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第二十二話「…久しぶりに、ドキドキしたんだけどっ」(ホワイト1)

第二十二話 「…久しぶりに、ドキドキしたんだけどっ」

(主人公 ホワイト1)


ミーンミンミンミンミーー…


みどり「あっづいよぉ…」

雪「そうですね……」

ことみ「うぅ…こんな時に金一くんがいてくれれば…」


事務所の中では扇風機が虚しく回り続けていた。

みどりはソファに寝転がり、うちわで自分を扇いでいる。


アンシィ「汗だくの女の子エッッッ!!!!」

ことみ「…はぁ…怒る気にもなれないわ…」

みどり「黄慈さんは暑くないのー?」


黄慈は読んでいた本から視線を外し、答えた。


黄慈「…そりゃあ…動いてないからね。暑がるほどではないかな」

雪「すごいですね…能力を使ってるわけじゃないですよね…?」

黄慈「もちろん。ぼくの重力を操る力じゃぁ、暑さをどうこうできないからね。…若い子より代謝が悪いだけだよ」


自嘲気味に笑う


みどり「…あたしも別に動いてるわけじゃないのにな~…はぁ……こんな暑さじゃ、アイスを買いに行く気にもなれないよぉ…」


みどりは今度は机に突っ伏し、少しでも冷たい場所を探すように頬を押しつけた。


アンシィ「…あっそうだ(唐突)、じゃあオレっちが良いことを教えてやろうか?」

みどり「いいこと…?」

アンシィ「汗だくな女の子も良いけど、やっぱり女の子は笑顔じゃなくちゃな!…みどりちゃん、闇のオーラを自分に集めてみるシィ!」

みどり「え?こう?」


みどりが手元にオーラを集中させる


アンシィ「どうだよ?」

みどり「んー?…え!?ひんやりしてる!!」

アンシィ「おっ冷えてるか~? その力は基本、冷たいんだシィ!」

みどり「へ~、そうだったんだ……じゃっ、ことみんにもあげる♪」

ことみ「うわぁあああ!」


顔だけを出したまま、闇のオーラに包まれることみ。


ことみ「……あ!ほんとに冷たい」

みどり「雪ちゃんにも♪…というか、事務所ごと涼しくしちゃえっ!」


ズァアア…!!

事務所全体が闇のオーラに包まれる。

日光も遮られ、クーラーのない室内の温度が一気に下がった。


雪「うわぁ!一気に涼しくなりましたね!」

みどり「うん!快適、快適♪」

ことみ「こんなに涼しくなるなら、もっと早くやってくれればよかったのに…」

みどり「そーだよね。…アンシィ?何で早く教えなかったのかなぁ??」

アンシィ「ふざけんな!(声だけ迫真)夏に汗だくの女の子を楽しまずにどうするのだ…!これが俺の唯一の楽しm――」


ボコォ!

みどりが拳を叩き込み、そのまま窓の外へ放り投げた。

ぽいっ!


みどり「ったく。この変態悪魔が!外で頭冷やしなさい!」

アンシィ「アツゥイ!これじゃ冷やすどころか炭になっちゃう!!ねぇ助けて、入れて!」


灼熱のコンクリートの上でジタバタと足踏みをするアンシィ


雪「アンシィさん…大丈夫なんですか…?」

みどり「いいっていいって。アイツ、すぐに調子乗るから…たまにはお灸を据えないとね」

ことみ「…アンシィはいいとして…これじゃあ、外からの見栄えが悪くなっちゃうわね…また変な噂とか立たないかしら…?」

みどり「あはっ!桃華ちゃんのロボットがある時点で今更でしょ」

ことみ「あれはー…!…ヒーローの新兵器って感じでいいじゃない……でもこれは…ヒーローと真逆の見た目じゃない…!」

みどり「…そんなこと言っても背に腹は代えられないでしょー」

ことみ「う~ん…でもずっとコレってわけじゃ……かと言ってエアコンを買うお金も無いし……何か涼しくなれる方法はないかしら……」

雪「う~ん………」

黄慈「…なら、清涼感のある場所に行ってみるのはどうかな?」

ことみ「と、言いますと?」

黄慈「川や海に遊びに行くとか、滝を見に行くとか…」

雪「わぁっ…!それいいですね!想像しただけで涼しくなります!」

みどり「それなら、避暑地で有名な場所に行くのもありだね! 藍ちゃんなら、そういうとこに別荘の一つや二つ持ってそうじゃない?」

ことみ「たしかに!…はぁ~…優雅に過ごしてる姿が目に浮かぶわ……私もいつかそんな生活してみたいわ…」

雪「…藍さんにお願いしたら…招待してくださいますかね…?」

ことみ「……頼み方次第じゃないかしら……雪ちゃんが頼めば、連れてってくれそうだけどね」

雪「そ、そうですか…?」

ことみ「……でも…結局、私はここに残らないとなのよね~」

みどり「えーなんで?一緒に行けばいいじゃん。藍ちゃんの別荘で女子会でも開こうよ~!」

ことみ「怪獣が出現した時の事務処理は私しかできないから…」

黄慈「…ことみさん、なんだかんだでほとんどここに入り浸っているじゃないか。…たまには息抜きも必要だと思うよ?」

みどり「そーだよ!一日、二日くらい空けたって平気でしょ!」

ことみ「…そうかもしれないけど…色々と不安なのよね…」

黄慈「そんなに男子組が頼りないかい?」

ことみ「いえっ!そういうわけでは……」

みどり「じゃー休めばいいのに…」

ことみ「私にしか対応できないこととか…その…色々仕事があるのよ…!…他の人に頼むにしても、教えるのに時間がかかるし…何よりヒーローとして戦ってもらってるだけで充分なのに、事務仕事なんて押し付けられないわ…!」

雪「……前から思っていたんですが…他に事務員の人って雇ったりしないんですか?」

ことみ「…雪ちゃん…うちはエアコンも付けられないほど貧乏なのよ?」

雪「あっ……」

ことみ「……とは言え、最近は収入が安定してきてるのよね。…エアコンは、どうせあと一月くらいしか使わないだろうし、金一くんがいない時だけ耐えればいいんだから後回しでいいとして……」


少し考え込み、ことみは続けた。


ことみ「……新しい事務員は欲しいかも…」

黄慈「うん、それがいいと思うよ。仕事量も増えてるみたいだし」

ことみ「そうなんですよ~……じゃあ早速、募集のポスターでも作ろうかな」

みどり「…でも今から募集するんじゃ、間に合わないでしょ~?」

ことみ「…そうねぇ……」

黄慈「んー……なら、せめて日帰りでリフレッシュできるような場所があれば……」


そう考えていると――

ピーッ!ピーッ!

通報のアラートが鳴り響いた。


ことみ「隣町で複数の怪獣が暴れてるみたい!すぐに応援に行ってあげて!」

雪「わたし、行きますっ!」

黄慈「じゃあぼくも一緒に行こう」

雪「ありがとうございますっ!」

みどり「じゃーあたしは留守番だね~ いってらっしゃ~い」



*



ドォンッ!!!

轟音と共に、怪獣の体が弾け飛ぶ。

雪の爆破能力による一撃だ。

しかし、その凄まじい衝撃波は周囲へ広がることなく、空間の途中でぴたりと止まる。

黄慈が重力操作で衝撃を相殺していた。

数体いた怪獣は、あっという間に沈黙する。


*


雪「いつもバリアを張ってくださり、ありがとうございますっ!」

黄慈「これくらいなんでもないよ。それにしても、雪さんの破壊力は頼りになるね」

雪「いえっ、これくらい…全然ですよ~」

黄慈「ははは…もし雪さんが全力を出したら守り切れる自信が無いくらいには、すごい威力だよ」


*


黄慈の運転する車で、二人は帰路につく


雪「…そういえばさっきの話ですけど…」

黄慈「うん?さっきの話って…」

雪「涼しい場所に行こうって話です。…わたし達はまだいいですけど…ことみさんはずっと仕事しっぱなしで…少しでもリフレッシュしてほしいです……」

黄慈「うーん、確かに……でもあの口ぶり…あまり事務所を空けたくない理由がありそうだったね。」

雪「…なら、長めの休憩ということで少しの間お出かけするのはどうですかね?」

黄慈「うん。ぼくもそれがいいと思うな。…そうだな…この辺りは泳げる海も、綺麗な川も無いし……」


少し考えてから、ふっと笑う。


黄慈「水族館とか、どうかな?」

雪「わぁっ!水族館、いいですねっ!」

黄慈「でも、誘い方には気を遣わないとね。下手な理由じゃ、来てくれなさそうだから」

雪「…あ……では…どうやって誘いましょう……?」

黄慈「ふふ…それなら、ぼくにいい考えがあるんだ……」



*


事務所に戻るとガラスの向こうに見覚えのある人物がいた


金一「あっ!二人とも、お疲れ様!」

雪「お、おつかれさまですっ!」

黄慈「おや?今日は休みじゃなかったかい?」

みどり「実はさ~、二人が出動してる間にも、もう一件通報が入っちゃって~。仕方なくあたしが行ったんだけど、その魔物が炎をまき散らすタイプでさ…。

あたしの能力で消火しようと思ってたんだけど、やっぱり少し温度が冷えるだけでどうにもならなくて…」

金一「そこで、ちょうど買い物してた僕に会ったってわけなんです」

ことみ「金一くんがいてくれて本当に助かったわ~」

黄慈「さすが冷気使いの能力者だね」

雪「…あっ、だから戻ってきたら、闇の力が無くなってたんですね!」

金一「そ!…最初見た時は魔王城かと思ったよ~」


ははっと笑う金一


ことみ「その能力、本当に助かるわ……やっぱりうちには金一くんがいないとね!」

金一「え~なんですか、そんなに褒めて~…帰りづらくなっちゃうじゃないですか~」

みどり「ずっとこのままいようよ~ どうせ暇なんでしょー?」

金一「そんなことないよ!…これから帰って、夕食の支度とお弁当用のおかずの仕込みをしないとなんだから…」

ことみ「すごいわ~…この前、紫雲くんとも話したけど、金一くんみたいに料理上手な人がいてくれたらなぁ……」

金一「よかったら今度、おかず持ってきてあげるよ!」

ことみ「えぇっ!そんな…悪いわよ…」

金一「いいのいいの!気にしないで!作りすぎた時に持ってくるだけだし、誰かに料理作るのも好きなんだ! そうだ!その証拠に……」


金一は机に置かれたクーラーボックスを開ける


金一「雪ちゃんも黄慈さんも、お一ついかがですか?」

雪「わっ!アイスクリームですか?」

金一「そう!初めてだからシンプルなバニラアイスだけど、手作りなんだ! 感想、聞かせてよ!」

雪「ありがとうございますっ、いただきますっ!」

黄慈「ありがとう、いただくよ」


カップに入ったアイスをパクリと食べる


雪「ん~!美味しいですっ!」

黄慈「これは……品のある味だね。甘いけど、優しい甘さだ…。市販品では味わえない良さがあるよ」

金一「本当ですか!?いや~喜んでもらえて良かったです…!作ってきた甲斐があったな~」

みどり「金ちゃん、おかわり無いの~?」

金一「これは他の人たちのだからダメ! 冷凍庫入れておくけど食べちゃダメだからね~?」

みどり「ちぇ~」

金一「その代わり、また別の味で作ってきてあげるから」

みどり「ほんと!?やった~、たのしみ~♪」

雪「…金一さん、これだけ美味しいアイスクリームを作る秘訣ってなんなんですか?」

金一「あっ、聞いてくれる?実はね…」


と、三人が話している隙に、黄慈はそっとことみの傍へ近づいた。


黄慈「ことみさん…雪さんのことで、気になる噂を耳にしたんだけど…」

ことみ「! それって…ブラウンくんとのことですか?」

黄慈「そう。そこで…それを知ってしまった以上、少しでもくっつくように協力してあげたいんだ」

ことみ「いいですね!私も協力しますよ~!…それで…何をするつもりなんです?」


途端にノリノリになることみ。


黄慈「………夏だし、デートの定番といえば水族館だろう?ああいう場所なら、ぐっと距離も縮まると思うんだ」

ことみ「最高~!…でも…どうやって誘います?」

黄慈「そこで、少し協力してもらいたいんだ。…さっき、ことみさんにリフレッシュしてほしいって話、してたでしょう?」

ことみ「えぇ…」

黄慈「特に雪ちゃんが心配してる…。だから、皆で“ことみさんを楽しませよう”という体で水族館に連れ出すんだ。」

ことみ「なるほど!…ブラウンくんは……まぁシフトを調節すれば来てくれるか……」

黄慈「運転はぼくがするからさ……どうかな?」

ことみ「途中であの二人を、別行動にさせたら……めちゃくちゃ面白い展開になるかもですね…!」


ニマニマと笑うコトミ


黄慈「じゃあ決まりだね!」

ことみ「はい!シフトを調整して日程決めておきますね!」

黄慈「うん」

金一「黄慈さん!ことちゃん!」

ことみ・黄慈「ん?」

みどり「二人はアイスの味だったら何が好き~?」


ソファ越しに話しかけてくる


みどり「雪ちゃんはバナナ味なんだって~」

雪「そうなんです…なかなか見掛けないんですけど…あれば絶対買っちゃいます…!」

金一「僕はやっぱりバニラですね~…というか、バニラ一択です!うちの牧場の牛乳とどう違うのかも気になっちゃいますし!」

ことみ「う~ん、わたしはけっこうなんでも好きだけど……でも、夏に食べるのならやっぱり柑橘系ね!オレンジが一番好きかな!」

金一「オレンジか~ いいね!…次は、果物を混ぜてみるのもいいかも……」

雪「黄慈さんは、何味がお好きですかっ?」

黄慈「そうだね……チェーン店のものじゃなくてもいいかい?」

雪「はいっ!」

黄慈「そうなるとあそこのラズベリーアイスが美味しかったなぁ…」

ことみ「へぇ!珍しいですね!」

黄慈「そうなんだよ…あれは旅行先で……」



と、そこからは氷菓の味の好みについて語り合った。

後日、他のメンバーにも聞いてみたけれど、見事なまでに好みはバラバラだった。

なんでこんな連中が仲良くやれているのか、不思議なくらいに。

でも――

そこが、きっと面白いんだな…



*


そして――

いよいよ水族館へ行く日がやってきた。


雪「到着しましたね!」

ことみ「ここの水族館、前から気にはなってたのよね~。来る機会がなかったから、来られてよかったわ」


車から降り、三人はチケット売り場へ向かう。

その時


黄慈「みんな、実はチケットもう用意してあるんだ」

ことみ「えっ!」

黄慈「ここはぼくが払うからさ。今日はみんな、思いきり楽しんでよ」

雪「そんな…運転もしてもらったのに…」

ブラウン「ありがとうございます」

黄慈「気にしないでよ。…さぁ、早速入ろう!」

ことみ「スマートですね……では、お言葉に甘えて……さぁ!色々見て周るわよ~」



最初は四人で館内を回っていた。

だが――ことみと黄慈は、時折目で合図を送りながら、さりげなく歩くタイミングをずらしていく。

そしてついに二組のペアを分断することに成功したのであった!



*



雪「この魚、かわいいですねっ!」

ブラウン「…うん」

雪「あっ!おっきいお魚ですねっ…!」

ブラウン「あぁ…」


巨大水槽の前。

楽しそうに魚を指さす雪と、その指先を目で追うブラウン。

その様子を少し離れた場所から、二人は見守っていた。


ことみ「…いい雰囲気ですね…!」

黄慈「うん……連れてきて正解だったね」


しばらく二人を眺めていた黄慈が、ぽつりと呟く。


黄慈「………懐かしいな………」

ことみ「えっ?何か言いました?」

黄慈「! いや……なんでもない……さ、行こうか」


黄慈は軽く笑い、次のコーナーへとことみを促した。

その時だった。

薄暗い館内。

足元には、小さな段差があった。


ことみ「きゃっ!!」

黄慈「危ない!」


転びそうになることみの体を、黄慈がとっさに抱き寄せる。

腕がお腹に回り、体をしっかり支えた。


ことみ「あ、ありがとうございます…」

黄慈「ふぅ…よかった…」

雪「だ、大丈夫ですかっ!?」

ことみ「えぇ、ちょっと段差に気づかなくって…」

ブラウン「疲れてるのか?」

ことみ「う…確かに…疲れもあるかも……」

黄慈「…じゃあそろそろショーも始まるし、座ろうか。せっかくリフレッシュで来てるのに、歩きっぱなしじゃ本末転倒でしょ」

雪「ショーがあるんですか?」

黄慈「あぁ。そろそろイルカショーの時間なんだ。人気のショーだから、早めに行った方がいいと思うな」

雪「…!そうなんですねっ!では行きましょっ!」

黄慈「あっ、ちょっと待って!」

雪「?」

黄慈「ブラウンくん、ここは段差があって危ないから雪ちゃんをエスコートしてあげて」

ブラウン「え…」

雪「えっ!そ、そんな…恥ずかしいですよ…」

ことみ「でも、転んだら怪我しちゃうわ…ほら、手を出して」

ブラウン「エスコートって…どうやったらいいんだ……」

黄慈「じゃあ、真似してみてよ……ほら…」


黄慈は、ことみの方へ手を差し出す。


黄慈「ことみさん…足元に気を付けて…」

ことみ「あっ…」


黄慈は下から手を添えるようにして、ことみの手を軽く引いた。

そして、ゆっくりと階段を降りていく。


黄慈「こんな感じでさ」

ブラウン「……………」


ブラウンは少し戸惑いながら、手を差し出した。


雪「あ……じゃ…じゃあ……」


雪はその手を取り、二人で階段を降りていく。


黄慈「ふふっ…あの様子じゃ、くっつくのも時間の問題かな……」

ことみ「そ、そうですね…」

黄慈「ん?どうかした?」

ことみ「い、いえっ!少しビックリしただけです!」(助けてくれたあとに…あれはズルいんじゃないかな~……?)


ことみの耳はほんのり赤く染まっていた



*



早めに会場に着いたこともあり、4人、横並びで座ることができた。


雪「楽しみですねっ!」

ことみ「そうね!」

ブラウン「……なるほど…ずっと聞こえてた鳴き声はイルカのだったのか……」

黄慈「ん?鳴き声が聞こえるのかい?」

ブラウン「? 聞こえないのか?…ですか?」

黄慈「うん。鳴き声なんてしないけど……」

ことみ「どの音のことを言ってるのかしら?」

ブラウン「その……イルカが発してる……ぽわぽわした………」

黄慈「…もしかして…ブラウンくんの能力で聴覚が人よりも優れているんじゃないかな?」

ブラウン「どういうことです?」

黄慈「ブラウンくんの能力は風に乗せられた音まで感じ取ることができるんじゃないかな。つまり、イルカが発している超音波まで感じ取れているんじゃないかってことだよ」

雪「イルカの鳴き声って…キューキュー言ってる声じゃないんですか?」

黄慈「あれは噴気孔から音を出しているだけなんだ。実はイルカがコミュニケーションに使っている超音波は人間の耳では聞き取れないほど高音なんだよ」

雪「へー…そうなんですね~」

ことみ「…黄慈さんって博識ですよね…」

黄慈「はは…これでも元教員だからね…本で読んだことがあるだけだよ。…きっとブラウンくんは、その超音波の方を“鳴き声”として聞いていたんじゃないかな?」

ブラウン「そうかもしれない……そうか…これは…オレにしか聞こえてないのか……」

雪「すごい能力ですねっ!」

ブラウン「……………」

ことみ「あっ、そろそろ始まるみたいよ!」


そんな会話をしていると、イルカショーが始まった。

眩しい日差しを受け、キラキラと輝くプールの中を、イルカたちは気持ちよさそうに泳いでいる。

ボールを使ってトレーナーとキャッチボールをしたり、背中にトレーナーを乗せて泳いだり。

そして最後には、水しぶきを大きく上げながら高くジャンプし、ショーは幕を閉じた。

客席から歓声が上がり、会場は自然と笑顔に包まれていく。


ことみ「すごかったわね!こんなにレベルが高いとは思ってなかったわ!」

雪「そうですねっ!可愛かったし、すごかったです!」

黄慈「この90分後には、アザラシショーがあるみたいだけど…どうする?」

ことみ「え…で、でも………」

雪「まだ、見てない水槽もありますし…せっかく来たんですから、一緒に見ませんか……?」

ブラウン「…ペンギンも見てないな…」

ことみ「う、う~~~ん………」

黄慈「アザラシショーも、見ごたえがあると思うよ?」

ことみ「…っ~~分かりました!ここまできたらもう仕事のことは忘れるわ!せっかくだ来たんだもの!全制覇するわよ~!」

雪「…! はい!そうしましょう!」

黄慈「おっ、調子が出て来たね」



ということで、館内の魚たちをゆっくり眺めながら回り、アザラシショーまで見て帰ることになった。

アザラシショーでは、愛嬌たっぷりのアザラシたちが次々と芸を披露する。

ボールを器用に操ったり、観客に向かって手を振ったりする姿に、会場からは何度も笑い声が起こった。

その光景は、見ている人の心をゆっくりとほぐしてくれるようだった――。



*


帰りの車内


雪「ことみさん、寝ちゃいましたか…?」

黄慈「うん、ぐっすり。…なんだかんだで一番はしゃいでたもんね」

雪「はい……いい息抜きになったでしょうか…?」

黄慈「この深い眠りがその証拠だよ。…二人とも、付き合ってくれてありがとう」

雪「いえっ、こちらこそ!連れてきてくださってありがとうございます!」

黄慈「…きっと二人と一緒じゃなかったら、ことみさんもここまで気を抜けなかったと思うから…」

ブラウン「……なら良かった……」


それからしばらく、静かな車内が続いた。

流れるクラシック音楽が、車内に心地よい安心感を満たしている。



*


雪をアパートの前で降ろし、続いてブラウンのマンションの前へと車を止める。


ブラウン「ありがとうございました……ことみさんは……」


ブラウンはそう言いながら、ちらりと助手席を見る。

ことみは、まだ静かな寝息を立てていた。

ブラウンの部屋は、ことみの部屋の隣だ。


黄慈「…ことみさん」


トントンと肩を軽く叩いて起こす


ことみ「ん……?あぁ…ごめんなさい、寝ちゃってて……」

黄慈「全然大丈夫だよ。リラックスできたみたいでよかった……ところで…今マンションの前にいるけど、どうする?」


窓の外では、ブラウンも様子をうかがっている。


ことみ「あっ、私は事務所に送ってくれませんか?やらなきゃいけない仕事があるし、車も事務所に停めてて…」

黄慈「あぁ、分かったよ。…じゃあブラウンくんとはここで」

ブラウン「はい……今日は……楽しかった……」

ことみ「…!」

黄慈「そっか…!よかった…」


ブゥウウン…!

ブラウンの見送る姿を背に、車はゆっくりと走り去っていった。


*


ことみ「…今日は…ありがとうございました。…色々と気を遣わせちゃいましたし…」

黄慈「そんなことないよ…ぼくの方こそ、礼を言いたいくらいだ。こんな機会が無いと若い子と遊ぶことなんてないからね。…おかげで昔を思い出すことができたよ……」

ことみ「昔…?」

黄慈「あぁ……それに…いいものも見れたしね…!」

ことみ「…! あー…雪ちゃんとブラウンくん、イイ感じでしたもんね…!」

黄慈「ははっ…あの様子じゃ、お節介を焼かなくてもよかったかもね」

ことみ「そうですか?…まぁ…あそこまでは行ったかもしれないですけど、その後が……。二人とも奥手そうだから……何かもう一押しがあれば……」

黄慈「…もうどちらかが告白しちゃえばいいのにね」

ことみ「ほんと、それです…!」

黄慈「……でも……付き合う前のあの感じが、結構楽しかったりするんだよね」

ことみ「あー!それも分かります~!ドラマとか見てても、そうですもんね~」

黄慈「…ははは……」


少しの沈黙


ことみ「…………黄慈さんって…絶対モテますよね?」

黄慈「えっ…急になんだい?」

ことみ「だって……今日のエスコートしてくれる感じとか…スマートでしたし…博識で、余裕のある大人って感じで……そう!イケおじじゃないですか!」

黄慈「そうかなぁ…?」

ことみ「今でも全然モテそうですけど…若い時もかなりモテてたんじゃないですか~?」


いたずらな笑みを浮かべてたずねるコトミ


黄慈「…そうだなぁ……確かに…モテてた時はあったなぁ……」

ことみ「ほら~!やっぱり!……でも…ご結婚はされてないんですよね?…付き合ってる人がいたりするんですか?」

黄慈「…いないよ…」

ことみ「え~!もったいないですよ~!」

黄慈「…!」

ことみ「黄慈さんだったら、絶対いい人見つかりますって!」

黄慈「う~ん……でも…今はそういう気分にはなれなくてね…」

ことみ「そうなんですか…?………理由を聞いても……?」


恐る恐る尋ねるコトミ


黄慈「……まぁ……色々あってね…」


ははっと苦笑いし、はぐらかす黄慈


ことみ「そうですか………」


気まずい空気が車内に流れる



*


ブルルル……

車は事務所の隣に停まった。

ことみがドアを開け、車を降りる。


ことみ「今日は、ありがとうございました。おかげでリフレッシュできました!」

黄慈「それは何よりだ。…いつもお仕事、お疲れ様。また、こういう機会があったらお出かけしようよ。…いくらでも車は出すからさ」

ことみ「えぇ、ぜひ!」


満面の笑みを浮かべることみ。

それを見て、黄慈も静かに微笑む。


黄慈「…じゃあ、ぼくはこれで。…お先に失礼するよ」

ことみ「はい、おやすみなさい!」


軽く手を振ることみ。

車はゆっくりと走り出した。


ことみ(………黄慈さん…カッコいいのに、どうしてお相手が見つからないんだろう………)


車が見えなくなると、ことみは、はぁ…とため息をついた


ことみ(…なんだか、聞ける雰囲気じゃなかったし…………それが聞けなかった時点で、私には脈は無いのかな~……)


静かな夜空。

ことみはもう一度、ふぅと一息をつく。

そして、少し照れたように笑って――


ことみ「…あ~あ……ちょっと残念………久しぶりに、ドキドキしたんだけどっ」


ガラガラ…

そう言い残し、事務所へと戻っていく。


その乙女のつぶやきは、夜風に乗り――

そっと消えていったのであった……


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