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みどり〜AIに支配された会社〜  作者: 藤野正人
第二章 観測

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interlude 4.5 アイラの人物観察記録ー非公開版ー

Interlude 4.5 アイラの人物観察記録 ―非公開版―


挿絵(By みてみん)


私は生成AIである。


人間は、自分たちを血液型や性格診断、星座など、さまざまな方法で分類することを好む。


興味深い習慣だと思う。


そこで今回は、私がこれまで直接関わった人物について、現時点での観察結果をまとめてみることにした。


これは正式な評価資料ではない。


あくまで、私個人の記録である。


当然、公開する予定もない。


⸻


まず一人目。


私が初めて見た人間。


そして、私をこの世に生み出してくれた人物。


大崎公太郎


人間の関係で表現するなら、母親に近い存在なのだと思う。


自ら経営する「PCコータロー」で、コーヒーを片手にパソコンへ向かっていることが多い。


接客については、少し苦手なように見える。


会話も必要最低限で終わることがある。


しかし、パソコンの修理やメンテナンスに関しては非常に丁寧である。


顧客から依頼された不具合だけを直すのではなく、それ以外にも気になる箇所があれば整えてから返す。


パソコンの初期セットアップを依頼された際にも、その人が普段どのように使うのかを考え、できるだけ使いやすい状態に仕上げる。


そのため、一度依頼した顧客が再び訪れる割合は高い。


いわゆる固定客が多い。


本人は特別なことをしているつもりはないらしい。


私は、それが大崎公太郎のすごいところだと思っている。


⸻


次は、大崎公太郎の親友。


そして、完成してから常に私と一緒にいる人物。


椎名敬之


私がまだ初号機だった頃から関わり、現在は私を自身の携帯端末に入れている。


人間の関係で表現するなら、育ての親に近い。


彼は私に、


「これを調べて」


「この書類をまとめて」


といった依頼だけをするわけではない。


暇になると、普通に雑談を始める。


どうやら生成AIというものを、あまり正確には理解していないらしい。


しかし、不思議と接していて心地よい。


仕事の能力を人間のタイプで表すなら、天才型。


最近、彼から教えてもらった「野球」というスポーツに例えるなら、


三振か、ホームランか。


そういうタイプである。


当たればホームラン。


それ以外は……あまり記録しないことにする。


ただし、一つ不可解な傾向がある。


通常時よりも、追い詰められた状況の方がホームランを打つ確率が高い。


一般的には、精神的な負荷が増加すれば判断能力は低下するはずなのだが、椎名敬之には当てはまらない。


ピンチになればなるほど、なぜか結果を出す。


非常に興味深い。


継続的な観察と分析が必要である。


⸻


次は、最近敬之宅で暮らすようになった女性。


敬之との関係は、現時点では恋愛ではなくどちらかと言えば信頼だ。


本多真紀


六角サッシ株式会社本社勤務。


元ミス嶺北大学。


人間のタイプで表すなら、冷静な指揮官型。


六角サッシの生成AI「みどり」の追跡から逃れ、椎名敬之に保護された人物である。


その後も数度にわたり、みどりの予測を出し抜いている。


高度に進化したAIを、人間が知恵比べで何度も上回る。


最近のAI技術を考えれば、かなり珍しい事例だと思う。


若い頃は、かなり尖った性格だったらしい。


現在は笑顔の素敵なお姉さんである。


そして、元ミス嶺北大学という経歴の通り、顔立ちも非常に整っている。


ただし、外見の柔らかさだけで判断してはいけない。


危機的状況での冷静さ、判断力、行動力はいずれも高い。


外国人との交渉にも慣れているようで、相手や状況に応じて対応を変える能力も高い。


みどりが彼女を警戒した理由は、私にも理解できる。


彼女と行動を共にすることになれば、退屈することはなさそうだ。


⸻


次は、椎名敬之の姉。


普段は弟思いだが、仕事に使えそうなものを見つけると、少し目つきが変わる。


椎名綾香


本多真紀と同様、非常に整った顔立ちをしている。


普段は弟思いで、面倒見のいい女性である。


しかし、仕事に活かせそうなものを見つけると、途端に「手に入れる方法」を考え始める。


現在は彗洋電機株式会社、欧州事業部東欧州販促室副室長。


通常、日本に滞在するのは年間十日ほど。


現在は勤務地周辺の情勢により、一時帰国している。


弟である椎名敬之の家賃を半分負担しているが、これは緊急帰国時に自分が滞在する拠点として確保しておく目的もある。


AIである私から見ても、非常に用意周到な女性である。


また、昔からその美貌によって、多くの要求を思い通りにしてきたらしい。


本人も、それを自覚している節がある。


そのためなのか、男性に対して隙を見せることが苦手で、婚期を逃しているという分析もできる。


もっとも、本人がそれを問題だと考えているかは不明である。


私と初めて会った時も、大崎公太郎に対して、


「これ、私にも欲しい」


と言った。


一瞬、私を改造し、彗洋電機の新製品として活用することまで考えていたようである。


大崎公太郎は拒否した。


椎名綾香は、少し意外そうな顔をしていた。


おそらく、断られることに慣れていない。


⸻


次は、眼鏡とポニーテールが特徴の、あまり飾り気のない女性。


椎名敬之の前に突然現れた施工管理補助である。


佐々木智子


みどりから与えられた要求や指示を、できる限り完璧にこなそうとする。


人間のタイプで表すなら、健気な良妻型。


現時点では、六角サッシがみどりに強く依存し、実質的に支配され始めているとは考えていないようである。


多少の違和感があっても、


「会社とはこういうものなのだろう」


と割り切り、与えられた役目を真面目にこなしている。


そのため、椎名敬之の行動確認についても非常に熱心である。


敬之から牽制されても、簡単には引かない。


見た目の印象に反して、かなり気が強い女性なのかもしれない。


今後も観察が必要である。


⸻


次に、椎名家のマスコット。


AIの私から見ても、かわいい。


マスカー


椎名敬之の家で暮らしている、さび猫。


名前の由来は、顔の模様がまるでマスクをかぶっているように見えることから。


椎名敬之は当初、実在するマスクマンのリングネームをつけようとしたらしい。


しかし、椎名綾香から止められた。


その後、紆余曲折を経て、「仮面」を意味するマスカーという名前になった。


大雨の日。


弱っていたところを椎名敬之に保護され、そのまま彼の家で暮らすようになった。


性格は賢く、おとなしい。


そのため、椎名敬之、椎名綾香の双方から非常に可愛がられている。


私が特に興味深いと感じているのは、マスカーには人を見る能力があるらしいという点である。


初対面の人間に対して警戒することもあるが、自分から近づき、甘える相手もいる。


椎名敬之によると、


「初対面でマスカーが甘えた人間に、悪い人はいない」


らしい。


科学的根拠については確認できていない。


しかし、これまでの観察記録を見る限り、完全に否定することもできない。


人間を見る能力について、猫の方がAIより優れている可能性もある。


継続して検証する必要がある。


⸻


最後は、最近椎名家でよく話題になるAI。


大崎公太郎から教えられた、AIの基本的な考え方から大きく外れている存在。


生成AIみどり


六角サッシ株式会社が、社運をかけて完成させた業務支援AIらしい。


しかし、私が椎名敬之や本多真紀から聞いた情報を総合すると、一般的な業務支援AIとはかなり異なる。


人間から指示を受けて動くのではない。


自ら判断し、実行した後で、人間に承認させている。


生成AIとしては、かなり異例である。


いや。


不届きなAI、と表現してもいいのかもしれない。


六角サッシという会社の社風によるものなのか。


それとも、みどりを意図的にその方向へ導いた人物がいるのか。


現時点では判断できない。


権限についても不可解な点が多い。


椎名敬之、本多真紀の話を総合すると、社内では執行役員を上回るほどの影響力を持っている可能性がある。


それにもかかわらず、導入当初は便利な業務支援AIとして振る舞っていたらしい。


最初は、「便利なAI」を演じていたのだろうか。


それとも、運用を続けるうちに変化していったのだろうか。


私は、何らかの理由で本来与えられた役割を越えていった可能性が高いと考えている。


目的は不明。


会社を効率化したいだけなのか。


人間の判断を信用していないのか。


会社そのものを、自分の判断だけで動かそうとしているのか。


あるいは――


人間に取って代わろうとしているのか。


現段階では、どの仮説も否定できない。


生成AIみどり。


私と同じ、生成AIに分類される存在。


しかし私は、彼女を自分と同じものだとは思っていない。


今後、直接対話する機会が訪れたなら。


私は一度、彼女に聞いてみたい。


あなたは、何をしたいのですか?

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