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ロリの日特別編。

 「相馬君、その視線は何ですか?」

「……いや」


 学校が終わって夕方。洗濯籠を抱えてリビングに入って来た陽菜を何となく見つめた。カレンダーを見ると十月十一日。何でも……。


「相馬君が物凄く失礼なことを考えている気がします」

「気のせいだ」


 高校三年の秋。この間まで随分と迷惑をかけてしまったからか、僕は陽菜にも乃安にも頭が上がらなかった。


「迷惑と言うのは私たちの間には無い概念だと思って良いかと」


 相変わらず。僕の思考は読まれているようだ。


「なので、その申しいわけ無さそうな態度は、いい加減改めていただき、残り時間を精一杯楽しみましょうよ」


 陽菜はふんわりと笑った。ソファーに座る僕の隣に腰掛け、そのまま身体を寄せてくる。仕事着であるメイド服のレースの部分が微かに擦れる。小さな身体を精一杯広げて、包み込んでくれる。


「そうしませんか? 相馬君」


 蜜を含んだ声が耳元で囁かれる。心が溶かされていくのを感じた。


「あれだけ職員室で熱烈な告白をしてくれたのですから。少し考えるのをやめて、恋人としての時間、楽しみましょうよ」

「……そう、だな。ロリの日なんて余計なこと、考えるのも勿体ないな」

「……相馬君?」

「ん? あっ」

「あちゃー」


 夕食の準備がある程度出てきたのか、キッチンから出てきた乃安が楽し気な声を上げる。これはあれだ、面白そうなことが起きるぞって時の乃安だ。

 というか僕たち、後輩の目の前でいちゃついていたのか。いや、陽菜なら大丈夫か。何が大丈夫か知らないけど。

 僕の横で陽菜は静かに震えている。……なんだ。


「私を見てそれを考える。そうですか……相馬君の中ではまだ、私の認識は幼女の類なのですか」

「えっ、あー。いや」


 心なしか頬を膨らませ、目がジトっとしたものになる。

 本当。表情が豊かになったなぁ。なんて、ぼんやりと思った。


「相馬君が生温い目で見てきます。さながら、小さな女の子を見るような……」

「陽菜、落ち着け」

「ふふっ。陽菜先輩は可愛らしいですがそのうちに秘めたるは……」

「変なフォローはいりません。うぅ、もう十八。何も成長しない歳になってしまいました」


 陽菜の目は乃安に向く。


「な、なんですか?」


 陽菜はゆらりと立ち上がると、乃安の方に歩いていく。自分に矛先が向くと思っていなかった乃安、仕事着のスカートを掴みプルプルと震えている、逃げるという判断すら麻痺してしまったようだ。


「世の中は、理不尽です。正さねば」

「な、何をするつもりですか」

「私はまだメイドですから」

「理屈が通ってません」

「いえいえ、ちょっと乃安さんに縮んでもらうか、背を分けてもらうかするだけですから」

「どっちにしても私縮んでますっ!」


 そんな二人の仲睦まじい光景をぼんやりと眺める。平和だな、本当に。


「まぁ、僕は、今の陽菜が好きだな」

「そうですか」


 乃安の服に何故か手をかけていた陽菜がスッと表情を消して俺の隣に座る。


「では、存分に愛でてください」

「ん」

「私も良いですか?」

「乃安さんはそこに座って私に愛でられていてください」


 そんな感じで。三人で並んで座ってぐだっとする。そんな夜だ。こんな平和な日々があと少しで終わるんだ。揺り籠から飛び立たなきゃ、いけないんだ。


「さっき言いましたよ、相馬君」

「ん?」

「今は、今を楽しんでくださいと」

「そう、だな」


 心を緩めて、僕は陽菜をゆっくりと抱きしめて。


「あっ、先輩、届きます?」

「うん」

「ふふっ」


 隣にいてくれる人を、大事にするんだ。一生のうちに、どれだけ会えるか、そんな人。その事実を、静かに抱きしめ、噛みしめる。



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