sk06 平成最後の統一地方選挙について
春になったと思ったら急に寒くなられても困る。そんな四月一日、またひとつ歴史が動いた。
「新元号の令和。なんだかんだでもうかなり耳にも口にも馴染んできたねえ」
「そうね。最初に発表された時はNHK見てたけど、手話のワイプが邪魔で名前がよく見えないという信じられないミスがあったから何これってなったけど、この元号自体は非常に出来が良いなってすぐに思えたわ」
「令ってのが命令とか指令といった単語に使われてるし、あるいは冷につながるイメージもあってクールでスタイリッシュな雰囲気かと思ってたけど、音自体は案外可愛らしいところもあるし、そういう意味では良いバランス」
「とにかく良い時代であれと願いたいわね。平成って字面だけだとのほほんとしたイメージを醸し出してるけど時代としてはそんな楽なものじゃなかった」
「まあ三十年もあればそれはもう色々あるだろうけどね」
「まず昭和末期から続く好景気からスタートして、でも昭和最後の方は天皇の病状がどうなってるとかをそれこそ亡くなる前まで延々と報道され続けてたみたいで、つまりあえて言うと一人の瀕死の老人を寄ってたかって晒し者にしたようなものだからね。死に方としては最悪でしょ。それと国民が自粛ムードになって喜ぶべきところを喜べない社会に突入したのも不本意だったんじゃないかなとは思うし」
「そして今の天皇は生前退位という手段でそうはならなくした。非常に賢明なやり方だなって思うよ」
「とにかく狂乱の中で昭和は終わり、平成の世は始まった。とは言え今となってはバブルとして昭和末期とひとまとめになってたりするよね」
「光GENJIで言うと新元号発表直後に出されたアルバムが『Hey! Say!』だったけど、あれがたった三枚目だもんね。その後のほうがよっぽど長いのにどうしても昭和最後って枠に押し込まれる現状。まあジャニーズで言うとデビューは平成最初なのに昭和の飛び地って印象しか浮かばない忍者よりは恵まれているんだろうけど」
「翌年デビューのSMAPは平成の象徴となったのにね」
「SMAPは基本若いから、ブレイク失敗した最初の頃からやっぱり新しい息吹のようなものは感じられる。それで言うと忍者は凄いよ。デビュー曲『お祭り忍者』は昭和の歌姫だった美空ひばりの楽曲を大胆にアレンジして硬派江戸っ子路線を目指すというオンリーワン戦略に走るんだから」
「映像で見ると振り付けがまた凄いわね。ビシバシしたドラムに合わせるようにキビキビぴょんぴょんと動き回るかと思ったらいきなりスローテンポになって演歌っぽい節回しで歌い上げてみたり」
「インパクトは絶大、しかしそれしかなかった。その後も普通の爽やかな曲に変な掛け声入れたり、歌詞が無駄に和風だったりとやたら濃厚な楽曲が連発する。ラストアルバムでも六三四という和楽器を採り入れたバンドと組んで、ようやく落ち着いた歌詞とサウンドを切り裂くようにピュオオーって尺八が響いたり」
「何か説明だけ聞くとそれはそれで面白そうだけど」
「確かにある種の面白さはあるけど最後まで色物扱いとも言えるし。そしてこのアルバムから先行販売されたラストシングルはオリコン百位にすら入らず、まさしく忍者の如くひっそりと歴史の闇に消え去った。光GENJIの楽曲は名前のモチーフになった平安貴族的なイメージ皆無だったのに、なぜ忍者はあそこまでこだわり続けてしまったのかって、何か話が逸れすぎてる気がするな。どういう流れだっけ」
「一応平成初期が昭和と一緒くたにされがち、みたいな話だったはず」
「ああそうだった。まあ忍者はデビューこそ平成だったものの前身はむしろ光GENJIより古いし、実際に昭和と地続きだったから混同されるのはもう仕方ないと諦めよう。この手の連中は平成が進むに連れて淘汰されていき、あるいは平成という時代と同化し、昭和とは異なる世界を構築していった」
「その一環で九十三年には自民党下野という大イベントもあった。まあ間もなく永遠の野党第一党でライバルのはずだった社会党と組んで与党に復帰したけどね」
「自民党は強いよねえ。普通そんなアクロバット出来ないよ。ともかくそういう情勢の中、光GENJIも九十四年に二人脱退して社会の変革に従った。でも案外この時期に至ってもリアル世代以外からはバブル扱いだったりするよね。音楽で言うと広瀬香美とかtrfあたり。確かに享楽的な楽曲もあるけどさあ」
「ただこの頃は確かに景気悪いけどそのうちどうにかなるんじゃないか、みたいな時代の雰囲気もあったらしいじゃない。でも翌九十五年の一月には大地震、そして三月にはオウム真理教による地下鉄サリン事件とか大事件が連発して、ここから世紀末ムードが大いに高まっていったらしいじゃない。去年オウム関係の死刑囚が一気に処刑されたけど、調べれば調べるほど本当にとんでもない事件よね」
「そしてそんな時代に光GENJIも完全に解散。こうして時代は一筋の光を失った」
「九十年代後半はもう経済危機とか暗い話山盛りだもんね。それこそ最近いっぱいある平成振り返り番組で必ずのように取り上げられる山一證券破綻とか」
「世知辛い世の中になっていくんだね」
「超大国ソ連が倒れた、自民党が下野した、都市銀行や大手証券会社までもが潰れて、もはや権威は倒れるものだという時代に突入した。一方その頃リストラ連発で日産を立て直して優秀な改革者と称賛されたカルロス・ゴーンは今や容疑者と呼ばれる身分。逆に言うとそういうのが幅を利かせていた時代だから、それはもう大変だったでしょうね」
「さすがは世紀末。チャゲアスの曲もどんよりするわけだよ」
「そんな中で二十一世紀に突入したけど、いきなりアメリカ同時多発テロからの報復戦争連発というとんでもないスタートを切った。日本でも北朝鮮による日本人拉致が明らかになったり色々あったけど、というかそれまでも拉致してたのは薄々分かってたけど『根拠がない捏造』とか言い張ってた連中が存在していたという事実が一番恐ろしいんだけどね」
「そいつら完全に嘘言ってたわけだもんねえ」
「特に社会党が名称変更した社民党は北朝鮮の片棒を担いでたと言われても仕方ないほどだった。一方で共産党はあらかじめ朝鮮労働党とも喧嘩してたあたりある意味さすが。とにかく自ら北朝鮮に乗り込んで言質取るという功績なんかもあって、ただでさえ人気が高かった小泉純一郎が長期政権を築き上げていた。自分が改革者で対立する者は抵抗勢力だとレッテル張りをして、これがまた結構うまくはまってた。他にもちょっとしたフレーズが流行したり、自己演出能力には秀でていた」
「政策そのものはどうだったの?」
「基本的には何でもかんでも政府がやるんじゃなくて民間に任せられるものは任せればいいじゃないかという小さな政府を目指したもので、その結果経済格差が拡大したとか色々言われてるけど、でも政治家の能力ってつまりは自分が正しいと信じる政策をどれだけ実行に移せるかだし、そういう意味では当時の小泉は時代に求められた政治家だったとは言えるんじゃないかしら。小泉辞任後は毎年のように首相が代わった挙げ句、二度目となる自民党下野が起こったのを見てもね」
「でもどっちも非自民の総理は三代で終わってるね。結局その程度が限界なのかな」
「自民党がなぜ与党でいられるかと言うと、自民党は与党でありたいと他の政党より極めて強く願っているからかなって思う時がある。たまたま勝つ事はあってもそれを持続するのは尋常ならざるエネルギーが必要となるものだから。それで今回の統一地方選だけどね、まず最大の焦点となった大阪府と大阪市のダブル選挙では維新の候補が連勝した」
「強いねえ。大阪では維新が」
「まさに自分たちが住んでいる場所の話だからね、大阪で生まれて大阪のために頑張ってきた維新が大阪において支持を集めるのは自然。あまりにも強すぎるから対立候補は自民と共産の共闘なんてしてるし。与野党相乗りが日常的光景な地方選でも共産党は独自候補擁立しがちだから珍しい光景だったわ」
「でも負けたんじゃあんまり意味なかったね」
「維新を前にしたら自民も共産も仲良く野党。ましてや水と油よりも離れた同士が組んだところで支持者からしても違和感大で、実際結構な割合の自民党支持者が維新候補に入れてたみたいだし、なるようになったとしか言いようがないわ」
「そう考えると共産党が孤立するのもお互いにとって良いのかな」
「格好良く言うと栄光ある孤立、なんてね。とは言えかつて国政で自民と連立政権を組んだ社民党の現状なんて見るに堪えないし、あれよりはよくやってる」
「あれがかつて野党第一党だったなんて信じられない」
「ここまで崩壊するきっかけになったのが与党になった時なのは皮肉よね。自民党と連立する時、社会党がそれまで掲げていた政策を軒並み変更したのはポリシーなさすぎた。権力欲の巨人みたいな自民党と比べて支持者含めて汚濁に塗れるのに慣れてなかったとも言えるか。野党であれば自民の汚濁をあげつらうだけで良かったんだけどね、いざ矢面に立たされた時のタフさがないと勝ち続けられないものよ」
「その挙げ句が今の惨状か。落ちぶれるものだねえ」
「とは言え目先の地位に溺れて政策を捨てるのは筋が通らねえと分離した新社会党は二十年以上議席ゼロなわけだし。現実をなげうち夢に生きる新社会党みたいな存在は美しくてやがて悲しい。自民党は一枚岩じゃないのが強さになるし、純化の行先は斯くの如しよ。しかし社民党も令和中には諸派になってしまうのかしらね。とにかくそうして消えたかつての社会党の役割は民主党が担ったけどうっかり与党になった結果評判を落とし、自業自得の逆風によって分裂。ここも権力の重圧に耐えるタフさがなかった」
「それで今は国民民主党と立憲民主党があるけど、どうせそのうちまた離合集散あるんだろうと思うと本腰入れて支持出来ないよね」
「最終的にどんな形になるか分からないけど、とりあえず今の民主並立が望ましい最終形態だと思ってる人は誰もいないはず。じゃあいつどんな形に落ち着くか。それは令和の課題かな」
「結局のところ、現状頼れるのが自民党しかないって結論になるよね」
「まあね。しかしこのまったくの無風状態の中で塚田一郎国土交通省副大臣がつまらない、本当につまらない失言で辞任となった。こういった与党の緩みを正すためにも野党の奮闘が求められるわ。とりあえずは、地方選なのに安倍政権の暴走を止めるとか憲法を守れとか地域と直接的に関係ない話をやめるところからかな」
「野党はどんな話してても結局そっちに行っちゃうなあってのはあるよね」
「まあ今年に関しては七月頃に参院選もあるし、地方選もまだ前半戦に過ぎなくて四月の終わりには地方選の後半戦もあっていわば前哨戦だったからね。今年は政治が熱くなりそう」
このような事を語っていると敵襲を告げるサインが瞬いたので、二人は周りに人がいない裏の角まで行って変身した。
「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のナマケグマ女だ。とりあえずさっさと任務を果たしましょうか」
春眠暁を覚えずと言うが、眠たそうな顔をした侵略者が山間に出現した。インドに住みその長い爪で起用に木登りする姿が南米に住むナマケモノを彷彿とさせるという事でこんな名前をつけられた動物だが、仕事は果たす。しかしそうはさせじとすぐに対抗勢力が出現した。
「出たなグラゲ軍。お前たちの思い通りにはさせないぞ!」
「せっかくのいい天気なのに侵略するなんてもったいないわ」
「何をたわけた事を。グラゲの支配という幸いを拒む愚か者に生きる道はない。行け、雑兵ども」
そしてぞろぞろと出現した雑兵を二人は勢いよく撃破していって、残った敵はボス一人だけとなった。
「さあ雑兵は片付いた。後はお前だけだなナマケグマ女!」
「侵略行為も怠けてくれればそれで良かったのに」
「貴様らこそ素直にグラゲを受け入れてくれれば良いものを。だがもはや死ぬ以外にない」
そう言うとナマケグマ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。この大きな暴力にはやはり力で対抗するしかない。二人は覚悟を決めて合体した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
ナマケグマロボットの強烈なクロー攻撃をまともに受ければさしものメガロボットとてただではすまない。名前とは裏腹に普通にスピードもあるので悠宇は苦労したが、それでもタイミングを見計らってカウンターを決めた。
「よし、今よとみお君!」
「ありがとうゆうちゃん。ならばエメラルドビームで勝負だ!」
渡海雄はすかさず緑色のボタンを押した。目から放たれるエネルギーの塊が敵を燃やし尽くした。
「ぬうう、さすがにやる。まあいいか。とりあえず任務は果たしたし」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってナマケグマ女は宇宙へと帰っていった。戦い終わって、渡海雄と悠宇は昼寝をした。うららかな日差しには血みどろの決闘ではなくこの安らかな寝顔こそ相応しい。
なお今回私の選挙区では二つの選挙が行われた。投票した人は無事どちらも当選したのでとりあえず安堵。特に一人は最下位当選だったし、気を引き締めて議会に臨んでほしい。
落選者を見ると、民主系ダブル落選でさても見事な共倒れ。参院選でも候補者の一本化に失敗しそうな情勢だし、特に立憲、色物候補持ってくるんじゃないよ。いや、国民も大概か。そんなんだとまた共産党に名を成さしめるんじゃないのか。
今回のまとめ
・令和という響きや字面にはかなり自然に慣れてきた感じ
・純粋でいられる人は尊いが政治家としては多分正解じゃない
・野党が今の状態でいる限り自民党の天下は続くだろう
・今回は名鑑を掲載したけど次回から本格的に始まる4コマ漫画もよろしくね