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30話 咲き誇る英雄。


 30話 咲き誇る英雄。


 ――光が、はじけた。


 四方から振り下ろされた刃《やいば》が、センとミシャに届く、その寸前。

 二人を囲むように、十本の光の柱が、夜の闇を突き破って立ち上がった。


 迫っていた刃が、光に弾かれる。

 最前列のデカール兵たちが、まとめて後ろへ吹き飛ばされた。


「な、なんだ……!?」

「ひ、光が……!」


 デカール兵たちが、思わず足を止める。


 光の中から、人影が、歩み出てきた。


 十人。


 着ているものも、手にしている得物《えもの》も、ばらばらだった。

 だが、全員が、この世界のどんな戦士とも違う空気をまとっていた。


 静かすぎる。

 20万の敵を前にして、誰一人、息ひとつ乱していない。


(……マジで、来た……日本の歴史における……ヒーローの中のヒーローたち……)


 センは、ごくりとつばを飲んだ。


 英傑《えいけつ》たちが、同時に、指で印《いん》を結ぶ。



「「「「「「「「「「影分身ランク10」」」」」」」」」」



 一人が、十人に。

 十人が、百人に。


 並び立つのは、

 一騎当千《いっきとうせん》を超える怪物、

 ……合計100人!!


 次の瞬間、百の英傑が、四方八方へと散った。



 ★



 最初に動いたのは、二本の刀を下げた男だった。


 宮本武蔵《みやもとむさし》。


 敵の群れへ、ゆらりと歩み入る。

 走ってすらいない。

 それなのに、武蔵が一歩進むたびに、周囲のデカール兵が、まとめて崩れ落ちていく。


「い、いつ斬られた……!?」

「見えねぇ! 刀が見えねぇえ!」


 二本の刃が、いつ振るわれたのか、センの目でも、まったく追えなかった。


 その隣で、巨大な槍が、風を切った。


 本多忠勝《ほんだただかつ》。


 穂先《ほさき》にとまったトンボが、真っ二つになったという名槍・蜻蛉切《とんぼぎり》。

 それが、横一文字《よこいちもんじ》になぎ払われる。

 騎兵が、馬ごと、十騎まとめて吹き飛んだ。


「な、なんだ、この化け物どもはぁあ!」

「矢を! 魔法を撃てぇえ!」


 矢と魔法の雨が、一斉に放たれる。

 その前に、一人の大男が、仁王立ちになった。


 武蔵坊弁慶《むさしぼうべんけい》。


 矢が、炎が、雷が、全身に突き刺さる。

 それでも、弁慶は、一歩も退《ひ》かない。


「う、うそだろ……なんで倒れねぇ……!」


 弁慶は、なぎなたを大きく振りかぶり、

 一振りで、射手《いて》の列をまるごとなぎ倒した。


 その向こうでは、見上げるほどの巨体が、重装兵の列に突っ込んでいた。


 雷電為右衛門《らいでんためえもん》。


 張り手が、一発。

 大盾を構えた重装兵が、盾ごと、後ろの十人を巻き込んで吹っ飛んでいく。


「盾が……盾ごと持っていかれる……!」


 そして、気づけば、戦場のあちこちで、影が揺れていた。


 服部半蔵《はっとりはんぞう》。


 闇から闇へと渡り歩き、将軍の背後に音もなく現れては、首をかき切って、また闇へ消える。


「モ、モーブ将軍がやられた!」

「どこだ! どこから来た!?」


 残る五人も、止まらない。


 小次郎《こじろう》の長刀《ちょうとう》が、ツバメのように宙を返る。

 幸村《ゆきむら》の十文字槍《じゅうもんじやり》が、敵陣を真っ二つに割る。

 慶次《けいじ》が、笑いながら、将軍を馬ごと叩き斬る。

 義経《よしつね》が、兵の頭から頭へと跳び渡り、指揮官だけを次々と仕留めていく。

 十兵衛《じゅうべえ》の刃が、闇の中で一瞬だけ光るたびに、誰かが倒れる。


 しかも、それが、百人分。


「なんで、そんな長い剣を自在にぐぉおお!」

「十文字槍に気をつけろ!! 千人の陣形を、一人で真っ二つに割りやがった!」

「あの無駄に派手な野郎、鼻歌まじりで将軍を斬ってやがる!」

「上だ! あの小柄なやつ、兵の頭を足場にして跳んでくる! 速すぎ――ぐぁああ!」

「片目だと侮《あなど》るな! すさまじい剣ぎぁぁああ!!」


「分身の一体一体が、将軍クラス……いや、それ以上……それが、100……」

「か、勝てるわけねぇ……なんだよ、この悪夢はぁあ!!」


 20万の軍勢が、みるみる溶けていく。


 15万。

 10万。

 5万。


 雑兵《ぞうひょう》は、瞬きする間に。

 将軍クラスですら、ほんの数合《すうごう》も持たずに、ばたばたと倒れていく。


(強ぇ……強すぎる……これが、日本の英雄……いや、さすがにスキルで強化されてんだろ……こんな連中が、かつての日本にガチでいたってのは……さすがにありえねぇだろ……ありえないよね?)


 センの隣で、ミシャが、呆然《ぼうぜん》と、その光景を見つめていた。


「……なんなんだ……これは……ここ最近、ずっと……なんなんだ……」


 東の空に、月がのぼり始めていた。

 その青白い光の中で、英傑たちの刃だけが、白く、鋭く、閃《ひらめ》き続けている。

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