エピローグ[超天才は報われる]
「グレイー、ネアちゃんが迎えにきてくれたよー!」
「はーい!」
カーテンを開いた明るい部屋の中で、グレイ・バーンアウトは居候させてもらっている姉に返事して、祖父から譲り受けた白いコートに袖を通した。
コートは大きくてブカブカだ。
裾は床スレスレ。
半ばロングコートのようになっている。
腕まくりをしてボタンで留めているが、そうしないと指先さえ出てこない。
グレイの小柄な体には不釣り合いな代物だった。
念のため、机に置いてある小さな鏡で自分の姿をチェックする。
燃え盛る炎のような赤髪に、宝石じみた透明度を誇る碧眼。
瑞々しい白い肌は明かりが少なくとも光り輝いており、非の打ち所がない造形の顔は、以前よりも希望に満ちた表情を作っていた。
ふと、鏡の隣、木で出来た茶色い枠縁の写真立てに目が行く。
飾られているのはもちろん写真。
グレイほどではないが、彩度の高い立派な赤髪を長く伸ばし、うなじでまとめた細身の老人が陽気にピースサインしている。
額は生え際が後退してだいぶ広い。
眉は太く凛々しく、瞳は毛と同じ赤色。
その眼差しは優しげで、しかし鋭い。
これは、いわゆる遺影だ。
「おじいちゃん。あたしは普通の女の子にはなれないけど、普通の女の子と友達になることはできたよ」
グレイは近況を祖父に告げて、コートの襟から赤髪を取り出す。
腰まで伸ばしているのは祖父の真似だ。
教科書の入った鞄を背負う。
「グレイちゃーん!」
友達の呼び声がする。
「はいはい、今行くよー!」
それをなんら疑問に思わず、グレイ・バーンアウトは昨日ぶりの登校に臨むべく、部屋を出た。
完