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17話 降伏勧告。


 17話 降伏勧告。


 デカールから『特使が来る』と知らせが届いて、2日と経たないうちに、ゼイとロスはセファイラに到着した。


 セファイラ城、謁見の間。


 本来ならミシャが座るべき上座には、椅子が二脚置かれ、そこに、デカールの二人の皇子が腰を下ろしていた。

 ゼイは、背もたれに深く体を預け、足を組んでいる。

 その隣で、ロスは、背筋を伸ばしたまま、座っていた。


 ミシャも、宰相も、重臣たちも、全員が立ったまま、二人の前に並んでいる。

 センは、ミシャの隣に立っていた。


(……勝ったのはこっちなのに、完全に、占領軍と敗戦国の構図だな……)


 特使が連れてきた護衛は、たった三人。

 皇子二人を守るには、あまりに少ない。

 だが、センは、部屋に入ってきた瞬間から、その三人から目が離せなかった。


 立っているだけで、空気が重い。

 ルットと向き合った時の比ではない。


(あの三人、めちゃくちゃ強いな。雰囲気だけでもやばさが伝わる。……さすが、デカール。人材が豊富でいらっしゃる)


 そして、その三人以上に、ゼイ自身から、底の知れない圧が漂っていた。


 護衛の三人は、いずれもレベル120以上。

 ゼイは、レベル200を超えている。


 ゼイは、にやにやと笑いながら、ミシャたちを順に眺めていく。

 値踏みするような目つきだった。


 一方、ロスは、セファイラの面々を、殺意のこもった目でにらみつけている。

 その視線が、センのところで、ぴたりと止まった。


(こわい目だねぇ……ま、自分の左腕を斬り飛ばした人間のことは忘れないだろうな……)


 センは、目を合わせないように、そっと視線を床に落とした。


 ゼイは、


「――というわけだ」


 勧告の内容を告げ終えると、椅子の上でふんぞり返った。


「陛下のご恩情に感謝せよ。本来であれば、帝国全軍をもって、この地を草一本残らぬ焦土に変えていたところ……だが陛下は、弟を退けたその手腕を買われた。帝国の剣として使ってやろう、との仰せだ」


 そこで、ゼイは、隣に座るロスの頭に、大きな手をのせた。

 わしわしと、髪をかき回す。


「こいつも、そこそこはやるのだがな。よく勝てたものだ」


「兄上! ……ぉ、お戯れはそこまでに。ここは、帝国の使節としての場です」


「ふははは!」


 ゼイは、豪快に笑ってから、ミシャたちのほうへ向き直る。


「いまだに反抗期が抜けん弟でな。まあ、そこがまた可愛いのだが」


 ロスの顔が、みるみる赤く染まっていく。

 敵国の人間の前で、子供扱いされているのだ。

 どれほどの屈辱か、想像にかたくない。

 だが、ゼイのほうは、それを本当に理解していないようだった。


 センは、渋い顔で、その様子を見ながら、


(……こんなアニキがいたら、ダルすぎるな。……ロスに、ちょっとだけ同情してやらんこともない)


 そこで、ミシャが、一歩前に出て、静かに口を開いた。


「ご恩情、痛み入ります。……ですが、先に申し上げておかねばならないことがございます。今、我が国がお出しできる兵は、1000が限界です。先の戦で、3000のうち2000を失いました。残った者も、みな傷を負っております」


「1000か……少ないな」


 ゼイは、あごをなでながら、目を細めた。


「だが、弟の報告では、その全員が分身と投擲《とうてき》の魔法を操るそうだな。まことか?」


 そこで、にやりと笑って、


「それとも、弟が、失態を取り繕うために話を盛ったか?」


 ロスの奥歯が、ぎり、と鳴った。

 センのところまで聞こえるほどの音だった。


「……事実でございます」


 ミシャが答えると、ゼイは、感心したように眉を上げた。


「大したものだ。分身など、私でも使えん。帝国の魔導兵団でも、使えるのは100人に1人いるかどうか。なあ、ロス」


「……はい」


 感情のない返事を受け流して、ゼイは続ける。


「1000が、それぞれ2、3体に分かれるとして……ざっと2500か。それが皆、遠くから魔法を撃てるとなれば……まあ、前線の穴埋めくらいにはなるな。いや、使い方次第では、本当に大きな戦力にもなりうる」


 ゼイは、うんうんと、満足げにうなずいた。


「ところで」


 ゼイが、身を乗り出した。


「鉄の龍とやらは、何だ? 弟の腕を吹き飛ばしたそうだが」


「その節は、まことに――」


 頭を下げかけたミシャを、ゼイは、ひらひらと手を振って止めた。


「よいよい。その件も込みでの勧告だ。こいつは出来はいいが、すぐに図に乗る。いい薬になっただろうよ」


 そう言って、ゼイは、ロスの肩を、ばんと叩いた。


「なあ、ロス。いっそ、礼でも言ったらどうだ? 腕を吹き飛ばしていただき、ありがとうございました、とな」


「……兄上。本題に戻りましょう」


 ロスが、低くつぶやいた。

 その目には、もう、怒りを通り越した、どす黒いものが宿っている。


(こわいねぇ……あれは兄貴を見る目じゃない。大量にわいたウジを見る目だ……こわいねぇ)


 だが、ゼイは、弟のその目に、まるで気づいていなかった。



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