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第五話 バトル開始!

 昼休みになって、学食を食べに行くと何やらみんなあたしの方を見ながら食べているの。あーあ、なんでパパも取材なんか応対しちゃったのよ! あたしが座る場所を探しているとさっと席を外すの。これじゃあ食べるどころかあたしが何か悪いことでもしたかのようにみえるじゃない。そこへ誰かの声がしたの。

「駒葵ちゃん、ここに座って食べたら?」

と、手招きする川澄先輩。遠慮なく隣に座るあたし。

「駒葵ちゃんのお父さん、再婚するんだってね。びっくりしちゃったよ」

と、あたしの顔を見ながら言う先輩。先輩、やめてくださいよ!

「川澄先輩! そのことについてなんですけど、あまり言わないでくれます? あたし別にあの二人を許したわけじゃないんです。再婚なんか反対!」

と、周りのみんなには聞こえないように言うあたし。それなのに先輩ときたら、

「え~! そうだったの?」

と、大きな声で言うのよ。隣に座っているあたしのほうが恥ずかしいぐらい。

「あたし留学の件についてパスしちゃったでしょ。あれパパが直接、学校に来て駄目にしちゃったの。なんか怪しいなと思っていたら、こんなことになっているんだもの。すごくイヤだった。何で勝手に再婚するなんて言うのかしら? あたし反対したのに……。再婚するのはあたしじゃないからいいだと言うし。来週からは相手の女の人が来るというし、お手伝いさんがあたしをずっと監視しているし。いくら、社長の娘だからといってもそこまでしなくたっていいじゃないの? って思うぐらいなの」

「いろいろと大変なんだね。よかったら相談にのるよ」

「ありがとうございます。でも瑶葵に悪いです」

 その後あたしたちはいろいろと話をして、午後の授業の方を受けたの。あたしとしては授業に戻らず、ずっと誰かとしゃべりたかった。

 ほんとにパパはどういうつもりなんだろ……。先生たちも今朝の新聞を気にしているせいか、あたしのほうをじろじろと見てくるの。親なんて子供のこと全然分かっててもくれないくせに……。午後の授業は、昼食の後なので数人の人がこっくりこっくりと眠りにはいっているの。あたしは頬ずえをつきながら、窓の外をぼんやりと眺めていた。ぼんやりとしながらママや瑶葵が生きていた頃を思い出していたの。もし、あの日事故にさえ遭わなかったら今頃何をしているのだろう? あたしは希望通りに、留学をしていたのだろうか? ママは懲りずにブランド品を集めているのだろうか?瑶葵は、川澄先輩とうまくいっているのだろうか? パパは? パパはどうしているんだろう?その時ふと思いついたことがあったの。そこであたしは帰りに図書館へ行こうと決心をしたの。

 そしてあたしは、留学についての本をたくさん借りて、家へ帰ろうとしたの。

 昇降口の付近に行くと何やら外が騒がしかった。何を騒いでいるのだろう? と、思いつつ校門に向かったの。でも、変なの。ほとんどの人が両側に整列して頭を下げているの。? がいっぱいで、ふっと目の前を見てみると……。

「お帰りなさいませ、駒葵お譲様」

 な、なんなのこの車は? しかも、誰よこの人!

 お帰りなさいませっていうことは、一時間近くも校門で待っていたわけ? でも、何で迎えに来ているの? と、少し後退りをしたら車の中から柚衣さんが顔を出したの。

「駒葵ちゃん、おかえりなさい。車に早く乗って」

と、サングラスを外しながら言ったの。

「……。けっこうです」

と、一言だけあたしは言ったの。

「別に遠慮しなくてもいいのよ。今日からあなたは社長令嬢なのよ。送り迎えするのが当たり前なの。さあ、周りの人たちに迷惑でしょ。早く乗りなさい」

 あたしは仕方なく、車に乗り込んだの。本当は乗る気なんてなかったの。でも周りのみんながじっとあたしを見ているの。なんで、この女の人と一緒に帰らなくちゃいけないの? はぁ~、とため息。横にはもちろんあの女が優雅に座っていた。この人、一体何を考えているのかしら? あたしは車の中では全然しゃべりもしなかった。ここであの女に何を言ってもムダなことだと分かっていた。この女が家に来るのはまだ一週間も先のことだ。

「駒葵ちゃん、家に帰ったら話があるの。あなたと二人きりで話したいの」

と、この沈黙の中で言った柚衣さん。

 ったく、何なのこの女は! 人の家に堂々と勝手に上がりこんで話があるって? いいじゃないの。二人きりで話せるチャンスですもの、いろいろと文句を言ってしまおう。パパに言っても相手にしてもらえないから、直接本人に言ったほうがスカッとするしね。

「何ですか? 二人きりで話したいことって?」

 あたしは和室の部屋に入るなり、単刀直入に聞いた。

「これからあなたの登下校中は送り迎えすることに決まりました。これはさっき言ったわね。勇太さんが社長になったからには、多少の危害があると思うの。だからこそあなたを守らなくちゃいけないの。もちろん休みの日には監視役として恒松さんという男の人を雇っているの。ほら、さっきお迎えにいた運転手」

「パパが社長になったからといって、あたしには関係ないことよ! 送り迎えなんてお断りします。ましてや監視役なんてもっともよ! 失礼します」

 冗談じゃないわよ! 何しに送り迎えなんてやってもらわなくちゃいけないのよ。パパが社長になったから? そうだとしてもあたしまで影響を与えないでほしいわ! ママたちが生きていれば、こんなことにならなかったはず……。でも、ママたちを責めたってもうここには二度と戻ってこない。そんなこと分かりきっているのよ。でも、イヤ! こんな生活がずっと続くなんて……。あたしは部屋でぶつぶつと文句を言っていた。

 留学のこともすべてあの女のせいだ。あの女がこのうちにいる限りあたしの人生は、最低最悪になってしまう。どうにかしてあの女をここから追い出さなければ、後々大変なことになってしまう。でも、どうやって追い出そう? たぶん、あの女もそれなりに警戒してくるはずだと思うの。と、その時急にドアが開いたの。

「駒葵ちゃん! あたし、今日からこの大塚家に住むことになったの。これから仲良くしましょうね」

と、あたしに抱きつきながら言うの。

「今日から……なの? あっ、そう……」

と、あたしは呆気なく言ったの。

「柚衣さん、他人の部屋に入る時ぐらいノックをしたらどうなの? いくらあなたと仲良くしましょうと言っても、所詮あなたとは血の繋がりもない赤の他人なんですから。早く部屋から出て行ってください。あたし、勉強をしなくてはいけないので」

と、キツク言ったあたし。それでも柚衣さんは、

「だまって入ったことは謝るわ。でも仲良くするつもりなんてないのは、あなたと同じ意見だわ。もちろんこれから先、仲良くすることもないわ。まあ、勇太さんの前ではそんなことできないけどね。それでは失礼いたしました!」

と、ドアを思いっきり閉めた柚衣さん。

 ふんっ! 何よあの女。本当は素顔があるじゃないの。それだったら、あの女がこの家から出て行けばいいのに、何であたしまでがこんなことでいちいち悩まなくちゃいけないわけ?ふざけるのもいい加減にしてよ! パパもパパだわ。

 まだあの女が来るまではのんびりと過ごそうと思っていたのに……。予定外だわ。それにしても、なぜ今日からなの?

 ということはこれからイヤッ! といいたいほど、毎日顔を合わさなければいけないなんて、まさに地獄の日々だわ。

 夕食の時間になり、ダイニングに行くともうあの女が席に座って食べていたの。普通、みんなが揃ってから食べるというのが、マナーじゃないの? それなのに柚衣さんは、

「夕食の時間ぐらい守りなさい」

と、言われたの。

 何で来た早々こんな言葉を言われなくてはいけないの? と、心の中で怒りがどんどんと増して、

「柚衣さんこそ、まだ食卓に着いていない人がいるのよ。それなのに自分だけ堂々と食べているなんて、常識外れじゃないの? それに、社長夫人となる人がそんな態度でいいのかしら?」

と、柚衣さんに睨みつけるあたし。

 柚衣さんは……というと、あたしの質問には答えてはくれず無視をしていた。夕食を気まずそうに食べていると、急に柚衣さんが席を立ち、

「ごちそうさま」

 そう言うと、あたしのほうを見ずにダイニングからさっさと出て行ったの。あたしは一人黙々と夕食を食べ、早く自分の部屋に戻ろうとした。でもなんだか寂しい気分になり、ママの部屋に行ったの。

 ドアの目の前に立ち開けようとしたとき、中から物音がしたの。何事かと思い、あたしはゆっくりとドアのノブを回したの。そこには……。

「ゆ、柚衣さん! 何してるんですか?」

 そう、ママの部屋にいたのは柚衣さんだったの。それもママの大切なブランド品の箱を開けてゴミ袋に入れようとしていたの。びっくりした柚衣さんは言葉も言えず、ゴミ袋を後ろへ隠したの。

「ママの私物品に触らないで。それにその後ろにあるゴミ袋は何? もしかして捨てるつもり? これは、ママの宝物なのよ!」

 あたしは柚衣さんの後ろにあるゴミ袋をひったくったの。

「宝物ですって? ずいぶんとバカげた宝物ですこと。もうあなたのお母様は亡くなったのよ。いつまでもこの家に置いておくなんて邪魔なだけよ。考えてみると、ここにしまってある物はすべてブランド品なのよね。捨てるなんてそんなことあたしがするとでも思っているのかしら? あなたにはもったいないからあたしが使わせていただくか、質屋にでも買い取ってもらおうかしら」

と、またあたしが持っていたゴミ袋を取り返したの。

「言っていることが違うでしょ! あなたなんかに、あげるものなんて一つもないわ。早くここから出て行ってよ! ここにあるものはすべてあたしのものよ」

 こうやって、あたしと柚衣さんの家の中での争いが幕を開けたの。

「高校生の小娘にブランド品なんて十年早いわよ! あたしは今日からあなたの母親なのよ! そんな口の利き方いいと思っているの?」

と、あたしの頬をピシャリと叩いたの。

「母親? あなたこそふざけないで! まだ結婚もしていないくせに」

「あ~ら、知らなかったの? あたしと勇太さんは法律上、れっきとした夫婦なのよ。まあ結婚式は後からやるということに決まっていたし」

 うかれながら言う柚衣さん。

「入籍だけしたのね。娘のあたしには内緒で……」

 そうあたしが言うと、柚衣さんは勝ち誇ったかのように笑い出したの。

 インターホンが鳴り響きパパの声がした。と、同時に急いで柚衣さんはこの部屋から去っていったの。

「おかえりなさ~い。勇太さん」

と、さきほどあたしたちが争った時と全然違う口調で言ったの。

 あたしはとりあえずママの部屋から出て、自分の部屋に戻ったの。パパとはしゃべりたくなかったからだ。そこで、図書館で借りてきた留学の本をじっくりと読んだの。前、借りてきたのとは違う本だった。ここであたしはいいことを思いついたの。それは……。

 パパには悪いけど、あたしは留学します。今すぐがいいけど、それはちょっと無理なので冬休みには行こうと考えているの。遅くても高校三年生になる前には留学をしたいの。親の証明が必要だと思うけど、そこはなんとかごまかしてやるしかないわね。とりあえず、留学先の学校を決めなくちゃね。明日、留学の担当の先生にでも相談しようかしら。

 次の日案の上、学校まで送ってもらうことになったの。あーあ、最悪。門の前で降ろしてもらえるのかと思っていたら、門を通り過ぎて昇降口の前で止まったの。恥ずかしいといったらありゃあしない。

 お昼休みになり早速、留学の担当の先生の所まで相談しに行ったの。

「ふーん、そうか。それはご両親には内緒にするということで?」

と、先生。

「はい、もちろんそのつもりです」

「しかしだな、ちょっと無理があるんだと思う。季節的にはだいぶいいのだが、ご両親に内緒にするというのがねー。志望校は決めたのか?」

「一応、第一志望校は決めているんですが、エリック大学インターナショナルです」

 ここの学校なら秋頃から願書の受付やっているし、留学費用も他の所に比べて安いしね。あまり費用は使いたくないの。

「ほーそこの学校か。大塚なら大丈夫そうだな。ただ合格率がそこの大学は低いから、かなり勉強したほうがよさそうだな」

「はい、十分わかっています」

 こうして先生は資料を請求してくれることになったの。本当は自分でやらなくちゃいけないけど、先生がやってくれるので安心。

 授業も終わり、校門に行くとやはり迎えがきていた。はぁー。あれほど嫌だといったのに……。家に着くと早速あたしは、

「柚衣さん! もう学校の送り迎えやめてもらえませんか?」

 制服も着たままあたしはリビングにくつろいでいる柚衣さんに向かって言ったの。

「……」

 何も言わず、雑誌に目を通していた。

「柚衣さん。あなた、母親なら母親らしくふるまったらどうなんですか?」

「うるさいわねぇ~! あたし今、雑誌読んでいるから邪魔しないでちょうだい。何か文句言いたいのなら竹田さんに言ってよ」

 許せない! この女ときたらどういうつもりなの?

 パパは、柚衣さんが家に来てからというものの、以前とは違い、早く家に帰ってくるの。パパはあの女にだまされているのよ。もしあの女に赤ちゃんが出来たら、あたしは追い出されるに決まっている。だからこそ留学して、翻訳家になって世界中を回るの。そして、留学するためにはあたしは本格的に勉強をし始めたの。これを逃してしまったらもう二度と行けないかも知れない。

 夜中になり家は静まり返ったの。少し休憩しようと思い、キッチンに行くと何やら変な物音がしたの。誰なの? こんな夜中に。まさか、柚衣さん? しばらくするとまたさらに、音が大きくなったの。この音は……。

「どうしたの、駒葵ちゃん?」

と、突然柚衣さんの声が後ろから聞こえたので、心臓がドキドキとした。

「柚衣さんこそどうしたんですか?」

「あーあたしは、なんか嫌な音が外から聞こえてきたから」

 え? ってことは、柚衣さんではないことになる。じゃあ、一体何? パパはぐっすりと眠っているらしいの。

「柚衣さん、あたしも変な音が聞こえたんです」

 あたしと柚衣さんは恐る恐る外に出てみたの。すると音がピタッと止まってしまったの。次に、カタンと音がしたので急いで音のするほうに行ってみたの。でもそれはできなかったの。柚衣さんの悲鳴があたしに聞こえてきたからだ。

「きゃあ~!」

と、柚衣さんの悲鳴。柚衣さんは横になって倒れていた。

「柚衣さん。柚衣さん、何があったんですか?」

と、あたしが呼び起こしても柚衣さんは何も言わなかった。

「どうしたんだ?」

 パパが急いで玄関から飛び出してきたの。その後、パパが柚衣さんをベッドに運んだ。でも、あたしは家には入らなかったの。柚衣さんが倒れていた場所にいくと、何か紙切れのようなものが落ちていたの。何でこんなところに紙切れが? あたしはその時、誰かから見られているという不安になったの。

 翌日は天気が悪くて雨だった。柚衣さんはまだ目を覚ましていなかった。パパが言うには、睡眠薬を無理矢理飲まされたというの。結局、音の正体はわからなかったの。でもほんとに、何の音だったの?

「駒葵ちゃん、どうしたの?」

と、川澄先輩が声をかけてくれたの。

「いいえ、何でもないんです」

と、言いその場を去ったの。

 家に帰ると、柚衣さんは元気にしていたの。あたしあまりの元気さにびっくりしちゃったの。あれだけ心配したのに、柚衣さんは夜中の出来事を覚えていなかったの。ただ、音がするということは覚えていたみたいなの。パパにもそのことを言ったけど、ネコがいたずらでもしたのだろうということで、この件は軽くおさまったの。それ以来物音はしなくなったの。一週間後になり、

「駒葵ちゃん! これはどういうことなの?」

と、あたしが学校から帰ってくるなり柚衣さんは怒鳴り込んだの。柚衣さんが手にしているのは、留学のパンフレットだった。

「ひどい! あたしの部屋に勝手に入ったの?」

「駒葵ちゃん、まだあきらめていなかったの? 勇太さんにキツク言われたんでしょ? なのにどうしてこの留学のパンフレットが、あなたの机の引き出しに入っているのかしら? 分かるように説明しなさい!」

「机の中まで見るなんて最低よ! それにそのパンフレットはだいぶ昔のよ、安心してください。あたし留学なんてしませんから」

 そう言うとあたしはパンフレットを奪い、自分の部屋に戻ったの。柚衣さんもさっき言った言葉に納得したせいか、パパにも言わなかった。もちろんあのパンフレットは、ママたちが生きている頃のパンフレット。こんなこともありえるだろうと、思っていたあたしは前もって違う所に隠してあるのよ。そこまでは柚衣さんは考えなかったようね。夕飯までまだ時間があるので、面接の練習をしてみたの。学校からたくさんの面接プリントをもらってきているから、お金はあまりかかっていない。

 次の日、あたしは先生に面接の練習を教えてもらおうと職員室へ行ったの。でも先生の所にはなぜか柚衣さんがいたの。


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