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am23 忍法十番勝負の続きについて

 冬が来た。早速寒い。でも脱いでも限界がある夏と違って重ね着すればある程度騙せるからまだましなのかも知れない。


 冬の子供服は親の愛で出来た芸術だ。そしてそれは子供が愛を脱ぎ捨て半袖になって帰宅してこそ完成する。渡海雄と悠宇も親の愛が詰まったセーターやらコートで上半身を分厚く防御していた。


「冬が来たねえ」


「うん、冬だねえ。オトッペでも無事に土鍋の歌が戻ってきたしねえ。それで忍法十番勝負もさっさと終わらせるけど、第五話は桑田次郎。8マンなどヒーローものをメインで描き、細い線を効果的に用いたシャープな画風は後に劇画と称されるより写実的な漫画の先駆けとも評されている。存命」


「確かに今までの作者より大人びたタッチの絵になってるわね。真田幸村とか彫りが深くて外国人みたいな顔だし。その真田の依頼を受けた主人公のかすみ丸はくりっとした瞳に一本も前髪を垂らさない処理が合わさって野球少年みたい」


「ストーリーは、まず前回行方不明になった絵図面は魔王なる忍者の手に渡った。この魔王、徳川豊臣の争いや俗世における出世にはまったく興味なくただ強い相手と戦いたいだけの男で、絵図面を奪おうと繰り出された忍者を次々と葬っている」


「見た目も忍者らしい黒装束じゃなくて世捨て人の侍みたいだし、あんまり話通じなさそうなのがいかにも強そうね」


「バトルに関しては原理不明な超人的忍法は控え目で、機転を効かせての攻防が続く展開がなかなかストイック。魔王の戦術が結構ずるいのは忍者的要素かなとは思いつつ、現実的な描写ではある。少なくとも忍法なんとかの術と唱えたら何でもありなバトルとは一線を画している。そしてかすみ丸は魔王を倒すもやはり絵図面は回収出来ず次へ続く」


「おなじみの終わり方ね」


「第六話は一峰大二が担当。ウルトラマンとかヒーローもののコミカライズが多い作者で、シャープな線が特徴の桑田とは打って変わって太い線で描かれるイラストはかなり古い印象だけど強烈なインパクトを残す。存命」


「特に目の力が凄いわね。割と小さいコマでもいちいちまつげがバシバシ描かれてるのがまた異様な迫力を醸し出してる」


「それでストーリーは、まず主人公の名前が前回と同じかすみ丸だけど、作中で『魔王を倒した忍者が絵図面を取り返せなかったのでかすみ丸ら第二陣を送り込んだ』といった台詞があるのでどうやら別人と考えられる」


「風丸に続いて名前被りか。編集いくらなんでも雑すぎるでしょ」


「それはともかく、今回のボスは柳生宗矩で、忍法対剣法の異種格闘戦が見どころ。しかも相手は実在の人物なので勝手に殺せない。かくしてかすみ丸は絶体絶命のピンチを迎えるも、どうにか絵図面を守り抜き柳生の追跡から逃げおおせる。そして深手を負いながらも真田幸村のもとへひた走るところで終了。『かけろ真田幸村さまのところまで…』と煽るも、次の流れを見るにたどり着けず野垂れ死にしたっぽいのが哀しいね」


「まさに忍者の無情なる定めかな」


「しかしストーリーももう終盤。第七話担当は白土三平。サスケ、カムイ伝など数多くの忍者漫画を手掛けてこの業界の第一人者とも呼べる大物。それまでは理屈抜きだった忍法にいちいち説明を付けてリアリティを高めるテクニックを多用したのはエポックで、本作でもそういう解説が文章という形で掲載されている。漫画なら絵で魅せろってのは正論だけど、あえて文章にする事でもっともらしさを醸し出す技は見事。また生まれや育ち、それまで触れられなかった日本史の闇と呼べる部分にも切り込んでいった作風などからある種政治的な色合いを持って言及されがちな人ではあるけど、少なくとも本作にそういったカラーは感じられない。存命」


「しかし意外と生きてる人多いのね」


「みんなもう八十歳とかゆうに超えてるけど、ただ亡くなられてる方は亡くなられてるからねえ。そしてこれからも。ストーリーは、まず徳川方の犬使いと豊臣方の鳥使いとの勝負が描かれてこれは徳川方の勝利。次に豊臣方はガンダメという本当に人間なのかという化け物を繰り出して犬使いを撃破するも、一匹残った忍犬によって爆死させられる。かくして人間は全滅するも優秀な忍犬のお陰で絵図面は服部半蔵の手に渡った」


「忍者以上に動物たちの活躍が印象的ね。ガンダメもほとんど獣みたいだし」


「それと、忍者漫画としては動きの良さも特筆もの。大して台詞もなく木々を飛び移り手裏剣を投げ、といったバトルシーンのスピード感は他の作者を圧倒している」


「しかもストーリーもちゃんと進んだし。やっと絵図面が偉い人の手に渡った」


「今まではどっちのものとも言えない争奪戦だったけど、はっきりと徳川方のものとなった絵図面。そこから更にドラマが展開されるのが第八話。担当は小沢さとる。本業はエンジニアでサブマリン707という海洋冒険漫画が代表作。存命。丸っこいタッチに加えてコマ割りが無茶苦茶硬いのがとても気になる。昔の基本に忠実だったんだろうけど、今となっては読むのがちょっとしんどい」


「確かに障子みたいなコマ割りね。ここまでかっちりしてるのはエンジニアの性なのか」


「とは言えストーリーはかなり凝ってる。まず徳川方は前回手にした絵図面に基づいて忍者を繰り出すも成果を挙げられない。しかし徳川家康は抜け穴なんて最初から存在しないと見抜いており、でも抜け穴があると思わせておいたほうが都合が良いという読みを披露。さらに家康は抜け穴のリアリティを高めるため、伊賀丸なる半蔵配下の少年忍者に半蔵が守る絵図面を狙わせるという自作自演をけしかける。というわけで今回の家康は親しみやすい絵柄に反して非情かつ狡猾な人物として描かれている」


「さすがに天下を取っただけあるわね」


「それで半蔵の屋敷に忍び込む伊賀丸だけど、豊臣方の甲賀忍者も忍び込むなどして大混戦となる。まあそのお陰で残酷な師弟対決が見られなかったのは良かったと言うべきか残念と言うべきか。ともあれ絵図面は甲賀忍者の手に渡り、もうちょっと争ってもらうよって事で次回へ続く。その第九話担当は石森章太郎」


「仮面ライダーとか戦隊ものの人か」


「他にも数え切れないほどのアニメや特撮の原作者として携わっているし、それ以外のジャンルも色々手掛けている。アイデア豊富な一方で飽きるのも早かったみたいで、尻切れトンボな結末を迎えている漫画も多い。もう二十年ほど前に亡くなられた」


「あらまあ。でも仕事量見ると仕方ないかな」


「本作でも発想は光っている。前回持ち出された絵図面はフリーの忍者三人組の手に渡るが『つまらないもの』『昼寝のじゃまをされた』と言い放つ風来坊っぷりがなかなか格好良い。しかし伊賀忍者と白忍者と呼ばれる山伏のような姿をした連中が追ってきたので仕方なく対処する。伊賀に鈴彦という主人公っぽい雰囲気の少年忍者がいるけどこいつは大した活躍を見せず、印象に残るのはやっぱり風来坊三人組。それと出てくる忍法の派手さ、荒唐無稽さは随一」


「大技出しまくりで、本当にアイデア豊富ね」


「そしてラストでははっきりと絵図面は偽物と断言しつつ退場。さあ、ここからどう繋げるかというところで最終十話を迎える。担当するのは横山光輝。この人もまた代表作がいっぱいありすぎる漫画界の超大物だけど、その中でも伊賀の影丸は忍者漫画の嚆矢であり、忍法十番勝負で延々描かれたような忍法バトルもすべては横山の活躍なしにはありえなかった。そういう意味ではこの企画のトリを飾るのはこの人しかなかったと断言出来る。十年ほど前に亡くなられた」


「おお……。トータルだと存命は藤子、松本、桑田、一峰、白土、小沢で亡くなられているのが堀江、古城、石森、横山ってなるわけか」


「訃報なんてあんまり聞きたくはないものだからね、長生きしてほしいよね。そしてス

トーリーだけど、これは凄いよ。それまでの下り全部スルーだもん」


「ええっ?」


「まず散々追い求めた絵図面という単語は一度たりとも出てこない。実は抜け穴なんてなかったという話も全部無視して徳川方は相変わらず抜け穴探しに忍者を送り込んでいるし、最後は実際に抜け穴を発見する。徳川家康の心境も八話の狸親父っぷりはどこへやら、豊臣秀頼に嫁いで大阪城にいる孫娘の千姫を助け出したいという親心を見せている」


「なんとまあ……」


「それでも確かなアイデアに基づく忍法対決、センスに満ちたクールな台詞回しの格好良さ、その場限りのいい話っぷりを見せつけそれはそれで十分に面白いのがある意味力量を示している。石森はキラーパスを出したけど横山は大胆にスルーした。しかしラストを飾るにふさわしい展開は何かと考えるとやはりバトルなわけで、謎解きを捨ててまで忍法十番勝負の名を守り抜いた横山の豪腕には舌を巻く」


「それは褒めてるの?」


「そのつもりだけどね。それと最後のナレーションで第一話に登場した坂崎出羽守の名前を出して繋がりを誇示してるのも見事なエクスキューズっぷり。なお坂崎が千姫を救い出したのは史実の通りだけど、その後の顛末は何とも言えないものがある」


「どうなったのかなと調べたら……、結構やばい人だった」


「それと服部半蔵もねえ。この時点で服部半蔵を名乗っていたのは一番有名な半蔵の息子なんだけど、伊賀の仲間から訴えられたりした挙げ句に大阪夏の陣の十年ぐらい前に改易、つまりクビになったんだ」


「クビ!? じゃあ本編で頑張ってた人は誰?」


「それももちろん服部半蔵だよ。クビになったけど死んだわけじゃないからね。名誉挽回のため大阪夏の陣に繰り出したものの行方不明となり、定説では討ち死にしたとされている」


「なんとも侘しい結果ね」


「まあ史実云々で言うと服部半蔵は初代以外忍者じゃないとかいくらでもほじくり返せるけど、そこは重要じゃないからね。そもそも真田十勇士とかが出てくる世界観だし、そこでそんな奴らはいなかったとか言うのもリテラシーが低い話じゃない。大事なのはそんな世界の中でどれだけエンターテインメントとして作品の質を高められるか。それで言うと忍法十番勝負は豪華な連載陣の割になんだかなあ、でもそれぞれ個性は発揮してるしまあ面白くないわけでもなかったし……、という微妙な余韻を残しつつ完結した」


「案外しゃきっとしない落ちになったわね」


「正直看板倒れな感は否めないとは言え、やはり看板の威力は強烈なので手を変え品を変え、いくつもの表紙バリエーションを渡り歩きながら半世紀以上常に新品が作られ続けている。まったくもって稀な事だよ」


 そんな事を語っていると敵襲を告げる合図が光り輝いたので、二人は覚悟を決めて変身し、敵が出現したポイントへと走った。


 ちなみに個人的に十番勝負で順位を付けるなら、上から順に古城、白土、横山、藤子、桑田、堀江、石森、一峰、小沢、松本。評価基準は絵、忍法のアイデア、ストーリーといった順番になるかと思う。


 半世紀以上前の漫画だから古さは当然とは言え、許容出来る古さと厳しい古さがある。例えばコマ割りにしても、よく見ると小沢以外も古いと言えば古いのだが読み進める中では案外気にならなかった。でも小沢はさすがにどうなのてレベルなので……。そして半世紀前であってもかわいい女の子はかわいい。それが一位の理由だ。


挿絵(By みてみん)


「ふはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のコウライアイサ男だ! この惑星の汚らわしい種族を絶滅させるのだ!」


 濃い緑色の長い冠羽が特徴的で、基本的には朝鮮半島北部からロシア南東部にかけての地域に生息する鳥の姿を模した男が山中に出現した。渡り鳥で寒い冬は中国南部へ南下するが稀に日本にも飛来すると言うが、こういった侵略者の到来は極めて迷惑と言える。その侵略を阻止すべく、対抗する力は間もなく現れた。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「せっかくの冬なんだし、あんまり寒い行為をしないでよね」


「何を言うか逆臣ネイの操り人形どもめ。今日が貴様らの最期だ。行け、雑兵ども」


 メカニカルな雑兵たちが、あらかじめ用意されていたかのように次々と地中から湧いて出たが、渡海雄と悠宇は容赦なく叩いてそれを全滅させた。


「よし、雑兵はこれで終わりか。後はお前だけだコウライアイサ男!」


「間違えてこの地球へ来たならすぐに戻ればいいでしょう」


「間違っているのは貴様らのほうだ。早くグラゲ皇帝に支配される喜びを知るが良い!」


 そう言うとコウライアイサ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。華やかな冠羽が朱鷺色の夕日を浴びて一層輝いているが、見とれてはいられない。すかさず二人は合体して、この暴力に対抗した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 高い空は早くも日が落ちて薄黒い青に支配されつつあるが、情熱は北風で吹き飛ばせない。鮮やかな空中戦が繰り広げられたが、悠宇がタイミングよくカウンターを決めて形成を整えた。


「よし今よとみお君!」


「分かった。ここはレインボービームで勝負だ!」


 渡海雄はすかさず白色のボタンを押した。暗闇を切り裂く七色の光線がコウライアイサロボットを貫いた時、勝利の花火が撒き散らされた。


「うああ!! やってくれるな。ここまでとは」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってコウライアイサ男は宇宙へと帰っていった。明日J1最終節があるがこれは入れ替え戦まではステイ。後もうひとつぐらいやれればやって今年は終わりとなるだろう。

今回のまとめ

・秋と冬でやっぱり全然違うものだ

・やっぱり漫画は絵なんだなと再認識した次にアイデア

・横山光輝のあらゆる意味における凄さを見せたラスト

・案外長生きの漫画家も多いようでいつまでもそうであれば良い

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