはずないんだけど。プロなら」


「それで抑えには結局フランスアが定着し、八回は新鋭の塹江が務めている。他には菊池保則や島内、ケムナなど。こう見るとドラフト二位や三位辺りの、球威はあるもののコントロールに難がある素材型と称されていた投手が多いわね。そもそもそういう投手ばっかり指名してるから必然的にそうなってるだけなのかも知れないけど」


「でも比較的コントロール重視って前評判だった高橋樹也はインパクト残しきれてないし、やっぱり強い球を投げられるスペック、肉体に宿るパワーこそが大事なんだとろうね」


「もうちょっと安定した投手が増えるとありがたいけど、現状では高望み出来ないか。ただこの中だと島内はもっともっと安定していけば将来的にはより良いポジションに上がっても不思議ではないだけに、今年しっかり経験を積んで精進してほしいわ」


「一方で防御率がましだった時も全体的に信頼出来なかったDJジョンソンは案の定徐々に化けの皮が剥がれていってついには二軍落ちとなった」


「率直に言ってスコットと彼の不出来は球団全体として反省すべき。外国人で言うと元々いたジョンソンも悪癖が収まらず先発陣の中では最も信頼しにくい程度の投手に落ちてるし、でもこれもジョンソンの代役となりうる候補さえいないからね。まさかこの間上がったモンティージャがそれだって話じゃないよね」


「先発だと森下がいきなりよく頑張ってるだけに、なかなか難しいものがあるよね」


「森下は確かに凄いわね。さっきも二安打完封という見事なピッチングを披露したけど、見ていて安定感がある。単に阪神相手が得意ってのもあるかも知れないけど、それでもルーキーがあんな堂々たる投球が出来るんだから素晴らしいものよね。後は大瀬良、復帰してきた野村、九里、遠藤といった面々で回しているけど、問題は彼らの中から離脱する人物が現れた場合誰が埋めるのかという点にある」


「二軍のイニング数を見るに中村祐太とかアドゥワがよく投げてるみたいだけど、芳しくないね」


「リリーフタイプでは二年目の田中法彦が抑え格になってるみたいだけど、ファームレポートを見るにあまり球速が出ていないみたいなので上でどうかって話になると、どうなんだろうね。他にドミニカ人のメナやサイドスローの畝らも内実は分からないけど成績だけ見るとそれなりに頑張ってるみたいだから、誰か支配下登録もありそう」


「今年は新外国人を途中から獲得ってしにくいだろうし現有戦力をどう活かすかってなるとそういった選手の中からとなるか」


「まあ二軍にはハイテク機器を用いてフォーム修正などを行う、2.5軍と名付けられた一連の存在が今年から新設されたと言うわ。島内なんかもそこで学んだ事を今一軍でフィードバックしてるみたいだから、これで矢崎なんかがいい加減戦力になってくれると大変ありがたいんだけどね。二軍で素晴らしいピッチングを見せたって噂もあるし、まだ諦めないわ」


「とにかく今のカープの問題点は明らかに投手だからね。幸い上に枠はあるんだからガンガン突き上げていってほしいよね」


「そして野手だけど、まず今の時期一番盛り上がってるのは長野じゃないかな。巨人時代から夏場に強いと評判だった選手だけどまさしくその通りで、すっかり三番打者に定着した」


「四番には鈴木誠也という盤石の存在がいるから、得点力を高めるにはその周辺の人材が頑張らないとね」


「それで言うともったいないのがキャッチャー陣で、坂倉の打撃はもはや一軍でも通用するレベルまで高めてきたのにポジションがない! 會澤は当然良い選手でしっかり打てるし、磯村も捨てがたいものがあるから、本当なら坂倉はその類まれなるバッティングセンスをより活かすため野手にコンバートといきたいけど、守れる場所がない」


「オープン戦で外野守らせたら酷かったって話だもんね」


「ファーストとか出来ないかなってどうしても未練になるけど。現在レギュラーの松山の守備なんてあまりにも低いハードルすら超えられないとしたら由々しき事態だけど」


「松山は気付いたら二割台になってるんだね。しかし堂林も随分と落ち着いてしまった。四割どころか今や三割も風前の灯」


「まあここ五年ろくに戦力にならなかった選手だしね。十分やってくれたわ。ただこうなるとまたも浮上してくるのがサードというポジションの問題。堂林だって決して守備が達者なわけじゃないからね、それで打てないとなると固定させる意味も薄くなる」


「三好がもっと打てたらいいのにね。それで二年目の羽月なんかも結構使われてるけど、でもこれはこれで面白い」


「二軍ではさらっと三割打ててるだけあってここまで打撃が箸にも棒にもかからないってレベルではなさそうだし、何よりドラフト七位でこれを獲得出来たってのがいいわね。七位よ、七位。近年で言うと多田大輔とか青木陸とか、二軍でも大した存在感を残せないままたったの三年で戦力外となった選手たちと同じ順位とはとても思えないわ」


「そういう選手が上手く刺激になってくれるといいよね」


「ともあれこの羽月や大盛、ちょっと前にまた二軍に戻ったけど中村奨成といったフレッシュな選手がどんどん一軍に出てくれるなら、同じような選手が同じように打てずに終わるより見てるほうも楽しいからね。小園ももっと自分を高めてほしいし、宇草は二軍でサイクルヒットを記録したと言う。林も期待出来そうだし、やはり投手とは人材の数が違うわね」


「とにかく今シーズンはなかなか安定した戦いが出来ずに浮上しきれずにいるからね。今後の主力になっていくような新しい選手が三連覇時代とは違う風を吹かせてくれるならそれが一番なのかな」


「無論、まだまだ菊池や田中にも頑張ってほしいけどね。しかしこの二人の打撃がここまで低落したのはどういう原因なのか。それで次はサンフレッチェだけど、本当はもっと試合についても語りたいんだけどね。やっぱり柏って絶対必要な戦力だなとか。ただ今はサンフレッチェ自体の状況よりも周囲のそれに振り回されまくってていくら何でも気の毒よねってほうが先に来てしまうのが自分でも悲しいわね」


「なるほどこういう形でコロナの厄災は降り掛かってくるのかと、改めてその驚異を思い知らされたね。七月二十六日には名古屋とのリーグ戦が、そして八月十二日には鳥栖とのカップ戦が、いずれも対戦相手のコロナ発生によって中止となってしまったんだから」


「しかもどっちも広島ホームの試合で。あまりにもあんまりよ。これで日程が狂っただけでなく、当日のドタキャンだから観戦を楽しみにしていた観客もガッカリだし、彼らのために用意していた飲食などのサービスも全部吹っ飛んだわけだからね。鳥栖戦のほうはサンフレッチェのサポーターが連帯してどうにか売り捌いたみたいだけど」


「とは言えこのご時世だと、いつどのチームがそういう事になっても不思議じゃないんだろうね。鳥栖に至っては監督を含む十人以上のクラスターになって、しばらくはチーム活動すらままならないし」


「スポーツでクラスターって言うと、島根県ではサッカー部がきっかけになって百人ぐらいの大規模な集団感染が発生してしまった。そこは中国地方でも一二を争うほどの強豪だったから感染発覚までに関西などに遠征もしていたらしく、そういう意味だと甲子園の代替試合はよくやってるわねと色々な意味で感心するわ」


「各都道府県で行われている独自大会ぐらいならまだしも、全国大会ってなるとどうしても危険性が高まるからね」


「ただ春みたいに何でもかんでも中止って時代にはもう戻れないし戻りたいとも思わない。移動する、交流する。それだけでもリスクがある行動になるから、結局常にコロナという恐怖と隣合わせで綱渡りするように生きていくしかないのかな」


「そういう中でプロスポーツでも観客の人数制限は続いてるし、センバツに出場するはずだった高校によって争われる甲子園代替の交流試合でもブラスバンドやチアリーディングがなしだから普段とは違う光景が広がっているよね」


「でも違うのは周辺だけで、試合自体は決して変わるものじゃない。やっぱり力がこもった熱戦が繰り広げられてるし、結局今はそれが一番信じられるものじゃないかしら」


「まったくもってそうだね」


「でももうちょっと涼しくなってくれるとより良いわね。最高気温四十度って何よそれ。体温より余裕で高いんだから笑えない話よ」


 そのような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので、二人は素早く戦闘モードに移行してその場へと走っていった。


挿絵(By みてみん)


「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のジンガサハムシ男だ! この汚れた惑星に正義を知らしめるのだ」


 半透明の体の真ん中あたりがメタリックな金色に輝いている、非常に独特な色合いの虫の姿を模した侵略者が、草原に出現した。こうして大型化していると極めて目立つのだが、実際のジンガサハムシはかなり小さな虫だし普段は葉っぱの裏側などに潜んでいるので意外と目につかないとされている。


 しかしこうして地球人類に牙を剥くなら容赦は出来ない。すぐさま抵抗する勢力が草原に出現した。


「出たなグラゲ軍。お前たちの思い通りにはさせないぞ!」


「せっかくお盆の大事な時期なんだし、静かにしておいてくれるとありがたかったんだけどね」


「そのような下等な宗教概念に縛られているとは、やはり滅ぼすしかないようだな。行け、雑兵ども! 奴らを根絶やしにするのだ!」


 強すぎる陽の光に照らされて黒光りする雑兵を、二人は次々と撃破していった。そのボディをそのまま触れると熱そうだが、特殊スーツは外部の熱気をしっかりカットするので快適なままで戦える。そして雑兵は全滅した。


「よし、これで残るのはお前だけだなジンガサハムシ男!」


「見た目は綺麗だけど侵略という邪悪な心は今すぐ捨て去るべきよ」


「価値観が合わなさ過ぎる相手にはもはや問答無用だ!」


 そう言うとジンガサハムシ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしかないようだ。二人は覚悟を決めて合体し、その巨大な暴力に対抗した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 燃える夕陽がジンガサハムシロボットのボディにギラギラと乱反射して威圧感を高めている。空の戦いは相手の素早いアタックに悠宇が持ち前の反射神経で上手くついていき、一瞬生じた隙を見てカウンターの掌底を叩き込んだ。


「よし、今よとみお君!」


「分かった。ここはランサーニードルで勝負だ!」


 そのタイミングを逃すまいと、渡海雄はすかさず黒いボタンを押した。大量に射出された棘が敵を貫きまくった。


「くっ、やる! この私を退かせるとはな!」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってジンガサハムシ男は宇宙へと帰還していった。時は夕刻、斜めに差す太陽の光は少しだけ力を失い、わずかな風とともに慈悲にさえ感じられた。

今回のまとめ

・馬鹿みたいに暑いから脳がまともに動いてる自信がない

・勝ちパターンはようやく安定してきたがまだ人材不足

・若手は若いってだけで駄目でも寛容でいられるから良い

・最善を尽くしても駄目な時は駄目だが最善を尽くすしか手はない

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ