sk07 鶴竜令和初優勝記念 参議院選挙などについて
夏休みに突入したというのに雨は降り続いている。でもこの程度の雨で心に灯る情熱が消えるわけもなく、天気が少し回復したタイミングを見計らって渡海雄と悠宇は公園で落ち合った。
「先週は色々あったけどまずは何からにすればいいのかな」
「そうね……、まず先に悲しい話からにしましょうか」
「ああ、うん……。先日の木曜日、京都市伏見区と宇治市の境目あたりにある、京都アニメーションのスタジオにガソリンを撒かれて、現在のところ三十四人が亡くなられたという放火事件」
「そこまでアニメ界隈に詳しいわけじゃないから個々の作品についての思い入れなんかはそれほどないけど、あまりにも被害が大きすぎるので胸が痛むわ。日本の放火犯罪史上に残る凶悪事件となってしまった。それにアニメ制作会社だからねえ。スタッフロールで名前知られてる人も多いから、社会においてどういう役割を果たしていたか明確な人物が多数亡くなったとも言い換えられるわけで、そういう意味での衝撃度も高い」
「本当にねえ。正直この件に関してはどうやっても悲しくなるし、理解し難い理由でこれほどの蛮行をしでかした犯人への憤りも湧いてくるし、あんまり積極的に調べたくないんだけど、とにかくああいう悪意をストレートにぶつけられるともう防火とかそういう話じゃなくなるからね。本当に、どうすればいいんだろうか」
「ガソリンは相手が悪すぎる。何の落ち度もなくても明確な殺意を向けられるともう逃げようがない。とにかくそういう世界だからこそ、今を全力で生き抜くしかないのかなとは思うわ」
「そうだね。それで吉本興業もなかなか面白い動きがあったね」
「土曜日にやってた会見ね。あれどうなの? 正直芸人なんて胡散臭い付き合いがあるものだと思ってたし、それが何しようがって感じであんまり注目してなかったけど」
「なかなか見どころいっぱいあったよ。まず大前提として宮迫と田村亮の二人はこれまで虚偽の説明によって信頼を損ねた上での会見だから、肝心なのはどこまで腹を括って本当の事を語ってくれるかにあった。それで言うとは田村亮が強かった。『吉本がファミリーだとしたら僕は子供で』とか言ってる時は何だこいつと思ったけど、確かに彼の言う通りだった。王様は裸だと言ってしまうような蛮勇で、これは嘘じゃないのではと思わせる説得力が非常にあった」
「でもまた嘘って事はないよね?」
「そうだとしたら大した役者だけど。一方で宮迫は頭の良さがかえって胡散臭さに繋がってたのが逆に面白かった。質問に答える時わざとらしい間があったり、亮が相方への思いを号泣しながら口にしたのに便乗して自分も語り始めたものの結局涙は一粒も流れなかったりとか。でも宮迫が場を仕切ったからこそ亮も思う存分突撃出来たわけだし、ここに来て風向きは変わった感じさえある」
「それにしても吉本もジャニーズ同様仄暗い部分を持っているのは間違いないわけなのよね」
「ジャニーズに関してはジャニー喜多川逝去から間もなく元SMAP三人を使わないよう圧力をかけていた疑惑が浮上とか、あまりにもはっきりしたタイミングすぎてねえ。でも実際圧力は絶対あったと思うよ。それが直接的な形ではなかったかもしれないにしてもね。そもそも芸能界ってそういう世界だし。映画界の五社協定しかり、ナベプロ全盛期しかり。新しいところでは能年玲奈は干されて本名を名乗れず改名を余儀なくされたりしてる」
「でも今までそうだったからってこれからもそのままでいるのもつまらないじゃない」
「平成どころか昭和から溜まってきたものがあるからね。新時代最初の年にこういう話が立て続けに出てくるのもまた宿命なのかもね。それと話変わるけどカープ酷いね」
「でもやっぱり結局は打撃よ。投手陣が頑張っても援護が一点止まりじゃ仕方ないし、逆にこの間の金曜日なんかエースたる大瀬良が無残に炎上したものの菅野相手にじわじわと追いすがり、最後は逆転勝利を収めた。これが出来ていたのが三連覇の時で、今はなかなかうまくやれてないから苦戦が続いているけど、こういう試合を一つでも二つでも増やしていく事よ」
「打撃に関しては本当に厳しいよね。やはり丸退団の穴は大きかったか」
「ただでさえ丸が抜けたのに田中や松山も消えたようなものだから事実上主力三人抜きはさすがにね。長野二軍落ちは致し方ないとして、本来そうあるべき選手は他にもいる。もはや順位に関しては巨人との差が大きいわけだし、カープはそこにこだわりすぎずに循環させる事をいっぱい考えてほしいところ」
「しかしまあ、びっくりするほど差をつけられたよね」
「それでどれほどのものかと思ったらカープが三連勝して拍子抜けだったけど、数字だけ見ると主力もぽっと出の脇役もよくやってるみたいね。さすがにここから優勝を逃すとは考えにくい」
「久々に優勝を逃すわけか」
「それは別にいいけど。直近で三連覇とかしてるしね。一回ぐらいは日本一になってほしかったけど。采配に関しても勝てば信念負ければ硬直した采配と呼ばれるものだし、そこまで気にしない。じゃあだからといって変わる必要がないかと言うとそうでもないんだけどね。でも変化にしてもそれを決断するのは緒方監督本人の領域なんだから、あんまり過激な言葉で罵っても意味は薄いし。でも実際優勝争いの義務から解放された現状、勝利を得るため使えなかった選手をガンガン使うのは大いに結構」
「早速小園がスタメンでよく出てるし、投手陣だと遠藤とか想像以上に働いてる」
「去年のアドゥワみたいな働きよね。素材に関してはかなりのものだと言われていたけどまだ高卒二年目だし、酷使するのは外国人にでも任せて大きく育ててほしいところ。まあカープ関してはこれぐらいでしょ。とにかくチャレンジしてみよう、そして打てるようになろうと」
「頑張ってほしいよね。それでこの日曜日には色々あったね。まずはどこから行こうか。大相撲かな?」
「鶴竜が十四勝一敗の成績を上げて六回目の優勝を果たしたわね。よしよし、よくやったよくやった。それにしても鶴竜も気付いたらかなり長く横綱やってるわね。何より白鵬という最強横綱がいる中で着実にここまでのキャリアを積み重ねているんだから見事なものよ」
「もう一年ほど優勝してなくて、これが七場所ぶりなんだってね」
「今場所も腰に痛みを抱えていて、出場すら危ぶまれていたと言う。そろそろ三十四歳という年齢からしても満身創痍なのはどうしようもない。最高峰でそれだけ戦い続けたんだからね。ここ最近は平幕と戦う序盤は概ね安泰なんだけど十日目あたりから連敗ってパターンが続いて、もしかしてもう十五日保たないのかななんて思ったりもしたけど、今場所は成績もさることながら内容も良かった。千秋楽も最初は白鵬の勢いがあるように見えたけどうまく巻き変えて寄り切ったし、鶴竜のいいところがしっかり出た優勝と言える」
「それにしても白鵬も休場明けにして早速優勝争いを展開したし、さすがにまだまだ強い」
「鶴竜よりさらに年齢は上だし、間違いなく衰えてはいるんだけどこれまでの貯金があるからね。逆に不甲斐なかったのは大関陣よ。四人もいるのにまさか全滅してしまうとは。まずは先場所の怪我が癒えない貴景勝が初日から休場で、早くも大関陥落となってしまった」
「平成最後の大関昇格から令和最初の大関陥落なんてねえ。相撲のスタイル同様あまりにも早すぎる」
「あの勢いも止めてしまう怪我の恐ろしさよね。でももうそうなってしまったものは仕方ないんだから、ここからよ。照ノ富士みたいになるかもしれないけど、それでも時間をかけてでも完治させるのがいいと思うわ」
「照ノ富士って今どの辺にいるんだっけ」
「幕下の下の方で、今場所は六勝一敗。まだまだ完治しているわけじゃないみたいだけど着実に上げてはきているみたいだし、とにかくそういうブランクがあっても返り咲けるという前例をもっと増やしていければ」
「そしてその前例の一人でもあった栃ノ心は今場所かなり厳しい内容の取組を続けた挙げ句全敗で途中休場。豪栄道も消えて唯一頑張っていた高安までもが怪我してしまい、どうにか勝ち越しは決めたもののそこで力尽きた」
「令和初の両横綱揃い踏みとなった場所だったのに、こんな珍しい流れもそうないわ。横綱に重圧がかかる中で順調に勝ち星を伸ばしてこの二人を中心に優勝争いが展開されるという王道の展開になったのは幸いだったけど、来場所は大関陣の奮闘にも期待したいわね。無論、先場所の朝乃山のような新手の台頭にもね」
「そうだね。そして八時からは選挙結果も出た」
「この間統一地方選があったと思ったら今度は参院選。各党の人たちも大変だよね」
「それで結果はやっぱり与党勝利となったわけだけど」
「六年前より減ったとは言えその時は当時の民主党への逆風が吹き荒れていたから大勝した。今回は普通に勝ちきったってところかしらね」
「さすがに安定してるよね。でも東北で結構負けてるのは何なんだろう」
「TPP問題なんかもあるし、世襲でそこそこ長く議員やってるのに何の実績もない三代目とか民主にいたはずがいつの間にか自民に寝返ってた人とか、候補者の資質もちょっと怪しい部分があったかな。そういう点では新潟とか大分でも面白い事になってる。とは言え繰り返すけど与党勝利だったのは間違いない。どうやら安倍政権は歴代最長を更新する勢いだし、凄いものよね」
「野党だと立憲民主党は倍増したみたいだね。一方で国民民主党は議席を減らした」
「全体的に野党第一党は立憲って流れはあるわね。間違いなく自民とは違うから選択肢になりうる。国民民主党はこのままだと埋没しかねないから、個性化する何かを見出さないと」
「個性化で言うとNHKから国民を守る党とかいうのが比例で議席獲得したよね」
「シンプルで伝わりやすい主張を繰り返した結果だし、それはそれで成功じゃないの。本当にワンイシューしかない上に個人的には全然共感しない中身だったからまったく買ってなかったけど、彼らを信じてみようという民意が一定数以上に存在するのならその通りになったって事でしょ。見る人の立ち位置によって政府広報にも売国奴にもなるNHKだからこそ、それに対する批判も広く共感を得たとも考えられるわけだし。後はちゃんと動けるか。ただいちゃもんつけて暴れたいだけみたいなくだらない集団にならないようにしてほしいわ」
「得票数見ると社民党と同じぐらいだもんねえ。いや、これはどっちかと言うと社民党の凋落を嘆くべきなのか」
「笑いたいなら別に笑ってもいいと思うけどね。社民党は今回も辛うじて政党の要件を満たしたけど、この綱渡りもいつまで続くかある意味楽しみ。そして今回の選挙で一番面白い動きを見せたのは山本太郎率いるれいわ新選組だったのはもはや異論もないでしょう」
「山本自身は結局落ちたんだよね」
「普通に受かりたいだけなら前回同様東京選挙区から立候補すれば良かったのに、それをしなかった。代わりに自分の知名度と今回から導入された特定枠という制度を活用して仲間を二人国会に送り込んだ。かつて『猿は木から落ちても猿だが代議士は選挙に落ちたらただの人』と言った政治家がいたけど、山本太郎は選挙に落ちても山本太郎だという信念と勢いがあるからこそなせる技よ」
「落選さえも想定内とは大胆に動いたものだね。ところで特定枠ってどんな制度なの?」
「参院選の比例はそれまで個人名の得票数で当選者が決まる方式だったけど、今回からあらかじめ政党が決めた候補者が本人の得票に関わらず当選出来る枠が出来た。それが特定枠よ」
「ふーん、なんだかややこしくなってるんだね」
「希望枠と分離ドラフトがあった時代並にいびつだしそのうち整理されるとは思うけど、とは言え悪法もまた法なりと言うように、れいわ新選組は与えられた制度を早速使いこなしたと評価してもいいんじゃない。一応特定枠に指名された候補者は選挙運動を行えないという制限があったけど、ここが指定した二人はその障害ゆえにそもそも通常の選挙運動を行うのが困難だったしね」
「障害者をそうやって利用するなんて、よくやるものだねえ」
「ともあれこれで国会のバリアフリー化を否応にも進めざるを得なくなる。また山本は近いうち開催とも言われる衆議院の選挙にも堂々と立候補出来る。今度はもっと多くの候補者を引き連れるだろうし、ここでこそ真価が問われるんじゃないかしら。とにかく安倍政権が長く続いてそれなりに問題が噴出していながらも安泰なのは既存の野党が選択肢になりきれていないから。そんな今、本当に何かしてくれるんじゃないか、風穴を開けてくれるんじゃないかと期待されているのはやはり山本太郎を置いて他にないわ。橋下とか小池とかあの枠ね」
「それじゃ最終的には萎んでしまうのかな」
「結局そうなるにせよ、それまで全力で走り抜く姿こそ見つめていたいじゃない。どこまで頑張れるか。駄目かもしれないけどもしかしたらと、有権者としては期待し続けるしかないでしょう。本当に変わるためにはね」
そういった話をしていると空の色がまた悪くなったので、雨が降る前に別れた。悲しみなんてすべて消え去ればいいのにと心で涙を流しながら。
それで自分の選挙区の情勢を述べると、まず六年前は自民党と共産党が当選した。三年前は自民と当時の民進党が勝った。今回は定員二人に対して現職二人を含む五人が立候補。そのうち二人は賑やかしなので事実上三人の中から二人という争いとなった。
前回逆風に煽られて落選し、捲土重来を期す民主系は当初国民と立憲がそれぞれ候補者の擁立を発表していたが、四月にはどうにか立憲の候補者に一本化した。しかしそこまでのやり取りでどうやらしこりが残ったようで、ガッチリとした協力体制を築くには至らなかった。
そして選挙戦で自民がまずあっさり当確。もう一枠は接戦だったが、最終的に共産党が競り勝った。立憲の候補はLGBTが売りだったが、それ以外はどうであったか。確かに多様性は大事だが、もし本当にダイバーシティの時代が来れば性的マイノリティを全面に押し出した候補なんて何のトピックスもない人物でしかなくなるのではないか。
落下傘というのもあったが、結局は政治家としての総合力が鍵だったはずだ。少なくとも私はそう判断した。でもそんなに悪い候補じゃなかったとは思うので、暇があったらまた遊びに来ていただれれば。
今回のまとめ
・忌むべき事件は未だに終焉を見てはいない
・勝つのは楽しいけど勝てなくてもそれはそれで楽しみ
・鶴竜なんだかんだでいい横綱になったなあとしみじみ思う
・ニヒリズムに支配されず希望を抱いて生きていきたい