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ca26 イチロー引退記念 25周年前後の動きについて

 春めいた光の空が心を弾ませる三月。ちょうど春休みにも突入した頃合なので、渡海雄と悠宇は今日もまた一緒に遊んでいた。


「この週末にかけて色々あったわね」


「そうだね。まず一番大きいのは、金曜日の修了式だね。これで晴れて春休み!」


「ついにって感じよね。しかもあの日、路地の片隅にオオイヌノフグリが咲いてたのを見たから本当に春が来たって嬉しくなったわ。でも今は別れの季節でもあるわけで、あの日のトップニュースも感慨深いものだったわね」


「イチロー引退か」


「その実績に関して述べる事はもはやする必要もないけど、平成の象徴と呼べる選手が平成の終わりとともに引退。確かにここ数年は明確に衰えていたから、この日が来るのは薄々気付いていた。でもやっぱりいざとなるとね」


「去年の途中でよく分からない外れ方してあれで事実上引退なのかなと思ってたけど、結局今年もやって、でもオープン戦でもほとんど打てず、そして日本での試合で引退となった」


「最初からそういう日程で決めていたんでしょうね。最後は故郷である日本でという。引退場所を決められる選手は決して多くないから、本当に選ばれたごく一部の選手だったわ」


「そうだね。普通四十五歳なんてやれるもんじゃないしね。とにかくお疲れ様でした」


「それと昨日千秋楽を迎えた大相撲もなかなか壮絶だったわね」


「鶴竜との熱戦を制した白鵬全勝優勝で平成を締めくくったのはいいけど、怪我が……」


「筋肉が断裂したって話もあるし。稀勢の里もそれが致命傷になってあんな無残な姿になってしまったわけだし、非常に不安」


「やっぱり怪我って怖いよね」


「付き物とは言えね。栃ノ心も怪我によって大関陥落となってしまったし。あんなに強かったのに」


「そしてそれと入れ替わるように大関まで昇進確実となった貴景勝。千秋楽にこの両者が当たって事実上の入れ替え戦といった様相だったけど」


「今の勢いをそのまま反映したように貴景勝が一方的に栃ノ心を押し出した。残酷なまでのコントラストもまた勝負が生み出す一つの形。確かに白鵬は強い。でも世代交代は確実に進行しつつある」


「貴景勝はまだ若いし、これからも大いに期待しちゃっていいのかな」


「もちろん、と言いたいところだけど気が早すぎるのも考えもの。今は勢い良く押しまくる相撲でもいいけど、これからはそれも本格的に対策されるだろうから別のものも要求されてくるはず。稀勢の里はその辺のバリエーションの乏しさも痛かったし、白鵬は何でもござれだからこそ強い。貴景勝がそこまでの器であれば、おのずと地位もついてくるでしょう」


「何であれ、新時代の英俊に期待だね。そしてこちらでも新時代の到来は間もなくで、長らく続けてきたチャゲアスという旅路もそろそろ一旦の終止符を打つ事になる。もはや残ったオリジナルアルバムはたった一枚だけとなっているんだから」


「ああ、それを今日お話しようと」


「その前に前回のアルバム『NOT AT ALL』以降の活動についてざっくりとまとめておく。まず二〇〇二年はシングルの発売はなし。その代わりライブは活発に行われて、その成果を還元すべく十一月にはセルフカバーアルバムである『STAMP』が発売された」


「セルフカバー?」


「過去に発売した楽曲を今の感覚で再録音しようって事だね。ミュージシャンにはElder Street Boysという当時のバックバンドが起用され、アレンジにも積極的に絡んでいる。音の大まかなイメージとしてはざっくりして力強い、ライブ感覚が強いサウンドになっているのが特徴」


「収録曲を見ていると、いきなり『YAH YAH YAH』『SAY YES』のヒット曲ラッシュとなってるわね」


「そうだけどね……、この二曲が物議を醸したんだよ。そもそも元々入れる予定はなかったらしくて、実際『YAH YAH YAH』なんてサビでもまるで声を張り上げないという原曲のイメージを意図的にぶち壊すアレンジで、攻めすぎた結果と言うよりやる気なさげな雰囲気が漂ってる。まあせっかく『群れ』とか出したのに未だにあの頃のイメージかよって絶望的なまでの嫌悪感はあったんだろうけど。当時テレビ出演の際によく歌われた『太陽と埃の中で』とかミディアムテンポに変更した『river』、よりスリリングになった『HOTEL』『砂時計のくびれた場所』なんかはそれなりにいけるけど、やっぱり全体的には原曲強いなってなる」


「それと新曲もあるのね。それが『そんなもんだろう』。作詞作曲A、編曲A with Elder Street Boys」


「これは俳優として名高い織田裕二に提供した曲で、『真夜中の雨』って織田主演のドラマの主題歌にもなったんだ。病院が舞台で石黒賢も出演と『YAH YAH YAH』が主題歌となりヒットした『振り返れば奴がいる』の再来を期待されたけど、そこまで流行らなかった」


「もうそういう時代じゃなかったのかな。そう言えばこの頃は楽曲提供ってどの程度やってたの?」


「本人の活動がメインで、八十年代後半と比べるとかなり減少してた。九十年代以降で有名な提供曲って言うと、黒田有紀という歌手に飛鳥が『風 吹いてる』『cry』って曲を提供してたけど、これがストリートファイターⅡVというアニメのOPとEDに採用された事から一定の知名度を有している」


「またストリートファイターか」


「人気あったからね。しかしゲームをアニメにするという文化がまだそれほど育っていなかった時代ゆえにキャラクターの名前を借りただけのてんで別物って設定になってて、中身も波動拳の気を練るのに時間かけすぎバンク多すぎと揶揄されたりあんまり芳しい評価は聞かないけど主題歌の出来とは無関係。『風 吹いてる』はちょっと掴みどころのないメロディーからサビはガツンと来る感じで、割と癖のある曲ではある。それで言うと『cry』は感情むき出しでストレートな作りかな。映像は正直なんか……、仲良いなあって。なお全二十九話と中途半端な割に途中で主題歌は変更された」


「やっぱり当時からあんまり受けてなかったのかな」


「そりゃあねえ。で、『そんなもんだろう』に戻るけど、織田バージョンはアップテンポだったけどセルフカバーだとこのアルバムの空気に染まって、ざっくりしたサウンドと歌い方になっている」


「真夜中を疾走するイメージだけど、チャゲアスのほうだと昼間から街をぶらぶら散歩してるみたいなテンポね」


「好き嫌いで言うと正直織田バージョンのほうが好み。そりゃ歌唱力がどうこうってのはあるけどさ。それと歌詞はかなり好き。本当そうだよなってなる。またこのアルバムは現状最後のオリコン一位になったとか、でも当時チャゲが二百万枚売るとか言っててそれは無理だろって思われたりとかあるけど、それ以上に最大のトピックスはCCCDとして発売されたという点にある」


「何そのCCCDって」


「まずCDバブルの九十年代が終わり、二十一世紀に入ってから音楽の売上は落ち着いていった。また、この頃はインターネットの利用がより一般的になっていった時期でもあり、それに伴って楽曲をPCに取り込み、違法コピーしてインターネット上にばらまかれる事でそれまで金を払って買っていたものがタダで手に入れられるようになるという問題も広まりつつあった」


「今でもよくその問題が出てくるわね」


「そこで音楽業界、特に九十年代のCDバブルに乗じて大きくなったエイベックスという会社は考えた。『CDの売上が落ちたのは違法コピーのせいだ』と。じゃあ逆に言うと違法コピー出来なくなればまたあのバブルは蘇るはずだ! って事でCDをPCでコピー出来なくした独自のCDのようなものを作った。それがこのコピーコントロールCD、通称CCCDなんだ」


「へえ、それは凄いじゃない」


「でもCCCDには問題があって、まず音質が悪いらしい。またまともなCDじゃないのでCDプレーヤーへの負担も大きく、最悪故障の原因となる上にCDの規格外だからメーカー保証の対象外となる。とどめにコピーガードも不完全というわけで、善良な一般ユーザーにはデメリットしかないのに悪いユーザーにはノーダメージというどうしようもない代物が爆誕した。無論、こんなものを導入したレコード会社への不満も含めてね。結局のところPCという当時の新参者に対するいじめでしかなかった。後にiPodなどPC経由のオーディオが一般化したのもあって結局数年で廃れたんだけど、『STAMP』はちょうどこれが出てきた時期のものだったから、CCCDとして発売されてしまったんだ」


「あらまあ」


「いや、実際ミュージシャンの生活にも直結する違法コピーは由々しき問題なんだけどね。飛鳥もそこを危惧する発言を現在においても度々していて、だからこそここでも新たなチャレンジの一環として導入してみたんだろうし。結果的に失敗だったけど。後に普通のCDとしても出たから、買いたいならそっちを入手しようね。さて、次は二〇〇三年だ。この年も単独でのシングル発売はなし。でもスターダストレビューというベテランバンドとのコラボシングルは発売された」


「それがこの『デェラ・シエラ・ム』。作詞作曲編曲A/根本要。しかし妙なタイトルだけどその心は?」


「意味なんてないよ。楽曲としては、とりあえずポップなサウンドのラブソングとなっているけど、ミュージシャン目線で自分たちがラブソングを歌う意味みたいなものを歌っている歌詞はベテランならではと言える。シングルジャケットのイラストと合わせて意図的にゆるい雰囲気が横行してるけど、実際作ってる時はそうでもなかったみらい」


「一見ゆるゆるだけどその内実は緻密な作り込みっていかにもベテランらしくて良いわね」


「そうだね。もちろんこの年も野外フェスに出演するなど精力的なライブ活動を続けていた。そして二〇〇四年、デビュー二十五周年って事でCとAを組み合わせて25という数字をかたどった特製のロゴが作られるなど精力的な活動が期待されていた年で、実際久々にシングルをいくつか発売したんだけど今は割愛。それよりも何これってシングルやアルバムも出ているんだ」


「それが四月に発売された『SEAMLESS SINGLES』ってやつか。これは一体何なの?」


「ごめん、持ってないからよく分からない。とりあえず収録曲は『SAY YES』『僕はこの目で嘘をつく』『YAH YAH YAH』『めぐり逢い』の四曲で、どうやらそれをリマスタリングして一枚のCDに詰め込んだものであるらしい」


「歯切れが悪いわね」


「だって意味が分かんないんだもん。一応『SAY YES』が当時CMに使われたからそれに便乗してってのはあるんだろうけど、正直今更感漂うし、半端にマス狙いな選曲もピントがズレているなって。四曲入り千二百円はほどほどにお買い得、と言いたいところだけどどれもよく売れた曲だからちょっと中古CDショップ行けば余裕で手に入っただろうし。シングル一枚百円換算としても四枚で四百円。リマスタリングしたところで差し引き八百円分の価値があるかと考えると……」


「しかも当時からするとせいぜい十年程度しか経ってない曲だから、多少いじったところで全然別物になるわけでもないよね」


「もし別物になってたとしたらそれは多分いじりすぎでわけわからなくなってるからだろうし。一応実際手に取ったユーザーの声を調べた限りだとそこまで極端な変化はないみたいだけど。とにかく存在意義が不明なんだよ、これは。それで当時あんまり宣伝もせずいつの間にか売られてた感じで、オリコンチャートでは十三位とベストテン連続記録が途切れたし、本当に何だったんだろう。コア向けとしても新規向けとしても中途半端」


「二十五周年だから過去の活動を掘り起こすって意図もあったのかな」


「それならもうちょっと宣伝しても良かったのに。それとこの年には『THE STORY of BALLAD Ⅱ』も発売された。これ自体は一九九〇年に発売されたバラードベスト『THE STORY of BALLAD』の続編で、ジャケットのデザインも旧作に準じたものとなっている。それと前作もこの機に乗じてリマスタリングされて同時発売されたんだって」


「タイミングとして前作は売上のピーク直前に出たけど、今作はそのピークを経て落ち着いた時期ってなるのね」


「それを踏まえて選曲を見てみると、そもそもこの時期から十数曲だけをまとめようってほうが無理なもので、結局のところあれが収録されてないこれが漏れてるってなるのはどうしようもない。全体的にはアルバム曲もポンポン入ってきてるからコア向けだろうけど、でもコアファンからしてもアレンジ違いとかはほとんどないし食指が動くかって言うと微妙なところ。いや、確かに名曲が揃ってるのは間違いないんだけどね。なんかじれったいアルバム」


「過去の遺産を切り売りするにしてもなんとも散発的になってるみたいな」


「また『CHAGE and ASKA 25th Anniversary BOX』と称して過去のアルバムをボックスにしたセットも第一弾から第三弾まで発売された。でも過去の再発売アルバムに入っていたオリジナルアルバム未収録のカップリング曲なんかは外されている」


「むしろそこが後追いのファンからすると大事なところなんじゃないのってなりそうだけど」


「一応完全限定生産で、ボックス全部集めた人にはシリアルナンバー入りの盾が送られたみたいだけど、それもねえ。とは言えやっぱりこの年もライブ活動は盛んで、ライブツアーに加えて夏には『CHAGE and ASKA 25th Anniversary Special チャゲ&飛鳥 熱風コンサート』と称するイベントをお台場で開催し、初期のフォーク系楽曲が久々に歌われたりした。また活動初期の柱だった楽園祭ライブを久々にやってみたり、そういう形での懐古的活動は本人の実力もあって一定の成果を収めた」


「やはりチャゲアスの本分はライブって事なのね」


「そこで大きくなったわけだからね、でもその辺の活動も一段落した二〇〇五年と二〇〇六年はほぼ動きなし。しかし年末には新曲とアルバムの発売が決まり、それは翌年に日の目を見た」


「ようやくか。そしてそのアルバムは?」


「それはね……、本当はさっさと語りたかったけどもういい時間だよ」


「あっ、本当」


「いくら春分過ぎたと言ってもまだまだ日が長いわけでもなし。また今度ね」


「うん。それじゃまたね」


 おかしい、今回で終わらせるはずだったのに前座が長引きすぎた結果分割を余儀なくされた。正直計算ミスったなと思いつつ、今日のところは別れた。新元号が知られる頃にはこの話も片付くだろう。


 ついでに次回から本作中で新たに漫画を載せる事にした。タイトルは「1 or 8」。ちょうどラグビーワールドカップもあるので、それに便乗する形で高まったラグビー熱の有効活用というイメージだ。以下は登場人物をまとめた名鑑となる。エイトくん達をよろしくね。


挿絵(By みてみん)

今回のまとめ

・イチロー引退は覚悟していたとは言え物悲しいものがある

・STAMPは狙いの良し悪しがくっきり出てるアルバム

・中古採集の際にもCCCDは邪魔でまさに害悪廃れて良かった

・次回から会話とバトルの間に4コマ漫画を掲載します

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