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06:トド山



こうして彼は旅に出た、導き手と希望と一緒に。

平和を背にして、運命という舞台に彼は自ら飛び込んでいった。

だが運命が回り始めるにはまだまだ歯車が足りない。

全ての歯車がかみ合った時、君は一体どんな顔をするだろうね! 

僕はそれが楽しみでならない





(とある道化師の手記より)



****************************************


プルンの聖域で僕達は出会った。

ギィって何者? どうして首だけなのに生きていられるんだろう?

女神像に面影がちょっと似ているギィ。女神像が創られる前は、そこに天使像があったという。

ギィは天使様なのかもしれない。きっと僕達を神様の元に導いてくれるんだ。

でも……もし天使様だったら、何故首だけになったのだろう? 罰……? 

まさか……天使様が罰を受けるなんて、そんな事あるんだろうか……?




(セシルの日記より)



*****************************************


 トド山の麓でランディ達はキャンプをしていた。焚き火を囲んで明日の山越えに備えている。パチパチと火が爆ぜるのを、ランディは膝を抱えてじっと見つめていた。きっとセシルの事を考えているのだろう、そう思ったギィは何も言わずランディをそっとしておいた。


 しばらくすると、プルン達が興奮してプルプルしだした。どうしたというのだろう。


「セシル セシル セシル!」


 プルリンが叫ぶと、ランディは顔を上げ立ち上がった。目を凝らしてみると、夕闇の中に走ってくるセシルの姿があった。


「はぁはぁ……やっと追い付いた……」


 だいぶ急ぎ足で来たのか、セシルは膝に手をついて肩で息をしている。額に浮かぶ汗を拭き終えると、呆然としているランディににこっと微笑みかけた。


「バ、バカヤロー! 何しに来たんだ!」


 ランディは驚いてつい怒鳴ってしまい、ギィを大変がっかりさせた。


「感動の再会シーンを期待したのに……ぶち壊しですね……」


「うるさいぞギィ! セシル、何があったんだ?」


 セシルは一気にランディ達に話した。セシルの声が途中でか細くなった箇所があったが、二人は黙って聞いてくれた。

 セシルが話し終えると、辺はもう真っ暗になっていた。


「そうか、そんな事があったのか……カートさんは本当の父親じゃなかったっていうのか……俺と同じだ」


「え? 同じってどういう事?」


 思いもしなかった事をランディが言ったので、セシルはキョトンとしてしまった。それを見てランディは少し寂しげに笑うと、鞄から手紙を取り出した。


「俺の家は山の中にあってな。三ヶ月前、モンスターに親父は殺されたんだ」


「お父さんが……それは……辛かったね……」


 大切な人と死別する苦しみを、母ケイトで知っているセシルはきゅっと下唇を噛んだ。


「遺品を整理してたら、俺宛に手紙が出てきてな」


 そう言ってランディは手紙をセシルに渡した。


「読んでいいの?」


「あぁ、ギィにも聞かせてやってくれ」


 何度も何度も読んだのだろう、手紙は少しヨレヨレとしていた。


「【ランディ、お前がこれを読んでいるという事は、俺は死んだんだな。

後のことは頼んだぜ。仲間の皆を山から離れさせてやってくれ。

モンスター共は日に日に手に負えねぇぐらい凶暴になってきている。

お前ももうさっさと山を出るんだ。そして南の大陸にある、アイオ村に行け。

お前は俺の本当の娘じゃねぇ。本当の父親はキースという。

何でもアイオ村に行ったらしいが、お前とお前の】

……このあとどうなってるの?」


「さぁな、それで終わりなんだ。まさか親父もこんなに早く死ぬとは思ってなかったんだろうな……」


 手紙をたたみ、ランディに返す。悲しい空気が2人を包んだ。


「山で暮らしていたんですね。ランディさんは狩人ですか?」


「うっ……ま、まぁ、そんなもんだ」


 ギィの質問にランディは顔を引きつらせる。何か言いたくない事情があるようだ。


「皆さんは山から離れたのですか? 危険な山のようですが……」


「いや……皆行くあてがないからな、残ってるよ。俺はキースの事が知りたくて、仲間の一人に頼れる奴がいたからソイツに任せて一人旅に出たんだ」


「そっか……キースは……お父さんは見つからなかったんだね?」


 セシルの言葉に、ランディは前髪をかきあげた。


「あぁ、アイオ村にいると思ってたのに、いなかった。もう手がかりはなしだ……いや、こいつがあったな」


 ランディは首にかけていたペンダントを外した。


「形見のペンダントってのが流行りだったのか? だっせぇよな……」


 それはセシルと同じ銀製のもので、ハート型だった。


「僕のは三日月で、ランディはハートかぁ……あれ? ランディのペンダントにも字が彫ってあるよ」


 ハートのペンダントには【I】と掘られていた。


「おふくろのイニシャルかな? まぁいいや、今日はもう寝ようぜ。色々あってセシルも疲れただろう。明日は山越えだ、体を休めときな」


 大きく背伸びをすると、ランディは鞄からブランケットを取り出し、丸くなって寝転がった。


「山を超えるとカンダ村ですね。エミリーさんの事がわかるといいですね」


 そう言うとギィは目をつぶって話さなくなった。

 セシルも鞄からブランケットを取り出し、地面に寝転がった。始めての野宿でなかなか眠れそうにない。暖かいベッドが恋しかった。


(みんなの探しものが、見つかるといいなぁ)


 自分はエミリー、ランディはキース、ギィは失われた体と記憶、プルリン達は安住の地。

 いろんな事を考えていると、セシルはいつしか眠りについていた。




 翌朝、小鳥のさえずりで目を覚ました。

 寝ぼけ眼で起き上がると、ぼーとした顔で座っているランディと目があう。


「おはよう、ランディ」


「おう、おはよう……あんま見ないでくれ」


 少し恥ずかしそうにランディは顔をブランケットで隠した。ランディにも寝起き顔を見られたら恥ずかしいという気持ちがあるのかと思うと、セシルは何だか微笑ましかった。

 朝ごはんを済まし、準備を整える。プルリン達は合体し、その上にギィはピョンと乗る。そして鋼の鎧を装備して、マントを羽織る。どう見ても人間だ。

 セシル達は革の胸当てを装備し、各自アイテムを確認する。


「トド山はたいしたモンスターは出ないぜ、俺一人でも越えられたんだからな、チョロいぜ」


 少し不安そうなセシルに、ランディは心配するなと背中をバーンと叩いた。


「昼頃にはあっちの麓に着くはずだ。さぁ、行こうぜ!」


 ランディを先頭に、一行は山に足を踏み入れた。









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