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夢想の瑞希  作者: 木崎 しの
瑞希編
13/66

彩華

「あれか?その愛菜というのは」


「そうだ。あれが我が愛しの…愛菜」


「へー。お前あぁいうのが好みなのか。」


「あぁ…遠くから見てるだけでももう幸せだなぁ」


意外とビビりなのか遠く離れた場所から見ているだけだ。


「おい、どうしたよ、変態」


そんな事をしていると突然声をかけられた。そちらを向くと楽しそうでたまらないといった表情の恋夜


「いや、こいつがあの子に告白するらしくてな」


「へぇ。竜馬がねぇ。」


長髪を撫でつけながら笑っている恋夜。


「お、おかしいかよ」


「いいや。大いに結構。」


「つぅか告白じゃねぇし。何適当言ってんだよ瑞希。俺はただルームシェアしないかと声をかけにいくだけだ」


いや、それはおかしい。


「男が女にルームシェアしないかと声をかける時点で告白だと思うけど?好きでもない女とルームメイトになんぞならんだろ」


「違いねぇな。で、竜馬いつ男らしいとこ見せてくれるんだ?」


俺の言葉に恋夜も同意してくれたようだ。


「まぁ待てよ。心の準備というものがある」


「お前さっきからそれ言い続けてるが何時間待たせるつもりだ」


もうかれこれ30分ほど経過した気がする。


「う、うるせぇよ!見ろよ聞けよ感じろよ、雑魚ども!俺の流れるような口説き文句!さぁいくぜ?」


自信を付けるようにズカズカと歩いていった。俺も近付くべきか。どうするべきか。悩んだが大事な話だろうしここにいることにした。


「よく聞こえねぇな?お前聞こえるか?」


「いや聞こえない。それと恋夜がこんなことに興味あるなんてな。意外だ」


「暇つぶしだよ。面白そうだし。ほら」


恋夜が端末を見せてきた。そこには何やら会話する2人の姿が見える。ついでにイヤホンも放ってきた。


「奴の膝に超スーパーミラクルハイテク小型カメラを付けた」


「…」


「どうしたよ?」


「いや、何でもない。ただ準備が早いなと」


「まぁ、主人公だしよ?有能なのは当然だぜ?」


キラーンと効果音が付きそうなくらいきれいな白い歯を覗かせてビシッと左手の親指を立てて言う恋夜。初めてこいつが怖いと感じた

だがそう言いながらも貰ったイヤホンを耳に付ける


「でさーそこであいつは、それを口に放り込んだんだよ。その後咳き込んでな。それが面白いんだわ」


そんな声が聞こえてきた


「何の話してんだあいつ」


恋夜が首をかしげながら俺に訊ねてくる。


「俺が知りたい」


画面に目を戻す。


「そうなの?あの人もっと暗い人だと思ってたけど面白い人だね。」


聞きなれない明るい声が聞こえてきた。愛菜という娘の声だろうか


「そうだ。今度あいつも誘って遊びに行かないか?そっちも何人か呼んでよ」


「いいね。それ楽しそう。竜馬の友達とはお話してみたいし」


「よし、決まり。どこ行く?」


「んー、じゃあ遊園地とかどう?陳腐だけど」


「いーや、こういうのは陳腐でいいと思うぜ俺は」


「そうかな?」


「そういうもんたぜ。じゃあ明日でもいいか?幸い明日は珍しくあいつらも暇らしいから」


「うん。いいよ決まり。」


「おし、じゃあ楽しみにしてるぜ。」


そう言うとカメラが突然こちらを向いた。

現場を見ると竜馬が満面の笑みでこっちに向かっていたので俺はイヤホンをすぐに返す。恋夜は急いで端末を閉まっていた。


「よぉ。運命の告白の方はどうだったよ。」


いつもの調子で恋夜が訊ねた。


「まぁ待てよ。こんな所で運命の告白なんてものはだめだ。物事にはふさわしい場所ふさわしいタイミングってものが存在する。という訳で明日遊園地行くぞ2人とも。俺の恋に付き合ってくれ。」


どうでもいいがこいつ今告白だと認めたな。


「いいぜ。なぁ?瑞希?」


「あ、あぁ」


「流石俺の大親友達だな。見込んだだけはあるぜ」


「あぁ、もっと褒めろ。俺は主人公だぞ。主人公はチヤホヤされなければならん。そしてもっと敬え。そして敬語を使え。」


「恋夜はすごいです!イケメンです!我が神よ!」


「ふふ、それでよい。お前も褒めることを許すぞ瑞希。俺を褒めたくて褒めたくて仕方ないといった顔をしているな」


主人公っていうかただの偉そうな王様だろこれじゃ。


「そうだ。俺はこんなことしてる暇じゃなかった。明日のために愛菜と計画を練らんと。じゃあな2人とも。明日は頼むぜ」


二人して遠ざかる竜馬の背を見ていた。

その後唐突に恋夜は口を開く。


「そうだ。瑞希、久しぶりにやらねぇか?お前が攻めでいいからよ」


「いいよ。」


「じゃ、いつもんとこいくか」




「甘いねぇ!甘いねぇ!本気出せよ!もっと俺を熱くさせろ!」


恋夜の声が轟く。それは2人しかいないこの部屋で反響する。


「じゃ、体も温もったし本番行くか。」


俺も宣言する。枷の解除を。

身体の中の異能の力を更に流れやすくする。身体の隅々まで行き渡れと。そう願う。そう考える。それは向こうも同じだ。


「はっ!」


棒立ちする恋夜の顔に右手で殴り掛かる。風よりも早く


「効かねぇよ」


止められるのは分かっていた。フェイクだ。次は左足を狙った回し蹴り


「知ってたぜ」


それも止められる。だがまだ手はある。

左手で握った銃。それを躊躇なく引く


「そんなもんで俺を止められると思ってんのか?!」


顔面に当たった弾丸は砂のように砕けた


「だが、数があればどうかな?」


この攻防の間に周りに展開していた百を超える銃器から一斉に魔弾を放つ。


「ちっ」


恋夜が急いで飛び下がる。


「カンがいいな」


「まぁ、お前とここまでやり合えば見えてくるものもあるってわけだ」


「だが、残念それも罠だ」


「は?」


訝しる恋夜を他所に俺は最後の式を展開させる。それは罪人を縛り付ける檻。


「終わりだ」


上下から一気に展開し幽閉する。





「これで何戦目だったか。全て俺の勝ち」


「まぁ待てよトレーニングだからな俺もいつも通りの調子を出せないんだよ。俺の火力は本気出してナンボだからな。お前ですら木っ端微塵だぜ?」


倒れていた恋夜に手を貸してやる。


「それは怖いな」


おどけてみせる。


「ムカつくねぇその面」


「ま、最強の名は伊達じゃないってことで」


「確かにな、遺伝子分析の結果見たらお前の親、たしかあの戦争を終わらせた英雄なんだろ?文字通り格が違うって訳だな。それにくらい付ける俺もなかなか主人公って訳よ」


「…」


「どうしたよ」


「いや…俺って何なんだろうなって」


自分がよく分からなくなる。俺は誰で…こいつは誰なのか。たまに感じるその漠然とした不安がとても恐ろしい。記憶が無いことがさらにそれを促進させる。加速させる。俺は誰なのだろう。


「は?お前はお前だろ。俺のダチさ。光栄に思えよ」


「そ、そうか」


だからこそ、その言葉が凄く嬉しかった。

俺はただの東條瑞希。こいつの、恋夜の一人の友人に過ぎない人間だ。

















「おっはーみんなー」


「朝からテンション高ぇなお前」


威勢のいい挨拶をする裕平にそう返す恋夜。


「おう、よろしくな裕平」


「うっす、よろしくぅー」


竜馬もいつとと変わらない態度だ。緊張とかしてるもんだと思ったがしないんだな


「瑞希ちゃんもよ、ろ、し、く、ね」


「あぁ、そうだな」


今日はいい遊び日和だな。快晴。心まで晴れ渡る気分だ。




遅いなぁ

そんなことを考えていると声が聞こえてきた。彼女達だろう。


「お待たせー。竜馬、待ったー?」


彼女達は約1時間遅刻していた。


「待ってないぞ」


そう答える竜馬だが、本当は一時間近く待ってたんだがな俺達。というより自然に考えるとこれは俺達が1時間早く来ていたということだろう。口が寂しい。飴玉をポケットから取り出す。


「うん、待ってないな」


そう答える恋夜の足元に転がっているコーヒーの空き缶にはタバコの吸殻がこれでもかというくらい詰め込まれていた。これを見れば待っていたことなど火を見るより明らかだが、誰も反応しない。竜馬たちの発言の意図を理解しているのだろう。頼むぞ裕平


「えー?僕達、いち…ムゴ!!」


言いかけた裕平の口を手で抑えながら飴玉を押し込む。全くこいつは、しかも飴は俺が舐めようとしていた物だ。


「そうだなぁ!裕平、ごめんいちごの飴あげるの忘れてたわ!」


「いちご?」


愛菜に聞かれる


「この男がいちご依存症でね。こうして一定時間毎にいちごを食べさせないといちごが食べたいと喚き出すんだ」


「難しい症状があるのねぇ」


無理があったかと思ったが追求はしてこなかった。


「じゃあ、自己紹介しましょうか、先ずは私たちから」


そうして自己紹介は1通り終わった


「じゃあどうやって回る?8人で回る?」


「2人ずつに分かれようぜ。2時間ごとに組み合わせを変えるってことで」


竜馬の提案だ。これは深夜無い頭で必死に考えてきたらしい。そして彼と愛菜の組み合わせは最後になるよう、それから暗くなり始め、最後に観覧車で告白するらしい。俺達には愛菜ちゃんと組んだ時ナチュラルに俺を上げてくれと頼まれていた。裕平に言葉が通じているかは疑問だが、まぁ流石に大丈夫だろう。



お互い綺麗に分かれ散らばっていく。


「よっろしくぅ〜私は彩華」


「あぁ。こちらこそ。俺は瑞希。呼び方はなんでもいいよ。」


俺の開幕の相手は彩華という女の子らしい。

黒髪を肩で揃えたまだ幼さが抜けきらない赤い目の少女。その赤い目は宝石のようで綺麗だった。


「うん瑞希君ね。何行こっか?」


聞かれても何も答えられない。別に乗りたいものなど無いし。


「俺はなんでもいいよ。君の好きなものにしてくれ」


「優しいねぇ瑞希君」


俺は時間が過ぎれば何でもいいからな


「じゃ、あれは?」


「いいよ。…」


見る前から返事をしたのが失敗だったか。その示されたものはお化け屋敷と書かれていた。


「瑞希君怖いのぉ?」


くすくす笑いながら聞いてくる


「そ、そんな訳ないでしょ」


「そんな訳ありそうだねぇ」


ジトーと笑を絶やさずのぞき込んでくる


「…ほら、行こうか」


「あ、待ってよ」



「ほ、ほらね、怖くないだろ?」


「声震えてるよ〜?」


大丈夫だ怖くない、そう言い聞かせながら進む。


「きゃっ!」


角から何か現れたようだ。


「ごめん、やっぱり怖い。瑞希君前行って…」


「いいよ。」


優越感を感じる。圧倒的な優越感だ。情けなさも感じるが。


「きゃーーー」


その後も俺のビビり具合より彼女の方が怖がっていた。




「あー怖ったねぇ」


その声を聴いていると感想はシンプルなものの方が伝わりやすい気がする。


「あのロッカーから出てくるやつとか怖かったな…」


同意しておこう。それにしても俺を怖がらせるなどやるではないか遊園地の分際で。


「あれ、私も怖かったよ〜」


俺といても笑顔を絶やさない彼女。健気だなそう思う。俺といてもつまらないだろう。それに今日初めて会ったのだ。


「何見てるの〜?何か付いてる?」


「いや、何も」


つい、その笑顔を見ていてしまったらしい


「次あれ乗らない?」


「いいよ」



そうして時間は過ぎていった。


「そろそろ組み合わせ変更だね。今日は楽しかったよ瑞希君」


「いや、こちらこそ楽しかったよ。ありがとう」


「一緒に写真撮ってくれない?」


「いいよ」


「じゃあそこ座ろっか」


指さされたベンチに2人で並んで腰掛ける。

カシャっとシャッター音が聞こえた。


「ありがとう」


そう言った彼女の目から一筋の涙が零れていた。


「ごめん。何かした?」


咄嗟に謝る。何もしていないと思うが。


「違う。ごめんなさい。瑞希君は悪くないよ。いや悪いけどね」


要領を得ないその返し。


「瑞希君といるとお兄ちゃんを思い出しちゃって」


「…」


彼女もこう見えていてあの組織の駒だ。代償を支払わされたのだろう。きっとそれが兄なのだ。


「ごめんね。急に泣いちゃって」


「いや、泣きたければ泣けばいいよ。」


「そうやって甘えさせてくれるところもお兄ちゃんみたい。ごめんね初めて会って話したのに。また、会ってくれるかな?」


どうすればいいのかだろうか。俺は彼女の兄の代わりにはなれない。だが心休まる場所も必要か。


「時間が合う時ならいいよ」


「ありがとう」


どう答えるのが正解だったのか俺には分からない。でも目の前の女の子が喜ぶんならそれが正解じゃないのか。そう思った




「あぁ、疲れたねぇ」


ベンチに腰掛ける俺と恋夜


「主人公でも疲れるんだな」


「当たり前だろ主人公も万能じゃねぇんだよ」


そう言うと今度は膝と膝の間を見つめるように顔を下げる、俯く。


「…あとは妹の真那への罪悪感か。俺はあいつも救えず、何ひとりで遊んでるんだろうなって。こんな時だけでも忘れたいといくら願っても消えない。俺もう耐えらんねぇよ。自分を抑えられねぇよ…」


肩をワナワナと震わせ語る恋夜を見ているとこちらまでとても悲しくなる。だが


「焦るな。まだその時じゃない」


「んなもん分かってるよ。俺に力があればな。誰にも負けないそんな力が」


「…関係ないが、お前分数の計算の仕方って分かるか?」


話題を変えよう。暗くなるだけだ。数瞬考えるような間が開くがやがて口を開く


「いや、知らないな。俺は勉強オタクじゃねぇぞ。」


「やっぱりか…」


「なんかあったのか?」


首を縦に振る。


「俺も竜馬もばかでチンプンカンプンだから、教えてほしくてな。」


今度は恋夜が俺の顔をじっと見つめてきた。せっかく話題を変えたのに無駄になりそうなそんな気がする。


「俺ら仲間だよな?」


「突然何だ。昨日お前は俺をダチと言ったばかりじゃないか」


そんなことか。


「いや、俺も確認してみたくなっただけだ。」


それきり沈黙が流れる。なんと言うか軽く口を開けないそんな空気だ。




「ってな訳でよ。あいつは頷いてくれたわ」


「へぇ」


俺の部屋に再び集まって適当に相槌を打ちながら竜馬の話を聞いていた。


「なら結果的に良かったって訳か。よかったじゃん」


恋夜がいつもの軽い調子で答える。


「そういえば恋夜は女とかいないのか?」


竜馬がふとそんな話題を振る。


「いねぇな」


「欲しいとか思わないのか?」


「思わないな。馬鹿はあいつだけで十分なんだよ。」


「あいつって?」


「言ってなかったか。真那だよ。」


「妹さんか。」


「あぁ、面会に行けばニコニコ笑顔で出迎えやがる…あいつを救うまでは女はいらない。俺だけそんなもんにうつつは抜かせない。」


「前から思ってたがいい兄貴だなお前は」


「何処がだよ。あいつを贄に俺は生きているようなもんだぞ…気色悪い。二度と言うなそんなこと」


「悪い。」


「…いや悪かったな。俺もカリカリしてたわ。忘れてくれ」


「はいはい。注目〜カリカリしないでね〜」


悪くなりかけた空気を流す様に俺はデバイスを二人に見せる。


「これは?」


「気持ち悪いな」


竜馬は単純にそれについての疑問、恋夜は感想を吐いた。


「瑠璃に頼んでおいたものから出た結果だ」


「あの女絡みか…信用出来るのかそれは」


恋夜が吐き捨てるように言う。何か彼女と過去にあったのだろうか。

それにしても、二人ならもしかしたら何か、分かるかもと思ってた聞いたのだがやはり知らないらしい。


「そもそも、何なのかが全くわからんから現時点で信用できるもくそもねぇな」


「んなもん見せた意味あるのか瑞希ちゃん」


「俺には分からないだけで2人には分かるかもしれないだろ?」


2人は揃って首を横に振った。


「そう…か」


何も進まない。瑠璃に頼んだところでファイルはやはりただの画像だったらしい。そもそもこの画像に意味があるのかどうか。ないのかもしれない


「辞めだ辞め。考えても埒が明かねぇよ。俺は帰る」


「そうだな。俺も色々あるしお暇するわ瑞希」


「あ、あぁ。じゃあな恋夜、竜馬。」


2人は部屋から出ていった。

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