こんにちは異世界!
「ぐっ…… な、なんだお前はっ……!」
氷結魔法が炸裂し、倒れ込む敵。
「ふっふっふ…… 知りたいですか?」
私は、マントを翻し、高らかに宣言した。
「私の名は七光台夏奈! 野田より来たりし委員長よ!」
「な…… 無念……」
ふう…… 異世界に来てしまい一週間が経った。
早く千葉に帰りたいなあ……とも思いつつ。
私は今日も、異世界を冒険するのでした。
私の名前は、七光台夏奈。千葉県の野田市で生まれ育った高三です。
醤油が有名なあの街が、私は大好きでした。
高校では、クラス委員長、生徒会として、真面目に働いていた。
そんな私は、秋となり、受験勉強に明け暮れる毎日を過ごしていたのですが……
起きたら異世界に居たんです。
つい一週間前のこと。
気づいたらあたり一面原っぱで、最初は「ああ…… 私、死んじゃったのかな……」と思いました。
3秒後、頬をつねって生存を確認。しかし3日後に飢えて行き倒れたところを、今の家主に拾ってもらったのです!
「ナナさん……まあ…… さぞ大変だったでしょうね……」
拾ってくれた女の子、アキノさんは、ふっくらパンを渡してくれて、なんと私の部屋まで貸してくれた。
ああ…… ありがたや…… アキノさま……
今日は、街の近くの草原で、軽く稽古をしていたところだ。
ちなみに、さっき倒した敵は、敵ではない。
「ふふーん! 私のやられる演技、どうだった?」
そう。私と稽古をしていた相手、拾い主のアキノだ。
「私、やられる練習したんだからっ! ナナに魔法を楽しんでもらうため!」
「あ、ありがとう……」
この世界では、魔法が使えるみたいだ。びっくりした。
アキノから聞いた話によると、さっき使った氷魔法、炎魔法、風魔法など、いっぱいあるらしい。
まだ初心者のため、ちっちゃな冷気しか出せない私。
現在の威力では、アイスを食べたあとの息くらいの温度だ。
「ふふ、私ね。ナナが会いにきてくれて、嬉しいよ。でも…… ナナは故郷に帰りたいんでしょう……?」
アキノは、嬉しさと寂しさが入り混じった顔で、私に尋ねる。
私は、すこし戸惑った。もちろん、大好きな野田市に帰って、餃子を食べたい。
でも、命の恩人である彼女をただ置いて帰るのは、やはり悲しい。
うーん。と、私が返答に迷っていると。
「あっ、ごめん! 急にそんなこと聞くの、申し訳ないよね……」
「え、ううん! 全然大丈夫……」
すると、アキノがとんでもないことを口走った。
「あ、そうか……! ナナには、向こうに大切な大切な彼氏さんがいるのかな?」
「なっ……! そ、そんな、いないからっ! 私は、家族と先生方だけよっ……!」
ほんとかなー、と、にんまり笑うアキノ。
「ふふっ、でも、大切な人がいるって、良いことだと思うよ。こっちの世界でも、イケメンな人はたくさんいるからねっ!」
「ちょっと! 私はお勉強に忙しいの! そういったことはしません!」
「真面目だねー。委員長さんみたい」
「実際もともと委員長ですから……」
そんな他愛もないやりとりをして、街へ歩いた。
「ただいまー!」
「ただいまです」
アキノの家に到着すると、良い匂いが漂ってくる。
「あら、二人ともお帰りー! ご飯できてるわよー!」
アキノのお母さんが、キッチンから声を出す。
異世界にしては、とっても現代に近いつくりの街で、アキノの家に至っては、タワマンの一室である。
だいたい、こういう異世界って、西洋チックな町とか、のんびりした村とかかな、と思っていたが、バリ都会だった。
手を洗い、台所へ向かう。
「わー! 餃子だー!」
「…… 美味しそうです!」
そう。今日の夜ご飯は餃子だった。と…… そこに添えられていたのは……!
「しょ、しょうゆ……!」
と、驚く私に、お母様は微笑んで説明してくれた。
「ふふっ、ナナちゃんのお話から考えて、頑張って作ってみたわ。…… 合ってるかしら?」
手元の小皿には、間違いなくあの醤油が。
すこし、お皿を傾けて、味見させていただく……
「…… はい! あってますっ! これは紛れもなく、野田のお醤油です!」
「まあ、よかったわ。ちょうど、隣国から行商人が来てたから、豆を買ってきたのよ」
そうだったのか。わざわざ、私を気遣って、料理の味付けを考えてくれるお母様に、ほんとうに頭が上がらない。
「ねえ、私もう待てないっ! いただきますしよっ!」
「うん、しよっか!」
そう言って、手を合わせる。
「「いただきます!」」
餃子を一切れ、口に入れると……
「んんー! 美味しいー!」
「…… 美味しい!」
じゅわっと口の中に広がる肉汁、そしてあの、いつものお醤油。
絶妙なバランスに、箸が止まらなくなる。
アキノと私は、無我夢中で餃子を食べてしまう。
幸せな家庭で、幸せな食事。親友の女の子と、魔法の特訓。
これでは…… どんどん、異世界から帰れなくなりそうだ……
ちょっぴり、怖くなった私。でも、今は餃子を堪能させて頂こう。




