第四十八話「これがあたしの夢♪」(ブルー最終話)
第四十八話 「これがあたしの夢♪」
(主人公 ブルー最終話)
バラレンジャー解散から10年――
パチ…パチ…
薪が爆ぜる音。
グツグツグツ…!
湯が沸き立つ音。
コポコポ……コト……
静かにコーヒーが落ちていく。
みどりの一日は、いつもこの音から始まる。
みどり「ふーっ……ふーっ……(ゴクッ)……ん~~っ!おいしい~~♪ はぁ~……毎日こんなゆっくりコーヒータイムできるなんて、幸せ~~」
アンシィ「こいついつも幸せ感じてんな」
みどり「だって幸せなんだもん♪」
呆れたような視線にも、みどりは満面の笑みを返す。
みどり「……毎日のコーヒーがおいしい…みたいな小さな幸せの積み重ねが、あたしにとって理想の幸せだったんだよね~」
アンシィ「…ほ~ん」
みどり「穏やかな感じでいいでしょ♪」
コクリ、とコーヒーを飲みながら窓の外へ目を向ける。
山々に囲まれた庭。
静かな風景――
アンシィ「……穏やか、ねぇ……」
バサバサッ!!
不意に、何かが羽ばたく音が響く。
「チッチッチッ…!」
みどり「おや?また侵入者かな?」
ズァアアッ……
闇のローブを纏い、みどりは玄関の扉を開く。
外へ出ると、庭先では一人の男が地面に押さえつけられていた。
みどり「チーちゃん、また人間捕まえてきたの?」
「ひぃいいいいっ!!助けてくれぇええ!!!」
「…………………」
七枚の翼を持つ烏天狗は、何も言わずみどりを見つめる。
みどり「君~、注意書き読まなかったの~? “侵入者の生命及び安全は保証されません”って書いてあったよね~?」
「ぼぼぼ僕はただ、魔女の噂を確かめたかっただけなんですぅうう!!助けてくださいーー!!
みどり「…困るんだよね~ あんたみたいな輩が増えるの……どうしよっかな~~」
「おおおお願いします!殺さないで……!!!」
みどり「う~ん……」
と、みどりが考えていると…
「ナァア~~~!」
みどり「あ、ナーちゃんも来たね」
二本の尻尾をゆらゆら揺らしながら、巨大な猫又が近づいてくる。
「ひぃいいいいいい!!!!!」
みどり「あっ、そうだ! ナーちゃん、これ食べる?」
「えっ……!?」
“これ”と、指をさされる男
「ナァア~~♪」
嬉しそうに喉を鳴らし、みどりへ擦り寄る猫又。
「うわぁあああああああああ!!!!!嫌だぁあああああああ!!!死にたくないぃいいい!!!!」
暴れる男へ、闇に覆われた顔をゆっくり近づけるみどり。
…パチン!
指を鳴らした瞬間――
男の服と所持品が、一瞬で剥ぎ取られた。
「………えぇ……??」
みどり「カメラとか、服も没収ね。 …はいどーぞ♪」
「ンナァ~~」
ぽいっと放られた電子機器を、猫又はそのまま噛み砕く。
バリッ…!ガキッ…!……ボシュゥウウ……!!
邪炎が服を燃やし尽くし、灰すら残さず飲み込んでいく。
みどり「チーちゃん、離してあげていいよ」
「……………」
烏天狗が静かに脚を退ける。
「…は……あぁぁ……………」
男は震えながら立ち上がった。
みどり「ほら…さっさとどっか行きな。次、あたしの視界に入ったら、その度に手足のどれかをこの子達に食べさせるから」
「ひぃいいいいいい!!!!」
男は泣き叫びながら、山を転がるように逃げていった
みどり「はぁ~あ……何年経ってもあんなのばっかりで嫌になっちゃうよ~」
アンシィ「…今のやり取りのど~こが“穏やか”だったんですかねぇ……」
みどり「……まぁ、たまにはこんな日もあるよ!」
アンシィ「えぇ……」
みどり「ありがとねっ、ふたりとも!また、見張りよろしくね!」
ボウッ――
みどりは闇のエネルギーを餌代わりに生み出し、猫又の顎と烏天狗の嘴を優しく撫でる。
「ニャ~」
「………………」
満足そうに猫又は森の奥へ消えていき、烏天狗も庭を荒らさぬよう少し離れた場所から空へ飛び去った。
みどり「……さてと。今日は少し庭仕事して……ツーリングにでも行こっかな~」
ジョウロに水を汲み、鼻歌交じりに花壇へ水を撒いていく。
みどり「~~~♪……おっ、ハーブも色々育ってきたな~……コーヒー豆とブレンドしたらおもしろいかな……?」
少し考える。
頭に浮かんだのは――
大釜に草を放り込み、怪しげな煙を立てる“魔女”の姿。
みどり「ふふっ……魔女か……それもいいかも……♪」
アンシィ「バイクに乗って剣振り回すファンキーな魔女なんていないと思うんですけど」
みどり「あははっ!なら、唯一無二でいいじゃん!妖怪の使い魔もいるし…そんな魔女、世界にあたしだけじゃない?」
アンシィ「どうなりたいんですかね……」
みどり「楽しければなんでもいーの♪……あっ!」
ふと見上げると、アーチには青い薔薇が満開に咲いていた
みどり「…ふふっ…綺麗に咲いてる…♪」
*
ブルルルゥウウウウ!!!ブゥンブゥン!!!
トンネルを抜けると、夕陽に染まった海が、視界いっぱいに広がった。
みどり「はぁ~~っ!一仕事終えた後に感じるこの風…やっぱたまんないね!」
アンシィ「おっ、そうだな(適当)」
毎度、同じようなことを言うのでアンシィには流される
みどり「…………………」
水平線の彼方まで続く空と海に、みどりはしばらく目を奪われていた。
アンシィ「…んで?今日はどこまで行くんや?」
みどり「んー?そうだなぁ………風の吹くまま、気の向くまま…かなっ♪」
アンシィ「結局いつも通りやんけ……」
みどり「目的地なんて決めなきゃ、いくらでも寄り道ができるからね~ たとえば…ほら!」
クイッと顎を動かすと、砂浜に人影が見えた
アンシィ「……黄昏てるな」
みどり「面白いことの予感がするでしょ♪」
*
黄昏の少女「はぁー…………」
みどり「ど~したの?こんな所に一人で。何か悩みごと?」
少女「え!?あ…はい……まぁ…ちょっと……」
みどり「学生?海を見ながら悩みごとなんて青春してるね~。何の悩み?あっ、もしかして恋の悩みかな?」
少女「……あの………何か御用ですか……?」
みどり「そんな警戒しないでよ~ あたしはたまたま通りがかっただけ…。今日はこれを渡せる人を見つけるまでバイクで走ろうと思ってたの♪」
ボウッ!と、闇のオーラから出てきたのは一凛の花
少女「わぁっ!…綺麗……」
みどり「うちの庭で育ててる青い薔薇。…よかったらあげる♪」
少女「…いいんですか…?」
みどり「うん!」
少女「…ありがとうございます………」
少女は青い薔薇を、赤い海へそっと重ねた
みどり「……悩みは晴れそう?」
少女「…!………いえ…………」
少女は視線を落とす
みどり「……隣、座っていい?」
少女「あ…はい…」
少女の隣にそっと腰を下ろす
みどり「…………これも何かの縁だしさ…話せることなら話してみない? 案外、すっきりするかもよ?」
少女「……………実は…………今……進路に悩んでいて………」
みどり「うんうん……」
少女「………………わたし…歌うのが好きで……歌を仕事にするのが夢だったんですけど……やっぱり音楽の世界って厳しいみたいで………」
みどり「うん……」
少女「わたしなんかじゃ…やっていけないかもって………それだったら、普通の大学に行って、普通に就職した方がいいのかなって………悩んでて…………」
みどり「ふ~ん……なるほどねぇ………」
ザザァ…………ザザァ………………
穏やかな波音だけが、二人の間を流れていく。
みどり「……夢を追い続けることが正しいとは限らない……」
少女「え……」
みどり「……あたしは失敗したことがあるから、よく分かるの。…夢ばかり追ってると、何もかも投げ出したくなるほど苦しくなっちゃうかも………」
少女「…………………」
みどり「そんな時、どうしたらいいと思う?」
少女「…え…!?………わかりません………」
みどり「…心に聞くんだよ♪」
少女「…!」
トントンと自分の胸を指先で叩く。
みどり「夢を追うって、楽しいからさ……やりたいのなら、やってみたらいいよ。…でも、心を削ってまで追うようになったらそれはもう呪いと同じ……だから…君は、楽しい夢を追えばいいんだよ♪」
その真っすぐな眼差しが、少女の瞳に映る。
少女「……………」
みどり「じゃ、あたしはそろそろ行くね……」
立ち上がり、パンパンと砂を払う
少女「……………………」
みどり「…………」
少女はまだ、水平線を見つめたままだった。
みどり「……ねぇ…今のあたし、不幸に見える?」
少女「え…?」
穏やかに笑ってみせるみどり
少女「…思いません……」
みどり「…なら、わかるでしょ?…もし…今の夢が叶わなくても、大丈夫。夢ってさ…何度でも見れるから♪」
少女「…!」
みどり「……でも…叶うといいね♪」
パチン!
指を鳴らすと青い薔薇からエネルギーが溢れ出した
少女「うわっ!?」
少し驚き、薔薇を見つめる少女
少女「…………………」
背中を力強く押すように流れ込んだ闇。
その力は触感と違い、とても温かく感じた…
少女「…………………あのっ!…ってあれ!?」
振り向くが、そこにみどりの姿は無い
ブルゥンッ!!ブゥゥウウウウウウン………
遠くで微かにエンジン音が響き、それもすぐに波の音と混ざり、消えていく。
少女「……………なんだったんだろうあの人……………」
ぽつりと呟き、手元の青い薔薇へ視線を落とす。
少女「………幻覚……じゃ…ないもんね…………」
すぅー…と、薔薇の香りをかぐ。
少女「………うん…………頑張って…みようかな…………」
*
それから数か月――
少女「…………ふぅ……今日から学校かぁ…緊張するなぁ……ホントにわたし、やっていけるのかな……」
「きっと大丈夫だよ♪」
少女「!!!」
バッ――!
勢いよく振り返る。
そこにはただ、開いた窓から吹き込む風が、カーテンを揺らしているだけだった。
少女「…………気のせいかな………」
窓の外には、いつもと変わらない青い空と水平線。
少女「………っ!!」
視線を戻すと、机の上に一輪の薔薇が置かれていた
少女(……これ…あの時の………)
少女は青い薔薇をそっと手に取り、ゆっくりと息を吸い込んだ。
少女「……ありがとう……わたし…夢、叶えるよ…!」
*
少し離れた物陰。
そこから、二人は少女の姿を静かに見守っていた。
アンシィ「…なんであの子にそこまでするんや?」
みどり「さぁ~なんででしょ~?」
アンシィ「…ほんまに気まぐれなやっちゃな」
みどり「アンシィだって最初はそうだったでしょ」
アンシィ「……せやな……」
見透かしたような笑み
みどり「ん~! じゃー天気もいいし、久しぶりに朱祢ちゃんのクレープでも食べにいこっか!」
みどりは空を見上げ、大きく伸びをした。
アンシィ「あ~いいっすね~」
みどり「テキトーに走るから、道案内よろしくね♪」
アンシィ「かしこまり!」
みどり「♪」
ヘルメットを被り、エンジンを始動する
ブゥン!!
みどり「んじゃ、しゅっぱ~つ♪」
アンシィ「エンジン全開!」
ズギャァアアア!!!キュルキュルキュル!!
ブゥウウウウン……!!
颯爽と走り去るみどり
その姿は、どこまでも続く空と海の“青”に溶け込んでいく……
アンシィ「ミュージック!」
みどり「スタート♪」
ブルーローズの物語 エンディング




