hg32 YELLOWとButter cup,Myrtleについて
とりあえずコロナ継続でもう言う事もない。スポーツも死んでるし。マスクは仕方ないとしてパスタソースの棚が空になってるのはちょっとどうかと思う。
「でもパスタって手軽な割に美味しいから仕方ないよね。うちでも今日のお昼ごはんはボンゴレビアンコだったわ」
「この異常事態に際して普通を求めるのは限界があるからね。何かがおかしい世界の中を強かに生きていかねばならない。でもそんな話は関係なくて、今回は佐藤敦啓ソロ作品の後編。まず前回はアルバム『eyes』についてだったけど、実にその半年後には次のアルバムがリリースされた」
「かなり矢継ぎ早な展開ね」
「その分収録楽曲は少ないミニアルバムとなっている。それがこの『YELLOW』」
「タイトル通りパッケージも黄色いわね」
「元々光GENJI時代のイメージカラーが黄色だったし、ある意味原点回帰かもね。またHIROMIXという女子高生写真家として注目された人物がジャケットなどの写真を担当している。演出なんだろうけどぼやけた写真が多くてなんぼのもんだって感じはあれど、彼女は後年SMAP『夜空ノムコウ』のジャケット写真を担当する事になるから良いステップになったんじゃないかな」
「それで肝心の中身はどんな感じ?」
「平たく言うと『eyes』とはまったくの別物。まず前作のメインライターだった北谷洋は今作において一作たりとも参加していないし」
「あんなに頑張ってたのに……、無情なものね」
「またプロデューサーも柿崎からそうる透に変更している。このそうるはスタジオミュージシャンとしても名高いドラマーで、光GENJIでも数曲叩いてるしジャニーズ全般で言えばTOKIO松岡の師匠でもある。そんな彼が参加した結果として、前作を覆っていたキーボードやシンセ系のサイバーなサウンドは鳴りを潜めて、よりストレートなロックサウンドとなっている」
「そしてまず一曲目は『[jelou]』という発音記号で書かれたインストゥルメンタル。作曲編曲は佐藤敦啓、菊地圭介、そうる透の三人で担当」
「佐藤とそうるはいいとして、残る菊地もその後中国で活躍する実力者だけど、この曲自体は特に言う事もないかな。心臓の鼓動が印象的」
「次は『イエローラヴジェラシー』。作詞佐藤敦啓、作曲羽田一郎、編曲そうる透」
「前作から地味に生き残った羽田だけど、パワーのある正統派のロック系楽曲を提供している。軽快なギターのカッティングから始まるイントロは期待感抱かせるけど、頭サビから始まる佐藤の歌唱は悪い意味でショッキング。だってなんて歌ってるのか全然分からないんだもん。勢いとかノリ重視なんて言葉で看過していいレベルじゃないよ。そりゃあ佐藤の歌唱力に関しては今更言うまでもないけどね、前作はここまで聞き苦しくなかった。北谷が相当丁寧なボーカルディレクションを施していたのか。サウンド自体はかなり良化しただけに、ひたすら歌唱が残念。あまりにもったいない」
「タイトル連呼してる部分以外は本当に聴き取れないわね。次は『a piece of my love』。作詞佐藤敦啓、作曲楠瀬誠志郎、編曲そうる透」
「いかにも楠瀬らしいポップナンバーだけど引き続きボーカルが歌い込めてない。ちょっとトリッキーなリズムのイントロはインパクトあるし、しっかり聴き込めばなかなかいい曲だけど、本当ボーカルどうにかならなかったのかな」
「次は『太陽の下で風になって』。作詞佐藤敦啓、作曲広石武彦、編曲そうる透」
「広石はUP-BEATというバンドのボーカルとして活躍していた人物。もちろん今も現役として活躍中だけどオフィシャルサイトがこれ本当にオフィシャルなのって不安になった。この曲自体はこのアルバムでは一番普通で、タイトルからも感じられるような程よい軽さ、ナチュラルさが身上。地味とも言えるけど」
「次は『セシル』。作詞佐藤敦啓、作曲井上大輔、編曲そうる透」
「このタイミングでいきなり井上大輔なんて大御所が出てくるのにビビるけど、ちょっとシリアスで重たいサウンドからの切ないメロディーが印象的なバラード。佐藤の歌唱も悪くない、というかまずい歌唱力でも映えるような曲作りをしている井上の力量を称えるべきか。光GENJIにも起用してれば良かったのにと思いつつ、シブがき隊の印象が強すぎたかな。少年隊のメインコンポーザーだった筒美京平も光GENJIでは全然使われなかったし、その辺は意図的に色分けした結果なんだろうと考えたいけどね。その割に少年御三家はどのグループも馬飼野先生大活躍だったりするけど」
「そして最後は『TRIP』。作詞佐藤敦啓、作曲井上大輔、編曲そうる透」
「前曲と同じスタッフによって今度はガツンとしたロックサウンドが炸裂、したのはいいけどやっぱり滑舌が……。最後に心臓の鼓動が響いて一曲目と循環するのはいいけどね。このアルバムをまとめると、サウンド自体は佐藤敦啓のソロワークで一番良いけどボーカルが台無しにしていると言わざるを得ない。特にアップテンポな『イエローラヴジェラシー』『TRIP』は、もうちょっとどうにかならなかったのかな」
「わざとラフにした結果なのか知らないけど、さすがに歌詞が全然聴き取れないのは問題よね。しかもライブでフルスロットルになった結果とかならともかくスタジオ音源なのに」
「下手なら下手でもいいんだよ。ただせっかくの曲なんだしもうちょっと丁寧に歌ってほしかったかな。そして三ヶ月半の後、またもミニアルバムを発売する」
「いや早すぎでしょ」
「結局この九十六年に三枚もアルバム出してるからね。しかもシングルはなしという強気っぷり。そんな三枚目がこの『Butter cup,Myrtle』」
「ジャケットとか歌詞カードの写真は今までよりシックな雰囲気になったわね」
「写真は石田東という人物で、あえて正面を向かない写真を多く採用しているのもいかにもアイドル的なイメージの払拭を目指しているみたい。そして楽曲も今までよりセンス良さげになってる」
「そんな一曲目が『SWEET THRILL』。作詞佐藤敦啓、作曲編曲KANAME」
「KANAMEはPRECOCIの人と同じで、このアルバムでは全曲がこの作詞佐藤にサウンドプロデュースがKANAMEという体制で固められている。つまりそうる透も北谷同様一作だけで使い捨てられた」
「贅沢と言うかいきあたりばったりにも見えるわね」
「もったいないなって思うけどね。ただKANAMEによるサウンド自体はかなりお洒落だし歌唱も落ち着いたし、でも取っ掛かりもあんまりなくて、まあ悪くはないんだけどねえ」
「次は『DAYS OF LIFE』。作詞佐藤敦啓、作曲編曲KANAME……、はもう省略しちゃっていいか」
「うん。軽快なサウンドに当時コーザ・ノストラに所属していた女性ボーカルのコーラスが絡んで、でも佐藤の歌唱は落ち着きを通り越していささか気が抜けすぎかな。まあ下手に力まれるよりはサウンドのイメージには合っているけど」
「次は『LOVE SICK BLUES』」
「イントロの変なコーラスは印象的だけど、曲自体は結構たるい。当時局地的に流行っていた渋谷系のニュアンスを取り込んだアルバムと評される事も多い本作だけど、僕には向いていない路線と言えるかもしれない」
「次は『VANESSA』」
「これもねえ。なんとなくお洒落っぽい雰囲気はないでもないし、単なるBGMであるかのように処理するのが正解なのか」
「そして最後に『WISH』」
「最後にようやくやってきた迫真のバラード。これはいいよ。無味乾燥なお洒落砂漠の中で燦然と輝くオアシス。佐藤の歌唱は相変わらず力が抜けているけどサビなどでは一定の力強さはあり、またサウンドともよく調和している。これで何度目だって話だけど佐藤の歌唱力は低い。でもだからと言って勢い任せに突っ走るより真面目にバラードやらせたほうが光る。そう考えるとソロ曲第一弾に『最後のGood Night』をあてがったスタッフの慧眼には改めて恐れ入るね。普通あんな采配出来ないよ」
「せっかくの名曲が台無しってなりかねないもんね」
「だから最終的に『佐藤敦啓はバラードに強い』というのが、色々聴いた上で辿り着いた一つの結論となる。でもアルバムまで熱心に聴くような人以外がそれに納得するとは思えないし、結局のところソロでやるには力量的に限界があったと言えそう。そんなちょっと悲しい結論を出すしかないのかなってところで九十六年は終わった」
「終わってみると迷走に終始したわね」
「名前からして急にアツヒロサトウなどと名乗ったりすぐ戻したり、それで今は佐藤アツヒロで定着してるけど個人的には漢字のほうが格好良いと思っている。それはともかく、本当は光GENJIという枠の中でもっとやりたかったけど最年少ゆえにやれなかった事はいっぱいあったのに解散を決められていきなりソロやらざるを得ず、という事情もあるだろうけど、どの路線を選ぶにせよもうちょっと腰を据えて取り組められたら少しは違っていたのかもね。大まかに格好良いロックをやりたいのは分かる。でもどういうロックなのか、彼にとって格好良いとはどういう事なのかが見えてこないまま色々試しては放り投げただけでは身につくはずもない。それで翌九十七年は一転して楽曲発売皆無となり、しかし九十八年に再びシングルを発売した」
「それがこの『BRAND NEW HEART』。作詞佐藤敦啓、作曲編曲山田直毅」
「山田の妻は石川ひとみ、らしいけど正直あんまり詳しくない。曲自体はそれなりにシングルらしい力の入った楽曲ではあると思う。佐藤の歌唱もそれなりに無難だし」
「そしてカップリングは『Angel』。作詞樋口侑、作曲高木茂治、編曲George Black」
「これまたあんまり詳しくない人たちだし、楽曲としても特に引っかかりなくそのまま通り抜けていく感じ。かくしてこんな平凡な曲で佐藤敦啓のソロワークは終了。しかしこの時点で年齢にして二十五歳とかその程度でしかない」
「でもそこから不祥事もなくここまで生き永らえてるんだから立派なものよね」
「舞台というフィールドを得られたからね。一番最初は二〇〇〇年に鴻上尚史が脚本演出を手掛けた『ララバイまたは百年の子守唄』という作品で、そこから『犬夜叉』で初主演を飾り、以降は毎年複数の舞台に出演している。近年においては出演だけでなく演出も手掛けたりも。まあ舞台とか見に行った事ないから知らないけど」
「どうしても東京や大阪など大都市圏以外からすると遠い世界になるからね」
「稀に舞台公演の様子を映画として公開ってパターンもあるけど、それにしたって限度があるからね。それでテレビ出演はどうかってなると、やっぱり決して多くはない。いきなり同じ日に複数のドラマに出てきてなんだこれはってなった時もあるけど、そんなミラクルはそう起きるものじゃない」
「それが二〇一六年の五月十二日か」
「まずは二十時から放送された『鼠、江戸を疾る2』という江戸時代の泥棒で、金持ちから盗んで貧乏人に分け与える義賊とも伝えられる鼠小僧を今となってはジャニーズ事務所の重役となってしまった滝沢秀明が演じたNHKの時代劇。そして二十二時からは『早子先生、結婚するって本当ですか?』というフジテレビ系のドラマ。こっちは演出がきつかった記憶が……。ともあれこの時期は急にバラエティにも出たりする稀な日々だった」
「でもそれ以降は別にそういう露出が増えるって事もなく」
「光GENJI結成三十年となる十七年には水面下で再結成の話も持ち上がっていたらしいけど結局実現せず。主に事務所の問題となる。だからこの連中は……。それで今年になって発売されたASKAの新アルバムでは、その際に用意されていた楽曲も入っているそう」
「でもそんな楽曲がこうして再利用されてるのを見ると話は完全に潰えたと見るべきなのかしら。そうだとすると再結成って本当にハードル高いみたいね」
「それでもみんな生きているから可能性は常にある。何かを成すためには継続が必要。一度駄目でも諦めず、チャレンジを続けていけば重い扉が開かれる瞬間が訪れる、かも知れない。それは場当たり的な活動に終止してしまった佐藤敦啓の音楽活動とは異なる道を選べるかどうかにかかっている、とも言い換えられそう」
このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが響いたので二人は変身して雨空の下を駆けていった。
「ふはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のオタリア男だ! この汚れた星にグラゲの救いをもたらしてやろう」
南米の沿岸部に生息するアシカの仲間の姿を模した侵略者が日本の川沿いに出現した。黒っぽい体を取り巻くたてがみが雄々しいが、それに対抗する地球からの使者は間もなく馳せてきた。
「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」
「この星に住まう生命を根絶やしにして救いとは笑止千万よ」
「ふん、現れたなエメラルド・アイズ。今日がお前達の最期だ! 行け、雑兵ども!」
指先一つで繰り出された指示によって次々と現れた雑兵たちを二人は次々と破壊して、ついに全滅させた。
「これで雑兵は打ち止めみたいだな。後はお前だけだオタリア男!」
「ただでさえ大変な時期にこれ以上混乱の種を撒き散らすのはいい加減にしてほしいわね」
「だから死ねば良いのだ。いや、今すぐ殺してやろう。それこそが下等生物の救いだ!」
そう言うとオタリア男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしかない。二人は覚悟を決めると合体してその巨体に対抗した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
雨雲を切り裂くような激戦が四月の空で繰り広げられた。悠宇はさすがの反射神経を見せて敵の攻撃を回避しつつ体勢を整えてカウンターを入れた。
「よし、今よとみお君!」
「ありがとうゆうちゃん。ここはレインボービームで勝負だ!」
一瞬生じた隙を見逃さず、渡海雄は白いボタンを押した。胸部から放たれた七本のビームが敵を貫く。
「くうっ、強い! ここまでとは」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってオタリア男は宇宙へと帰っていった。雨はしばらく続くみたいだが、それも永遠ではないと心に太陽をかざして二人は家路についた。
今回のまとめ
・スパゲティは休日の昼の主食なのにちょっと困るぞ
・佐藤敦啓の歌うバラードはじんわりと心に重たくのしかかる
・楽曲やサウンド自体は「YELLOW」がいいけど歌唱は本当に酷い
・「Butter cup,Myrtle」は雰囲気は良いけど肝心の曲がやや弱い