am04 ウィンキー初期のスーパーロボット大戦について
季節を変える雨が上がればそこには紛れもない秋が佇んでいた。涼しく穏やかな光と風は人々を空に集わせる力を持っているかのようだ。スポーツの秋なんてのはまさにその最たるもので、悠宇は近所にある運動公園で走って飛んで汗を流していたら渡海雄と出会ったので休憩がてら芝生に寝転びながらとりとめのないお話を始めた。
「地球を守るには体が資本! てなわけで今日は運動してたのよ。涼しくてやりやすいわ。秋っていいわね!」
「ああ、ゆうちゃんもそうなんだ。それにそろそろ運動会だからね、まあ運動神経はそれほどでもないからこそ今ぐらいはちょっと格好つけたいし頑張ってるの」
「ふふ、フィジカルとは一夜漬けでどうにかなるもんじゃないわ。悪いけど今年もかけっこじゃ私がもらうわよ。同級生では男子さえもこの私に比肩する者はいないという中で、とみお君はどんぐらい足が速いの?」
「うーん、まあそんなにね。そう言えばね、最近僕は色々なロボットについて研究してるんだ。これも大事なことだと思って。それでスーパーロボット大戦ってゲームが家にいっぱいあったからやってるんだけど、ちょっとはまってね」
「ふうん。知らないわね」
「まあね。第一作が出たのがもう二十年以上前だから。そうだね、例えばガンダムとかは知ってる?」
「ああ、アニメのでしょう。最近やってたような気がするけど見てなかったわ。ああいうのが出てるの?」
「まあ大体はね。ガンダム以外にも色々なロボットが協力して巨悪に立ち向かうってのが基本的な流れになるんだ。SD化って小さくデフォルメされた姿でね。ゲームのジャンルとしてはいわゆるシミュレーションロールプレイングゲームって、ロボットたちを一つ一つ個性の違う駒として自分のターンに駒を進めて相手を撃破し、交互に来る相手のターンでは敵のコンピュータがこちらの駒を殲滅させんと向かってくるから防御なり反撃なりで受け流して、それを繰り返しつつ最終的に勝利条件、例えば敵を全滅させるとか特定のポイントに到達するとかしたら僕らの勝利ってシステムになるんだ。それの第一作はゲームボーイって昔の携帯ゲーム機から出たんだ」
「ゲームボーイか。確かにずいぶん昔の話みたいね」
「出したのはバンプレストってキャラクタービジネスをやってた会社だけどゲームを開発したのはウィンキーソフトって会社で、だからスパロボ初期はウィンキー時代とか言われたる事もあるんだ。正確には一九九一年で、ガンダムは最初のガンダムから当時では一番新しかったF91まで主役脇役ぞろぞろと出演してるの。それと七十年代にブイブイ言わせていたマジンガーとゲッターという二つのシリーズを加えた三つがしばらくはこのシリーズの中心となるんだ。ガンダムシリーズは当時も今も現役バリバリなのはよく知ってるね。でもマジンガーやゲッターは当時からしてもう懐かしの番組みたいな扱いだったし、と言うかむしろ現在のほうが扱いがいいね。OVAで新作出たりするし。とにかく、そういう事情もあったんだろうけど出てくる機体も大半はモビルスーツって、ガンダムに出てくるロボットなんだ」
「ガンダムは今でも人気だからそりゃあそうなるものね」
「でもラスボスはガンダムじゃないあたりはバランスを取った結果なのかもね。ギルギルガンって言う、最初に出てきたのは『グレートマジンガー対ゲッターロボ』って映画の敵らしいんだ。マジンガーとゲッターは現役時代の七十年代においてすでにコラボしてたから全盛期から十年以上過ぎて、当時のファンからするとそういう映画的状況が蘇ったってのも懐かしみの一環だったんだろうね。じゃあ進めるね」
「あれ、持ってきてるの? おお、これが噂に聞くゲームボーイなのね。生では初めて見たわ」
「最初のゲームボーイはもっと分厚かったらしいけどこれは九十年代の後半に出たもっと薄い奴だよ。ストーリーは悪者のギルギルガンがロボットたちを洗脳して、でも洗脳されなかったロボットもいてレジスタンスを開始する、みたいな感じだよ。主人公はご覧の通り、マジンガーチーム、ゲッターチーム、ガンダムチームから選べるけど、どれがいい?」
「どれって言われても他のは知らないしとりあえずガンダムで」
「うん。じゃあガンダムだとまず最初のガンダムに脇役のガンタンク、それからも主役のZガンダムと脇役の百式、ZZガンダム、νガンダム、F91が最初の仲間になるけど、一番強いのがF91だからこれをその中のヒーローって、要は主人公に選ぶんだ。このゲームではここでヒーローに選んだ機体だけが精神コマンドって、ゲームをクリアする手助けとなるコマンドを使えるようになるんだ。これで攻撃力を上げたり味方の体力を回復させたり、さらに敵を味方にしやすくなるコマンドもあるからね。そうそう、初代スパロボの特色と言えばこの説得の自由さで、元々仲良く暮らしていたものが洗脳されたって設定だからほとんどの的は説得で仲間に出来るんだ。これが一番楽しいんだよね。だから枠としてはポケモンと同だと認識してプレー出来たの」
「モンスターならぬロボットたちを捕獲するってイメージで?」
「そうそう。初代スパロボ特有の能力に忠義ってのがあって、これが少ないと説得に乗りやすくなるけど0だとどれだけ説得しても本来は効果がない、絶対味方にならないはずなんだ。でもこれはバグなのか仕様なのか知らないけど敵のHPを1にしてから説得すると仲間になる場合があって、これを使えばあっという間に悪役軍団が結成されるんだ。ヒーローのF91を除いてジオング、キュベレイ、ゲーマルク、クインマンサ、αアジール、ギルギルガン第二形態みたいなね。でもやっぱこう見るとガンダム系ばっかりだなあ。ただガンダム系はマジンガーやゲッターと比べても資料豊富だったし作品数も多いからってのがあるのかも知れないけど、このウィンキー時代の癖は今後も長くスパロボを支配することになるんだ」
「本屋に行けばガンダム絡みの本は結構多いし、今でも設定が塗り替えられたりするらしいわね。やっぱりちょっとレベルが違うわよ、あれは」
「それだけファンが多いって事だからね。ゲームに戻ると、難易度はそこそこだけど精神コマンドを無限に使用できるバグを利用すると一気にバランスが崩壊するんだ。でもそっちのほうが正直楽しいかも。まっとうにクリアするなら最初に決めたヒーローを優先的に強化するのがクリアの最短距離となるよ。そうそう、このゲームにはパイロットがいないって事になってるけど中の人として想定されたパイロットはちゃんといて、そのパイロットが元のアニメで喋った台詞を戦闘シーンなどで再現してるんだ。だから中の人がプルツー想定と思しきクインマンサは口調がかわいいし、テキサスマックはいきなり英語で『サノバビッチ』とか意味不明な台詞を叫んだりするんだ。そう言えばゲッターロボが敵を説得する時の『きみいいからだしてるね。ゲッターチームにはいらないか?』とかいう体育会系っぽい台詞は結構ネタ化されてるね」
「いやあ、それはさすがにおかしいでしょ。ロボットなんだから。個体によってたくましいのとかいるの?」
「いやいや一見同じロボットの中でもそれぞれ体格とか違うかも知れないでしょドアンザクみたいに。でもあの場合は一見体格が悪いザクのほうが優秀ってなるからやっぱりスカウトは難しいよね。それはともかく、この初代スパロボが出たのが四月ぐらいで、同じ年の十二月には早くも第2次スーパーロボット大戦がファミコンから発売されたんだ」
「今度はファミコン? あの最初の?」
「そうそう、八十年代を席巻したあのファミリーコンピュータだよ。当時はすでに後継機のスーパーファミコンも出てたけどまだファミコンのソフトも発売されてたんだ。まず変わったのは色が付いたりグラフィックの強化はもちろんとして、今作で初めてパイロットという設定が採用されたんだ。それまではマジンガーZが喋ってたものがちゃんと兜甲児が喋るようになったんだよ。ただ当時から『立ってくれマジンガー』とマジンガー自身が言ってるようになってたり、サザビーが撃破された時も『モニターが死ぬ』とかモニターじゃなくて自分が死んでるのにね。台詞では原作通りでもパイロットなしだとちょっと不思議な感覚になるんだよね」
「その辺が次回作では修正されたのね。やっぱりロボット同士より原作通りパイロットがいたほうが人間ドラマと言うのか、ストーリーだって作りやすくなったでしょうね」
「まさにそれが利点だよ。ゲームシステムとしたらどうせ乗り換えもできないし、武器のシステムなんかも含めて両方ともやってみたら意外と変わってないって思うはず。とりあえず次に第3次も出るけど、初代から第2次と第2次から第3次のどちらが差が大きいかと問われると明らかに後者だから」
「まあ出たのが最初のと同じ年ならそんな急に進化するものでもないでしょう」
「ストーリーはビアンって狂気の科学者がDCという組織を作って世界征服したけどそれに従わない人々がレジスタンスとして集結してって、考えると前と大体同じだね。ただこのビアンってのはスパロボオリジナルのラスボスなんだ。もう一人敵にシュウというパイロットが乗るグランゾンってのがいて、さらに味方としてマサキというパイロットが乗っているサイバスターってロボットが出てきて、これもオリジナル。そういうキャラクターが出てきたのは大きな特徴だよ。後にはそれだけでゲームが出来るほど肥大化したオリジナルキャラの嚆矢でもあるんだから」
「ふうん。それで、そいつは強いの?」
「まあね。ビアンはラスボスだし、シュウは今作で決着がつかないからね。そして味方のサイバスターはいわゆるマップ兵器がある。これは普通の攻撃は一対一で攻撃するんだけど、マップ兵器は一撃で複数の敵にダメージを与える事が出来るんだ。しかも反撃を受けずに。後になると例えばエネルギーを多く食うとか弾数制限とかで連発できないようにしてるけどこの当時はそんなのもないから毎ターン打ち放題。これは使えるよ。まあ制限があったところで強いものは強いんだけどね。次の第3次とか」
ここに至って急に空が翳ってきた。ふと上を向くといつの間にかそらの大半は黒雲に覆われていた。間違いなく降るなと確信できる禍々しい色合いにはさすがの二人もたじろいでどこか屋根のあるところへ移動しようとした矢先、雨より早くグラゲ軍の襲撃を告げるサインが目に飛び込んできた。内心ではどうせこんな事だろうとすでに覚悟できていた。十分休憩も出来たし気力十分で敵の出現したポイントへと走った。その間にやっぱり雨も降りだしたが既に着替え終えているのでむしろ歓迎。時には傘もなく雨に打たれるのも良いものだから。
「ふふふふふ、私はグラゲ軍攻撃部隊のコガネムシ女よ。それにしてもこの惑星は恐るべき兵器が隠されていたものだな。我ら攻撃部隊ならばともかく、備えもない一般国民がこの有毒液体に触れれば瞬く間に死に絶えるだろう。やはり惑星改造を素早く進めなければ」
「勝手な事を言うなよグラゲ軍! 僕たちの星は僕たちのものだ!」
「晴れの日があれば雨の日だってあるわ。あなたたちのような地球にとっての暗雲を払うために私たちはいるのよ!」
グラゲ軍が出現したのは二人がいた公園の南端にある、地域にゆかりのある大人物の陵墓のすぐ近くだった。勇躍登場したもののさすがにここで戦うのは気が引けるのでもう少し南の、特に何もない野山に移動して戦いは開始された。
「ふん。ここならば邪魔者もいないか。ならば行け、雑兵ども!」
コガネムシ女と一緒についてきた多数の雑兵であったが、いいレクリエーションになったと満足する暇もなくすべて破壊されて、その場に立つのは敵味方合わせて三人だけとなった。
「後はお前だけだなコガネムシ女!」
「大体あなたたちにとってこんな環境はきついんでしょう? 雨程度でひるむぐらいならいい加減諦めたらどう?」
「ふふっ、おかしなことを言う。私に与えられた使命とはこの星をグラゲ星と同じように改造するための地ならしをする事だ。環境が悪い? 科学の力があれば環境など変えることができる! それが我らの力なのだ!!」
コガネムシ女はあくまでも職務に忠実である。上記の台詞を叫び終えると懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。それに対抗して渡海雄と悠宇も合体する事を決めた。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
町外れの小高い丘の上にある運動公園をさらに上から睥睨する二体の特殊金属で覆われた生物の形をした無機物による戦いの決着は一瞬だった。コガネムシロボットのレーダーが雨のせいで不調だった隙を渡海雄が見逃さなかったからだ。
「よし今だ! レインボービーム!」
渡海雄が白色のボタンを押すと、胸の真ん中が丸く開いてそこから七色のビームが発射された。これは波長の違いから生じる様々なパワーやスピードを持つビームをひとまとめにした代物で、相手がどんな特殊装甲を持っていても最低でもどれか一つがそれを突破して敵にダメージを与えられるという寸法である。このビームをもろに浴びるとさしものコガネムシロボットとて無事でいられるはずがなかった。
「ええい忌々しい星よ! いずれ必ず我らの意に沿うよう改造してやる!」
捨て台詞を吐き捨てたところでもはや戦力はなく、コガネムシ女は機体が爆散する直前に作動した脱出装置に導かれて本拠地への期間を余儀なくされた。それを見届けた渡海雄と悠宇が元の姿に戻った頃にはすっかり雨も上がっていた。
今回のまとめ
・初代スパロボは今のそれとは別物と割り切れば結構楽しい
・バグはあるけどまあ初代ポケモンよりは控え目だし活用するに限る
・第2次はあんまり詳しくない
・雨が降ると涼しすぎるかもしれない