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第11章:旅立ちの門

王都に朝日が昇り、石造りの城壁を黄金色に染め上げた。ついに、その時が来たのだ。

「今日がその日だ」レオンは旅用ザックのベルトを締め直しながら言った。

「エルフの国の女の子たちに会うのが待ちきれないぜ!」ユーリはゴーグルを調整しながら声を弾ませた。「あいつら、照れると耳がピクピク動くって噂だろ!」

「俺はただ、魔物のケツを蹴り上げてやりたいだけだ」エイドロンは馬車に背を預け、吐き捨てるように言った。

「わあ! まるで大きな遠足みたいですね!」エミリアが踵を弾ませて付け加える。

「おい、これは遠足じゃねえ」エイドロンが釘を刺す。「任務だ。少しは真面目にしやがれ」

ユーリは二人の顔を交互に見比べると、大袈裟にため息をついた。「おいおい、なんだよ。お前ら二人、もう自分たちの世界を作ってやがるのか? エイドロン、このガキめ! すでに女を囲いやがって。この部隊で孤独なのは俺だけかよ!」

「ただの連れだ」エイドロンが鋭く言い返す。

「ほう? つまり、俺にもまだチャンスがあるってことです……かね?」ユーリはエミリアに向かってニヤリと笑った。

レオンがその無駄口を断ち切った。「よし、そこまでだ。出発するぞ」

レオンの娘たちが最後にもう一度駆け寄り、彼の足にしがみついた。「お父様、寂しくなるわ!」

「すぐに戻るよ、いい子たちだ」レオンは膝をついて彼女たちを抱きしめ、約束した。「俺がいない間、お母さんを助けてあげるんだぞ」

「帰ってきたら、絶対一緒に遊んでね!」上の娘が言い、それからエイドロンの方を向いた。「……あんたのことも信じてるわ。寝坊助だけど。みんなを守ってあげてね、いい?」

「……ああ、守ってやるよ」エイドロンの口元に、微かな笑みが浮かんだ。

「この人、戦いの最中も寝てそうだけどね」下の娘がからかう。

「この小鼠め! こっちへ来い!」エイドロンが戯れに飛びかかると、彼女たちはキャッキャと声を上げて逃げ回った。

レオンの妻が歩み寄り、穏やかな瞳で彼を見つめた。「気をつけてね、レオン。無事で帰ってきて。あなたの好物のシチューを作って待っているから」

「待ちきれないな」レオンは彼女の額に口づけ、囁いた。

ユーリはその光景を憧れの眼差しで見つめていた。「いいなあ……俺もいつか、あんな家族が欲しいぜ」

「相棒、お前ならいつか見つかるさ」エイドロンがユーリの肩を叩く。

ギルドマスターのジュリアンが重々しい足取りで近づいてきた。彼はユーリを睨みつけたが、その表情には隠しきれない懸念が滲んでいた。「エルフの国でヘマをするなよ、ユーリ。あっちで死にやがったら、戻ってきた時に俺がぶち殺してやるからな!」

「はい、了解っす!」ユーリは半分笑い、半分震えながら叫んだ。

ジュリアンの表情が一瞬だけ和らいだ。「……最善を尽くせ。お前の母親も……きっとお前を誇りに思うはずだ。天国で見守っているだろうよ」

「はい、閣下! モチベーション上がりました!」ユーリが顔を輝かせた。「あんた、本当は俺のことを――」

――ドカッ! ジュリアンがユーリの肩に拳を叩き込んだ。「さっさと行け! 気が変わらぬうちにな!」

抱擁の重み

「待って! 待ってちょうだい!」

セラフィナが王族のローブをなびかせ、門を駆け抜けてきた。「もう行っちゃうの? エミリアがいなくなるなんて、すごく寂しいわ!」

「私もです!」エミリアも叫び、王女をきつく抱きしめた。

それから、セラフィナはエイドロンの方を向いた。彼は怒鳴り声か火球でも飛んでくるかと身構えたが――代わりに、彼女は歩み寄り、彼に腕を回して強く抱きしめた。

ユーリの顎が地面に落ちそうなほど外れた。ジュリアンは慌ててレオンの娘たちの目を覆った。レオンと妻は、ただ心得たような笑みを交わした。

エイドロンの身体が硬直した。一瞬、心臓が締め付けられるような感覚に陥る。脳裏に前世の記憶がフラッシュバックした。かつて愛したあの女も、裏切る直前に、これと同じように俺を抱きしめた。

(……全部、偽物だ)彼は苦々しく思った。(人間は皆、偽物だ。この感情も、何もかもが嘘だ。俺は孤独だ。俺は暗闇の中にいる。反吐が出る。こんなものは――)

「……気をつけてね、エイドロン」セラフィナが彼の胸元で囁いた。「あんた、本当はすごく優しいんだから。エミリアやみんなのことを……頼んだわよ」

彼女は身体を少し離すと、彼の白銀の髪を優しく撫でた。その瞳には、純粋な心配の色が浮かんでいた。

エイドロンの精神を覆っていた闇が、微かに揺らいだ。

(なぜだ……なぜ、毒気が抜かれるような感覚がする……)

まるで、世界の重みが突然取り除かれたかのような感覚だった。一瞬だけ、自分が怪物でも道具でもなく、一人の人間であるかのように感じられた。

「……ああ、気をつけるさ」エイドロンが静かに言った。「あんたもな」

セラフィナの顔が真っ赤に染まった。彼女は狼狽えながら後ずさった。

「この……この、ラッキーすぎるガキがぁ!」ユーリが絶叫した。「二人の女を手のひらで転がしてやがる! 卑怯だぞ!」

「彼女は友人だ、俺はその騎士だ! これはプロとしてのやり取りだろ!」エイドロンが弁明する。

「絶対何かある! レオンさん、こいつに何か言ってやってくださいよ!」ユーリが叫ぶ。

セラフィナはレオンの答えを待たなかった。彼女は火球を召喚し、ユーリに向けて放った。「黙りなさい!!」

「ぎゃああああ!」ユーリはマントを燻ぶらせながら、馬車の中へと逃げ込んだ。

「あれが我らのユーリだ」ジュリアンが笑った。「奴の魂に安らぎあれ」

遥かなる道路

馬車が動き出すと、ケンタが前に出て彼らを見送った。

「おい、ケンタ!」御者席のレオンが叫んだ。「俺がいない間、嫁さんに余計なお茶をねだるんじゃないぞ、聞こえてるか!」

「了解しました、レオン殿!」ケンタが笑い声を上げた。

「さよなら、エイドロン! さよなら、エミリア!」セラフィナは馬車が道の角に消えるまで手を振り続けた。「寂しくなるわよ!」

「バイバイ、エイドロンお兄ちゃん!」娘たちが叫んだ。「帰ってきたらまたお馬さんごっこしてね!」

「……あいつら、マジでいつかぶち殺してやる」エイドロンは木製の座席に背をもたせ、毒づいた。

旅は正式に始まった。太陽は熱く、王都の緩やかな緑の丘が、ゆっくりと背後へと遠ざかっていく。

「……随分と晴れてやがるな」エイドロンはため息をついた。「中にベッドがあれば最高だったんだがな」

「エルフが楽しみだなあ!」ユーリは焼けたマントのことなど既に忘れ、はしゃいでいた。「なあエディ……エミリアって、何が好きだと思う? 花かな? それとも宝石?」

「知るかよ。俺に聞くな」エイドロンが囁くように言った。

ユーリは矛先をエミリアに向けた。「ところで、エミリア。あんたの魔法の力って、正確には何なんだ? ただの『村人』にしては、ギルドでの動きは相当なもんだったけど」

エイドロンは聞き耳を立てた。(……ここだ。こいつが何を言うか、見極めてやる)

「私は回復魔法が得意なんです!」エミリアが明るく答えた。「あとは、自分のマナで物を作ることもできます。結界とか、盾とか……必要なら剣も」

(ヒーラーにシールダーか)エイドロンは考えた。(……悪くない。俺たちには守りが必要だ)

「はっはあ! なら、心配はいらねえですよ!」ユーリが胸を張った。「この俺の錬金術が、あなたを完璧に守って差し上げますから! 俺は錬金術の――」

彼は言葉を止めた。エミリアは聞いていなかった。彼女は朝の残りのケーキを幸せそうに口いっぱいに詰め込んでいたからだ。

「……地味に傷つきますね、それ」ユーリが弱々しく言った。

「やれやれ」エイドロンは目を閉じ、呻いた。「……この旅は、相当長く感じそうだな」

塔の上の毒鷲

王都では、セラフィナが馬車の巻き上げた砂埃が消えていくのを見つめていた。

「……すごく心配だわ、ケンタ」彼女が囁いた。

「序列二位の騎士に、天才錬金術師、そして……実に奇妙な少年がいます」ケンタが彼女を安心させるように言った。「彼らなら、大丈夫でしょう」

「早く帰ってきてくれるといいんだけど」

「彼らが留守の間、私にもやるべきことがあります」ケンタの声が真剣なものに変わった。「王……そして、あのミアという女の正体を突き止めねばなりません」

「私は何をすればいい?」セラフィナが尋ねた。

「あなたは王族です。安全な城の中に留まっていてください」

「冗談じゃないわ! そんなの退屈すぎる!」

ケンタがくすりと笑った。「ならば、レオン殿の奥方の元へ通い、料理の修行でもしていなさい。あのケーキの練習をね」

「名案ね! 彼らが戻ってきたら、とびっきりのケーキでお祝いしてあげるわ!」

ケンタの笑みが一瞬だけ曇った。「……ですが、セラフィナ様?」

「何?」

「まずは、私に一杯のお茶を淹れていただけませんか? ……嫌な予感がするので、心の準備が必要なのです」

彼らの遥か頭上、王宮の最も高いバルコニーに、ミアが影のように立っていた。彼女は魔法のレンズ越しに、遠ざかる豆粒のような馬車を見つめ、歪んだ笑みを浮かべていた。

「……この王国に帰ってくるのは、もぬけの殻となった馬車だけですわ」

ミアが風に向かって囁いた。

「皆様、死んでいただきます。生存の確率は、万に一つもございませんわ」

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