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oi10 ラグビーワールドカップについて

 すっかり秋めいてきた。こういう涼しい空から吹く風に膝を当てるのはとても気持ちいい。春と秋こそ人間が人間として過ごすにふさわしい黄金の季節だ。


「もうカープの残り試合なんて片手で数えられるぐらいだし、それで明日にはもうラグビーワールドカップも開幕だからね」


「ひええ、もう明日なのか。でも正直あんまり詳しくないんだけどね」


「まずラグビーからして決して身近とは言い難い競技だからね。まずラグビーという競技の歴史から言うと、あんまり古いところから遡っても衒学的になるだけだから色々割愛するけど、十九世紀頃にパブリックスクールと呼ばれるイギリスの名門私立大学に通う学生たちがフットボールを楽しんでいたの」


「フットボールって言うとサッカーじゃないの?」


「それはそうなんだけどね。言うならラグビーとサッカーは血を分け合った兄弟みたいなものだからね。まず根本に中世以来イングランドで行われてきたフットボールがあって、元々は民衆のものだったけど彼らは産業革命とかで暇がなくなって、代わりに時間も体力もある学生たちがフットボールの担い手となったの。最初はそれぞれ学校ごとにルールが異なっていたけど、その中でラグビー校に通うエリスさんがある時ボールを手に持って走り出して、これがラグビーの起源だという伝説が伝わっている」


「なんでまた突然そんな事を?」


「そっちのほうが面白いって思ったんじゃない? アメフトだってアメリカ人が『このルールはこうしたほうが面白いぞ』と改造しまくった成れの果てだし。ともかくその後、ルールを統一しようって機運の中でフットボールアソシエーションが設立され、ここが決めたルールに基づくのがアソシエーションフットボールことサッカーとなって、そこで排除されたラグビー校的なルールも捨て難いとなったのがラグビーフットボール、略してラグビーとなった」


「なるほど。だからユニフォームとかちょっと似てるんだね。ラグビーのほうが下の丈が短いけど」


「サッカーだって伸びたのは九十年代だし。それとルールにおいてもお互いオフサイドがあったり、それとポジションに関してもハーフだのフルバックだのがラグビーにおいてはまだまだ現役で生きてる」


「そう言えばラグビーのポジションってどうなってるの?」


「細かく言うと色々あるんだけど前衛がフォワードで後衛がバックスと呼ばれているわ。それは昔のサッカーと同じだけど、ラグビーでパスを回したり点を取ったりする華やかな役割は主にバックスが担ってる」


「後ろにいるのに?」


「前線の選手は前線で壁になって自分たちの陣地を築き押し上げていくのが主な仕事で、そうやって作った陣地からパスワークや果敢な飛び出しで相手の守備陣を突き崩すのがバックスって感じ。とは言えサッカーでもディフェンダーがゴール決める事もあるけど、ラグビーに関してはもっとバラバラというか、フォワードが鍛え抜かれた体格を押し出して突破するのも重要な技だし、バックスも俊足を発揮した相手を止めるタイトなタックルが必須。全員で攻めるし全員で守らないと勝利はないわ」


「大変そうだね」


「実際怪我人とか多いしね。そしてどうやると得点になるかと言うと、まずは相手のインゴールエリアって領域に侵入し手に持ったボールを地面に触れさせる。これがトライよ」


「トライは聞いた事あるよ、さすがに」


「ラグビーと言えばまずこれってプレーだもんね。トライしたら五点が入り、しかもコンバージョンという追加得点の権利も与えられる。これはトライした地点からの延長線上のポイントからゴールに向かってキックして、入れば二点獲得。他にラグビーにもペナルティキックがあって、反則があった地点からキックして入れば三点。それと流れの中からキックでゴールを狙うドロップゴールというプレーもあり、これも三点。ラグビーにおける得点パターンは大体この通りよ」


「へえ、いきなりキックで狙うのもありなんだね」


「蹴る前にワンバウンドさせないといけない規定もあってあんまり決まるもんじゃないんだけどね。やっぱりトライが得点の基本よ」


「そう言えばスクラムってどういうプレーなの? 選手が集まってガヤガヤするって程度しか知らないけど」


「スクラムってのは軽い反則があった時に行われるもので、言うならば試合再開の儀式よ。ただでさえ強靭なフォワード陣が肩を組んで一つの塊になり押し合いへし合いという、まさにパワーのぶつかり合いだけどその中ではかなり細かい駆け引きがなされているらしく、非常に繊細な感覚も要求されるわ。それでちょくちょく笛が鳴らされて組み直しとかさせられたり」


「そうなんだ。でも確かにラグビーのルールはなんか複雑なイメージあるよね」


「やはり肉体同士の接触が激しい競技だからこそ細かい部分まで手を入れてないと酷い事故に繋がりかねないから結構複雑になってるのはあるわね。オフサイドにしても、ボールを持ってる選手が一番前であらねばならないって基本的な考えは非常に納得だけど、キックとか絡むと一気にごちゃついてくるし。実際にラグビーやってる選手でもルールを完璧に把握している選手は少ないとも言われてるし、観るだけの私達があんまり詳しくなっても仕方ないかな」


「それでちゃんと楽しめるものかな」


「楽しもうと思えば大体楽しめるでしょ。個人的には十五人全員がそれぞれの役割を頑張らないとなかなか得点に結びつかない部分が面白いなって思うわ。それで言うと先日やってた南アフリカの守備の堅いこと堅いこと。日本がもう少しでトライってところまで攻めててもそこから一歩も動かせない鉄壁ぶりで、そうこうしてるうちに日本は粘りきれずミスが出て攻撃終了みたいなね。本当前回どうやって勝てたのとほとほと感心するわ」


「もうあれも四年前か。あの最後のトライも右へ左へとボール動かしてて最後は一瞬かすめるだけみたいなトライ!」


「本当にあのわずかな隙間を突くようにヘスケスが走り抜けて。そしてあのカタルシスを生んだのはそれまでのジリジリした攻防あってこそ。ラグビーの醍醐味みたいなトライだったわね。もちろんサインプレーや細やかなステップ、あるいは軽く蹴ったキックなどを使った鮮やかなトライもあるから、今回大会でも様々な得点シーンが見られるはず」


「楽しみだね。ところで日本にはいつ頃ラグビーが伝わったの?」


「ざっくり言うと明治時代。最初は横浜や神戸に駐留する外国人がやってたけど、本格的に日本に伝えられたのは十九世紀も終わろうとする一八九九年、ケンブリッジ大卒のクラークさんと田中さんが慶應大学の学生に紹介したのが始まりとされているわ。現在でも慶應大学のラグビー部が蹴球部を名乗っているのは日本におけるラグビーの魁であるという自負心があるからこそ。一九二六年には日本ラグビーフットボール協会が設立」


「古いと言えば古いけど野球なんかと比べると新しいほうなのかな」


「野球は明治時代からブームを巻き起こして人口に膾炙しまくってたからね。サッカーはその頃師範学校を中心に広まり、そこから全国に巣立った先生方が学校教育として広めていった。一方でラグビーはと言うと、早稲田や明治など私立大学を中心に広まったので、エリートが嗜む紳士のスポーツというイメージを強くした」


「言われてみるとラグビーって政治に強いイメージあるよね。森喜朗とか」


「あれは一人でラグビーのイメージを下げ続けてるけど、でも支持者からすると頼りになる代弁者とも言えるわけで、あれはあれでいいんじゃないの。それで国内のラグビーだけど、七十年代から八十年代にかけてはラグビーブームを巻き起こしたらしいけど九十年代には大いに人気を落とした」


「やっぱりそれはルーツが同じなサッカーの台頭もあって?」


「それもあるし、日本のスポーツを取り巻く環境の変化についていけなかった日本ラグビーの体制の問題もある。まず日本のみならず、ラグビーユニオン全体がアマチュアリズムに支配されていて、でも八十年代には緩和しつつあった。そして一九八七年、オーストラリアとニュージーランドの提案を受けてワールドカップが開催された。スコットランドやアイルランドの協会はアマチュアリズムが脅かされるとして反対したそうだけど、最終的には大会にも出場している。そしてこの大会ではニュージーランドが優勝した」


「さすが提案しただけあるね」


「ヨーロッパで行われた九十一年の第二回大会で今度はオーストラリアが、ラグビーユニオンの規則からアマチュア宣言が消えた九十五年の第三回ではそれまでアパルトヘイト政策のため国際大会から締め出されていた南アフリカが初出場初優勝を果たした。この三国はワールドカップ複数回優勝を果たしているまさに強豪中の強豪よ」


「南半球ばっかりなんだね」


「北半球で言うとラグビー発祥国の意地でイングランドも一回優勝経験あり。他にスコットランドやウェールズにアイルランド、後はフランスも度々決勝進出を果たすなど強豪として知られている」


「やっぱりイングランド周辺が強いのか」


「発祥の地だもんね。それにアルゼンチンも伸びてきている。サモアやフィジーは近年もう一歩振るわないかな。大会でベストエイトに入るのは大体この辺りになるのが定番よ」


「日本はどのくらい?」


「アジアにおいては絶対的王者だから毎回本戦出場までは果たすんだけど、本番で撃沈というのがパターンだった。第二回のジンバブエ戦が唯一の勝利という時期が長く続き、特に第三回ではニュージーランドと対戦して十七対百四十五という未だに大会記録となっている最悪の大惨敗を喫した」


「うわあ」


「サッカーではワールドカップへの戦いが注目を集め、野球でも野茂がメジャー挑戦した。もはや世界との戦いが日本スポーツのデフォルトとなった中でラグビーはこの惨敗。しかも一部選手は観光気分でカジノに入り浸るなど実力以前に心構えでも未熟さを露呈して、人気激減も当然だった。前回大会の勝利はそんな暗黒の輪廻を断ち切ったという意味でも快挙だったの」


「意味を知れば知るほど奇跡だったと実感するねえ。にわかの僕でもそうなんだから長年この競技を支えてきたファンが涙するのも当然か」


「それまではもう負けが日常、途中まで接戦なら健闘と言われるレベルだったけど、真の意味で日本ラグビーも世界で戦っていく競技になった瞬間とも言えるわ。そして今回の自国開催でどれだけやれるものか。今回の成績が色々な意味で日本ラグビーの分水嶺となりうるわ」


「それで勝てるのかなあ」


「結局前回もベストエイト進出は逃したし、どうなるかしらね。でも少なくとも言えるのは、前回大会よりも注目度がアップしたって事よ。ほら、今は不人気とか揶揄されてるけど前回はファンがひっそり心配するだけの存在だったし、私達も南アフリカに勝つまで何も知らなかった。でも今はほんの少しであれ知っている」


「確かに。まだまだ謎は多いにしてもね。日本代表なのに外国人多いとか」


「ざっくり言うと一定期間その国に住んでたらその国の代表選手になれるって制度があるんだけど、ラグビーファンからすると違和感を持たれるのに違和感あるらしいけどこれからそういう意見が普通になれば国籍主義に変わっていくかもね。今回の日本代表は約半数が外国人だけど、逆に言うともう半数は日本人だし別にいいんじゃないのってのが正直なところ。ともかく日本代表以外も楽しめるけど、日本代表が勝ち進んだらなお楽しいし、頑張ってほしいわね。まずは明日のロシア戦から!」


 このような事を語っていると敵襲を告げるフラッシュが瞬いたので、二人はすぐに着替えて敵が出現したポイントへと走った。


挿絵(By みてみん)


「ふはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のマロン男だ! この汚れた蒼き星を真実の色に塗り替えてやる」


 オーストラリア原産のザリガニの仲間が海辺に出現した。個体によっては鮮やかな青い体の色をしているものもいて、かつては飼育用で人気だったという。しかし今では特定外来生物に指定されているのと同じように、地球侵略のため出現したのでは放っておけない。すぐに二つの影が現れた。


「出たなグラゲ軍。お前達の思い通りにはさせないぞ」


「せっかくようやくいい気候になってきたのにあなた達に潰されるのはごめんだからね」


「このような汚染された環境で何を言うかと思えば、まったく理解しかねるな。やはり死ぬしかないようだ。行け、雑兵ども」


 金属的なボディの雑兵を血の通った二人は次々と撃破していき、ついには全滅させるに至った。


「よし、これで雑兵は片付いたな。後はお前だけだマロン男!」


「今ならまだ間に合うからすぐ故郷へ帰りなさい」


「志を果たせずしておめおめ帰るなど出来るものかよ!」


 まさしく聞く耳持たず。こう言うとマロン男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。それに対して二人も合体した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 マロンロボットのハサミを使った攻撃を悠宇はうまく回避しながら体勢を整えた。そしてカウンターのパンチが決まって相手のバランスを決定的に崩した。


「よし今よとみお君!」


「ありがとう。ここでとどめのメガロソードだ!」


 この一瞬を逃すものかと、渡海雄はすかさず赤いボタンを押した。二人のバトルスタイルはまさしく悠宇がフォワードで渡海雄がバックスと言えるだろう。そして召喚されたソードでマロンロボットを一刀両断に切り捨てた。


「ぬおおお!! ここまでか!!」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってマロン男は宇宙へと帰っていった。それにしても日が暮れると涼しいを通り越して寒いとさえ感じてしまうほどなので、いつまでも夏場のような格好をして風邪を引かないように気をつけねば。


 そして九月二十八日、私は花園に降り立った。縁あってこのラグビーワールドカップの試合、アルゼンチン対トンガ戦を観る権利を得たのだが、簡潔に言うと選手のプレーも観客の声も迫力あって大満足だった。しかし日本対アイルランドが行われた時間の大半を電車の中で過ごす事になるとは。悔いはないけど悔しくもある。


 もっと上手い言い回しもあるだろうが今は体も脳もどっぷり疲れていてうまく動いてくれない。近い内にここかどこかでまとめてみたい。

今回のまとめ

・のんびりしてたらもう明日開幕になっててびっくりした

・でもやっぱりラグビーのルールって簡単じゃない

・調べたり学ぶほど前回よく南アフリカに勝ったなと衝撃が増す

・生のラグビーはテレビを軽く凌駕する大迫力で最高だった

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