ng13 森下単独記念 2019年ドラフト会議について
台風が来た。幸い渡海雄と悠宇のいる街は直撃こそ避けられたものの、それでもしとしと雨が降りしきり風も強い。でも会えないほどではなかったので会ってみた。
「いやあ降ってるねえ。でもこっちじゃまだこんな出歩けるけど、関東なんか直撃でJリーグとかラグビーの試合も中止になるから大変だよねえ」
「台風だからね。しかしこのざわめきに隠れて、もうドラフトが来週の木曜日まで迫っているのにはいささか驚くわ」
「ああ、そうか。でもシーズンも終わったしもうそういう季節だよね。それで今年のドラフトはどうなるのかな」
「まずここまで色々あったからね。カープは結局四位に終わってしまい緒方監督は退任。勝率五割だし順位は他力の部分も多くあれど、本人の判断なら仕方ないかな。球団史において間違いなくひとつのピークを作り上げた監督だった。それだけは忘れてはならない」
「そして佐々岡投手コーチが監督就任」
「現役時代はエースでありながら前へ後ろへと便利に使われ、しかもそんな無理に長らく応えてきた非常にタフな投手だったわ。また投手って、特にエースと呼ばれる人種は先日物故された金田正一がそうだったように俺が俺がって部分が強くて人間性については酷評される事も多いけど、佐々岡はその反対の性格という評判なのも独特なところ」
「でも単なるいい人では監督は難しいって言われてるし、大丈夫かな?」
「とりあえずストイックな緒方監督時代とはまた別の雰囲気になってくるのは間違いないでしょうね。ほどよくリラックス出来るか緩むかは知らないけど。そもそも投手がカープの監督になったのは半世紀以上前に遡るわけだし、現時点ではとりあえず静観するしかないでしょ。で、ドラフトだけどね、今のところは百六十キロを投げる佐々木、甲子園でも大活躍した奥川、大学生で即戦力候補筆頭の森下という三人が注目を集めているわ」
「カープもやっぱりその三人の中から指名ってなるのかな?」
「これまで出た情報を総合するとその可能性が高いわ。他には左腕の河野や広島県出身の西といった選手の名前も出てくるけど、とりあえず投手中心になるのは確実な情勢」
「去年一昨年と高校生野手を連続で指名してるし、まあ投手に行くのが妥当か。佐々岡新監督の意向もある?」
「それはどうかな。実績を残した緒方監督が毎年即戦力投手欲しがったけど結果はご存知の通りだったし。まあ外れ一位とかで何らかの影響があるかも知れないけどね、野間みたいに。それより會澤残留確定で捕手の上位指名はまずなくなったほうが関係ありそう」
「早々と決めてくれたのはチーム編成もそうだし、ファン心理からしてもありがたかったよね」
「しかも三年契約。当分は余計な心配をする必要がなくなった。そのうちに中村奨成を鍛えて禅譲ってのが球団が想定してる綺麗な形でしょう。サード練習してる坂倉がそっちでものになればなお良し。ただ捕手に関しては石原が今シーズンほぼジョンソン専用になって明らかに引退寸前だし白濱も長くないだろうからどこかで補充自体は必要ではあるけど」
「内野手や外野手の指名はどうなるかな」
「内野手は去年集めたし、長打力を見せた林にいきなり三割打った羽月と二軍で早速片鱗を見せている。トレードもあった。ただ海外志向の強そうな菊池が退団不可避と見た場合即戦力指名ってなる可能性はある。いきなり一軍定着したとは言え本質的にはまだまだ期待の若手止まりな小園や最悪の不振に終わった田中をどう考えてるかってのもあるけどね」
「特に田中は結局怪我だったみたいだし、復活してくれればいいんだけどね」
「とりあえず今後は田中に限らずフルイニングなんてやらないようになればいいかな。外野は鈴木に加えて西川も攻守に良いものを見せた。一方で野間は伸び悩んだし長野は使い方のまずさもあって本領発揮とはいかず。松山なんてもう守らせたくないし、ポジションはあると言えばある。大学生あたりで有力なドラフト候補もそれなりにいるし、一人ぐらいは手を出しても不思議ではない。トータルではそれほど多くの指名にはならないそうだけど、育成枠の利用があるかも含めてどうなるかは本番のお楽しみ」
「そういえばゆうちゃんが個人的に注目してる選手とかはいる?」
「投手だと明治大学の伊勢。パワーあるサイドスローでボールがグニグニ動いて、素敵じゃない。野手だと専修大学の火ノ浦。実際指名されるかはともかくとして名字は最強クラス。逆に名前はやたらと普通なJR西日本の佐藤直樹も楽しみ」
「指名されるといいね。ただこんなところで言うのも何だけど、佐々岡監督の顔はいかがなものかな?」
「若い頃のほうがとんでもない顔してるし、慣れれば大丈夫よ。まあ、とりあえず今日のところはこんなものでしょ。じゃあ木曜日はまた私の家でね」
「うん。じゃあね」
他のトピックスの多さゆえか例年以上に情報が降りてこないが、スカウトは着実に情報を集めて本番に臨んでくれるのだからそれを信じるしかあるまい。続きの文章は例によって当日に更新するが、当日嬉しさに打ち震えるかもやもやした感情を押し込めながらどうにか自分で自分を説得するような文章になるか、それは当日のお楽しみ。
ドラフト前日となる十月十六日の午後五時半を前にして、広島は明治大学の森下暢仁投手指名を明言した。
「佐々木奥川じゃなくて大学生の森下か」
「即戦力候補筆頭としては非常に妥当な指名。また佐々木公言は数多く六球団とかそれぐらいの大規模重複が予想されており、奥川もヤクルトがあらかじめ指名すると言っている。その中で森下だから、まあ集まっても三球団ぐらいとなるはず」
「単独の可能性はある?」
「さすがにそれは虫が良すぎるかな。でもそうなるとありがたいわね。あっ、中日石川!?」
「石川ってどんな選手なの?」
「打撃に定評ある内野手で、今年のそういうタイプの中ではトップクラス。しかも愛知県で生まれ育った地元選手でもある。カープからすると競合の可能性が一つ減ったのでそこはありがたいのかな」
「そして明日の今頃には色々と判明しているけど、楽しみというよりやっぱり怖いねえ。未来がまったく見えないってのは」
「本当にね。日が暮れるのも早くなってきたしね。今日はここらにしときましょう」
「うん。じゃあまた明日ね!」
森下指名は納得だ。後はどれだけ競合するか。無論カープファンとしては他球団がガンガン佐々木奥川その他に流れていくとありがたいが。
十月十七日、天気は終日曇りで涼しいというか時々肌寒ささえ感じるほどであった。ドラフト当日となる。いつも通り授業が終わった後、渡海雄は悠宇の家に招かれた。
「さあ、いよいよ時間だ。あっという間だったねえ」
「いよいよ各球団の関係者入場ね。佐々岡監督は、なんかあんまりスーツ姿のイメージなかったから新鮮ね」
「いよいよ緊迫感が漂ってきた。さあ森下には何球団来るものか」
午後五時十五分に各球団の指名選手が読み上げられた。その結果、佐々木に日本ハムロッテ楽天西武、奥川にヤクルト阪神巨人、森下に広島、石川にオリックス中日ソフトバンク、森にDeNAが指名された。その結果DeNAと広島は単独で指名確定した。
「やったね!」
「単独かあ! 単独かあ!!」
「へっへっへ、これも絶妙なタイミングよね。DeNAがショート候補の森を狙ったのは去年小園指名した事からも多少は予測してたけど、しかしオリックスが石川とはね」
「石川三球団って凄いね。奥川と同じじゃない」
「それだけ野手の価値が高まってるって事よね。特に一発のある野手はね。さあ抽選。まずは奥川からだ」
「巨人阪神ヤクルトで……、ヤクルトだ!」
「ああーヤクルトか。野手では村上とかも出てきたし、投手陣の整備は不可避だっただけに高津新監督にとっては幸先良いスタートよね。そして次は石川」
「おっと中日か」
「地元だしちょっと早くから公言してたもんね。縁があったって言い方になるでしょ。去年の根尾もそうだしだんだん順調に若手を指名出来てるし、彼らが育った数年後どうなるかよ。そして最後に佐々木の抽選」
「なんか四球団って見ると案外悪くない確率にも見えるけど。さあどこだ?」
「ロッテだ」
「ロッテかあ」
「ここは抽選をよく当てるからね。でも下位指名選手のほうがポンポン出てきたりする不思議な球団。決して育成能力がないわけじゃないのにねえ。ともあれ競合選手はいずれも下位球団に固まったのはドラフトらしくて良かったんじゃないかしら」
「そうだね。さあ次は外れ一位の順番だ」
外れ一位では河野にオリックス日本ハム、西に阪神、小深田に楽天、佐藤直樹にソフトバンク、宮川に巨人西武が指名された。そして抽選の結果河野は日本ハム、宮川は西武で交渉権確定した。
「あっ、ゆうちゃん注目の佐藤直樹選手が早くも指名された!」
「むううーっ、早いよ。これも文脈としては石川に近いと言うか、右打でパワーありつつセンターもいけそうな、柳田二世との評判もあった外野手よ。二位じゃないときついかなとは思ってたけど、これじゃあちょっと仕方ないわね。残念だけど」
「そしてこの外れ一位の抽選に漏れたのはオリックスと巨人」
「河野宮川と即戦力候補で外れたけど次はどうなるか」
その指名においてオリックスは宮城、巨人は堀田を指名。これで各球団の一位指名が確定した。
「二人とも高校生か」
「宮城は身長は特別高くないもののなかなかいいボールを投げると評判の沖縄出身左腕。堀田は結構速い球を投げるとドラフト前になって評価が高まりつつあった東北出身右腕。同じ高校生だけどそれぞれのビジョンの違いが見られて面白いものよね」
「ここでしばらく休憩だけど、とりあえず森下確定でまずは良かったねえ」
「本当にねえ。まずは一安心よ。さあ二位以降もこの調子で良い選手をガンガン指名しちゃおうね!」
やったやった森下単独指名だ! 当然一年目からローテーション入りを期待されるが、より大事なのは三年後五年後にどうなってるかだ。例えば大瀬良、一年目は防御率四点台だったがしっかり成長して先発陣の中心となった。
普通今の実力がそのまま通じるものではないだけに、この成長力こそがプロでの成功には欠かせない。そして森下はきっとそうなってくれるはずだと信じている。
十八時から二位指名。ヤクルト吉田大喜オリックス紅林中日橋本日本ハム立野が指名された。
「ここ数年より回ってくる順番が早くて焦るよね」
「とは言えそれだけ人材が残っているわけだし、さあどうなるかな。ここまででは即戦力候補吉田立野や大型内野手紅林などさすがに残らないかってところが指名されたけど」
「宇草!?」
「ああ、外野手のねえ。スピードがある上に大型でパワーも秘めている。打撃に関しては今年の大学生ではトップクラスじゃないかしら。一方で守備の、特に肩はあまり強くないとも言われている。評判通りならレフトあたりで一年目から上でその姿を見られるんじゃないかな」
「ここまで上位はともに大学生。早速活躍してくれるといいね」
そこから二位と三位でロッテ佐藤都志也高部、阪神井上広大及川、楽天黒川津留崎、DeNA坂本伊勢、ソフトバンク海野津森、巨人太田菊田、西武浜屋松岡が指名された。
「ここまではどうかな?」
「井上広大とか菊田とかパワーが武器の高校生がさっさと指名されてるのも石川三球団競合を鑑みるに必然かな。今はこういう選手が求められているというね」
「それとゆうちゃん注目の伊勢も三位でDeNAが指名された」
「力のある投手だし、まあ指名もあるわね。そして広島の三位は……」
「鈴木寛人」
「ああ、やっぱり狙ってたか。今年台頭した遠藤投手の後輩で、いかにもカープが好きそうな素材。甲子園にも出場して、結果的に優勝した履正社相手に初戦で敗れたもののなかなか力のあるボールを放っててむしろ評価は高まった。年齢的にも即戦力だけでなく優秀な素材を加えてバランスが良い。ここまでは概ね狙い通りのドラフトがなされてるはず」
「それならありがたいね」
三位から四位では日本ハム上野鈴木健矢、中日岡野郡司、オリックス村西前、ヤクルト杉山大西が指名された。
「ここまででもまだこれはという選手が残ってるし、さあ誰に行くか。ここまでだとヤクルトなんか結構いい感じかも」
「カープ四位は、韮澤雄也」
「ああ、これは高校生内野手ね。花咲徳栄と言えば高橋昂也の出身校って繋がりもある。それで韮澤はショートとして打撃もいいし守備も軽快と、素材としては十分に期待出来そう。飛び抜けた爆発力みたいなものはあまり感じられないし、もちろん出てくるのは数年後だからまずは去年指名した中神や羽月と競い合い実力を研鑽してくれれば」
四位から五位ではロッテ横山福田、阪神遠藤藤田、楽天武藤福森、DeNA東妻田部、ソフトバンク小林柳町、巨人井上温大山瀬、西武川野柘植が指名された。
「ごめん楽天の武藤選手あんまり知らない。調べたらどうも野手っぽいけど」
「それにしても阪神の高校生固めもなかなか壮観だ。それとこの順位になって急に捕手指名が多くなった?」
「そうね。他球団が指名した事で改めて捕手の存在がクローズアップされ、次の順位では取れないかもって意識も働くだろうし」
「それでカープも石原貴規って捕手みたいだ」
「天理大学かあ。捕手としてはスローイングに定評があり、しかも打撃に関しても春のリーグ戦で首位打者になったほどの選手らしい」
「へえ、なかなか面白そうじゃない」
「そうね。先述の通り今いる石原や白濱は決して長くないから捕手指名は必要だった。まずは一年目、二軍でどれだけのものを見せられるかよね」
五位から六位では日本ハム望月梅林、中日岡林竹内、オリックス勝俣、ヤクルト長岡武岡が指名された。
「オリックスは選択終了。カープも事前の報道だと四人ぐらいって言ってたしそろそろか」
「あっまだあるよ。玉村昇悟」
「おおおーっ玉村まだここまで残ってたか!」
「うおっ急にテンション上がった!」
「ごめんごめん。でも結構驚いたから。そうか、玉村残ってたか。丹生高校という決して有名ではないチーム出身ながらも素材の良さは早くから知れ渡っていた左腕。今年の夏は惜しくも福井県大会決勝戦で敗れたものの、ガンガン三振を奪いまくってたわ。うまく育てば大きい戦力になりそう」
この六位玉村を最後に本指名は選択終了。かくして六人の若武者が指名された。ここまでの手応えを述べると、かなりビリビリしている。いいぞ、これ。
「そして育成ドラフトでは持丸捕手、木下外野手、畝投手を指名した」
「持丸は甲子園にも出てたし、木下も打撃センスに定評ある選手。ともに高校生だしじっくり育てていければ。そして畝。これは畝投手コーチの実の息子らしい」
「正直な話縁故採用?」
「今のところはそう言われても仕方ないかな。年齢的には大卒二年目で、サイドスローという今のチームにいないタイプだけに何らかの使い道があるといいんだけど。ともあれこれでドラフト指名も終了。この中からどれだけ未来のヒーローが出現するか、じっくり待ちましょう」
「そうだね。ああ、もう八時だ。じゃあまた明日ね」
というわけでドラフトの趨勢を見極めたところで暗闇の中を歩いていった。育成は駄目で元々だが、そろそろ決定的な仕事をする日本人が出てくると嬉しいものだ。
まとめると、非常に納得のドラフトとなった。まず森下を単独で獲得はまさしくしてやったりといったところだろうか。そうなるといいなとは思ってたけど本当にそうなるとは思わなかった。
二位以降も外野に宇草、内野に韮澤、捕手に石原、投手は鈴木玉村と左右の好素材。バランスの良さも文句なしだろう。特に玉村指名された時は思わず猿のおもちゃのように手を叩いた。
しかし本番はこれから。これからはプロとしてどれだけの飛躍を遂げられるかという勝負になってくる。しかしとりあえず今日はここまで。選手たちにはおめでとうございますと、スカウトや球団関係者にはお疲れさまでしたと称えたい。虚脱状態でまとまりのない終わりになるが、とにかく頑張れ。
一位 森下暢仁 投手 明治大
二位 宇草孔基 外野 法政大
三位 鈴木寛人 投手 霞ヶ浦高
四位 韮澤雄也 内野 花咲徳栄高
五位 石原貴規 捕手 天理大
六位 玉村昇悟 投手 丹生高
育成
一位 持丸泰輝 捕手 旭川大高
二位 木下元秀 外野 敦賀気比高
三位 畝章真 投手 香川オリーブガイナーズ
今回のまとめ
・空に向かって高らかにイエスと叫びたい会心のドラフトではないか
・森下一本釣りは本当にうまい
・それ以降もバランス良く素質ある選手の指名相次ぐ
・最後に露骨な縁故採用あっても笑って見過ごせる




